Side:ジョージ・フィンダール フィンダール帝国 第二皇子

 テントから出て、空を見ると、うっすら明るくなっている。

 もうすぐ夜が明ける。

「よし、準備を始めよ!!

「「「はっ!!」」」

 そう伝令に指示を出し、私は再びテントに戻る。

 そこには我が国がほこる騎士が揃い踏みしている。

「皆の者、すでに指示は出した。今日で勝負を決める。それで間違いないな?」

 私が一応このハイデン王国制圧軍の大将ではあるが、まだまだ若輩者。

 現場の指揮は、目の前の騎士たちが行っている。

「はっ。間違いございません。本日、予定通りに、あの街を制圧してご覧に入れましょう」

 そう響くような声で返事をするのは、ひげを蓄えた、すでに老人といって差支えのない男だ。

 だが、彼は今まで、皇帝である父を支え多くの戦場で勝ちを飾ってきた英雄、ジョージン。

 私の名前の元でもあるのだ。

 父が信頼している、このジョージンのように、強く、勇気があり、兵を率いる信頼ある将になって欲しいと願って私の名前、ジョージがつけられた。

「この7日間で、十分に敵の兵力や力量は計りましたし、すり減らし、疲弊させました。しかし、魔術大国と言われるハイデン王国ではありますが、学生たちだけの魔術隊でこれほど時間をかけさせられるとは思いませんでした」

「……確かに、学生相手でここまで時間をかけさせられるとは思わなかった。内通者を使いそこを狙ったのに、思ったより長引いたな」

 ジョージンの言う通り、思ったより時間をかけさせられ、兵も予想以上に減った。

「然るに、この街を落とした後は、本国から援軍を頼む方がよいでしょう」

「……しかし、それでは私の評価に響くのでは?」

 十分な将と兵を与えられて、ハイデン王国へ進発したのに、最初の街の攻防で援軍要請など、無能のらくいんを押されるのではないか?

「ははっ。そんなことはありますまい。陛下は私と一緒に戦場を歩いてきたお方、事実を述べればよいだけです。それで理解してくれます。幸い、づめの準備もしておりますし、その出発を早めてもらえればよいだけです」

「……後詰。姉上か」

「はい。スタシア様が準備されておられますから、すでにいつでもこちらに来られるようにしているでしょう」

 確かに、あの鉄仮面の姉上ならそうだな。

 女だてらに、戦場を駆け巡っているのだから。

 尊敬はするが、どうも、あの表情の動かない姉上は苦手なんだが……。

「はぁ、この際仕方があるまい。意地を張って、万が一でも敗走などすれば、私は諸君に顔向けができぬ」

「ははっ!! そこまで、スタシア様が苦手ですか」

「笑うなよ、爺。皆の中にも私と同じ者もいるはずだ。あの鉄仮面を相手にするのは苦手というのが。なあ?」

 そう言って、他の将を見るが、苦笑いする者ばかり。

「ほらみろ。皆、苦笑いをしておる。姉上は確かに将としては素晴らしいかもしれんが、女性としてはどうかと思うのだ」

「まあ、爺もあの無表情を日常まで続けるのはどうかと思いますがな。しかし、それをご本人の前でジョージ様が言ってあげればよいではないですか?」

「言えるわけがないだろう!? 姉上にせつかんされる!!

 こう……『ジョージ。王族の一人として、将の一人として、心構えに欠けています。その性根を叩きなおしてあげましょう。剣を持ちなさい』という感じで。

「さて、殿下。冗談はここまでにしておきましょう。後詰の進発を早めるよう手紙をお願いいたします」

「……分かった。しかし、間違ってもお前たちが処罰されるようなことはないのだな? 私の責任で済むのだな?」

「殿下の責任にもなりませぬ。相手の戦力が思ったよりも高かった、それだけです。なに、ここに、ハイデン王国の祖と言われる御三家のうち2人がいたことも要因ですし、それを捕らえればハイデン王国はかなり厳しい状況になるでしょう」

「たしか、この地に古くから伝わる英雄の話だな?」

「はい。御三家といえば一つは王家、一つは精霊の巫女、そして、異国の黒髪の人物。今は公爵でしたかな? 思った以上に厄介でしたな、御三家の力は」

「そうだな。まさか、傷ついた兵士がすぐに戦線復帰したり、すり減らすための部隊が、接敵する前に雷でやられるとは思わなかった」

「ですが、どうやら打ち止めのようですな。一昨日ほどから威力が落ち、頻度も下がっています。今日が攻め時でしょう。休む時間を与えずに、ここで攻め落とすのです。敵の姫に、公爵の令嬢。そして、交易街のバイデと手土産みやげにすれば、処罰どころか、褒章があるでしょう。我らの心配など無用ですぞ」

 ならいい。

 私に付き従った精兵たちが、ぐうな扱いを受けないのであれば、私はただ指示を出すのみ。

「よし!! 準備が整い次第、バイデを落とす!! 街の住人には手を出すな!! 交易街としての機能は欲しく、街の住人をじゆうりんすれば、帝国の名を落とすことになる!! これを破った者は処刑する旨を伝えよ!!

「「「はっ!!」」」

「学生の魔術隊も含めて、投降する者は受け入れてやれ。それだけで手札になる。抵抗を続ける者は仕方ないが斬り捨てよ。なお、先ほど言った通り、御三家であるキャリー姫とカグラ・カミシロは絶対に生かしたまま確保せよ!!

「「「はっ!!」」」

 そして、準備が整い、本隊も街へ寄せたのだが……。

「反応がないな」

「そうですな」

 なぜか、相手の抵抗が見られない。

 矢一つ飛んでこないのだ。

「昨日で物資がなくなった。なんてことはないだろう」

「そうですな。最悪石やゴミでも飛ばせばいいのですから、家を壊してでも用意できます。それに向こうには魔術隊がいます。あれは食事と睡眠さえあれば魔術は撃てますからな」

「そうだな。では、なぜこんなに静かなのだ? 策か?」

「策にしても、壁に取りつかれた時点でこの兵力差です。一気に終わります。意味がありませんな。狙うとすれば……」

「狙うとすれば?」

「殿下や私たち将ですな。これを狙って倒せば、兵は統率を失い散り散りになるでしょう。乾坤一擲でその方向に狙いを変えてきたと思えば、ある程度は納得できますが……」

「だが、抵抗がないのはおかしいな」

「ですな。私たちに狙いを定めるにしても、周りの兵士を削らなくてはいけない。街で乱戦を狙うにしても、その兵士の数が違いますからな。……ふむ、もう一度、降伏勧告をしてみてはどうでしょう? 案外、降伏するのかでもめているのかもしれません」

「……うーん。今まで抵抗してきたというのに、なぜ今という疑問はあるが、まあ、降伏してくれるなら、被害はなく、ありがたいか。分かった、使者を出せ。回答の期限は昼まで。警戒は怠るな」

「はっ」

 そんな感じで、降伏勧告の使者を出したのだが、すぐに反応があった。

「報告します!! 街の防壁の上に人が数人上っています!! そ、それとその中に、縛られた、キャリー姫、カグラ・カミシロ、バイデ領主キャサリンの姿も見受けられます!!

 そんな報告を受けた。

 爺はすでに本物かの確認に行っている。

 確かに、誰か防壁の上にいるな。

「……本当に降伏か?」

 とりあえず、縛られているということは、姫たちは捕まったということだ。

 本物であればだが。

 そんなことを考えていると、爺が戻ってきた。

「殿下。あの3名は本物です。いまだ、相手からの宣言はありませんが、おそらくはこの抵抗のなさから見て降伏でしょう」

「そうか。無為な犠牲は避けられそうだな」

 そうほっとしていると、突如、大きな声が戦場に響く。

『あー、あー、マイクテスト、マイクテスト。えー、帝国の皆さん、聞こえているでしょうか?』

 なんだ!?

 爺を超える大声は!?

『あ、いや。帝国のお偉いさんが聞いていればいいか、えーっと、聞こえているなら本陣の旗を振ってくれますか? 現在特殊な魔術で声の音量を上げています。聞こえていますでしょうか? 発声源は防壁の上の者です』

 なるほど、そういうことか。

 魔術大国のハイデンならそういうこともできるだろう。

「よし、聞こえていると、旗を振ってやれ」

「はっ!!

 部下に命令を出して、旗を振らせる。

 それを見たのか、すぐに声が返ってくる。

『お返事どうもありがとうございます。では、お話を進めさせてもらいます。確認は済まされたと思いますが、こちらにいる簀巻きの3人の女性は、ハイデン王国のキャリーお姫様、カミシロ公爵の令嬢カグラ様、バイデの領主キャサリンさんで間違いありません』

 簀巻きって……もうちょっと言い様が、と違う、やはり間違いはなかったか。

 しかし、この声は男だな。

「爺、屋上にいる男のどれが喋っている?」

「いえ、男は一人だけです」

「は?」

「あとは、すべて女性で、その、しかも、半数以上は幼子です。おそらくは、孤児院などの者ではないかと……」

 なるほど。子供たちを守るために、必死に出てきたというわけか。

「……そうか。彼らは勇気ある降伏者だ。確実に保護するように。孤児院の守りに兵を割いてやれ。降伏したとなれば、街の者に恨みを買っているだろう」

「はっ」

 そう指示を出していると、男はさらに続ける。

『さて、帝国の皆さまには申し訳ないのですが、この状況を見てもらえば分かる通り、このバイデはすでに陥落しており、我がウィードの所領となっております』

「「は?」」

 何を言っているか分からなかった。

「なあ、爺。なんて聞こえた?」

「い、いや、爺の耳もおかしくなったのですかな? なぜか聞いたこともない勢力の所領とか言ってた気がしますが」

「そうか、爺もか」

 どうやら、私の耳がおかしくなったわけではないらしい。

『普通であれば、別の国の所領となっているので、お引き取りを、と言いたいのですが、そっちもおそらく信じられないと思います』

 それはそうだ。

 あの男は、この戦いで頭がおかしくなったに違いない。

「今すぐあの男を射殺せ!! 姫たちを殺されてはかなわん!!

「はっ!!

 すぐに伝令が走り、鋭い矢が男めがけて飛ぶ。

 が、すぐに何かに弾かれたように落ちる。

『まあ、予想通りの行動ありがとう。これで、そっちのウィードに対しての敵対、侵略行為を確認しました。では、こちらも防衛のために反撃させてもらいます』

 あの男、本当に何を言って……。

 いや、今は敵が動くと言っているのだ。

 迎撃態勢の指示をと思っていたのだが……。

 ゴゴゴゴゴゴゴ……。

 地面が大きく音を立てて揺れた。

 いや、継続してずっと揺れている!?

「うわぁぁぁぁ!? 地面が、地面が!?

「なんだ!? 街が高くなって……」

「いや、俺たちが沈んでないか!?

 そんな声が周りから聞こえる。

 確かに、地面が隆起して街が高くなっている気がするが、私たちが沈んでいるということも否定できない。

 ともかく、わけが分からん!!

「ええい!? 何が起こっている!?

「近衛隊!! 殿下をお守りしろ!!

 地響きが終わると、周りを土の壁に囲まれていた。

『はい。では蓋をしますから、光の用意していてくださいねー。こっちで光源を供給したかったのですが、貧乏なんで、二日ほど待っててください。お話はその時に。それまでに落ち着いてくれるとありがたいです。ではよい、ダンジョン生活を』

 そんな声が聞こえて、天井に蓋がされ、朝日に包まれたはずだった私たちは、暗闇に包まれた。