
Side:シェーラ
キャサリン殿との会談のあと、少し休憩をしている間に、お花畑お姫様とカグラの誘拐犯は目を覚まして、キャサリン殿との話し合いをしているようですね。
内容を聞きたいところですが、それはユキさんやラビリスに任せておきましょう。
私は私で、まだまだ仕事があるのですから。
「みんな、いいですか。これから、フィンダール帝国の方々の所へ訪問をいたします。二日後に予定している正式訪問の前の先触れです。おそらく、相手は混乱しているでしょうから、襲ってくると思います。その時は遠慮なく、ぶっ飛ばしてください」
「「「はーい」」」
そう元気よく返事をするのは、アスリン、フィーリア、ヒイロ。
「任せてください。お兄様の役に立つのです」
「……殺さないようにってのは難しいと思うけど」
さすが、ヴィリアはユキさんへの奉仕の心が一杯でいいことです。
片やドレッサは殺さずのことを不安に思っているようですね。
しかし、それは仕方がないことです。
「ん。殺されると思ったら、死に物狂いで向かってくるから、生かして話し合いの余地があると示さないといけない」
「ですわね。まあ、それも限度がありますが」
「はい。その場合は撤退すると思いますので、血の海にして構いません。ユキさんにも
殺害時のDP回収は通常通りなのか、それとも5000倍なのかという確認ですね。
正直な話、私としては必要のない相手は全部コロコロしてDPに換えて、ゲートを作りウィードの戦力を呼び寄せる方がいいと思うのですが……。
……はぁ、私も頭にきているようです。
本来このように周りに敵を作るような考えは慎まなくてはいけないのに。帝国も私たちと敵対したかったわけではなく、ハイデン王国がねらいだっただけ。
でも、私はともかく、妊娠中のミリーさんたちや、秋天と子供たち、そして、世界の希望であるユキさんがこのような危険なことに巻き込まれて、非常に腹が立っているようです。
いくら10万人もの人がいようが、これを操るのは一部の将校だけですし。
残りの人々は、ほんの一握りが士官、少しが正規兵、大部分は徴兵された人々でしょう。
それを、虐殺してもよいという思考になってしまっている。
落ち着かないと。このような残虐さはユキさんの好むところではありません。
「シェーラちゃん、大丈夫?」
「……アスリン。はい。大丈夫ですよ。大変かと思いますが、護衛よろしくお願いします」
「うん。任せて」
……ユキさんが、アスリンに血なまぐさいことをさせたくないという気持ちがよく分かります。
こんな優しいアスリンが、血風を巻き上げるのは似合っていません。
そうですね。私はそのためにも、血を流さずに交渉をまとめる必要があるのです。
現状のメンバーでは、交渉事はユキさんが一番、二番手が私、三番手がサマンサさん、四番手がラビリスとなっていますので、ユキさんは除外で、私が実質一番手で交渉の仕事をしなければいけません。
新大陸では、亜人の位置づけだったのであまり役に立てませんでしたから、ここでは精霊の巫女という特殊な立場を使い大いにユキさんの役に立ってみせましょう!!
「みんな。今から帝国軍駐留地点へ転移します。いいですか?」
私がそう聞くとみんなは頷く。
そして、一気に転移します。
すると、ぼんやりと明るい小部屋に出ます。
すでに、DP不足はここ数時間、帝国の皆さんのおかげで改善しましたので、明かりだけはつけています。
……ただ洞窟が発光して見えるぐらいですが。
本来であれば空がある、開放的なダンジョンをと思っていたらしいですが、DP不足でこうなったようです。
「この隠し通路の先が、帝国の皆さんが駐留している場所です。みんな、ナールジアさんの装備を展開してください」
私もすぐにアイテムボックスから、ナールジアさんの装備を取り出します。
服はすでにナールジア装備なので、主に武器です。
……正直超兵器すぎてどうかと思っていたのですが、このような状況ではありがたいですね。
私の場合はこのショートソードの二刀流なのですが……説明するのも馬鹿らしい付与がたくさんされています。
そんなことを考えている間に、みんな装備の展開が終わったみたいですね。
「では、この隠し扉を開けます。扉の向こうにはモニター上に敵はいませんが、隠れている可能性もありますので、十分に注意を」
ガコッ。
そんな音が響いて、扉が開く。
いや、見た目は壁が開いたとしか見えない。
その瞬間に、クリーナさんとサマンサさんが魔力障壁を扉の形に展開して、敵がいても近寄れないようにします。
「サマンサ、扉の向こう、3メートルほど障壁を押し広げる」
「分かりましたわ」
こうすることによって、扉近くに敵が待ちかまえていても、押し出し、攻撃できないようにします。
魔力障壁にこのように押し出すという方法を思いつくのは、さすがユキさんと言うべきでしょう。
「ん。障壁に攻撃が加えられている様子はない」
「ですわね。モニター通り敵はいないようです。念のために、盾を持っている、フィーリア、ヒイロ、先鋒をお願いしますわ」
「わかったのです」
「まかせてー」
この二人は、なぜか好んでタワーシールドを使うのですが、今この時は体を覆えるほどの盾を持っているというのはありがたいので、安心して任せられます。
「敵はいないのです」
「いないよー」
扉の向こうに出た二人の言葉で目視も終わったと分かります。
それから、帝国軍の駐留場所まで、足を進めます。
あら? 先ほどまでは偵察兵がうろうろしていたはずですが、どうしたのでしょうか?
偵察兵でも捕まえて、連絡してもらおうかと思っていたのに。
いないものは仕方がないです。
このまま本陣と思しき場所に足を進めます。
「おい、止まれ!!」
「何者だ!! どこから来た!! って女子供? というか巫女様!?」
本陣の近くまで来ると、兵士たちがうろうろしていて、こちらを見ると慌てて確認を取ってきましたが、私たちの顔ぶれに不思議がっているようです。
私のうさぎ耳には驚いているようですが。
「私たちはバイデを占領したウィードの者です。使者として伺いましたので、お取次ぎ願います」
「ウィード? ハイデンではなくか?」
「はい。間違いなくウィードです」
「……よく分からんが、巫女様が言うならそうなのでしょう。おい、ここでお待たせするのは失礼だ、来客用テントに案内しろ」
「はい。こちらにどうぞ」
思ったよりも、規律はしっかりしているようですね。
ハイデンよりも好印象です。
来客用のテントはそれなりに豪華で、ちゃんともてなすということを目的としたもので、私たちが侮られている様子は今のところありませんね。
そんなことを考えていると、立派な
「この方は、フィンダール帝国、第二皇子、ジョージ・フィンダール様であらせられます。私は
いかつい顔のご老人で、ヴィリアやヒイロは硬い表情をしていました。
ですが、その口から放たれる声は威圧的ではなく、こちらを配慮した聞こえのいい音量と優しいおじいさんの声でした。
「ご丁寧にどうも。私は、バイデを占領した、ウィードで外交を預かっているシェーラと申します」
いつもの通りの、貴族としての礼を言葉と共に返す。
すると、第二皇子と紹介された若者が前に出て同じように礼を返してきます。
こちらの作法は知りませんが、動作はしっかりしてキレもありましたし、ちゃんとした教育は受けているようですね。
そういえば、キャリー姫は礼もしていませんでしたね。
いや、簀巻きにしたから無理でしたか。
さすがに、そういう教養もないとは思えませんし、思いたくもありません。
「精霊の巫女様。ご丁寧な挨拶痛み入ります。私のことはジョージとお呼びください。巫女様のことはシェーラ様とお呼びしても?」
「はい。かまいません。私もジョージ殿、ジョージン殿とお呼びしても?」
「かまいません。では、お掛けください」
そう言われて、椅子に腰を下ろし、話し合いの態勢になる。
「確認で申し訳ないのですが、先ほどバイデを占領したウィードと仰っていましたが、お間違いはないでしょうか?」
「はい。間違いなく、バイデを占領したのは私たちウィードです」
「……シェーラ様。その、気を悪くしないで欲しいのですが、私たちは今自分の身に起こっていることが、正直理解できていません。それはもちろんシェーラ様の言う話も含めてです。朝、バイデを攻めようとすれば、いきなり暗闇の中。何を言っているのか自分でも分からないくらいです」
「それは当然でしょう。その説明のために私が赴いたのです」
「説明……ですか?」
「はい。ジョージ殿やジョージン殿もウィードという国も聞いたことはないでしょう?」
私がそう聞くと、2人とも難しい顔をして……。
「失礼ながら、そのような国は全然……」
「私も不勉強ゆえ、聞いたことはありませんな。しかし、シェーラ様のような巫女様がいて聞かないわけがないと思いますが……」
何で知らないのか分からない、とても申し訳ない。という感じです。
なるほど、それだけ精霊の巫女というのは特殊な立場なのでしょう。
「いえ、知らなくて当然です。私たちは先日の深夜に召喚されたのですから」
「しょうかん?」
「しょうかん……。召喚!?」
ジョージ殿は言っていることが分からなかった様子でしたが、ジョージン殿は何か知っているようで大きな声をあげました。
「爺、何か知っているのか?」
「はっ、いえ、しかし……そんな馬鹿な」
「言ってくれ。私は何が何だか分からん」
「は、はあ、シェーラ様、ジョージ様に説明してもよろしいでしょうか?」
「はい。お願いいたします」
「では、失礼をして、ジョージ様。ハイデン王国にはかの国を作り上げた英雄の話が存在するのは知っていますな?」
「ん? ああ、彼らが初代様とあげている御三家のことだな」
「はい。その話が子供たちにも聞かせやすいように、おとぎ話として流布されているのですが、その中に、異世界より、黒髪の叡智をもつカミシロが呼び出されたという内容があります。それが召喚と言われています。つまり……」
「……ちょっと待て」
ジョージン殿の説明で予想がついたのか、片手で顔を覆っている。
「つまり……、シェーラ様は異世界より呼び出されたということか」
「おとぎ話の召喚が本当であればですが」
そう話して、私に視線が集まる。
「事実ですね。私は、いえ、後ろにいるみんなも含めて、複数がウィードからこちらに呼び出されました。ですから、ウィードという国を知らなくても仕方がないことです」
「冗談、には聞こえないな」
「私もですな」
「では、シェーラ様。この帝国軍のありさまは……」
「はい。私たちが引き起こしました」
淀みなく、そう言うと、後ろで控えていた兵士たちが腰の剣に手をかける。
「待て!! 早まるな!!」
「その通り、
へぇ。
帝国軍の方々はかなりマシですね。
ハイデン王国よりも、フィンダール帝国の方と手を組む方がいいかもしれませんよ。
会談をコールで覗いているユキさんはどう思いますか?