Side:ユキ

「全部貧乏が悪いんや」

「何を言ってるのよ……」

 そう言って、俺とラビリスで、たつに入りながら、DPの上昇値を確認している。

 つい数時間前に、お外の団体様をダンジョンにお招きして、DPの確保に走ったわけだが、たった数時間では焼け石に水である。

 ウィードの国民には10時間1DPという話で通しているが、実際は1時間で100分の1の魔力がDPに変換されるので、実際の回収量は数十倍近く違う。職業兵士などの皆さんは、基本的にレベルが高いので、最大MPが100以上多いおかげだ。

 ぼったくりといえば、確かにぼったくりである。

 まあ、ダンジョンがないとDPに意味はないし、使用許可を出しているので、そこは勘弁して欲しい。

 で、この5000倍というアホな効率のこの場所だが、DPの回収率に違いはないようだ。

 この数時間でちゃんと、100分の1近くを回収しているのか、すでに300万DP近く溜まっている。

 苦労? して、10万人の団体様と魔術学生をお招きしただけはある。

 5日もあれば、ゲート開通のDPは溜まるだろう。

 しかし分かる通り、この場所では5000倍の効率なので、決して多くはない。

 下手をすると一瞬でなくなる金額である。

「さーて、ゲート開通まで溜めるべきか、それとも必要物資を優先して集めるべきか……」

「そうねー。さっさとゲートをつないで、向こうから物資を送って貰う方がいいんじゃないかしら?」

「それは確かになー。ウィードの通常レートで仕入れたものをこっちに運び込む方がいいか。すでに必要最低限の物資は集めたし、これ以上するならウィードと連携を取れてからか」

 ラビリスの言うことは至極もっともだ。

 これ以上DPを浪費してゲート開通を遅らせるのはよくない。

 そこで思い出したのだが、ベータンで行っている非公式訪問をどうしようかねーという問題。

 俺が消えた今、ウィードに残っているメンバーでそれを支えて、継続しないといけないのだが、俺たちを捜索、および支援するという業務がさらに発生しているので、悲惨な状況だろう。

「ああ、それは大丈夫みたいよ。ちゃんとみんな持ち直して、仕事を割り振って頑張るつもりで、今日はもう寝たらしいわ」

「そうか。みんな強くなって何よりだ」

「でも、ユキの声が聞こえにくくて残念がってたわよ」

「そりゃ、仕方ない。何せルナの話だと、ルナがピンポイントでジャミング、阻害されているみたいだからな」

 俺はそう言いながらコールを開いてセラリアと連絡を取ろうとするが、ノイズしか聞こえないし映らない。

 おそらく、女神の力をはらうとかそういうのがあるのだろう。

 俺はルナから直接便利な力をもらった分、阻害の影響が大きいんだろうな。

 ダンジョンの方は動いて助かったわー。

 ルナいわく、ダンジョンのシステムは土地に自分の魔力を馴染ませるとか段階を踏むから、その過程で制御できるんじゃないかと言っている。

 俺と嫁さんたちのコールの差は、俺の方がルナの魔力が強いからだと。

 理屈が通っているのか通っていないのかよく分からんが、そういうものと思っておけばいい。

「この場所がより厄介なところなのはよく分かったけど、ルナの手引きを疑いたいねー」

「それはなさそうよ。今回は真面目だったらしいから」

 はぁ、難題に次ぐ難題。

 厄介ごとはまとめてとよく言ったものだ。

「とりあえず、当面の予定はあと約5日間はゲート開通DPを溜める方向だな」

「それがいいわ。そのあとは、ウィードから人員や物資を運び入れて、さっさとこのバイデの人たちを安心させましょう」

「見ず知らずの人がいきなり占領したからなー。そんな馬鹿なと言いたいだろうが、目の前でバイデの軍はボコボコにしたし……」

「外の帝国軍もあっさりだったから、私たちを見るとおびえるってアスリンたちが言ってるのよね」

 そりゃ当然だと思う。

 俺もアスリンたちみたいなちびっ子が完全武装した大人をこともなげにポイポイしてたら、近寄りたくないわ。得体が知れなさすぎる。

「じゃ、この予定をウィードに頼むわ」

「分かったわ」

 そう言ってラビリスは炬燵を出て、通信室へと移動する。

 通信室と言っても、電通信機器はウィードまでの中継器がないので動かしても意味がないので動いてないし、コールによる魔力通信もノイズがひどいのが直るわけでもない、いや一応静かな場所の方が聞き取りやすいぐらいか。

 はぁ、さっさとザーギスとかコメットを呼び寄せて原因究明するべきだよな。

 そんなことを思いついては書き留めて、今後のこのわけ分からん状況への対応を決めていっていると、バイデの領主館で状況把握をしてくれていた、シェーラたちが戻ってくる。

「ただいま戻りました。ユキさん」

「おう。お帰り。シェーラ、みんなも何にもなかったか?」

「はい。どうやら本当に、このうさみみ。獣人であるということが、かなり効いていますね。この土地での精霊の巫女というのは、それほど特別な存在なのでしょう」

「でもねー。お兄ちゃん。アスリンたちのこと、ばけものーって言うんだよ? 失礼だよねー」

「ぷんぷんなのです」

「……まあ、あれだけ暴れればね」

「ドレッサだって同じように暴れたじゃないですか」

「ヒイロ。頑張った」

 あ、うん。

 当然だと思ってごめんよ。

 当人としては嫌だよな。

「ん。アスリンの気持ちは分かるけど、今はそれぐらいがいい」

「そうですわね。怖がられるぐらいの方が、今はいいでしょう。私たちが占領しているとはいえ、人数はせいぜい10人ちょっとで、女子供ばかりです。舐められれば、簡単に襲ってくるでしょう。そうなると、面倒ですわ」

 クリーナやサマンサの言う通り、アスリンたちには悪いが、今はそれぐらいがいいだろう。

 無用な争いを避けるための、力の誇示というのも必要だ。

 というか、ダンジョン支配下では指定保護下にあるアスリンたちを傷つけることはできない。

 ルナの力が阻害されている今、幾分効果は弱まっているのだろうが、それでも普通に剣や弓、魔術でどうにかなるほどやわではないらしい。

 それに、もともとのスペックも引き上げているからな。

「まあ、クリーナやサマンサの言う通りだ。不満はあるかもしれないけど、しばらくは我慢してくれ。それがみんなの安全のためだ」

「お兄ちゃんがそういうなら我慢する」

「我慢するのです」

「わかったわ」

「はい。お兄様の命令とあらば」

「おっけー」

 アスリンたちは素直に言うことを聞いてくれるから助かる。

 さて、待機してくれているシェーラの話を聞かないと。

「で、シェーラ。一応、解放したバイデの領主キャサリンとの会談、事情聴取はどうなった?」

「はい。素直に、私たちの支配下に置かれるという認識はしてくれました。おそらく、ユキさんの力をその目で見たからでしょう」

「まあ、話がこじれるのは分かるからな。見せた方が早いと思ってやった」

「それで、会談の内容ですが、基本的にこちらの要望は通りました。私たちは立場上、バイデの支配者なだけで、キャサリン殿が領主のまま。情報提供を行うことですね。キャサリン殿が領主という立場を変えるつもりもありませんでしたし、住人にはいつものようにという対応ですね。無理なちようしゆうなどがなくて安堵されていました。と言っても、私たちにはそういうのはデメリットの方が大きいですからね」

「まあなー。今後の展開を考えると、バイデの人たちとは仲良くしたいからな」

「私たちの人数を聞いて部屋を用意すると慌てていましたから、好意的ではありますね。まあ、恐れの方が大きいとは思いますが」

「敵意むき出しでなくてよかったよ」

 いや、話が通じるだけマシか。

 こっちで捕虜にしている、頭お花畑のお姫様は、流石さすが英雄様!! というだけで話にならん。

 すぐにハイデン王国の王都へとか言ってるし、マジで話にならんというか、話が通じねぇ。

 カグラとかいう黒髪の方は、帝国軍をダンジョンにお招きしたあと、気絶するように眠ったまま。

 まあ、あのお花畑お姫様の相手をしつつ、都市の防衛指揮と魔術の使用とか凄まじい忙しさだったろうから、仕方ない。

 明日には目を覚ますだろうし、それまで休ませておく。

「情報提供の方ですが、簡単に聞いただけと念頭においてください。後日、指定保護を終えたキャサリンさんと、ダンジョンの会議室で、ユキさんも交えて話を聞く必要はあります」

「分かった。とりあえず聞かせてくれ」

 正直、領主キャサリンとの話も俺が赴こうと思っていたのだが、これ以上は必要ないし、危険を冒すわけにはいかないと、シェーラを筆頭にみんなからお留守番を言い渡された。

 ここで作戦を練る方が俺のお仕事になったわけだ。

 どう見ても書類仕事だが。ふふふ……。どっかに飛ばされても書類決済が必要なシステムってつらいね。

 俺が管理するために作ったんだけどさ……。

「では、まず、カグラさんに確認した内容については、まったく同じです。魔物はおらず、精霊の巫女という、獣人を神聖視した扱いをしているようです。おかげで、最初も言った通り、私がいきなり出てしまって話がこじれるかと思いましたが、思いのほかスムーズに話が進みました」

 精霊の巫女ねー。

 ウィードにはその巫女様が山ほど生活していますよー。

 と、問題はそこじゃないな。

 そこまで、獣人がこの地域では少ないということだ。

 魔物がいないのも含めて、魔力枯渇の影響と思っていいだろう。

 まあ、ルナの力が阻害されているって言うのもなんか関係していそうだが。

「次に、今回バイデに攻めてきていた帝国ですが、正式な名前はフィンダール帝国と言って、ハイデン王国とは敵対までとはいかなくとも、あんまり関係は良好ではなかったようです。とはいえ、戦争状態ではなく、今回が久しぶりの侵攻だそうで、記録によれば50年ほど前に軽い国境でのぶつかり合いがあっただけとのことです」

「なんでいまさら?」

「さあ、詳しいことは分かりませんが、基本的にハイデン王国は魔術大国と呼ばれているらしく、他の周辺国より、国土はせまいものの、発言力や力などはあったようで、キャサリンさんから見れば、かなり横柄な態度で振る舞っていたようです。あの、お姫様のお花畑ぶりを見ても分かるとは思いますが」

 ですよねー。

 お姫様のお花畑ぶりは何が原因か分からんが、同じお姫様なシェーラはあの能天気ぶりは頭にきているのだろう。

 あれは、個人の性格にもよるからな。

「……やっぱりハイデン王国にも問題はあるかもしれないという話か。というか、よくキャサリンは自国の批判を話したな」

「どうやら、この地域では女領主というのは非常に珍しく、今までひどくうとまれていたらしいのです。このバイデが攻められた理由もそこらへんにあるのでは? という話もしていました」

「バイデというか、キャサリンの失態狙いか?」

「あくまでも、憶測や予想ですけどね。ちょうど、侵攻してきたフィンダール帝国の皆々様もいますし、少し休憩したら事情を聞いてきます」

「あ、なら俺も……」

 そう言って、俺も参加しようと思ったのだが……。

「「「ダメです」」」

「はい」

 ダメだったよ。

 俺は相変わらず書類仕事らしい。

 で、そんな話をしていると、ウィードへの連絡が終わったのかラビリスが戻ってくる。

「あら、みんな。お帰りなさい。で、ユキはどうしたのかしら?」

「ただいま、ラビリス。ユキさんがいつものお外に出たいと言っただけです」

「ああ。いつものね。見張っておくわ」

「はい。お願いします」

 ラビリスはシェーラとそんな会話をしたあと、俺の膝に座ってくる。

「さ、報告書とか、予算とか色々やることはあるでしょう? 話し合いとかはシェーラたちに任せなさい」

「……はぁー」

「はぁー。じゃないわよ。お仕事お仕事」