Side:セラリア

 ……あー、腹が立つ。

 私はこの荒れた心を抑えられないでいた。

 だって仕方がないじゃない。

「クソ共が。人の夫や娘、友人たちを誘拐して……」

 そう、私の愛する夫、ユキを筆頭に、娘のサクラやシャンス、秋天、妊婦であるミリーたち、そしてまだ幼いアスリンたちが、先日夕方頃、召喚されて、ウィードから姿を消したのだ。

 当時は、ベータンで親父やガルツ、リテアの長の相手をしていたが、異例の全指揮権移譲の緊急事態ですぐにウィードに戻った。

 ちなみに、報告をくれたジェシカは大粒の涙を流して謝っていたし、リーアは茫然自失、キルエは気を失って、サーサリにかいほうされているという状態だった。

 私と一緒にベータンにいたメンバーも続々と戻ってきたが、私と同じように、夫と娘を誘拐されたラッツは壊れたように泣き叫んでいたので、すぐに気絶させた。

 というか、他の皆も、ラッツほどではないにしても、ひどいショックを受けていた。

 これは次の日には自殺者が出るのではと思ったぐらいのレベルだった。

 しかし、状況は一転して、ラビリスから連絡が届いた。

 コールから妙に雑音が入るが、全員無事とのこと、召喚したクソ共はすでに捕縛したこと、安全は一応確保したことなど、みんながあんの息を吐いた。

「これはウィードに対する宣戦布告です!! すぐにスティーブたちを……」

「落ち着いてくださいエリスさん。送るにしてもゲートがないんですし……」

 そうエリスは叫ぶが、タイキの言う通り、ゲートが開通していないので、夫たちの救出どころかクソ共を殺しにも行けない。

「じゃあ、飛行機をDPで出せばいいんですよ!! そして旦那様たちを助けに行くんです!!

「ルルア殿。それも無理だ。空の気流がまったく分かっていないし、ユキ君たちの位置が不明だ。どこにどう飛んでいいものやら。さらに、海と同じように空に大型の魔物がいないとも限らない。下手に調べもせずに動くのは非常に危険だろう」

 ルルアの気持ちは痛いほど分かるけど、タイゾウの言うことも、ごもっとも。

 下手に空にいる脅威を刺激して各国を危険にさらすことなどあってはいけない。

 というか、飛行機自体DPが非常にかかるし、整備や、滑走路の用意などすぐに準備したところですぐに動けるものではないわね。

 ……でも、夫たちは今も必死に向こうで頑張っている。

 私たちが指をくわえて見ているわけにはいかない。

 なら、ここは全権をゆだねられた者として、やはり飛行機とかを使って空中から探すという決断を取るべき?

「エリスもルルアも落ち着け。……はらわたが煮えくりかえっているのはわらわも同じじゃが、今はユキたちの安全を確認できたのじゃから、あまり怒りにゆだねては大事なものを見失うぞ?」

「デリーユ……」

 私に向けられていないその言葉がしっかりと私に聞こえてきた。

 かつて、すべてを失ったデリーユからの言葉。

「まぁ、失敗した妾が何をという話じゃが、みんなには見失って欲しくないからのう。子供たちも不安な顔をしておったし、こんな様をユキが知ったら怒るぞ? ユキを心配するあまり、ユキに嫌われるというのは避けたいからのう」

「そう、ですね」

「……はい。子供たちをないがしろにしていたら私でも怒ります」

「……デリーユの言う通りね。夫やみんなが安全なのは確認できたし、ちゃんと家族や今まで積み上げてきたものを大事にしないといけないわね。夫に嫌われたくないから」

 落ち着かないと。

 深呼吸をして……。

「すぅ……。はぁ……。よし、エリス、ルルア、気持ちは分かるけど、まずは落ち着いて状況を整理して、できることを考えていきましょう」

「「はい」」

 2人とも落ち着いた様子で返事をしてくる。

 ああ、そうか、今まで落ち着いてなかったんだ。

 そんな状態での判断なんて当てにできないわよね。

「……そうね。まずは、ジェシカから聞いた話では、タイキやタイゾウに話を聞けと夫から言われたのだけれど、何か心当たりはあるかしら?」

 そう、ジェシカは泣きながらも、夫に託された命令を忠実にこなして、タイキやタイゾウ、ルナに連絡をして寝込んだ。

 ……そうか、今や私たちの半数は攫われていて、戦力が半減しているのね。

 だからこそ、まずは他の有識者を集めろという指示だったのね。

 タイキやタイゾウがいなければ、すでに飛行機などを出して無理していた可能性は否定できない。

 それだけ、頭にきていたから。

「いやー、詳しくは分かりませんよ」

「そうですな。確認が取れない今、なんとも言えません」

「詳しく、確認ね……。なら、ある程度予想はついているわけね?」

「まだ、予想の域を出ませんよ?」

「構わないわ。夫たちの状況を少しでも把握したいの」

「タイキ君。別段、悪い話でもない。セラリア殿たちの心の安寧のためにも話していいだろう」

「分かりました。えーと、召喚条件が日本人で現状を打破できるって話でしたよね?」

「ジェシカの聞き間違いでなければそうね」

「ルナさんが、異世界からの召喚を防ぐために制限をかけたのも知っていますよね?」

「ええ。童子切安綱のような、妙なものが流れ込んでこないために、あとはあなたたちのような召喚被害者を増やさないためにね。だからこそ、夫やみんなはこの世界のどこかにいるって話は分かるわ。異世界がダメなら同じ世界しかあり得ないから」

 でも、夫だけでなく、みんなも召喚で攫われてしまった。

 ルナはちゃんと仕事していたの?

 今もまだ到着していないし、今回は厳しく問い詰めないといけないわ。

 冗談で済ませられるレベルを超えている。

「ええ。だからこそ、大人数が召喚されたと思っています」

「異世界からの召喚は停止している。なら残るは同一世界のみ。となると、本来異世界から呼び寄せる出力で、同一世界からの召喚となれば規模が大きくなるわけです」

「ああ、そういうことね。でも、なぜ夫やみんなが対象になったのかしら? 日本人と現状を打破はどれほどか分からないけど、日本人であること、そして力や能力で言うならタイキやタイゾウも劣っていないでしょう?」

「いや、これも多分ですけど、ユキさんが一番該当者としてふさわしかったからだと思います」

「どういうこと?」

「つまりですな。個々の能力でユキ君がというわけではなく、大人数が召喚されたという点ですな。私たちが召喚されていないところを見ると、結局は出力が上がったとは言え一か所に固まっている人たちを呼び寄せるだけで精一杯だったというわけです」

「ああ、なるほど。つまり、ユキとミリーたちが固まっていたからこそ、現状を打破する力がある日本人と認識されたわけね?」

「おそらくですが」

 なるほど。

 確かに、一か所に固まっている戦力として、私たち家族以上の存在がこの世界に二つもいるとは思えない。

 そんなのが他にもいれば、すでに世界なんて平和になっているわよ。

「夫やみんなが呼ばれた理由は分かったわ。じゃ、次、呼ばれた先のDP効率が5000倍についてはなんでだと思うかしら?」

 そう、ここが一番大事だ。

 おかげで夫たちの救援に行けなくなった。

 夫のミスではあるが、誰がこんなたらな倍率を予想するだろうか?

 ここで聞いて分かるわけはないと思うけど、とりあえず、話を聞いておくことは必要だと思ったのだが、思わぬところから回答がくる。

「それは、あの大陸では、なぜか私の力が著しく制限されているからよ」

「ルナ!?

 そう言って、珍しく厳しい顔をしたルナが、ふざけることなく、スーツを着込んで、席に着いたからだ。