
Side:ユキ
さーて、お姫様と話が通じない理由は分かった。
あれは置物とかそういう扱いなのか。
前陛下の忘れ形見を粗略に扱えば、反発を買うし、優秀であっても困る。
なら、適当に育てて、自分のいいように使えれば都合がいいわけだ。
意図的に、あのお花畑にされていたってわけね。
……そうなると、ハイデンとは話し合いより、現王家や重臣の連中を排除しないと戦乱は続きそうだよなー。
しかし、現王家や重臣の連中を排除したところで、その後のケアもしないと他国がハイデンの領土を取りにくるだろうし、争いが続く。
個人的には、なるべく早く終わって欲しいが、殴り込みやその後のケアも考えると、仕事が増えるだけだからな。
まあ、先のことはいいか、いまだウィードとはゲートが開通していないし、俺たちも自分の身を守ることが最優先だな。
「こちらとしても、領民の皆さんに不自由をさせるつもりはありませんから、バイデへの他国からの侵略は何とかしましょう。安心してください。まあ、こっちが一方的に個人の安全のために占領して申し訳ない」
「いえ。もともとこちらが誘拐じみたことをしたのが原因です。私としても、今回のことは、国を離れるいい機会だと思いました。どのみちあのままでは
「今回は、ハイデンのおとぎ話にはなりそうにないですが……」
自分たちから、処刑人を呼び寄せたと言いましょうか、運がないと言うべきか、自滅が早まったと言うべきか。
「新しいおとぎ話を作ればよいだけです。どうか、よろしくお願いいたします」
俺がそんなことを考えている間に、キャサリンはそのままウィードの臣下になることになった。
というかさ、臣下って役職ないから、ウィードの所有する領地バイデの領主って形になるんだよな。
ホーストと同じような感じ。
つまり、また新しい仕事が増えたということ。
はぁ……、呪われてるのかね、俺。
まあ、管理する土地が増えると同時に、優秀な人もそのままってパターンだから不幸中の幸いではある。
これが、誰もいなかったらひどいわ。
「こちらこそよろしくお願いします。こちらの作法には詳しくないもので、キャサリン殿には色々手助けしてもらうことになると思います」
「ユキ様。今や私はウィードの、ユキ様の配下です。キャサリンとお呼び捨てください」
うーん、ここら辺はちゃんとした貴族ってわけか、上下関係ははっきりとってやつね。
そういうのは、俺にヘイトが溜まるから嫌なんだけどなー。
メリットも分かるが、デメリットの方が俺にとっては大きいから。
「そこはおいおい。今はまだ住民はハイデンの領地と思っているからなしで。急いても反発を買うだけだから、キャサリン殿の方でじわじわと浸透させてくれ。ウィードの領地というのはその浸透が終わってからだな」
「分かりました」
今後こっそりバイデをうろうろできなくなるからな。
「で、次は現状を把握しよう。今回の戦闘でのバイデの被害は? 調べてたんだろう?」
「はい。お時間を頂きありがとうございます。おかげで、ある程度把握はできました。書類などは明日でもまとめて出しますので、今は口頭だけでよろしいでしょうか?」
「かまわないよ」
昨日の今日で被害がすべて把握できるとか、どこの超人だって話になるからな。
大体で当然。
「基本的に、街への被害はありません。帝国軍の侵攻は防壁で防いでいましたので。攻城兵器の
5000とか言ってたのが、結果3000脱落ね。
もう半壊を超えてるな。絶望的だったってのは本当だったか。
「死体の処理は?」
「まだ集めただけで放置しているだけです。外の敵の死体もありますので、早急に片付けをしたくはありますが、重傷者もいますので、今はそちらの処置を優先していて、まだ死者は増えるでしょう。キャリー姫の魔力は枯渇していますし、すでにウィードの領地なので、ハイデンの力を借りるわけにはいきません」
「なるほどね。よし、重傷者の処置はこっちが引き受けよう」
死体がこれ以上増えても困るし、ほったらかしの死体が腐敗したら疫病の元だ。さっさと火葬した方がいい。
この量を土葬するのはまずい。
「は? 処置とは?」
「ん? いや、回復魔術でパーッとするんだけど……」
「回復魔術が使えるのですか!?」
ああ、そういえば、こっちの立場は知っていても個人的な能力は知らないよな。
「そうそう。生きてるなら何とかなるだろう。物資の枯渇の方は、帝国軍から申し入れがあるから、そっちを利用しよう」
「帝国軍から?」
「そうそう。ジョージン殿、入ってきてください」
「?」
俺がそう壁に声をかける姿を不思議な様子で見ているキャサリンをよそに、ドアが開かれる。
「キャサリン殿。物資の援助ならば、私にお任せください」
「えーと、どちら様でしょうか?」
「これは失礼いたしました。このバイデへと侵攻してきたフィンダール帝国軍の大将補佐のジョージンと申します」
「ジョージン……って、帝国の大鷲!? なんでそんな勇将が!?」
「なにそれ? というか、なんでキャサリン殿が攻めてきている敵の将軍とか知らないわけ?」
「それは、攻め落とす直前で宣言して、一気に士気を
やっぱりこの爺さん、大物だわ。
やられたことを全然気にしてない。
「知ってると思うけど。帝国軍の皆さんを地下に閉じ込めたのは俺たちだから、そこで色々話を聞いていたわけだ。ハイデン側だけの話で判断するわけにもいかん」
「そう、ですが……。で、なぜ、ここにジョージン殿が? そもそも、なぜ帝国軍が物資の援助などを?」
俺が答えようとしたが、ジョージンがこちらに進み出て、笑顔でこう告げる。
「なに、我々もユキ様。ウィードの方々と同盟を組むことにしたのだよ。なら、同盟しているバイデが困っているなら、援助をするのは当然だ」
「はぁ」
「まだ懐疑的だな。キャサリン殿も理解していると思うが、ウィードとケンカをして勝てるとは思わんからな。そういう理由の方が納得できるだろう?」
「ああ、それはそうですね」
「まあ、もともと、バイデの民に手出しをするつもりはなく、すぐに復旧できるよう物資も用意していたから、特に問題はありませんぞ」
「では、なぜバイデに攻めてきたのですか?」
「キャリー姫とカミシロ殿の確保が目的だった。さらに今後のハイデンとの交渉と最前線都市としてバイデはいい場所だったからのう」
「……交渉ですか」
「うむ。しかし、キャサリン殿の話を聞いてある程度納得したわ。そこまで、愚かになっているのか。ハイデンの中枢は」
「……はい」
「此度の侵攻でバイデに迷惑をかけたのは申し訳なく思うが、いずれ別の場所が崩れていたじゃろうな」
「そう思います」
なんか話が長くなりそうだなーと思っていると、アスリンたちがクッキーを持って登場した。
「お待たせしましたー。おかわりでーす」
「おかわりなのです」
難しい話をしている最中に現れるちびっこたちに、ジョージンとキャサリンも話をやめて、ちびっこが持っているクッキーに視線が注がれる。
「あ、ジョージンお爺ちゃんだ。食べる?」
「おお、いただきますぞ!! アスリン殿!!」
「キャサリンも食べるのです?」
「あ、はい。いただきます。フィーリア様」
そう言って差し出されるお皿からクッキーを取って口に放り込む2人。
「とりあえず、クッキー食いながらでもいいから、重傷者の治療に行くぞ。これ以上死体が増えるのは勘弁だし、必要物資の確認とかもあるだろうから、ジョージン殿も一緒にお願いします」
「あ、失礼いたしました!」
「お任せあれ。クッキーという報酬も貰いましたからな」
クッキーで動くとか安いよなー。
そんなことを考えつつも、護衛のメンバーを連れてバイデの野戦病院? みたいなところへ向かう。
「ここは、教会か?」
「はい。初代様の時に、魔王を倒すために助力してくれたというハイレという女神様を祀っています」
「ああ、確かハイデンの名前は女神からとったものでしたな」
「そうです。確か、ハイレでは女神様の名前そのままなので、少しいじって男らしく力強いハイデンという名前が付いたとか……」
……女神ねー。
嫌な予感がバリバリするんだけど。
正直、この世界に来てから、神様うんぬんは厄介ごとでしかないからな。
警戒度は上げておくべきだな。
「当時は魔王の討伐のために各国が一致団結したという話もあるのに、ままならないものですな」
「そう思います」
世の中そんなもんだって。有事の際は協力するだろうが、それも喉元すぎれば忘れるもん。
すべからく、人の営みだよな。
そんなことを考えつつ教会の中に足を踏み入れると、うめき声、血の匂い、叫び声が響いていた。
戦闘が終わってからすでに2日、3日は経つが、重傷者やそれを生かそうとする人たちの戦いはまだ続いている。
「ううっ、足が……」
「包帯は!! 包帯はありませんか!? 出血がまたっ!!」
「服の切れ端を使うしかない!! こっちの患者は容態が急変した!! 薬はないか!!」
「ありませんよ!! もう使い切っています!!」
などと騒いでいる分はいい。
すでに顔に布をかけられ、放置してあるのはまだマシで、壁に座り込んだまま、治療を待った状態で死んでいる人もいるなこれ。
「これは……」
「……ひどい」
「……血が一杯」
ドレッサ、ヴィリア、ヒイロはあまりの惨状に目の焦点が定まっていない。
ウィードの医療体制とは雲泥の差だからな。
いや、戦場では現代地球でもよくあることだろうな。
まあ、トリアージ、優先治療の設定で死者の数はかなり違うだろうが。
と、さっさと治療をしないと、死体は増える一方か。
「よし、クリーナは警戒を継続。サマンサは俺の広域治療術の後、治し切れていない人の治療へ」
「ん。分かった」
「お任せください」
「では、キャサリン殿。一度宣言をお願いします。一気に全員に回復魔術を使います。混乱されても困りますし」
「え? この中全員ですか? それではまるで、キャリー姫のような……。いえ、分かりました。みんな。回復魔術師でもあるユキ様が来てくださった!! 今から回復魔術をかけるから、慌てずそのままでいてくれ!! 無暗に騒ぎ立てたり、ユキ様にとびかかろうとしたものは斬り捨てる!! いいな!!」
そのキャサリンの言葉に、慌ただしかった教会内が静かになる。
さーて、普通なら
なんて、くだらないことを考えつつ……。
「えーっと、女神……ハイレよ!! 私に力を!! エリアエクストラヒール!!」
適当に言ったセリフだが、もうちょっと他の言い回しにするべきだったかね?
神様に祈るとか、俺にとっては避けたい事柄なんだがな。
とりあえず、魔術の魔力消費量は5000倍ではないというのは自分でも確認が取れたわけだ。
やっぱり、ルナに対してのジャミングと考えるのが妥当か。
教会内に、淡く優しい緑色の光が広がるのを見ながらそう考える。
そして、その光が収まると、所々から声があがる。
「足の痛みが……消えた?」
「しゅ、出血が止まってる? って傷がない!?」
「こっちの患者の容体も回復したぞ!?」
「重傷者も治すなんて……。こ、この回復魔術はキャリー姫様以上?」
「神の使い?」
そんな感じで膨れ上がりそうな声が歓声となる前に、俺が釘を刺す。
「落ち着いてください!! 治療できていない人がいるかもしれません!! 治っていない人はこれから個々で治療にあたります。自分の状態をちゃんと確認してください。そして、治っていたとしても、また傷が開く可能性があります。今は喜ぶよりもおとなしく体を休めてください」
「ユ、ユキ様の言う通りです!! 騒がれても治療の邪魔になります。おとなしくしなさい!! 先ほども言ったように、ユキ様に危害を加えようとすれば斬り捨てます!! いいですね!!」
キャサリンも驚きつつもちゃんとフォローに回る。
ここまでとは思ってなかったんだろうな。
「……回復魔術もここまでとは。やはり、ウィードと敵対するのは愚の骨頂ですな。と、そこの人」
「はい? なんでしょうか?」
「先ほど、包帯が足らぬと言っていたが、他にも足らぬものがあるだろう。教えてくれぬか? 用意できるかもしれん」
「ほ、本当ですか!? 今はただ床に寝かせている人も多くて、寒くないように布や毛皮が……」
ジョージンはジョージンですでに必要物資の確認をしてる。
さて、こっちも頑張っていきますかね。