Side:カグラ・カミシロ ハイデン王国御三家カミシロ公爵家次女

「……」

「……」

「……」

 今、私はバイデ領主屋敷で、ハイデン王国王家キャリー姫殿下、領主キャサリン様と机を囲んで話をしようと思っていたのだが、全然言葉が出てこない。

 それもそのはず、今の状況が奇想天外極まりないから。

 どこから何を話したものか、そんな事態なの。

「……えーっと、まず、確認しておきたいのですが。姫殿下、発言よろしいでしょうか?」

 そのわけ分からずな状況の中、おずおずと口を開いたのはキャサリン様だった。

「……あ、はい。どうぞお話になってください」

「……なんでしょうか?」

 反応を見るに、お花畑の姫様もさすがに現状には追いついていないらしい。

 まあ、当然よね。だって……。

「とりあえず、帝国軍の攻勢はなくなったとみていいのでしょうか?」

「「……」」

 その質問は、このバイデを預かる領主としては当然の言葉だが、それに対する回答を私たちは持っていない。

 だって、帝国の連中はすべて、突如地面が陥没して飲み込まれたかと思ったら、不自然に地面が動いてれいに蓋がされ、生死不明なのよね。

 ……自分でもなんて無茶苦茶なことを考えているんだろうって思うわ。

 でも、目の前で起きたのよ。その無茶苦茶な出来事が!!

 しかし、状況を整理するのにはいいきっかけね。

「……キャサリン様。現状としては、帝国軍は地面の中に消えて、攻撃も何もないので、帝国軍の攻勢はなくなったとみていいでしょう」

「……帝国軍は、ですか」

「はい。帝国軍は、です。私たちにとって現状の脅威は帝国だけではありません」

「……彼らですね」

「……はい」

 そう、帝国の脅威は去ってはいるが、目下それを超える脅威が存在している。

 その帝国を地面に埋めた相手が存在するからだ。

 先ほどの意味不明な状況は、運がよく天変地異が起こったのではなく、ある人物たちが引き起こしたことだと、私たち3人は知っている。

 バイデの領民たちは、神の奇跡、古の英雄の血を継ぐ私たちのおかげだと思っているが、残念ながらそうではない。

 あの出来事は、私たちが呼び出した彼らが成したこと。

 召喚により異世界から呼び寄せた、古の英雄の力を持つ、おとぎ話の再現、新たなる伝説の始まり……だったはずなんだけど。

 呼び出した彼らに、私たちは文字通り、あっという間に制圧され、バイデの兵も相手になることもなく、揃って仲良く簀巻きにされて、このバイデは今や、彼らが言う、ウィードという国の占領下にある。

 ……何を言っているのかしらね? 私は……。

 今までの経緯を頭の中で整理したが、やっぱりオカシイ。

 おとぎ話だってここまで奇想天外じゃないわよ。

「……話は伺いました。彼らを召喚してこうなったと」

「……はい。まさか英雄様や精霊の巫女様がこのような行動に出るとは思いませんでした」

 姫様はいまだに彼らの行動に納得、理解ができてないようで、首を傾げている。

 しかし、私やキャサリン様はそこらへんはちゃんと認識している。

 というか、ここで姫様の認識を改めてもらわないと、今後、彼らとの交渉で不利になりかねない。

「……姫殿下。恐れながら申し上げます。彼らを呼び出したことは、初代様たちの再現と言えば聞こえはいいですが、別の見方を申しますと、……その、誘拐なのです」

「……ゆうかい?」

「そうです。姫様。私たちは彼らを故郷から無理やり連れだして、私たちの争いに巻き込もうとした……。いえ、巻き込んだのです。これは、彼らの国の了解を得ず、国民を勝手に連れてきたという解釈もできるのです。ある種の犯罪でもあります」

 そう。

 私も召喚当時は焦っていてそこまで頭が回らなかったが、完全に犯罪なのよね。

 彼らが、こちらを信用しないのも当たり前。

 姫様もこの言葉でようやく彼らがあまり好意的でないという理由を把握したのか、落ち込み始めた。

「そんな……。そんなつもりはなかったのです……」

「ええ。姫殿下の思いは分かっております。ハイデン王国のため、国民のため、私たちを助けてくれる、英雄を呼び出したかっただけですよね」

「……はい」

「そういった意味では姫様の行為は間違ってはいません。自国の危機を他国の力を借りて乗り切るというのはよくあることです。英雄召喚もこれの一環ととらえていいでしょう。しかし、彼らはちょーっと、常識外だったと言いましょうか……」

「そうですね。確かに、異世界から連れてきたのなら身寄りもなく、この世界のことを何も知りもしないのですから、呼び出した姫殿下たちと手を取り合うのが生きるという目的としては一番正しいのです。ですが、予想外に彼らはあの人数で私たちを制圧する力を持っていた……」

 キャサリン様の言う通り、彼らは予想外すぎた。

 まさか、あの20人に届かない数で、というか実働は10人ぐらいで、バイデの軍、帝国軍すべてを相手にできるとは思わないでしょう?

「しかし、彼らは孤立無援なのです。その中、このような振る舞いをしては……」

「はい。姫様の言う通り、いずれとうばつ軍が送られてくるでしょう。そして、補給も何もない彼らは討伐されます」

「そうなのです!! なぜ、英雄様たちは、これを分かってくれないのでしょうか!! 私たちに協力をしてくれれば、ハイデン王国での立場は保障いたしますのに!!

「……姫殿下のお気持ちは分かりますが、先日お会いした、シェーラ様との会談を覚えていますでしょうか?」

「ええ。かわいらしい、ウサギの精霊の巫女様でしたね。たしか、うぃーど? とかいう国のお妃さまだとか。確かに王族としての威厳と気品に溢れていましたわ」

「そこが問題なのです。彼らは一国民ではありません。異世界とはいえ、一国の重要人物。その彼らがおとなしく言うことを聞くわけにはいかないのは当然というものです。帰れるかは分かりませんが、それでも身の安全を図るのは当然ですから。他国の戦力として扱われれば、安全とは程遠いです。そして国の面子としてもです」

「それは……当然ですわね」

 ……実際、私たちも、参戦をお願いしたからね。

「問題はそこだけではありません。いえ、一番の問題は彼らが保有している未知の力です。あの大地を操る力があれば、敵を何十、何百、何万と用意しようが有象無象なのは見て分かったと思います」

「はい。あれは凄まじいものでした」

「もはや、この時点で、ウィードと名乗る彼らの国に勝てるものは存在していないということになります。歩兵は子供たちに打ち負けるどころか、簡単に投げ捨てられている状態でしたから」

「キャサリン。その言い方はハイデン王国がそのウィードに劣っていると聞こえるのですけど?」

「事実です、姫殿下。私たちの力では現状をどうにもできないから英雄として彼らを呼び出し、彼らは私たちの助力どころか、私たちまで敵に回して、勝利を収めました。たった、20人足らずで、10万以上をです」

「口を慎みなさい!! ハイデン王国が劣っているなどと……愛国心が足りません!!

 愛国心だけで、国力とかその他諸々がどうにかなるなら、誰も困りませんよ。

 なんて言えるわけもなく、とりあえず、姫様を落ち着かせよう。

「落ち着いてください。姫様。キャサリン様はハイデン王国のために言っているのです。彼らと勝負をして勝てるとお思いですか?」

「……それは」

 さすがに、あの規格外の力を相手に自分たちが勝てるイメージはないようね。

 これで勝てるとか言い出したら、もうウィードに私は下るわよ。

 負け決定だし。

「配慮のない物言いで申し訳ありません。しかし、今なすべきことは、彼らを従えることではなく、同盟でもいいですので対等な立場でのやり取りが必要なのです。あくまでも仲間、友好国としての振る舞いをしなければ、ハイデン王国が敵国と認定されかねません。そして、それを取り次ぐのは姫殿下しかいないのです。あのような荒唐無稽な力を私たちが説明したところで納得するわけがありません。姫殿下やカミシロ様に証言していただいて、何としてもウィードと敵対することを防がなければ、国が滅びます」

 私もキャサリン様と同意見。

 あんな大規模に地形を操れる魔術を向こうに回して勝てる気などしないわ。

「幸い、始まりに問題はあったにしろ、私たちは処刑はされずに、こうやって解放されて、彼らもバイデの領民には特に何もしていません。出会いは最悪でしたが、これから良好な関係を築くべきと思うのです」

「……話は分かりました。確かに、英雄様と敵対したいわけではありません。彼らの立場も理解はできました。しかし、このバイデを占領してしまっている事実は……」

「そこは、話し合う必要はあるでしょうが、今のままの統治であるのなら。私の時と変わりはありませんし、私としてはこのままウィードの支配下としてもらって、これからの関係の切っ掛けになればと思います。私が身を切ることが、ハイデン王国のためかと」

「……キャサリン。そこまでハイデン王国を思ってくれての発言でしたのね。分かりました。必ずや、お父様たちを説得して見せますわ。まずは、王都に手紙を書いて、正式な面会の場を設けましょう!!

 そんなことを言って、さっさと部屋を出て行く姫様。

 ……相変わらず、考えないというか、思いつきというか……。

 姫様の行動に頭を痛めつつ、口を開く。

「キャサリン様。ウィードにつくということでよろしいでしょうか?」

「ええ。正直、ウィードに勝てる勢力がいるとは思えないから。それはあなたもでしょう?」

「……」

 言葉は返せないが、キャサリン様と同意見なのはさっきと変わらず。

「だったら、あのお花畑の姫殿下をフォローしないと、あっという間に、あの陛下は討伐軍を送り込んでくるわよ?」

「……わざとでしたか」

 あんなぽわぽわな姫様の発言で、バイデを聞いたこともない国に渡すわけがない。

 つまり、あの発言はさっさとウィードと敵対しろという意味。

「当たり前よ。あなたも初代様の関係であの関係を続けているのでしょうけど、今の王宮はただの権力争いを続ける愚物ばかりよ? ある程度で見切りをつけないと共倒れよ」

「……善処します」

 そう簡単に縁切りできるのならばそうしたいと、今回の戦いで強く思ったが、そうもいかない。

 私は初代様から続く御三家の一員だから……。

 私のその苦悩が顔に出ていたのか、キャサリン様は一言……。

「……あなたも苦労してるわね」

 と言ってくれる。