Side:ユキ

 ホーストや魔剣使いズに話をして、約二日後に3大国の王を連れてくることになった。

 特に準備と言っても、ベータン流でいいし、時間をかけても意味がないからこういう速攻の非公式訪問となった。

 まあ新大陸の方も動き出しているからのんびりするひまはなかったというべきだが。

「……しかし、聞いてはいたが実際目にすると、いやでも現実だと分かる」

「……そうだな。まさか、ウィードが別の大陸にも繋がっているとか思いたくもなかった」

「……これで、新大陸に関する予算や人員の捻出などをしなければ」

 これがベータンに連れてきた、3大国のトップの、一日目の夕方の感想である。

 初日に詰め込んでもあれだからな、あと家にさっさと帰りたいとかそういう理由はない。

 しかし、お前らやっぱり半信半疑だったな。

 連れてきた護衛や書記官もポカーンとしていた。

 中には自分たちの大陸の知らない場所という認識の者がいてもおかしくないが、結局のところあまり変わらない。

 未開拓地域があったのだから調査をしなければいけないのは当然のことである。

 それが陸続きか海の向こうか宇宙や異次元の向こうかだけだ。

 あ、宇宙や異次元の向こうは俺たち日本人たちが該当な。

 どう見ても空のお星さまに知ってる星座はないし、タイゾウさんとかに至っては時間すらずれているからな。

 宇宙どころか、時間じくが違う異次元って推察もあながち外れてないだろう。

 まあ、何が言いたいかというと……。

「こっちは異世界にまで来てるんだから、これぐらいで文句言うなよ」

「……分かっている。それは分かっているが」

「……息子がとんでもなく今まで頑張ってきたのはよーく分かった。実感した」

「……はい。よくぞ、ルナ様のお力添えがあったとはいえ、よくぞ数年で」

 そう3人とも言ったあと声を合わせる。

「「「お前と一緒にすんな」」」

 何たる言いざまか。

「そもそも、言葉が通じぬ。これは、意思疎通すら容易ではない」

「そうだ。息子たちはルナ様のおかげでこっちの大陸の言葉をしやべれるが、こっちはそうじゃない。いちいち、書類をやり取りするだけでも普通の書類より倍以上に時間はかかるぞ」

「……ふふ。言語が違うとか、大陸が違うと認めるしかないじゃないですか。でも、どうすれば……」

 あー、そういえば俺たちはダンジョンのスキル付与能力で新大陸の言語も喋れて操れるが、それがなければ、会話するにも一苦労というわけだ。

 そして、海の向こうなどという発想自体がないこの時代に、言葉が通じないというのはなかなかない。

 だが、そんな過酷な状況を俺たち地球の皆々様は軽々と、チートなしの身振り手振り、ボディーランゲージや必死に言葉を覚えて、現地住民と仲良くなってきたのである。

 それを考えると、当時の日本に来たポルトガル人とかすげーよな。

 中世ヨーロッパから抜けかけていたとはいえ、あそこまで文化が違う相手によくもまあ交易をなどと思ったものだ。

 商人根性恐るべしというか、未知なることへの探究心をめるべきか。

 新大陸を発見した人や、当時、大地の端は大きな滝と言われている中、地球一周をした人は凄かったんだろうな。

 というか、このアロウリトの場合海洋には巨大な水棲魔物がいるとかなんとか。

 地球での海洋探検も当時は片道切符と言われてもおかしくなかったのだから、こっちはさらに厳しい物だろう。

 ……よくよく考えると、地球の文献に残っているクラーケンとかこっちからの流れ者じゃないだろうな?

 まあ、そこはいいとして、確かに言語が違うのは今後の異文化交流をするにあたって最大の障害と言っていいだろう。

 さすがにそれを考慮していないわけがない。

「そこは大丈夫だ。一応、新大陸の言語が理解できるスキルリングを作ってるから」

「おおっ!! さすが、我が息子よ!!

「なんだよー。それを早く言ってくれよ!!

「はぁ、良かったです」

 3人ともホッと息をつくが、そんな簡単な話ですまないことを知っている、地球にいたタイゾウさんやタイキ君は苦笑いしている。

 あ、一応大陸の代表としてや、俺の友人枠として、タイゾウさんやタイキ君が一緒にいる。

 セラリアはホーストと一緒に明日の準備。

「一応だ。スキルリングは俺がいる間は量産できるが、結局はそれだけで、国民全員というわけじゃない」

「それはそうだろう」

「当然だな」

「はい。必要な人物に使ってもらうのが妥当かと」

 ……やっべー、分かってない。

 まあ、仕方ないか。

 言葉が通じないなんて、3人の国の長は今まで直面したことがなかったのだから。

「結局のところ、言葉を勉強しなくていいわけじゃないからな。全員分が用意できないのであれば、両大陸の言語が操れる人物の価値は跳ね上がるのは分かるな?」

「それは、まあ、そうだな」

「そんな便利な奴がいれば当然そうなるな」

「ですね」

「……俺が万が一消失してスキルリング……分かりやすく翻訳リングが作れなくなった場合は、そいつらの取り合いになるわけだ」

「「「……」」」

 俺がここまで言ってようやく言葉の重要性が分かったのか……。

「……新大陸の言語かいせき部署を作るべきだな」

「だな。これはもう3大国の共同事業にしておくべきじゃないか?」

「それがいいでしょう。そうすれば無駄に各国でお金をかけなくて済みますし」

 そこからは、どこの国に本部所をおくのかとか、人員は新たに募るのか、もともといた他の部署の優秀者を移籍させるのかなどで、大いに議論をしていた。

 頑張ってくれ、異文化交流とはかくも難しいのだよ。

 ああ、もちろんベータンの重鎮たち、ホーストとかは俺の部下だからスキル付与はしてるから問題はない。

 まあ、ある意味、翻訳リングやスキル付与をしていると自然と覚えるんだよな。

 というか、安全性を気にしないのであれば、人間、その環境に放り込めば、一、二年で喋れるようになる。

 なに、泳げない奴を海に落とすよりはまだ優しいと思う。

「とりあえず、明日は細かいこの新大陸の事情を説明するから、早めに休んでくれよ」

 俺がワイワイやっている3人に声をかけて、部屋を出ようとすると、呼び止められる。

「待ってくれ。その新大陸とか旧大陸はどうにかならないのか?」

「おう。新大陸は俺たちからすれば、このベータンがある大陸だが、こっちの大陸から見れば、ガルツがある大陸が新大陸とも言えるだろう?」

「ええ。どっちが新しいか古いか、ある種の伝統などをつけて優劣を問題にする人が出てくるでしょう。そういうのはどうするおつもりで?」

 ようやくそこに気が付いたのか。

 俺はにっこり笑って言ってやった。

「いやー。異世界から来た俺が、両大陸の名前を付けるなんてできるわけない。ちょうど、この場に3大国のトップがいるんだし、せめて自分たちの大陸の名前を決めた方がいいんじゃないか?」

 名前がないのは問題だ。

 しかし、その大事な名前を付けるのは俺ではない。

 目の前のお偉い方の仕事だ。

「「「……」」」

 俺がそう言うと、3人とも顔を見合わせる。

 俺の言いたいことは分かったのだろう。

 この大陸の名前を付けることの偉業を。

「……コホン。ガルツ、そしてリテアの。我々が住む大陸の名は私に任せてくれないか? これ以上仕事を押し付けるのは問題だ。これはこの大陸の剣である、ロシュールの長である私が責任を持って引き受けよう」

「いやいや、ロシュールの。その仕事はガルツが引き受けよう。大陸の盾だしな。こう守れるいい名前をな……」

「おほほほ……。両陛下は我が大陸の矛と盾。そんなわずらわしいことをさせるわけにはまいりません。ここは、リリーシュ様を頂く、リテアの聖女である私が引き受けるのが妥当でしょう」

 バチバチと火花が散る。

 今は微笑ほほえましいが、戦争勃発になりかねない案件だから釘を刺しておくか。

「ほどほどにな。とりあえず時間をかけてもまとまるもんでもないし、お互い意見を出し合って、合体がいいと思うぞ。とりあえず、このベータン見学が終わったら報告で。決まってなかったら、俺がルナの権限で名前決めるからな」

「ぬぐっ!? ルナ様を押し出されると否とは言えんな」

「くそっ!? ロシュール、リテア、ここは大人しく意見を出しあってまとめる方がよさそうだ」

「ですわね。ルナ様にこんなことが報告されれば恥でしかありません」

 よし、これでいいかな。

 俺はそれを見届けてからタイゾウさんと部屋を出る。

 タイキ君は一応、王として参加してるから、あの会議に継続出席。

 恨めしい視線が飛んできたが、タイキ君がいれば流血沙汰もないだろうし、頑張れ。

 しかし、ここで初めてルナの名前が役に立ったな。

 あんな駄目神でもこっちの世界では威光バリバリなわけか。

 一応、リリーシュとかその他の神様も頭下げているし。そこだけは感謝しよう。

「しかし、こうやって時代が進むのを見るのは楽しいな」

「そうですか? こっちとしてはくたくたですけど」

 俺とタイゾウさんは執務室に戻って、そんな話をする。

「まあ、それも仕方がないだろう。そして、当人たちはこれがおそらく歴史に残る偉業の一つとは気が付いていない。私たちは何が時代に残るのかというのを、漠然とではあるが把握しているからな。歴史の節目、変わり目。新しい時代の幕開けを告げる会議だよあれは」

「そうですねー。確かに、大陸に名前を付けるなんてのは、他の大陸が見つかったからですし、時代の節目、変わり目ですね」

「だが、それだけだ。この世界は魔力、魔術や地球とは違った事柄、法則が存在する。これからどう発展するかは予想がつかない。ある程度、指針を出すことはできるだろうが、だからと言って地球と同じようになるとは限らないしな」

 そりゃそうだ。

 この世界はこの世界の発展の仕方があるだろう。

 それは、この世界に住む人たちが決めるべきだ。

 まあ、こっちに被害が及ぶならようしやしないけどな。

 と、そんなことを考えていると、タイゾウさんがさらに口を開く。

「そこでだ、私としては、ゲートというルートも悪くはないが、航路、つまり船での交流ルートも考えるべきだと思うのだ」

「なんか急ですね?」

「急というわけでもない。そもそもゲートという超技術がすっ飛ばしているだけだ。いずれ他の人も気が付くだろう。この海の果てには、いまだ見ぬ地があると。そこにゲートがなければ、海を渡るしかないとな」

「ああ、なるほど。勝手に船を造られても被害甚大になりそうだから……」

「そうだ。この世界の造船技術はまだガレー船も存在しないレベルだ。それも仕方のないことだ。海には大型の魔物がいるという話だからな。海の先に新天地をと考えもしなかっただろう。だが、これからはそれを目指して数多あまたの冒険家が生まれることだろう。それを無駄死にさせるべきではない。私たちにはその技術がある。それを惜しむ場面ではないと思うのだ」

 タイゾウさんの言う通りだよなー。

 未発見の新天地を探すのは、両大陸の利権を増やすにしても絶対必要な条件だ。

 いずれ国の命令のもと、海へ漕ぎだすだろう。

 それであっけなく全滅なんてのはあれだなー。

「分かりました。でも、俺も造船系はあまり詳しく知りませんよ? 取り寄せるぐらいしか……」

 そう言いかけて、俺は止まった。

 まて。そういえば目の前にいるタイゾウさんはどこの時代のどこの所属だったか?

 俺がその思考に辿り着いた時には、タイゾウさんは満面の笑みを浮かべていて。

「その心配はない。私が君たちの時代ほどではないが、船の作り方は知っている。設計図も頭の中にある。無論武装もだ」

 あ、分かった。この人の目的は安全とかでなく……。

「私は見たいのだ。争うためでなく、未来を切り開くための我が国の船たちを!! それが、今まで沈んでいった者たちへの鎮魂になるとも思うのだ」

 ……故郷への郷愁。

 そして、戦うために作られたものへ別の可能性を見たいのだろう。

 今日、この日、大陸の名前が決まり、新聯合艦隊開発計画が始まった。

(なんで!? ……でよ!? ……がい!! もう……くは、持たな……れしか……のに!!

 ……それはそうと、なんか変な声が聞こえる気がするんだよなー。

 でも、他のメンバーには聞こえてないみたいだし、やっぱり変な脳内再生かねー?

 地球の幽霊の可能性も考えたが、しゆてんも分からないみたいだし、本当になんだろうな。

 疲れてるのか?

 とりあえず、今日の仕事は終わったし家に帰るか。

 もうすぐ予定日のミリーも心配だし。