Side:ユキ

 はぁ、とりあえずは、みんな無事でよかった。

 バラバラに飛ばされたりなんかしたらやばかったが、まあ、そっちの対策は取っておいたしな。

 そこらへんは用意周到でよかったと思う。

 だが、今回はこっちの準備が問題だったわけだ。

 ルナに頼んで『これ以上異世界からの介入がないように制限してくれ』

 と、言うのが今回の発端と見ていいだろう。

 彼女たちは、自分たちの窮地に、力を持った異世界人、というか、日本人とピンポイントで指定していた。

 しかし、それが成功するわけがない。ルナによってがいされているから。

 だが、そこに抜け道が存在していた。

 そもそも、召喚というシステムは、目的に合う能力の持ち主を発見して、自分たちの前に連れてくるという、簡単に言えば、この二種類の魔術が使われている。

 つまり、目的物を探し出す、サーチ。それと、探し出したものを連れてくる転移の魔術だ。

 一見、それなら簡単じゃね? と思いがちだが、その範囲が問題なのだ。

 異世界、つまり、他の星からである。

 しかも知的生命体。地球ですらおそらく命が芽生えているであろうとされる星の目星をつけているが、いまだに知的生命体がいるであろう星は見つけていない。

 その広大な宇宙にサーチをかけて、その遥か何億光年から目的物を引っ張ってくるという転移を使うのだから、それは生半可ではない精度と魔力を消費するのはわかりきっている。

 簡単にできるなら今ごろ異世界人で溢れまくりだろうからな。

 まあ、いずれ解析が進んで、簡略化、低コスト化というのは実現するだろうが、それは未来の話である。

 そんなことに予算を割く理由もないからな。

 まともな思考の持ち主なら、それは戦争勃発の案件だから。

 まあ、以上のことから、異世界から呼び出せないのなら、と判断したそこのカグラが、この世界と限定して、現状を打破する人物、英雄をサーチした結果が、俺だったわけだ。

 いやー、話からして、精霊の巫女、獣人である嫁さんたちも含んでいたのが要因でもありそうだよな。

 正直、スキル魔術無効化エリアでやられるとは思わなかったが。

 おそらくは、高出力のせいで無効化が間に合わなかったんだろうな。

 だって、異世界から呼び寄せるほどの出力だし。

「はぁ、まさかこっちに来てさらに召喚されるとはな……。そういうのはタイキ君の役目だと思っていたんだけど」

「そうねー。タイキは勇者様だから。でも、私たちじゃなければ、おそらく帰ってこれないわよ?」

「まあな」

 ラビリスの言う通り、俺たちでよかったという面もある。

 あれが万が一、タイキ君や、タイゾウさんであれば、わけが分からんうちに行方不明という話になっていただろう。

 その場合、奥さんのアイリさんや、ヒフィーが発狂するのは目に見えている。

 こっちは幸い、ダンジョンマスターの能力や、駄目神との繋がりはあるから、そこら辺の心配はない。

 まあ、ルナの手を借りるなんざ、よほどの事態でもなきゃごめんなんだが。

「で、ミリーたちは?」

「今は部屋で休んでいるわ。お腹の子たちも本当に大丈夫みたい」

「そうか。転移が妊婦の体にどう影響するか分からなかったからな。よかった」

「秋天、サクラ、シャンスも今のところは大丈夫ね。新しいお家に来て喜んでいるわ」

「……秋天はともかく、サクラとシャンスからは絶対に目を離すなよ?」

「分かっているわ。でも、危険なのは私たちもよ? 全員、生身なんだから」

 そう、俺たちはドッペルでなく、本体を呼び出された。

 今までとは危険度が違うのだ。

 だからこそ、防衛が厚いダンジョンを展開したのだが……。

「まさか、DPが足らなくなるとはねー」

「ええ。5000倍とか頭おかしいわね」

「「はぁ」」

 俺とラビリスは、目の前に展開しているそこ掘れわんわんのエラーメッセージを見てため息をつく。

 DPが足りません。もっと頑張って稼ぎましょう。わんわん!!

 腹が立つ。

 今までDP不足とかなかったし、金額以上のものは取り寄せようとも思わなかったからな。

 借金ができて取り寄せられますよー。とかあったら、しばらくDPが使えないというペナルティもお約束であるからな。

 だが、今回のことでそれが分かった。DPが足りないと普通に取り寄せされないだけらしい。

 で、その原因が、新大陸の20倍どころか、5000倍というぼったくり効率だったからだ。

 おかげで、近代防衛設備は未設置のまま展開。

 古典的トラップや魔術的防衛機能だけのダンジョンになってしまっている。

 おそらく、このテンプレート展開システムは、DPのかからないモノから展開していくタイプだったらしい。

 ……そこだけはぎようこうだったと言えるだろう。

 俺が持っていたコアのDPはおよそ10億。

 多く見えるが、近代兵器は基本的に1000万DP以上。これが5000倍となると、最低約500億DPの算出になる。

 1万DPのゲートもここでは5000万DPかかるというわけ。

 普通なら、DP消費とかを確認するんだが、状況が状況だったために、慌ててたんだろうなー。

「ラビリス。対軍用ダンジョンはどうだ?」

「こっちは基本的に広いだけだから、問題はないわね。近代兵器でというわけではなく、相手を捕獲するためのものだから」

「そうか。朝にどうにかなるようなことはないか」

「そうね。でも、問題は、みんなのDPをかき集めても、5000万DPに届かないところよね」

 そう、このぶっ飛んだ倍率なんか予想していなかったので、俺とラビリスのコアのDPはすっからかん。

 嫁さんたちの個人的おこづかいDPを出してもらったが、それでも多くて一人500万DPぐらい。

 アスリンたちのDPまで取りあげるのはつらかったが、仕方がない。

 でも、嫁さんたちだけなので、9人だけ。秋天や子供たち、ドレッサ、ヴィリア、ヒイロはコアを持っていない。

 多くて500万DPなので、せいぜい合計は3000万というところ。

 これも、足りていないモノへの取り寄せでほぼゼロへ。

 だが、それでさらに問題も発覚した。

「魔物が召喚できないとかどうなっているんだ?」

「さぁ? 何かエラーとしか出ないわね」

 なぜか、魔物の召喚ができなくなっていた。

 魔力の凝固に失敗したというエラーが出る。

 コストが高いからDPが足りないという話ではない。

 魔物自体がダメという奴だ。

「……魔物がいなくなったっていう話と関係があるのかね?」

「どうかしら? とりあえず、ゲートを開かないと、援軍は来ないから、何とかしてDPを手に入れないと、セラリアとかラッツは正直怒り心頭よ? 実の娘、サクラとシャンスと夫のユキをさらわれたのだから」

「あー、そりゃそうか。そういえば、今の事態は?」

「伝えているわ。向こうはすでにルナとか、タイゾウ、タイキを呼んで会議中。なんでも、ルナの力がこっちでは阻害されているとかなんとか……。ジェシカは大泣きしていたそうよ」

「ひとまず、向こうはなんとかなりそうだな。……ジェシカには悪いことしたな」

「あの状況で飛び込むのをダメって言われたからね。ジェシカは護衛で、もともと騎士でもあったし、今は寝込んでいるそうよ」

「……後で埋め合わせをしよう」

「それがいいわ」

 俺とラビリスがそんな話をしていると、クリーナやサマンサが戻ってきた。

 この5000倍というバカげた倍率の確認のため、ダンジョンの外、先ほど俺たちが呼び出された場所まで行って、魔術を撃って確認してもらったのだ。

 万が一のために、人質のカグラを連れて。

 お姫様はクリーナと揉めたから、こっちで待機。

 向こうで焼死体になりそうだからな。

「ユキ。報告。結果、私たちの魔術は何も制限がかかっていない」

「はい。クリーナさんの言う通り、私たちの魔術には5000倍もの負荷はかかっていませんでしたわ」

「スキルも使用できる」

「ええ。タイゾウさんの無効化のようなことはありませんでしたわ」

「そうか、ありがとう」

 ……そうなると、ルナの力が阻害ってのが関係してそうだな。

 まあ、結果としては悪くない。

 これで遠距離魔術でのせんめつもできると分かったのだ。

 身体能力にも変化なしと。

 こっちも現状なんとかなりそうだな。

「……お考え中悪いんだけど」

 そんなことを考えていると、簀巻きにされているカグラが話しかけてきた。

「なんだ?」

「とりあえず、私はさっぱり状況がつかめないんだけど?」

「色々検証中だ」

「……本気で、私たちを捕まえて、敵も倒すつもりでいるの?」

「それもちゃんとできると確認が取れたしな」

 俺がそう言うと、カグラは諦めた表情をしてため息をつく。

「はぁ。捕まっている私が言うのもなんだけど、本当にできるの?」

「できると思わないとやらん」

「……そう、よね。じゃあ、お願いがあるわ」

「なんだ?」

「私はりよの身だけど、いや、あなたたちを呼び出しておいてどの口がって言うだろうけど、助かった暁には、都市の人たちにはひどいことはしないで。私や姫様にとががあるのであって、都市の人たちは関係ないから……」

 カグラはお姫様とは違って、こっちが怒っていることを理解しているようで、せめて被害が都市の人に及ばないようにしようとしているんだろうな。

 まあ、助かった暁にはとか言っているから、こっちの実力は半信半疑なんだろうが。

「まあ、とりあえず。そこで寝てるお姫様を起こしてからな」

「……はぁーーー」

 こっちに連れてきたお姫様は何かとうるさいので、口をふさいで、布団に放り込んでいたら、爆睡していた。

 カグラのため息から、今までも苦労したんだろうなと思う。

「さーて、魔術やスキルが使えるのは分かったし、生身なのは心配だけど、やることやりますか」

「……どうするのよ」

「とりあえず、カグラとお姫様の身を盾にこの都市を占領する」

「はぁ?」

「それか、攻撃してくる奴、片っ端から血祭りがいいか?」

「……まあいいわ。それであなたたちが倒れるなら、私たちが助かるものね」

「そうそう。ポジティブに行かないとな。出るのは、俺、クリーナ、サマンサ。あとはミリーたちや子供たちの……」

「だめー!! お兄ちゃんは私が守るよ!!

「フィーリアもなのです!!

 そう声をあげたのはアスリンとフィーリアだった。

 2人につられて、ヴィリアとヒイロ、ドレッサも声をあげる。

「なら、私も!! お兄様は私がこの身に代えてでも!!

「お兄!! 私も行く!!

「私も行くわよ!!

 と言っても、下手すると血なまぐさい現場になるし、ここにいるようにと言おうと思ったのだが、ラビリスとシェーラからも声がかかる。

「そうね。5人も連れて行きなさい。というか、本来は私が行くべきなのでしょうけど……」

「ユキさんが赴くのはどうかと思わないではないですが、ウィードの長、女王陛下のみようだいとして行くのであれば、ユキさん以外あり得ません。今後の展開に差し支えが出ますし、正直に言ってこんな急展開だと、私やラビリスが出て対処するより、ユキさんが対応した方が確実だというのは分かります。クリーナさんとサマンサさんもそれが分かっているから止めないんでしょう?」

「ユキが出るなら私は守るだけ。今、ユキが出る必要がある場面だというのは分かる」

「ですわね。ここで、ユキ様が出られなければなめられますし、この中で一番の戦力であり、知略や駆け引きの腕もトップです。本来、絶対認めるべきではありませんが、今は緊急事態です。下手に戦力を出し惜しみして失敗しては、本当に全員の命に関わります、これが確実ですわ」

 うん。みんな成長しているようだ。

 俺が生身で出ることに説明や説得がいると思っていたんだが、俺が皆を甘く見ていたらしい。

「ですが、冗談抜きで、ユキさんは絶対に失ってはいけません。アスリンたちが生身なのは確かに心配ですが、ある程度状況が確認された今、そういうのはただの過保護です。指定保護もありますし、この都市ではほぼ無敵です。ミリーさんや秋天たちは私やラビリスが守りますから、今までユキさんに受けてきた恩を返す時ですよ」

「「「はい!!」」」

 ……と正論を言われて、意気込まれてはなんとも言えない。

 もともと、厳しいこの世界では覚悟の度合いが違うからな。

 地球の日本と同じに考えるのがそもそもの間違いなんだよな。

「……ユキ。こんな小さい子を盾にするつもりなの?」

「……本人たちはやる気だしなー」

「……英雄のやることじゃないわね」

「最初から英雄のつもりはないけどな。そもそも、勝手に呼び出したそっちはどうなるって話になるが」

「……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」

 ありゃ、反発してくると思ったら、思ったより素直だった。

 まあ、その態度も領主の屋敷に着くまでに多くの兵士をなぎ倒している姿を見て……。

「……なん、なの。あの子たち」

「いやー。何と言いますか」

 うん。

 本当にどう説明したもんかね。

 小さい子供たちが、大人をほいほい吹っ飛ばしていたら、そう言いたくなるよな。

 でも、ただ鍛えただけですって説明にならん気がする。

 ナールジアさんの装備のせいってことにしとくか?

「邪魔しないでー!!

「どくのです!!

「この程度で!!

「お兄は守る」

「どきなさい!!

「ん。みんな強い。よく訓練している。お姉さんとして鼻が高い。ね、サマンサ」

「……そうですわね。本当に強くなっていますわね」

 サマンサだけが、吹き飛ばされている兵士たちを哀れみの目で見ている。

「……でも、分からないわ。なんで、わざわざ私たちと敵対するの? こんなに力があっても、物資の補給ができなければ死ぬしかないわよ? 私たちと協力するべきじゃないかしら?」

「あー、そこは色々考えがあるわけだよ」

 簡単に言えばDP回収のため。

 あとは、俺たちがカグラの仲間として動くにはダンジョンの能力を制限するしかない。

 その場合、こっちが危険にさらされるので却下。

 Q:じゃあ、能力を話して、共闘すれば?

 A:誰がそんな与太話信じるんだよ。

 というか、相手が敵か味方かも分からん状況で共闘とかなし。

 背中を刺されかねん。

 戦闘後もこっちの扱いがどうなるかも分からんし、最初に言った捕縛した兵士からDP回収ができなくなる可能性もあるので、却下。

 ならば、もう正々堂々と、ここをウィードの占領下にすればいいだけである。

 そうすればDP問題も、敵か味方かも分からん相手に共闘する必要もない。

 多少危険性はあるが、どの作戦も同じレベルだし考慮する内容じゃない。

 ケンカを売られているのは確かだし、買っても問題ないわけだ。

 正に、俺が危惧した召喚による、国家間戦争の始まりというわけだ。

「まあ、血みどろなのは勘弁だけどな」

「……そんなの無理でしょう。と、あの屋敷の門の前に立っている女性が領主のキャサリン・バイデよ」

 へー、女領主ね。

 向こうはこっちを睨み付けているが、こっちもこっちで苦労しているんだ。

「あなたたちは何者です!! 今すぐ姫殿下とカミシロ様を離して投降しなさい!! 今がどういう状況にあるか分かっているのですか!!

 しかし、若いな。せいぜい20代後半ってところか。

「さもなければ……」

 そう言って、そのキャサリンさんは、周りの兵士をこちらに向けてきて……。

「お兄ちゃん、制圧したよー!!

「やったのです!!

「2人ともはしゃいでないで、しばってください。ヒイロも」

「えー、ヒイロ、ロープで縛るの苦手」

「ちゃんと授業で習ったでしょう? とうぞくとかを縛るためにって……」

「……サマンサわかる?」

「……いえ。私はそういうことは……」

 あっさり制圧されて、捕縛された。

 あと、クリーナとサマンサにもこういう勉強は必要だなーと思った。

「……姫殿下、カミシロ様。いったい何が……」

「英雄様だと……思いますわ」

「……私も正直測りかねているの」

 残念ながら、エージルたちみたいにゆっくり説明している時間はないんでね。

 なに、よくあることだ。目の前で起こっていることが真実ってな。