Side:ユキ

 さーて、正月が過ぎ、ようやく世の中が落ち着いてきた。

 そして、それは俺たちも同じだ。

 正月前に、胃の痛い仕事が終わりを告げ、ようやく通常業務に戻ったと言いたいのだが……。

「あなた、ホーストの方に話を通してくれないかしら?」

「ああ、そうだったな。でも、こっちの方はどうする?」

「私が相手をするわ。向こうでは、私よりあなたの方が顔が利くのだからお願いするわ。というより、よその大陸から王族が来ますって説明を私ができるとは思えないわ。得意でしょう? そういう言いくるめは」

「得意というわけでもないんだがなー。まあ、分かったよ」

 そう。

 これからが本番だ。

 俺の立場と目的をようやく正確にあくした3大国は素直に協力を申し出てくれた。

 自国の心配どころか、後々の未来に深刻な問題があるということが分かって、協力せざるを得ないってのが正しいところだろうが。

 まあ、新大陸との外交で外貨獲得とかもあるから、そういう意味でも乗り気なのだ。

 あわよくば、新たなる労働力の確保につながるからな。

 ウィードを基点に作られた連合ではすでに国と国の武力衝突はなりをひそめ、自国の開発に精を出している状態だ。

 もともと広大な土地を余らせていたのだが、武力戦争がなくなって、ゲートによって安全に大量の物資を運搬できるようになったことも相まって、自国を開拓して、各種生産力を上げ、経済戦争へと発展したわけだ。

 殺し合いよりはまだ健全だよな。

 ということで、新しい流通、市場の開拓や、労働力が見込める新大陸は、広大な未開拓領土を持つ3大国にとって素晴らしい場所であると言えよう。

「俺としてはようやくスタートラインなんだよなー」

「そのためにも頑張って。ここでつまずけば数年待つことになるわよ」

「分かってる。じゃ、行ってくるわ」

「ええ。お願い」

 そんな感じで、俺は久々にベータンの街へ顔を出すことになった。

 ベータンの街。

 元はエナーリア有数の穀倉地帯で、エナーリアの食糧庫とも言われる重要拠点だったのだが、ジルバ帝国の侵攻などで、一進一退の戦いを繰り広げていた。

 元と言っているが、ジルバ帝国の領土になったわけでもない。

 色々な問題の解決策として、俺がベータン一帯を預かるということで決着がついたのだ。

「解決策と言いますか、無理やりぶんどった感じですが」

 そうつぶやくのは、ジルバ帝国、風の魔剣使い風姫騎士マーリィの元副官ジェシカ。

「ああ、そういえば、ジェシカはあの時、敵だったよね」

「敵というのは立場的に間違いないですが。正しい認識としては、ユキやリーアたちは敵というより、観察対象だったでしょう? そもそも、敵たり得ない」

 はぁ、とため息をつくジェシカ。

 まあ、ジェシカの言う通り、敵たり得なかったから、省略に近い形で、スティーブに負けたよな。

「……く。今の状態に文句はありませんが、あの時、スティーブに一合も打ち合えずにやられたのは悔しいですね」

 そのジェシカの言葉に驚いているのは、サマンサとクリーナだ。

「スティーブとやりあったのですか? きたえる前に? よく無事でしたわね」

「ん。スティーブを相手によく生きてた」

 この2人は、訓練相手ということでジェシカと同じようにスティーブが相手をしていて、いまだにまともに勝てない。

 スティーブは変則型だからな。

 もともと体が小型のゴブリンだったので、俺があの手この手を教えまくった結果。

 格ゲーで言うなら、トラップ、飛び道具、スピードの複合型かね?

「無論、絶妙な加減のおかげですよ」

「なるほど。それぐらいはできそうですわね。でも、どうやってベータンを拝領したのでしょうか?」

「ん。ベータンを領地に持っているのは知っているけど、どうやってかは聞いていなかった」

「ああ、そういえば2人には言ってなかったよな」

「今まで大忙しでしたからねー」

 リーアの言う通り、忙しすぎたのがいけない。

 おかげで、新大陸後半で合流したサマンサやクリーナはこういうところの事情を知らない。

かんけつに言うと、ジルバには殴り込んで、エナーリアには聖剣使いの起こした魔物襲撃を防いで、実力を見せることで、ベータンをもらった」

「「……」」

 我ながら実に簡潔で分かりやすい話をしたと思う。

「……簡潔すぎます。その実力のおかげで、互いの王から手出し無用、王族の血縁で継承権なしという、妙な立場が与えられたわけです。それと、ある種の動きを封じるためにベータンという領を押し付けたわけです。ですが……」

「全然動きを封じられていませんわね」

「ん。そのあともひょいひょい動き回っている。ベータンは誰が治めている? 大丈夫?」

「ベータンは今まで通り前領主が代行という形になって、以前通りに治めています。というより、前にも増してベータンが活性化していますね。ウィードからの技術を検証する土壌になっているので、色々なものがあふれています。ある意味、あのベータンはこの世界でウィードの次に発展していると言っていいでしょう」

「「……」」

 なにこっちを見ているんだよ。2人とも。

 俺は何も悪くない。

「予定は聞いていましたが、すでにそんな状態だとは」

「ん。魔力の集積地を増やして、魔法陣無効化を狙うとは聞いていたけど、さすがにあり得ないほど早い」

 そう、ベータンの活性化、発展については、実地試験という側面だけではない。

 新大陸には、国が器用に六芒星を作るような形になっていて、それが偶然、魔力集積の効果を発揮していたのだ。

 まあ、これが直接的な新大陸の魔力かつの原因とも思わないが。

 理由としては、ウィードの大陸も、新大陸と同じように五芒星を作るような形で魔法陣を作っているが、魔力が薄くなったり、中央の場所に魔力が集積されてもいない。

 単純にこっちには狂暴な魔物がたらふくいるから、そこらで採算が取れているのかもしれない。

 詳しくはなんとも言えないが、別の要因があるのだろう。

 で、それを放って置くと、新大陸では滅多に姿を見ない魔物が溢れ出す可能性があるので、それをするために、ベータンという人が集まる場所を作って、魔法陣自体を崩す作戦でもあったりする。

 といっても、気の長い話ではあるが。

 魔力の集積地点は定期的に間引いているし、すぐになんとかしなければという問題がないのは幸いだ。

 あ、魔力の集積地点はポープリの魔術学府一帯の山森なので、主にポープリが間引きをやっている。

「とまあ、色々実地もやっているし、こちらのお偉いさんを迎えるのには、ベータンがいいという話になったわけだよ。俺の領地でもあるからな。ノーブルの所か、ヒフィーの所、ホワイトフォレストって案もあったけど……」

「ノーブル様とヒフィー様の所は、陛下たちの胃に穴が開きそうですわね」

「ホワイトフォレストは亜人の国。魔力枯渇の問題を見せる場所としては不適切」

 ですよねー。

 なんちゃって神たちと合わせただけでもぺこぺこしてたし、その居城に泊まりに行ったら、胃かいようで死にそうだわ。

 で、ホワイトフォレストの方も、コメット万歳で喜んで受け入れてくれるだろうが、亜人ばかりの国では意味がない。しかも、ほぼ冬の国だしなー。案内するにしても最後だろう。亜人の扱い、立場がどうなっているかという感じで。

「まあ、他にローデイとか、アグウストとかもあるんだが……」

 俺がそう言って、サマンサとクリーナを見ると、2人は勢いよく首をぶんぶんと横に振る。

「無理ですわ!! 下手すればローデイを超える大国の王たちの招きを秘密裏になどと!?

「ん。こっちも無理。爺様が死ぬ」

 分かりますよその気持ち。

 爆弾を抱えて地元になんて戻りたくないよねー。

 何かあったら、とてつもない問題に発展するし。

「そういうことで、ジルバやエナーリアからもらい受けた俺のベータンがいいということになったんだよ」

「素晴らしいご判断だと思いますわ」

「ん。的確」

 そんなことを話しているうちに、ベータンのゲートをくぐって街に出る。

 わいわい、がやがや……。

 ベータンの街は特に問題もなさそうだ。

「……人が多いですわ」

「……ん。どこかの王都と遜色ない」

「そりゃ、ここはジルバとエナーリア共同の公認地みたいなものだからな。互いの国で何かをしたいときは、ベータンにっていう話が常識化してるんだよ。安全も保障されているからな」

 だって、ダンジョン化してるからなー。

 警備関連はすでにウィード並みとはいかなくても、ワンランク下ぐらいだ。

 ワンランク下なのは、ベータンの人が警備とかの仕事をしているから、情報開示ができずに、そういうところで遅れが出ているのだ。

 これがウィードの人たちなら、指定保護とかバリバリだったんだが、そういうわけにもいかないのがめんどい。

 無論、上層部はウィードから連れてきたメンバーなので、そういうところでのとどこおりはない。

 簡単に言えば、末端の動きが鈍いという感じかな。

 ちなみに、俺たちは領主の館ではなく、別の場所に自分たちの屋敷を構えて、そこにゲートをつないでいる。

 ホーストたちの移動も手間だし、はいせきする意思もないという意味もあってだ。

 ……まあ、一番の理由は、仕事場が自宅だと落ち着かないって話なんだが。

 しかし、ベータンの運営はセラリアとホーストが話し合って決めていて、俺はそこまで関わってないのだが、思ったよりも発展しているように見える。

 だって公衆トイレとか設置してあるし、路上を汚したら罰金ってしっかり書いてあるからな。

 ここは力を入れたんだろうなーと思う。

 と、そんなことを考えつつ、領主の館に着く。

 なんか人が並んでるなー。こりゃホーストも忙しいんだろうなー。

 俺はそんなことを考えつつ、その並んでいる列を横から眺めながら門をくぐろうとすると……。

「まて、お前たち何者だ」

「えーと……」

 あー、新人なのか。

 俺の顔やジェシカ、リーアを知らないから分かりやすい。

 ベータンを制圧した時の面々だぞ。

 さて、なんて言ったものかと悩んでいると……。

「セラリア様はおられず、ホースト様も今は忙しい。この列を見れば分かるだろう? 特別な訪問の話はうかがっていない。見たところようへいのようだが、そういう仕事の話も含めて、あちらの列に並んでくれ」

 あー、うん。

 貴族みたいな格好してるわけでもないからな。

 というか、ごちゃまぜだし、サマンサは貴族だが、ジェシカは騎士だし、こんな盛り沢山だと傭兵か旅芸人と見るのが妥当だよな。

 ……この兵士はちゃんと仕事をしている証拠だし、ちゃんと話せばいけるかな?

 問題を起こしたいわけじゃないからな。

「えーと、そのセラリアの夫で、このベータンの領主となっているユキなんだが。話は聞いていないか?」

「え? 領主様はセラリア様では?」

 ああ、俺はベータンでは活動期間が短いから、セラリアがトップの認識になってるのか。

「とりあえず、確認に行ってくれないか? トラブルを起こすのはこっちとしてもかんべんだし、そっちも叱責される可能性もあるからな」

「分かった。いえ、分かりました。少々お待ちください」

 そう言って、その兵士は列の整理をしている他の兵士に二、三声をかけて、館へ走っていく。

「さすがに、ちょっと雑ですね」

「あり得ませんわ。領主の顔を知らないなんて」

「ん。だめ」

 ジェシカ、サマンサ、クリーナはちょっと怒り気味にあきれていた。

 でも、リーアは違う反応だ。

「あんなもんじゃないかなー? 一般の人が領主様と顔を合わせるなんてそうそうないし、兵士って言っても新兵でしょう? 仕方ないよ。別に帰れって言われたわけじゃないし」

 まあ、これが世の中の違いってやつだ。

 村人が国の王様の顔を知っているわけがないのだ。テレビや写真もないのだから。

 ジェシカ、サマンサ、クリーナはもともとそれなりの地位や生まれだから、そういう顔を見ることがあっただけ。

 俺も有名人とかテレビで知ってるだけで、実際会ったことは……ない。

 会ってもあまり興味ないから分からないと思う。

 情報伝達技術が発達した地球ですらこんなもんだから、一般人にお偉いさんの顔を覚えろというのは無理というもんだ。

 そんなことを考えていると、なぜか、ホースト自身が走ってこちらにやってきた。

「よ。こっちも無事に新年迎えたみたいだな」

「はい。ユキ殿のおかげで、賑やかな新年となりました。しかし、このたびはこちらの不手際で……」

「ああ、そういうのはいい。兵士を罰するのもなしな。ちゃんと働いていたから。今度から写真を見せるようにしようかね」

「分かりました。写真に関してはそれがいいでしょうな。そろそろ時期的に解禁しようかと、セラリア様とも話しておりましたし。と、それはいいのです。今、お客様が見えられていて、そちらの対応をお願いしたいのですが。今、コールで連絡をしようと思ったところでした」

「お客様?」

「はい。ジルバから風姫騎士マーリィ様と姉妹騎士オリーヴ様、ミスト様。エナーリアから二刀魔剣使いのプリズム様、雷の魔剣使いのエージル様が見えられています」

 なにその豪華メンバー。

 というか、すっかり忘れてたよそいつら。とか、言いそうになったが、寸前で耐えた俺はすごいと思う。