
Side:ユキ
さて、ここ3日で大体の話し合いは終わった。
バイデはこのままウィードの傘下に入ることになったし、帝国軍の方は、すでに本国へとウィードの同盟を組むための連絡が走っている。
必要物資の運び込みはジョージンの指揮の下、帝国軍が厳格に行っている。
もともと帝国軍は、バイデで略奪する気はなかったので、荒事は起きていないが、今まで攻めていたということで、あまり街の人からはいい顔をされていない。
キャサリンの方で、街の方には
野戦病院だったハイレ教会も昨日の大規模回復魔術のおかげで負傷者は回復してバイデの警備に戻っている。
……というかさ、ハイデンにバイデに、元のハイレか。
名前が似すぎて間違えそうだよ。
いや、もともとハイレっていう女神が元で、それにあやかってだから、似て当然なんだが、これ以上、同じような名前が出てきても覚えられん自信がある。
まあ、そうは言っても日本人もあんまり変わらんか。
親から一文字もらったりとか、有名人にあやかったりというのはよくある。
戦国武将とか、自分たちの上司から一文字もらって、名前を改めている連中も多いからな。
そんな感じで、バイデはキャサリン主導の下、ジョージンが物資を出し、徐々に落ち着きを見せつつある。
俺たちが出たところで混乱するだけだから、俺たちはこの活動に手出しすることはない。
まだこの地域の常識やバイデの基本的な生活を知らない俺たちが口を出したところで、揉めるだけだからな。
そういうのは、俺たちがここの文化や常識を覚えてから。
……ん? 何か忘れてないか?
何か引っ掛かりを覚えている。
なんだろう? 大したことなのに、大したことがない?
……思い出せん。
「お兄ちゃん。準備できたよ」
「今日は、ドレッサたちと替わってフィーリアたちが護衛なのです」
「私もここじゃ、ただの連絡役だしね。ヴィリアたちもこういう練習が必要だろうし、任せてきたわ」
「はい。ミリーさんたちの方のフォローも頼んであるので私たちが出ても大丈夫でしょう」
そう言って、居間に集まってくるのは、本日の護衛のちびっ子たち。
と言っても、そろそろアスリンは幼女から少女といった感じで、すでに出会ってから3年と少し。
育ちざかりという奴だろう。
これは、シェーラやヴィリアも同じで、彼女たちはすでに高校生に近いようなスタイルだ。
ヒイロはなぜか大きくならない。本人曰く、数ミリ大きくなっているらしいが、誤差の範囲だと思う。
あれか? ミニチュア系とかの獣人の血筋でもあるのだろうか?
そんな感じで、ダンジョンに来てから食糧事情や生活環境が改善されて、一気にというわけではないが日々成長している。
と言っても、アスリンやシェーラのドッペルはダンジョンで保護した小さい時のままで、本体での外出を滅多にしないアスリンやシェーラは外では普通に幼女と見られている。
なぜ、新しいドッペルで今の体の代わりを作らないのか? と聞いたことがある。
『お兄ちゃん。それはね、私はフィーリアちゃんやラビリスちゃんと一緒がいいからだよ』
『はい。私たちは、生まれは違えど、今は姉妹も同然です。その始まりの時のドッペルは私たち4人の友情の証でもあるんです』
ということらしい。
ちなみに、少女のアスリンは幼女ドッペルの時と違って、しっかりと喋る。
本人曰く、ちゃんと演技はできるとのこと。
……女は怖い。と思う事柄だった。
ちなみに、見た目年齢はヴィリア≧ドレッサ>シェーラ>アスリン>ラビリス≧フィーリア>ヒイロである。
幼女ドッペルの場合は、ヴィリア>シェーラ≧アスリン=ラビリス=フィーリア>ヒイロ。
最初から、ドレッサは少女といった感じだったので除外。
いやー、そう考えると、成長したよな。
「ん。みんなお待たせ」
「遅れて申し訳ありませんわ。髪がまとまらなくて」
「もう、そのドリルはやめたらいい」
「クリーナさんはもっと女性の髪というものの重要性について認識を持った方がいいですわ」
一番最後に到着したのは、メイン護衛のクリーナとサマンサだ。
いくら成長しているとは言え、幼女が少女ということで、子供という点では変わりがない。
なので、この二人は絶対に外せない。
彼女たちも学生ではあるが、体つきはすでに大人に近いものであるし、もともと実家がお偉いなので、相手の威圧にも物怖じしたりはしない。
少し心配なのは、どっちとも魔術師タイプという点。
前衛である勇者と騎士のコンビは今回こっちに来ていない。
バランスが取れてきたと思ったらこれだ。
「というか、サマンサはその髪型は自分でも整えられたのね」
「ええ。慣れると簡単ですわよ。ラビリスさん。セラリア様もやっておられますし」
「ああ、そういえばセラリアも片方だけドリルよね」
「あれは、毎朝整えてるんだよ。ほら、お風呂から上がった時は、真っ直ぐになってるから」
「ん。確かにそうだった。でも、そんな簡単にできるもの?」
「できるのですよ。型を作ってそれに髪を巻き付けて乾かすのです。サマンサ姉様にも同じものを作って渡しているのです」
「フィーリアには感謝していますわ。おかげで、自分で身だしなみを整えられますから。あ、どうせなら今度、みんなでロールにしてみませんか? 似合うと思いますわよ?」
全員がドリルじゃなくてロールか。
そういうのもいいかもな。
「私の場合はツインテールをロールね。面白いかもしれないわね」
「ラビリスはそうですね。私は髪が長いので、サマンサさんのようになるのでしょうか?」
「私はセラリアお姉ちゃんみたいかな?」
「フィーリアはポニーテールをロールなのです?」
「……私は短いからできない。これはサマンサからの一種のいじめ。トーリやリエルは私と同じで髪が短くてロールにできない」
「そういうつもりはありませんわよ。これを機に伸ばしてみるというのも考えてみては? ユキ様の見る目が変わるかもしれませんわよ?」
「なるほど。別の色気でユキを誘惑するのは賛成」
と、なんか話がそれてきたな。
「さて、雑談はそこまでだ。今日もお仕事の時間だ」
「「「はい」」」
そういうわけで、俺たちはある目的のために、バイデへと繰り出す。
……あれ? なんか最初の頃は別のこと考えていたような……。
まあ、思い出せないし、大したことはないよな?
「うっ。臭いのです」
「臭いねー」
そう言って鼻をつまむのは、フィーリアとアスリン。
その原因は目の前に広がる、糞尿やゴミ、そして死体で荒れた路地。
「ウィードの傘下になったからには、こういうところの改善もしないとね」
「ええ。こんな場所をのさばらせておくと、疫病の原因になりかねません」
そんなことを言うのは、ラビリスとシェーラのウィード運営で重要なポストについてる2人。
「……こういうところは荒くれ者とか、犯罪者がいるから、油断しないで」
「ですわね。こういうところはそういう連中の格好の隠れ家ですから気をつけてくださいませ」
護衛として、目つきを鋭くしているのはクリーナとサマンサ。
さて、俺たちは今、バイデの外れの一角に来ている。
通称、掃きだめ。
あぶれ者や荒くれ者、果ては犯罪者が隠れているという話がある場所だ。
どの街にもそういう場所が存在する。このバイデも例外ではない。
日本でいうなら、怪しい商売とか、ヤクザ屋さんとかが集まっている一帯のような感じだ。
まあ、中世ヨーロッパのような時代レベルのバイデのように、路地に死体が転がっているなどということはないが。
そして、そういうところには情報が集まってくる。
この街に居ながら、街の保護を受けられない者たちが生きるために必死に集めたホットな情報が。
いわゆる、裏情報、情報屋である。
いくら、バイデやフィンダール帝国の話を聞いたところで、結局は二つの情報源でしかない。
こういうのは多角的な情報が必要で、そういう多角的な情報というのは、はみ出し者の所に集まりやすい。
ある種のスラムと言っていいのだろうが、そういうところの住人は文字通り情報が生死に直結すると知っているからだ。
「でも、どこに行けばいい?」
「ユキ様。なにか、情報はありませんか?」
「ああ、そこはキャサリンから話を聞いているし、連絡は取ってもらっている。俺たちが直接赴くのはあまりいい顔をしなかったけどな」
俺たちに危険があるとか、街を管理できていないと見られかねない状況だしな。
でも、どこにもそういう場所っていうのは存在するもの。
ウィードでは冒険者区画とかだな。
あからさまに治安は悪くないが、ドレッサたちを襲った連中とかもいた。
歴史が浅いウィードですら、そんなもんだから、バイデにそういう場所があるのは当然のことだ。
「それはそうでしょう。ですが、連絡を取ってもらっていたとしても、会ってくれるのですか? 警戒すると思うのですが……」
シェーラはキャサリンの言葉に同意しながら、本当に会えるのか疑問があるみたいだ。
「警戒はするだろうが、会わないわけにはいかないんだよ。トップが入れ替わっているからな。下手に断ると、自分たちが危なくなる可能性があるからな」
「……なるほど。でも、そこまでの判断力があるのですか? そもそもそこまで判断力や情報収集能力があるのなら、バイデから脱出しているのではないですか?」
もっともなことをシェーラは言うが、そこは視点の違いだ。
「そうだな。大局的に見るなら、戦いに巻き込まれる前に逃げるのが正解だろうな。でも、もともとはみだし者だからな。バイデを出たからといって、行く場所がないんだよ。行く場所がある連中はさっさと逃げだしているだろうから」
お偉いはどこかに
はみだし者たちなら、なおのことない。
そういうはみだし者が集まっている組織は、結構強固で、ヤクザさんがかっこよく語られている映画でよくある、幅を利かせて、慕われているというのもあるのだ。
そういう意味でも、はみだし者たちがこの街を捨てるという選択肢はない。
現代の地球でもヤクザ、マフィアの排斥はできていないのだから、この世界ではなおさらだろう。
「確かにそうですね。しかし、そういう人たちが素直に情報を渡してくれるでしょうか……」
「そこは、キャサリンが紹介してくれたから、そこまで心配はないと思う。と、あの店だ」
「……お店?」
シェーラは奥に見える建物を見て首を傾げる。
ぱっと見はただの建物で、看板も出ていないからそれも仕方がない。
だが、周りのぼろ屋と違って、ただの二階建ての建物なのだ。
キャサリンが見ればすぐ分かるというのは、あからさまに、この一帯では浮いているということなのだろう。
分かりやすいように、見張りらしき柄の悪い男が立っている。
その男はこっちに気が付いたようで、声をかけてくる。
「あんたたちが、親分が言ってた連中だな。紹介状を見せてもらおうか」
「これでいいか?」
「確かに、領主の紹介だな。入りな」
トラブルがあるかと思ったが、そういうことはなく、素直に建物に招き入れられる。
ちゃんと応接室があるようで、そこに通されてすぐに、一人の男がやってくる。
「ようこそ。バイデの掃きだめへ。新しいお偉いさんたち」
歳は30後半といったところで、
「何か飲むか? まあ、領主の所よりいいものはないけどな。ああ、酒なら秘蔵があるから、それなら負けてないとは思う」
「思ったよりも、歓迎してくれるんだな」
「……今回のことは正直ダメかと思ったからな。あんたたちは迷惑だったかもしれんが、俺たちとしては助かった。まあ、抵抗しようとしても無駄なのは、そこの嬢ちゃんたちに、先日他の兵士たちと一緒に投げられたから分かっている」
ああ、あの中にいたのか。
「思ったよりも、領主のキャサリンに協力しているんだな」
「キャサリン嬢ちゃんの親父には世話になったからな。こうやって掃きだめを任せてくれた恩義がある。キャサリン嬢ちゃんも俺たちのことを認めている。持ちつ持たれつという奴だ」
このバイデでこういう繋がりがすでにあるわけね。
やりやすいというかなんというか。
「そうか。じゃ、酒はこちらから後で贈らせるから、情報をくれ。さっきの話ぶりから、俺たちの境遇は聞いているんだろう?」
「ああ。あの姫さんや魔術学生たちは俺やキャサリン嬢ちゃん、そしてあんたたちにとっても疫病神だったらしいな」
「それなら話が早い。そっちで手に入れている、周辺国の情勢とかを教えてくれ。バイデと帝国の話があれば詳しく」
「分かった。と、そういえば、あんたのことは何て呼べばいい?」
「ユキでいい」
「ユキ、ね。俺はビッグだ。あんたたちとは仲良くやれればと思う」
そうして、ビッグの口が開かれる。
さてさて、どんな話が聞けるのやら。