
Side:ジョージ・フィンダール フィンダール帝国第二皇子
シェーラ様からの驚きの事実の告白。
いや、ある意味理解するのを拒否していたのだろう。
今の状況が偶然であるわけがないのだ。
自然崩落、陥没したのであれば、全員が飲まれるわけがないし、何しろ死者すら出ていない。
しかも、あの城壁に立っていた彼の宣言の後に起こったことだ。
そんなことを考えていると、後ろの近衛兵から剣に手をかける音が聞こえる。
まずい!?
「待て!! 早まるな!!」
「その通り、急くな!! わが軍にあの地面陥没での被害はない。そして、巫女様は話し合いに来た。これが敵なものか!!」
私が叫び、ジョージンもそれに続く。
「しかし!!」
「しかしではない!! もっと冷静になれ!! シェーラ様たちは話し合いに来ている!! 帝国兵として恥ずかしくない行為を心掛けろ!! 今すぐその剣から手を放せ!!」
「は、はっ!! も、申し訳ありませんでした!!」
まったく、この陥没を引き起こしたのが本当にシェーラ様たちと確定したわけでもないのに。しかも、使者として来た巫女様たちに剣を抜きかけるとは……。
「シェーラ様、そして護衛の皆様方、我が兵の非礼大変申し訳ございません」
「「「申し訳ございませんでした」」」
私が頭を下げ謝罪したことで、自分たちがどれだけ馬鹿なことをしたのかに気が付いたのか、慌てて一斉に頭を下げる。
いまさら遅い。
ジョージンに目を配って近衛の入れ替えを……。
「いえ、構いません。もう少し言葉を選べばよかったですね。近衛兵として、ジョージン殿の身を守るという点では優秀でしょう。そして、私たちに対するジョージ殿の配慮も分かりました。このことで、私たちウィードがなにかしら問題にすることはありません。他の兵士に入れ替えても、同じようなことが起こりそうですし、一度注意を受けた彼らに続けてもらった方が話しやすいので、このままでお願いできますか?」
「シェーラ様がそう言うのであれば……」
……確かに、シェーラ様の話を聞く人は少ない方がいい。
この兵士たちを入れ替えれば、おのずと知られてしまうだろう。
「えーっと、どこまで話しましたか?」
「ん? あー、確かあの陥没を引き起こしたのがシェーラ様だということで、我が兵が先走りを……」
「そうでした。その時の被害はありませんでしたか? 一応、被害はないように配慮したのですが」
「はい。あの陥没での死傷者はいませんでした」
「そうですか、それはよかったです。私たちとしては、いきなり戦いに巻き込まれたもので、とりあえず、喚び出したお姫様、カミシロ様は捕縛して、バイデを攻めていたフィンダール帝国にもいったん矛を収めてもらうための措置でした。状況がまったく不明なものでして」
「……なるほど」
そういうことか、呼び出されはしたが、ウィードの精霊の巫女であるシェーラ様が他国のいいように使われるのはまずい。
普通であれば力がなく、従うしかなかったのだろうが、ウィードには私たち帝国や、呼び出したハイデンに対して抵抗する力があったから、この状況になったわけか。
「ハイデン王国の皆さんは、帝国が攻めてきた、悪いんだ、ばかりでして、私たちからすれば、ハイデン王国の皆さんが私たちを攫った張本人なので……」
「……それは、確かに悩みますな」
ジョージンも苦笑いをしている。
確かに、他国の国民、いや精霊の巫女を誘拐した相手の言葉など聞くに値しない。
「そういうわけで、フィンダール帝国側のお話も伺えればと思ったのです。別に私たちウィードを攻めに来たのではないのでしょう?」
「それは、そうです。私たちはハイデン王国を攻めにきたのです」
「なので、私たちは不幸な事故で、こんな出会いになっただけで、和解はできると思うのです。ウィードがいきなり占領したと言われてもそちらは分かりませんし、私たちも理解してもらえるとは思いませんでした。だからこそ、力を見せるという意味も込めて、こういう措置を取ったのです」
「……確かに。しかし、和解ですか……」
戦いなぞない方がいいに決まってはいるが、今回のバイデ交易都市はその機能が欲しくて攻めたのだ。無論、そこで演習をしていた魔術学生やキャリー姫、カミシロ公爵の娘も含まれていた。
あの魔術国ハイデンに対して、痛打を与えるためだからだ。
「和解は難しそうですか?」
「……私としては、シェーラ様たちウィードの方々と友諠を結ぶのは大変良いことだと思います。ですが……父上、陛下に信じてもらえるか」
「……そうですなー。異世界から巫女様が召喚されて、信じられないほどの魔術で足止めをされたなどと言っても信じてもらえますまい」
ジョージンもどう説明したら、父上の理解を得られるか悩んでいるようだ。
というか、こんな話をしたら頭がおかしくなったと思われそうだ。
「そもそも、私たちはバイデを、ハイデン攻略の足掛かりとするために来ているので、ウィードにバイデを取られると、少々問題があります」
バイデを補給地点として見ていたのだ。
交易都市なだけはあり、物資は潤沢。
ハイデンには、陽動で他の街に軍を拡散させ、ここを確実に落とすために動いたのだ。
これをなしにするのは非常につらい。
「なるほど。……そちらの陛下に話を通す必要はありそうですが、問題はないと思います」
シェーラ様は少し考えてそのようなことを言った。
しかし、何の問題がないのか分からない。
「どう問題がないのでしょうか?」
「えーっと、ジョージ殿たちはバイデでの補給路、補給地点が欲しいわけですよね? 略奪するという意味ではなく」
「はい。略奪では一度きりですし、国としての品性を疑われます。バイデ交易都市は支配だけをハイデンからフィンダール帝国に変えてもらうだけで、住民や商人たちに手を出すつもりはありませんでした」
「補給は適正価格で?」
「無論です。そうしなければ、バイデがすぐに倒れてしまう。交易都市の意味がない」
「そうですか、なら私たちウィードと同盟を組んで、バイデに駐留するという形をとってもらえばどうでしょうか? 補給物資も特に高値で売りつけるようなことはしませんので」
「「……は?」」
私とジョージンは同じように呟いた。
「問題はあるでしょうか? バイデに駐留するのはかまわない。補給も適正価格、駐留場所については、雨風がしのげるこの場もありますし。バイデの支配は私たちが行います」
「なるほど。私たちはバイデの統治に手を煩わせることなく、補給が行え、この場所を駐留場所として提供してもらえると……」
悪い話ではない。
いや、ここは爺の意見も聞かなくてはいけないな。
「ジョージン。シェーラ様の提案をどう思う?」
「はっ。利点としては、ジョージ様が言ったようにバイデの統治に人手を割かなくていいということが一番大きいでしょう。交易都市の税金収入がなくなるのは惜しいですが、統治の費用にほぼ持っていかれるでしょからな。しかし無論、問題点も存在します。失礼ながら、シェーラ様たちウィードの方々をどこまで信用していいものか? これについては、今の状況からある程度信頼していいでしょうが、確実とは言えません。次に、このウィードという国が出てきたという証明をどうするかですな。あまりにも荒唐無稽すぎます」
確かに、爺の言う通りだな。
「しかし、ウィードが存在するという証明か……」
「……難しいですね。とりあえず、どこか広い場所でこのダンジョンを操る力をお見せしましょう。それで、ジョージ殿やジョージン殿にはこういう力を持つ国が存在すると正しく認識していただきたいのです。ここへ案内した崩落はあまりにも唐突でしたから」
「ああ、それはありがたいです。もう一度見せていただけるなら、こちらも陛下にはっきり説明ができます」
そういうわけで、兵士たちも大勢連れて、陣から少し離れた場所で実演してもらうことになったのだが……。
ゴゴゴゴ……。
目の前で地面が隆起したり、陥没したり、それらをまとめてさらに大陥没したりして、みんな目が点になっていた。
「これは……絶対に陛下にお伝えしなくては」
「ですな。……ウィードと敵対してはいけません。地形をここまで操れるのならば、軍が機能しません」
その通りだ。眉唾だったが、目の前で実演されて本当に理解した。
あの大陥没はシェーラ様たちが引き起こしたのだと。
しかし、このような力を持ってウィードは何を目的に動いているのか?
そういう
「……シェーラ様。ウィードの力はよく分かりましたが、その、ウィードという国は何を目的としているのでしょうか?」
訊かなくてはいけなかった。
これは下手をすると、ウィードというハイデンを超える、超魔術大国が敵になる可能性がある。
シェーラ様は突然な私の質問に驚いていたが、すぐに察して……。
「ああ、そうですね。ウィードという国は平和を求めています」
「……平和ですか」
「はい。他国を屈服させるのではなく、尊重しあい、手を取り合い、今の私やジョージ殿のような会話による融和を。でなければ、すでにジョージ殿たちはお墓の下だと思いますよ?」
そうだった。
あまりにも
そもそも、気分次第で私たちは殺されてもおかしくなかったのだ。
今生きているのはひとえに、ウィードという国が話し合いや平和を求めていたからだったのだ。
「ウィードの意志ははっきりと認識いたしました。必ずや陛下に話を通して見せます」
「はい。よろしくお願いします。と、そういえば、これ以外に証拠となるモノといえば、魔術道具なのですが。こちらには魔術道具というものは存在するのでしょうか?」
「残念ながら、こちらにも魔術道具は存在します」
「それは、一般の皆さんも使うことができるもので?」
「どういうことでしょうか? 魔術道具は高価で一般、平民ではとても手が出る価格ではありません」
というか、魔術道具があっても魔力をこめられないのでは動かないので使えない。
それは使える人が少ないということ、需要と供給がそもそも成り立っていないのだ。
「なるほど。では、こちらをお持ちください。ジョージ殿に直接渡すのはダメですね。ジョージン殿、御見分を」
「はっ。これはランプですかな?」
「はい。下の付け根にある丸いところを、指先に魔力を籠めるように押していただけますか?」
「……申し訳ありません。シェーラ様、このジョージン、魔術の腕はからきしでして……」
「大丈夫ですよ。一般の方でも使えるものですので」
「はぁ。では失礼をして……」
爺はどうせダメだろうと、丸い所を押すとどうだろう。綺麗な白い光がランプから溢れ出てくるではないか!!
「ジョージン、いつから魔術が使えるようになった!?」
「い、いえ、私が使えるわけがないのですが……」
「これは、ウィードで一般販売している魔力ランプです。魔力を空気中から貯蓄する機能がありまして、起動するさいのちょっとした魔力を籠めるだけで機能するものです」
「そんなものがウィードには存在するのですか!? 爺!! いつまでも自分でつけたり消したりしてないで、私にもやらせろ!!」
「あ、検分中ですぞ!!」
「何が検分だ!! 私に渡せ!!」
なんとか爺から、ランプを奪い取り、自分でつけてみると、ついた!!
「凄い!! 凄いです!! 私の魔力でも扱える魔術道具があるとは!!」
「これは、証拠の品になりますか?」
「なります!! 絶対になります!! 帝国との交渉はこのジョージにお任せください!!」
これは、バイデを落とすよりも、もの凄い成果を出したかもしれない。
「あ、それと、誰でも使える魔術武器もありますので、そちらも……」
「そんなものも存在するのですか!! ぜひ使わせてください!!」
すげー!!
昔あこがれた、魔術師になれるのか!!
「えーと、さすがに危ないので、まずはこの子に実演をしてもらいます。離れていてくださいね」
そう言って、シェーラ様が指名したのは、いっしょについてきていた、大盾をどうやって持っているのか不思議な小さな子供だった。
「では、ヒイロ。お願いします」
「わかったよー。ファイアボム」
ヒイロと呼ばれた子供がそう言葉を紡ぐと、用意された杖から大きな火球が発射されて……。
ドーンッ!!
投石器を使ったような大穴が地面に開いていた。
「ヒイロ。連射」
「はーい」
ドドドドドド……ドーン!!
一発だけでも驚きだが、その魔術を連射し始めた。
「「……」」
唖然としている私たちに、杖を握らせてくれるシェーラ様。
「こんな感じで、威力がありますので注意してくださいね。人には向けないように」
「は、はひっ!!」
「きょ、きょきょろえました!!」
やばい、声が裏返った。
爺も心得ましたって言えてないぞ!?
「あ、後日、ウィードの王配であるユキさんとの席を設けますので、そこで詳しく話をまとめましょう」
「お、王配!?」
「はい。私たちと共にこの召喚に巻き込まれたのです」
な、なんてことをしてくれやがった。ハイデン!!
いや、この友諠を結べたのを感謝するべきか?
そういうことで、私たちは満場一致でウィードと友諠を結ぶことに決定した。