Side:ユキ

 現在、召喚されてから2日目。

 こちらで、二度目の夜明けを迎えている。

 今のところ問題はありまくりだが、深刻な問題は起こっていない。

 妊婦のミリーたちは、コール越しの診察で、特に問題はないと言われたし、子供の秋天たちも今のところちょっとした旅行ということで、大人しい。

 これなら、ゲート開通予定のあと3日まで持ちそうだ。

 バイデの魔術学生も、攻めてきた帝国軍10万も、あと3日ぐらい地下監禁なら問題ないだろう。

 しっかりとこちらに迷惑をかけた分の代金はDPとしていただく所存である。

「で、今日は、バイデの領主と、フィンダール帝国軍との話し合いだっけ?」

「はい。そうです」

 俺はすでに朝食を終えて、執務室でシェーラから今日の予定を聞いている。

 しかし、急ごしらえなのがまるわかりで、この執務室の棚はからっぽ。

 はぁ、ゲートが開通したら資料の運び込み作業とかあるんだろうなーと思うと気が滅入る。

 拠点を増やしたくない理由の一つだ。

 DPでいくらでも物資は取り寄せられても、こういう小物の配置は自らしないといけない。

 そして、異文化交流の方の資料や報告書もあとでセラリアが回すって言っているから、俺の仕事は増える一方である。

「……どうかしましたか?」

「あ、いや、いつもの通り、仕事がなくならないと思っていただけだよ」

「そうですね。いつか休暇でも取って、みんなでのんびりしたいですね」

「だな。また海とかに家族で、こうパーッと……」

 と、シェーラが頑張っているのに、俺がを言うだけってのも問題か。

 今回のバイデやフィンダール帝国軍相手の交渉は基本的にこのシェーラがまとめてくれた。

 さすが、伊達にウィードでガルツ方面相手の外交官をしているわけではなかった。

 スーパーメイドのキルエと同じく、その主であるシェーラもスーパー王女様だったわけだ。

 いや、最初からそういう才覚は分かっていたけどさ。

「しかし、よくもまあ昨日一日で、どっちの勢力も頷いたな」

 普通、意味不明の勢力が出てくれば、お互いの説明だけでも数か月かかったりするものなのだが、シェーラはそれをたった一日で頷かせた。

「ユキさんも見ていたと思いますが、今回は私たちウィードの力の出し惜しみはそこまでしていませんからね。しかも、普通の交渉とはわけが違います。すでにどちらの勢力もこちらに首根っこを押さえつけられていますから」

「早期に話し合いを持たないといけないって言うのは、……分かるけどな。相手方がここまで素直だとは思わなかったな」

「はい。それは同意見ですね。私も、バイデ、フィンダール帝国ともにもっと抵抗があると思っていました」

 いくら、実力差があると分かっていても、大人しく納得できるわけがないのだ。

 今までのプライドとか、きようとか、故郷うんぬんとか、色々あるから。

「まあ、不幸中の幸いで、話が分かる相手だったという感じかね?」

「万が一もありますから、ユキさんは油断しないでくださいね?」

「それはもちろん」

 油断を誘ってぶすり。というのはよくあるからな。

 俺もまだ死にたくはない。

「じゃ、応接室に行きますか」

「はい。あと小一時間でまずはフィンダール帝国との会談ですね」

 そう言って、執務室を出て、応接室へ向かう。

 護衛のクリーナやサマンサはフィンダール帝国やバイデの案内役として出払っているので、ドレッサ、ヴィリア、ヒイロが護衛についていたりする。

 今回ラビリスとアスリン、フィーリアは、会議で出すお茶とかお菓子の準備に追われている。

 なぜそんなことをしているのかというと、5000倍もDPがかかるので、飲み物や軽食もDPでパッと出すのはためらわれるのだ。

 幸い、このダンジョンを展開した際に、食材などは出揃っていたので、そこからお茶やお菓子を準備することになったわけ。

 そして、お菓子作りができるのは、この召喚されたメンバーでは、ラビリス、アスリン、フィーリアしかいなかったのだ。

 ミリー、トーリ、リエル、カヤは軽くお菓子作りはしたことがあったが、クッキー生地を型でくりぬくぐらいのもの。もともと、この妊娠メンバーは食べる専門と豪語しているから、仕方ない。いや、ちゃんと普通の料理はできるぞ? お菓子が特殊すぎるから。

 ヴィリアやヒイロもできないことはないが、それだと護衛がいなくなるので、俺たちの護衛につくことになったわけ。ヴィリアやヒイロを案内役とかに回しても、トラブルの元だしな。

 ドレッサについては、料理とかはまだお手伝いレベル。これは、仕方がない。ウィードに来たのはここ最近で一年も経っていないし、特殊な立場でそういうことに手を煩わせるわけにはいかなかったからな。

「なによ」

「なんでもない」

 しかし、本人に料理はできないから護衛と言えば、すぐにムキになるのは確定なので、最初から護衛にねじ込んだ。

「ふんっ。私だって、来客用のお菓子を作れるとか言わないわよ……」

「はい。さすがに来客用は……」

「ヒイロ、そこまで上手くない」

「ふふっ、今度みんなで練習しましょうね」

 シェーラはそう言って、3人と和やかに会話をするが、その際、味見役に抜擢されるであろうどっかの魔物たちは、ここ最近お菓子に対して恐怖があるんじゃないかしら? と、セラリアから報告を受けている。

 なんでお菓子に対して恐怖やねん。

 どっかのケーキバイキングでも連れていかれたか?

 いや、ウィードにケーキバイキングないし、今度話でも聞いてみるか。

 そんなことを考えている間に、応接室へと辿り着く。

 かろうじて、DPが足りていたのか、ちゃんと応接室らしくなっている。

 貧乏ってつらいね。

 なにかこう、常にお財布の中身を確認して、お昼の食事を悩んでいた学生時代を思い出す。

 ジュース一本ですら、節約だったからな。

「ねえ、シェーラ。そういえば、なんでバイデじゃなくて、フィンダール帝国の方が先なの?」

 応接室に不備がないか確認をしていたドレッサは思い出したようにシェーラに聞いていた。

「あ、それは思いました」

「ヒイロも不思議」

 どうやら、ヴィリアやヒイロも同じ疑問を持っていたらしい。

「簡単に言うと、あまりバイデというか、その後ろにいるハイデン王国が信用ならないからですね。そもそも召喚したのはハイデン王国のお姫様と公爵令嬢。私たちにとって一番の敵であると言っても過言ではありません」

「まあ、そうね……。でも、ここはハイデン王国の領地だったんでしょう? 先に話を通しておいた方がいいんじゃない?」

「いえ、それはいけません。それでは、ハイデン王国に配慮するという形になってしまいます。間違ってもウィードはハイデンよりも下であってはいけません。まあ、無用なトラブルを避けるという意味では間違っていませんが、どう考えてもフィンダール帝国との会談を認めるわけがないでしょう。下手に出れば、すぐにフィンダール帝国軍の処刑をと言ってくるでしょう」

「あー、そうか、今、10万の帝国軍を失うわけにはいかないわね」

「はい。帝国軍は今の私たちにとって最優先で守らなければいけないモノです。DPの主な回収源ですから。というか、ドレッサもあのキャリー姫との会話を見ていたから分かると思いますが、あれは交渉相手にはなりえません。本国と連絡を取るぐらいはするでしょうが、いいように丸め込まれるでしょう。話をするだけ無駄です」

「……そうね」

「だから、ハイデン王国ではなく、バイデと言ったのです。キャサリンさんはいくぶん話ができ、力関係をしっかり理解しています。私たちが安全を保障するのであれば、特に騒ぐことはないでしょう。正直な話、バイデを攻めてきたフィンダール帝国の方が、好感が持てる状況なんです」

「確かに……」

 シェーラの言う通り、今、ハイデン王国と話をつけるというのは不可能に近い。

 あのキャリー姫を通さないといけない時点で難易度がとても高いのが分かる。

 というか、さらなるトラブルの元だというのは理解できる。

 そもそも、今回召喚された俺たちはすでに、ハイデンに逆らっているので、向こうにとっても印象が悪い。

 分かりやすく言うのであれば、敵の敵は味方ということで、フィンダール帝国と関係を持った方が安全だということなんだけどな。

 そんな話をしている間に、クリーナとサマンサがフィンダール帝国の方々を連れてきた。

 今回の会談に代表で来たのは、なんとハイデン侵攻軍の大将であるジョージ・フィンダール第二皇子直々だというから驚きだ。

 ちゃんと護衛もいることはいるが、わざわざ大将が来るとは思わなかった。

 そして、お付きの老将であるジョージンも一緒に、部屋の中をせわしなく見まわしていた。

「ようこそ、ジョージ殿下、そしてジョージン将軍。歓迎いたします」

「あ、これはどうもご丁寧に。お招きいただき感謝いたします」

「はっ、シェーラ様。この老人にも貴重な経験の機会を頂き誠に感謝いたします」

 シェーラとの挨拶を見る限り、皇子にしてはひねた様子もなく、真っ直ぐ育っているような感じの人だな。

「どうでしたか? 我がダンジョンの内部は?」

「いや、あー、いえ、正直驚きの連続ですね。地下なのにここまで明るく、洗練された家具や、今座っているこのソファーなど、我が城で扱っている物以上の座り心地です」

「ですな。そこに飾っている絵も、そのままを切り取ったような名画ですし、ウィードの凄さがよく分かります」

 やっぱり、生の声を聴くのは違うよな。

 しかし、バイデを見てうすうす分かっていたが、やっぱり、どこの場所も中世ヨーロッパぐらいの文化、技術レベルか……。

 まあ、近代文明ができているなら、すでにこっちの大陸とも交流があっただろうしなー。

 淡い希望を抱いていたが、やはり淡いものでしかないらしい。

「お気に召していただけて何よりです。そこまで喜んでいただけると、このまま色々案内したいところですが、まずは、こちらの我が君とお話をお願いいたします」

 そう言って、シェーラは俺の横へ来る。

「この方が、ウィードの?」

「はい。彼が、ウィードの女王陛下の王配であり、……ウィードや各国の橋渡しとして非常に重要な立場であるユキ様です」

 あ、微妙な間があったな。

 俺のウィードでの役職は本当に微妙だからな。

 参謀ぐらいしかやってない。

 しかも、特に働いてないよな。

 軍で動くことはウィードではほぼないし、かと言って、俺の本当の仕事を言っても頭おかしいとしか思われない。

 あとで、なんかこう偉そうな役職考えとくか。

 シェーラの言う通り、各国の橋渡しは間違ってないし、外交管理トップとかいいんじゃね?

 そんなことを考えていると、ジョージ皇子とジョージン殿はバッと立ち上がり、見事な敬礼を、後ろの護衛と共に披露する。

「このたびは、ユキ様への拝謁の栄誉にあずかり誠に光栄であります!! そして、昨日の無礼な対応をこの場でお詫びいたします!!

 そう言って、がばっと頭を下げる帝国さんたち。

 いきなり自分の好き勝手な想像を垂れ流していたお姫様よりずいぶんマシだな、おい。

 いや、あれを基準にするのが間違いか。

 ま、ともかく、最初のつかみは好印象だな、お互いに。

「お互い混乱もありましたし、先日のトラブルについては今の謝罪で十分です。これから互いに手を取り合っていければと思っています」

「はい。私たちも同じ気持ちであります」

 そう言って、お互い握手をする。

 こういう文化はあまり変わらないのか。

 左手出すとアウトって文化もあるから、こういう動作は本当に怖いよな。

 そんなことを考えつつ。

「では、お座りください。お互い有意義な時間にしましょう」

 じゃ、情報交換とか今後のことを話しあいますかねー。