
Side:カグラ・カミシロ
「あ、あの、英雄様? なぜこのようなことをなさるのでしょうか?」
と、現状を理解していない姫様。
召喚は確かに成功した。……召喚自体は。
でも、呼び出したものが英雄であるとは限らない。
おとぎ話のような都合のいい英雄様がいるとは思ってなかったけど、さすがに私もこれは驚きだわ。
まさか、あっという間に、魔術すら封殺されて、捕縛されてしまった。
ちっ、護衛の兵士を連れてくるべきだった。
でも、召喚に連日失敗してるのを見られると士気の低下につながるから、こっそりやるしかなかったのよねー。
と、いけない。姫様に会話を任せるわけにはいかないわね。
「ちょっと、私たちの
そう話しかけるけど、私たちの前に立つ男はこちらに興味がないように、背を向けて、一緒に来た人たちの安否を確認している。
ああ、まあ当然よね。
いきなり呼び出したんだもん。
今考えれば誘拐も同然よね。
「全員いるな? 体に異変はないか? 特にミリーたちはお腹は大丈夫か? ……よし、とりあえずはよかった。でも、何か違和感があったらすぐ言ってくれ。あ、転移の指輪は使うな。今は孤立して使えないけど、あれはゲートを介して動くタイプだから、ゲートができても絶対に使うな、お腹の子に転移でどんな影響があるか分からん」
お腹?
どういうこと?
その言葉に私は気になって
「嘘っ!? 精霊の巫女様がいるの!? しかも、3人……いや小さいのを入れると6人も!?」
「ええ!? あっ!? ほ、ほんとうです!! ああ、神よ!! 初代様!! 英雄を使わしてくれてありがとうございます!!」
奥には動物の耳を頭に付けた、精霊に愛された巫女がいた。
やばっ、胡散臭いと思っていたけど本当に英雄様?
でも、こんなに精霊の巫女がいるなんて、どういうこと?
そんなことを考えていると……。
ドドド……!!
私の周りに氷の槍が突き刺さっていた。
「ひっ!?」
「あぶなっ!? 何するのよ!!」
私はその氷の槍を出した、腹の立つスタイルの女に文句を言う。
彼女と、もう一人の赤髪の少女は、日本人の男が背を向けている間、ずっとこちらを見張っていた。
まあ、学生でも上の下くらいじゃないかしら?
「……だまれ」
「ええ、クリーナさんの言う通り。だまってくださらないかしら? 正直、これで子供たちが泣きでもすれば、存在する価値を認めませんわよ?」
まずい。かなりこの2人はご立腹らしい。
いや、誘拐同然だから、当たり前よね。
でも、姫様はそんなことは思いもしていないみたいで……。
「無礼者!! 私を誰だと心得ているのですか!!」
そんなふうに怒る。
いや、召喚したんだから、遠くの人で姫様のことを知っているわけないじゃないですか。
その姫様の態度にクリーナと呼ばれた赤髪の少女が前に出てくる。
「……お前が誰かなんて知っているわけない。ただ分かるのは、お前らは敵。敵は燃やす」
そう言って、クリーナの周りに炎が渦巻く。
うそっ!?
感情で魔術が発現できるって、私や姫様と同じレベル!?
まずい、このままじゃ2人とも燃やされる!?
「まっ……」
「ちょい待ち、クリーナ!!」
私が止める前に、日本人の男がクリーナを止める。
「……止めないで」
「落ち着け。状況が不明すぎる。ある程度は予想できるが、一応、話をしてみるべきだろう。やっちまったら、また他の人を探さないといけないし、お偉いさんみたいだから、他の人が集まってくる可能性もある。ここで俺たちがどこまで戦えるか分からん。だから、人質としても役に立つだろうから、殺すのはなしで」
「……ユキがそう言うなら」
渋々といった感じで、クリーナは魔力を止めて、炎が消える。
……ふう、助かった。
戦死どころか、召喚した英雄? に殺されるなんて笑い話にもならないわ。
「クリーナと言いましたね。後で相応の
あー、姫様。
黙ってくれませんか?
せっかく落ち着いたのに、また火種を……。
「ユキ、やっぱり燃やす……」
「はいはい、落ち着け。腹立たしいのは同じだが、子供たちにひどいシーンを見せるわけにもいかんだろう?」
「……ん。分かった。確かにごみを見せるのは、秋天たちの教育によくない」
「なんですって!?」
えーい。いちいち嚙みつかないでください。
「あー、姫様も落ち着いてください。話が進みません。敵がいつ来るか分からない状態ですから」
「……いいでしょう。英雄様。ひとまず、そこの無礼者は放って置いて、この縄をほどいて、話を聞いてくれませんか?」
「いや、縄はほどかなくても話はできるから。こっちとしてもいきなり呼び出されて、敵か味方か判断付きかねている」
「敵であるわけがありませんわ。あなたは古の英雄なのですから!!」
「……このお姫さん、話が通じてないっぽい? えーと、そこの黒髪。今の状況はどうなっている?」
よかった。
こっちに話を振ってくれるのならやりやすい。
「姫様。私が話をしましょう」
「え? でも、姫である私が話をするのが当たり前では?」
「彼の希望ですし、同じ黒髪で、私の方が話しやすいかもしれません」
「ああ、なるほど。ではカグラ。頼みます」
はぁ……。
なんで、会話するまでにこんなに疲れるのかしら。
「で、ユキでいいかしら?」
「ああ、そっちはカグラでいいのか?」
「いいわ。身分とかはおいおい話すとして、今、ユキたちに起こったことは、私と姫様が召喚したから、転移してこの地に連れてこられたの。信じられないかもしれないけど、現実よ」
「……」
何も反応なしか。
まあ、いきなり召喚とか、転移とか信じられるわけないわよね。
そんな魔術が存在するとかも思っていないでしょうから。
「信じてもらうために、まずは外を……と言いたいのだけれど、そういうわけにはいかないの。今、私たちは窮地に陥っているの。この都市は大勢の敵に囲まれて、もう明日持つかも分からない状況で、何とかできないかと思って、英雄を召喚、呼び出した。それがあなたたち。話はわかったかしら? この縄を解いてくれない? このままじゃ、指揮官不在で朝には
そう。
ここで、分からないとか、お互い
「思ったよりも、結構ひっ迫しているな」
「そうじゃないと、おとぎ話の召喚なんてするわけないわよ」
「周りを囲まれているか……援軍は?」
「……いつ来るか分からないわ」
「お互いの数は?」
「10万対5000。無論こっちが5000ね。もうかれこれ7日粘って、すでにすり減って2千ってところね」
「絶望的っていうか、もうどうにもならんだろう、普通。というかよく7日も持ったな」
結構、絶望的な状況を説明したつもりなのだけれど、ユキには焦りの色は見えない。
「ある種の死兵なのよ。もう後がないから。まあ、それだけで持っていたわけじゃなくて、私たち魔術学校の学徒隊がいるからなんだけど。希少な魔術部隊がこのバイデにいたおかげで、今まで持っているわけよ」
「なるほどなー。ほぼ逃げ道なし。お姫様もいたんじゃ、降伏は本当に最後の手段か。やっぱり敗北した側は
「当然よ。それが、ついてきた兵士にとって一番の
……姫様が。
さっさと逃げるべきだったのに。
「……まあ、ここの情勢が分からんから何とも言えんな。とりあえずは、話は分かった」
「じゃあ……」
「お力を貸してくれるのですね!!」
私の言葉を遮るように、姫様が目を輝かせて、ユキの言葉に返事をする。
「お姫様、落ち着いてくださいな。力を貸そうにも、ここの戦力がどれほどのものか分かっていませんから、こっちから質問をしていいですかね?」
「はい!! お力を貸してくれるのであれば何でも答えましょう!!」
いえ、姫様。なんでも答えるのはまずいです。
「そっちのカグラさんも質問に答えてくれると助かる」
「分かったわ。できうる限り答えるわ」
とりあえず、協力は得られそうね。
朝までに、みんなにどう説明したものか……。
いきなり上に置くと指揮系統に乱れが出るわね。
不満が必ず出てくる。
でも、ここまで厳しいとそうも言ってられないかしら?
「じゃ、まず、敵の主要武器」
「剣、槍、弓、破城槌ね。あとは少数ながら魔術」
「ここら一帯の地形は?」
「残念ながら、南に大きい湖が広がっている以外は、見渡す限り平原ね。奇襲とかできそうな地形はないわ」
「敵の展開位置は?」
「都市からおよそ3キロ先に本陣。夜だから今は、偵察隊を残して本陣に引いているわ」
「夜? 今は夜なのか?」
え? 何か変なところに食いついてきた。
「俺たちがいた場所は夕方だった」
「いや、異世界から呼び出したんだし時間がずれてたんじゃない? もう夜になって、普通ならみんな寝静まっている時間帯よ」
「……おいおい。時差がおよそ6時間以上かよ。反対側とは言わんが、かなり遠いぞこりゃ。それか強制的な呼び出しの関係で時間がずれたか? 近くだといいけどなー」
「?」
あれ? 待ちなさいよ?
そういえば私は異世界から呼ぶのをやめたっけ?
じゃあ、この世界から来たのになんで時間が違うのかしら?
「いや、気にしないでくれ。なにか召喚の時のズレだろう」
「そう?」
そう言われて、私は出てきた疑問に対して考えるのをやめる。
「次に、ここら辺の魔物は?」
「「魔物?」」
また変な質問がきた。
「魔物って、あの魔物?」
「何か変なこと言ったか?」
「いや、魔物なんて500年前の初代様たちの戦いで絶滅したはずよ?」
「ええ。古の英雄である初代様たちと邪悪な魔王との死闘の果てに、魔物は絶滅し、人が安全に土地を開拓できるようになったのです」
「でも、たしか、ゴブリンとかオークとかいった亜人はいるわね」
「彼らは温厚でよき隣人です。そちらにおられる精霊の巫女様たちの亜種と言われています。まあ、考えなしの方は、魔物の生き残りなどという方もいますが」
「……。その、精霊の巫女ってのは、獣耳やしっぽが生えた女性を指すのか?」
「そうよ? 今じゃ、一つの国に数人いれば凄いって言われるぐらいで、いない国もあるんだから。精霊の巫女様たちは、素晴らしい身体能力だったり、魔術が使えたりするから、とってもとっても貴重で、初代様たちの一員だったから、もの凄い人気よ。というか国の力の象徴みたいなものでしょ?」
なんでこんな基本的なことをって、そうか、異世界から連れてきたからそんな基礎的なことを知らないのね。
「……ずいぶんとまあ……。とりあえず、魔物はここら近辺にはいないんだな?」
「ええ。いないけど?」
「じゃあ、これで最後だ、ダンジョンって言葉は聞いたことあるか?」
「ダンジョン?
「洞窟をそういう言い方をする人もいますが、滅多に宝物なんて見つからないと聞きました」
「分かった。ありがとう」
ほっ。とりあえず、朝になる前に、何とか混乱だけは避けられそうね。
「じゃあ、時間もないし、もう縄を解いてくれないかしら? みんなに話を通さないと、部隊指揮もできないし、戦いにならないわ」
「は? ああ、いや、それはいい。必要ない」
「え?」
今の話で、なんで、必要ないになるのよ!?
「まさか、私たちを売り渡すつもりじゃないでしょうね!!」
「そんな!? おやめください!! そんなのは英雄様のすることではありません!!」
「そこにいる精霊の巫女様とか全部奪われるわよ!! やめなさい!! 最悪、殺されるわよ!!」
いまさら使者を送ったところで停戦はないし、命
敵にとっては攻め落とせば全部手に入るのだから。
結果、被害が大きいか少ないかだけ。
今この状況で、私たちを敵に引き渡しても、何にも変わらない。
そもそも、あなたたちの
そう思って必死に言葉をかけているが、ユキは淡々と言葉を返す。
「誰が、嫁さんたちを危険にさらすか。正直な話。お前らも敵対勢力だよ。面倒だから、朝までにこのバイデだったか? 都市を制圧して、外の敵は朝堂々と制圧するわ」
「はぁ!?」
何を言っているの!?
この男は馬鹿なの?
そんなことができるわけないじゃない!!
「英雄で呼ばれたからって勘違いしてない!? なんでもできるわけじゃないのよ!! 現実を見なさい!!」
「……説明が面倒だし、嫁さんたちや子供たちが寒がっているから、遠慮なくダンジョン化させてもらう」
「ダンジョン化? 何を言っているのよ!? って何その大きい宝石!? どこから出したの!?」
「凄い大きさですわ」
わけの分からないことを言っている間に、ユキはどこからともなく、掌サイズの大きい宝石を取り出した。
……とてつもない魔力を感じる? え? あんなものが存在するの?
「ラビリス。向こうの状況は」
「大丈夫よ。幸い、ノイズはひどいけど、コールでの通信はできたから、混乱は思ったよりもないわ。スティーブたちもいつでも出れるように集まっているわ」
「よし、なら、都市強襲型ダンジョンIN3を設置するって言ってくれ」
「了解。でもいいの? 結構DP使うわよ? IN3は」
「ゲートがちゃんと機能するか分からんからな。まずはこっちが用意できる最高レベルが安全だろうさ。居住区もバッチリだし」
「そうね。それがいいわね」
「敵大軍も捕捉できるよう、対大軍用ダンジョンも設置する」
「分かったわ」
「展開を開始」
そう言うと、ユキはその大きな宝石を地面に落とす。
あれじゃ宝石に傷が……と思っていたら、地面に宝石が吸い込まれて消えた。
そんな馬鹿な。
なんて思っていると、気が付けば床に魔法陣ができていて……。
「よし。みんな本拠点に転移するぞ。クリーナ、サマンサ、その2人、連れてこい」
「ん」
「分かりましたわ」
2人に魔術で浮かされ運ばれ、魔法陣の中に入ったと思えば、光に包まれ……。
「え? え?」
「カグラ、いったい何が……」
私に聞かないでください。
だって……。
「なんで、今は夜でしょう!? なんでこんなに明るいのよ!?」
松明やろうそくの明かりとは比べ物にならないくらい、明るい部屋に私たちはいたからだ。
いったい、何が起こっているの?
ユキ、あなたは何者なの?
英雄? 本当におとぎ話で誇張された凄い力をもった英雄様なの?