カインの冬支度

騎士団との訓練から帰宅し、カインは自室のソファーに座ってマフラーを編んでいる。

一本目は編み始めを何度も解いて編んでを繰り返していたせいで端がヘロヘロになってしまっていた。そのため、完成したマフラーはイルヴァレーノのものになった。

二本目は最初から最後までやり直すことなく編めたので自分の分にした。

自信を持って挑める三本目のマフラーは、両端に大きなポンポンを付けてディアーナにプレゼントした。

ディアーナはマフラーを貰った日は室内でもどこでもマフラーをつけたまま歩き回って家中で自慢して回っていた。

カインは今、四本目のマフラーを編んでいた。

考え事をするのに刺繍や編み物は最適だった。これから寒い季節になっていくので刺繍よりは編み物だろうとマフラーを編んでいた。

ポンポン付きのマフラーをしたディアーナが天使かと思うほどに可愛かったので、おそろいで帽子と手袋を編もうかとも思ったカインだったが、考え事をするために編み物をしているので、複雑なものを編むのはやめておくことにした。

騎士団の訓練から帰宅して、今はカインの空き時間だ。

イアニスが別室でディアーナとイルヴァレーノに勉強を教えているので、カインの体があくのだ。

カインは原作ゲームを思い出しながら、黙々とマフラーを編んでいく。

「最悪の皆殺しエンドは、一応回避したと言って良いか……?」

皆殺しエンドと呼ばれるエンディングは、イルヴァレーノが攻略対象である。

暗殺者として育てられていたイルヴァレーノは、まだ幼かったある日、仕事をしくじって怪我をしてしまう。道端で倒れていた所をゲームの主人公に優しく介抱され、その優しい思い出を胸に裏稼業をし続ける。人間の汚い部分を散々見せられ、そして自分も人の命を奪い続けるうちに、人間への嫌悪感と優しい少女との思い出のギャップに耐えられなくなり心を闇に染めていく。そしてゲーム本編では主人公と再会した事でついに心を壊してしまい、主人公の幸せのために自分と主人公以外全てのキャラクターを殺して二人の世界を作る。……というエンディングだ。ゲームではぼかされていたがファンの間ではその後二人も心中したんじゃないかと言われていた。メリバエンド好き一押しのエンディングで意外と人気は高かった。

当然のことながら、このルートだとディアーナもカインも死んでしまう。

「イルヴァレーノと主人公の過去エピソードを無かったことにしたし裏稼業も今のところ復帰する素振りはないしな……」

カインの父が組織に対して金で話を付けたはずだった。しかしその後も接触してきて頻度を落として仕事をさせていた裏組織。上位組織と下位組織の連携がいまいちだったのか、組織内の誰かの独断だったのかは解らない。しかしそれもカインが木っ端微塵に粉砕した。物理的に。下位組織はもはや無くなったので復帰することはしばらく無いだろう。

「イルヴァレーノもディアーナの事は可愛い妹分だと思ってるみたいだし、一応の回避成功ってことにしておこうか」

カインはつぶやきながら、毛糸を引いて手元に手繰り寄せる。勢いで籠から毛糸だまがコロコロと転がっていってしまったが、とりあえず気にしないことにした。

「王太子ルートを回避するためには、ディアーナを王太子の婚約者にさせないことが必要なんだよなぁ……」

王太子ルートは、もちろん王太子であるアルンディラーノが攻略対象である。

ディアーナという婚約者がいながらゲーム主人公に心惹かれてしまったアルンディラーノは、一度はディアーナと結婚する。しかしそれは書類上の話で、すぐに地方の年寄り貴族に下賜してしまう。

一度はちゃんと結婚をすることで公爵家の体面を保ち、婚約者がいるにもかかわらず他の娘に恋慕していたという王太子の不義理そのものも帳消しにする力技である。身綺麗になったところで改めてゲーム主人公と結ばれることで、後顧の憂い無く幸せな結婚生活を送るというわけである。

悪役令嬢物のウェブ小説などで良くある、パーティーの最中に断罪して婚約破棄を言い渡すといったことはしない。そこに、ゲーム開発者の『ありきたりなエンディングにはしないぜ、捻っただろ?』と言ったドヤ顔が透けて見えるようでカインは舌打ちをした。

後日談として語られるのは、嫁いだ先の田舎の屋敷で四十も年上の夫の介護をさせられ、自分よりも年上の前妻の息子たちから慰み者にされるというディアーナである。

それを避けるにはゲーム主人公と王太子を恋仲にさせないか、ディアーナと王太子の婚約を阻止するしかない。他人の心なんか動かせるものではないので、婚約させない方が確実である。

「そもそも、ディアーナはあんなに可愛くて素直で優しくて愛らしいのに、なんで主人公べつのひとに惹かれるのか意味不明だよな……」

子どもであるカインでは、親同士が決める婚約をひっくり返すことは難しい。

それでも、自分はその婚約を歓迎しないというアピールはやっていかなければならない。

ことある事にディアーナは嫁にやらない。ディアーナを王妃になんてさせない。ディアーナを王太子と結婚させない。と親とディアーナに言い続けている。

どうも、兄バカこじらせて嫁にやりたくないだけと思われている節はあったが「二人の気持ちもちゃんと聞いてからね」という言質げんちはどうにか取っていた。

ディアーナに王太子は結婚相手としてふさわしくないと言い聞かせると共に、アルンディラーノに他の人をあてがえないかと考えていたが。

「デディニィさんには母性を見ていただけだったしな……」

アルンディラーノの初恋かと期待した相手は既婚の子持ちだということが判明した。その上、彼女が気になったきっかけを聞けばただの母性を求めた結果なだけだったのだ。

とにかく今は、親に付いてあちこち外に出させて人と会う機会を増やさせてやろうと考えていた。それと同時に、心に闇を抱えないように両親からの愛情不足をなんとか解消させてやらねばと心を砕いていた。

カインと二人で昼食を食べてる時や剣術訓練中の休憩時間などにカインと会話する時には、アルンディラーノは何故かふにゃふにゃになる。そんなアルンディラーノではお話にならない。

王太子連れで公務に出る事が普通になれば、それを見越して視察先に娘を連れてくる貴族も増えるだろう。

仕事中のアルンディラーノは比較的シャッキリしてるらしいし、そこでラブロマンスでも発生してくれればおんの字である。今のところ、アルンディラーノはカインの事を慕ってくれている。カインが妹のディアーナを溺愛している事も知っている。このまま行けば、たとえ不幸なすれ違いがあったとしても、カインの妹であるディアーナを無下むげにするような事はしないだろう。

聖騎士ルートの攻略者であるクリスとは、剣術訓練でその兄であるゲラントと共に顔見知りになった。しかし、今の所仲の良い兄弟で、どちらも素直で可愛い良い子という印象しかない。

「まぁ、ゲームでもディアーナが魔王の魂に体を乗っ取られてしまったからそれを退治しただけだしな」

比較的、ディアーナの破滅としては真っ当である。クリスもディアーナが憎くて剣を向けるわけではないのだから。ただし、このルートではディアーナは死んでしまうのだから、カインにとっては皆殺しルートに次ぐ最悪のエンディングである。どうしても避けなければならないエンディングだった。

「魔の森イベント発生前に魔王をなんとかするか。魔の森イベント発生時に無理やり俺もついていくかしないとダメだよな」

今のカインで魔王が倒せるかは分からない。そもそも家を出て魔の森に遊びに行きますなんて言って両親がはいどうぞと言うわけがなかった。それをするにはカインはまだ幼すぎた。

「今はまず、クリスに『頼れる先輩』と思われるように行動して、魔の森イベントについて相談してもらえるようにしておくぐらいしか出来ないか?」

剣術訓練でディアーナとの時間が減ってしまい、落ち込んだりもしていたカインではあるが、クリスと関わる時間が増えたのは幸いだといえた。聖騎士ルートの魔王エンディングを回避するためにも、クリスを可愛がっておかなければならないなとカインは心を新たにした。

「教師ルートについては、俺が入学してからディアーナが入学するまでの三年間が勝負かな……」

学園の担任の先生が攻略対象となる教師ルートでは、卒業後にゲーム主人公と教師が結婚して幸せになるというエンディングだ。

担任の先生は、子爵家の次男だか三男として生まれ、家督を継ぐ運命にはなかった。なので王宮魔導士団への入団を目指していたが試験に落ち、仕方なく教職に就いたという人物だ。長男が当主となったら家を出て身分を無くさねばいけない身だった。

平民という身分になっても魔導士団員でさえあればどうにかなったのに……とくよくよして無気力になっている所を主人公に励まされて心惹かれるのだ。それと同時に、公爵令嬢として相応しい点数を取るために、カンニングまでするディアーナを見て身分に拘るのは見苦しいと言うことに気が付き、主人公と一緒になってディアーナを糾弾する。……その後主人公と結婚して幸せになりました。というあらすじなのだが。

「なんでや。ディアーナは関係ないやろ」

思わず関西弁で突っ込むカインである。

「今の所、ディアーナは年齢にしては勉強進んでいる方だよな。イアニス先生は優秀だし、このまま行けばカンニングなんかしなくても良い成績取れるよな……?」

一時期はカインと比べられるから勉強嫌いと言い出したディアーナだが、そのカインと一緒に勉強したり、イルヴァレーノと一緒に勉強したりすることで今は新しいことを学ぶのが楽しくなっているらしい。

そもそも、原作ゲームのディアーナも勉強は出来たはずなので、成績上位だったはずだ。なにせ、ゲーム主人公のライバルキャラクターなのだから無能ではないのだ。

一位じゃなければ意味がない、というところまで追い込まれてのカンニングならば、やっぱり周りの期待とかプレッシャーがディアーナを追い詰めたのではないかとも思われる。勉強の価値は一位になることではないと、学ぶとは順位ではないということをディアーナに教えていきたい。今のディアーナは授業が終わると新しく習ったことをカインに披露しに来てくれる。楽しそうだ。

ちなみに、カンニングを糾弾されたディアーナは、親からも家の恥曝しと言われて家を追い出されてしまう。わがまま放題に育てたと言うのに手のひらを返したのである。

「今の両親を見てると、カンニングがバレたぐらいでディアーナを追い出すようなことはしないと思うんだけどなぁ」

この点については、実際にこの世界で生きてみて不思議に思うところである。公爵家の令嬢が学園でカンニングをしていたなんて、確かに醜聞ではある。しかし、家から勘当するほどのことでもない。父のディスマイヤはディアーナに対して甘々なので、ほとぼりが冷めるまで領地で療養させるぐらいが関の山じゃないだろうか。

「とにかく、まだ社交界に顔を出せるわけでもないし、教師になるハズの子爵家の次男だか三男だかとは接触のしようがないからなぁ……」

カインとディアーナの年齢は三歳差ある。ディアーナが入学するまでの三年間で教師の劣等感を解消させればいいだろう。魔術の練習をさせてもう一度魔導士団への入団試験を受けさせて合格させるなり、教職という仕事に誇りを持たせるなりすれば良い。

ディアーナはカンニングをしないし、教師も平民になりたくないだとか、たった一度の受験の失敗をずっと引きずるだとかしなくなれば、ディアーナを糾弾することもないだろう。

出会い前にすでに劣等感を克服している教師では、ゲーム主人公の恋のきっかけは変わってしまうかもしれないが、ゲーム主人公が『自分が立ち直らせた男が好き』みたいな性癖でなければ問題ないだろう。

ディアーナに関わらないでくれるなら自由に恋愛してくれればいいと思う。

「後はなんだっけ。留学しに来る隣国の第二王子だっけ」

マフラーも編み進み、毛糸を引っ張れば毛糸玉がころころと転がる。毛糸を引きながらなので遠くへはいかずにその場でクルクル回っていた。

隣国の第二王子ルートは、留学してきた王子が文化の違いに戸惑っているところに平民の主人公が私も貴族のルール良くわかんないなどと声をかけて親近感を持つのが始まりだ。

わからないままではいけないと二人でこの国の文化と貴族のルールを一緒に学ぶ内にどんどん親しくなっていく……という、前向きな内容なのだが。

国同士の縁を深めるために、第二王子にはこの国から嫁をとってもらおうという話が持ち上がり、公爵令嬢であるディアーナが候補にあがるのだが王子はそれを拒否。王子は主人公と結婚し、ディアーナは女癖が悪くすでに正妃も側室もいる第一王子の側室にされる。

「なんでや! ディアーナ関係ないやろ」

平民の主人公と第二王子が結婚できるならそれでええやろがい! とカインは毒づく。

第一王子の王位継承に叛意はありませんと示すためにも平民を嫁にとるとか、王家に次ぐ権力がある公爵家から嫁を取れば第一王子派と第二王子派で派閥争いが起こるとかもっともらしい理屈を付けてディアーナを兄に押し付けた第二王子。これは、もう今のところ手の出しようがない。

学園が始まってから、主人公より先に第二王子に声をかけ、この国の文化と貴族のルールを伝えるようにするか。この国から嫁をとってもらおうという話が持ち上がるのを阻止するか。両国の縁を深めるためだったら、最初から主人公と第二王子が結ばれれば良いだけなのだ。

第二王子が第一王子に対して叛意は無いとか公爵家令嬢では権力を持ちすぎるという理屈は、ディアーナとの話が持ち上がる前に言えって話だ。

結婚による縁付けならば、アルンディラーノに向こうの王女を嫁入りさせたって良いわけだ。

「向こうの国に王女がいるかどうか調べてみるか……」

今の所、この国の王族の子どもはアルンディラーノだけである。今から妹が生まれることになったとしても年齢差は五歳以上になるので、第二王子との結婚としてもちょっと厳しいかもしれない。

隣国の第二王子がゲーム主人公と同じ学年ということは、アルンディラーノとも同じ学年ということになる。そうすると、姉か妹がいてもアルンディラーノとの年齢差はそこそこいい感じなのではないだろうか。

「アルンディラーノが隣国の王女と結婚すれば、ディアーナが王太子の婚約者になることもないし、一石二鳥なんじゃないか?」

ナイスアイディアじゃね? と思ったカインだが、そもそも隣国に王女がいるのかも分からない。

このアイディアは保留だ。

「うーん? 整理するとつまり?」

留学してきた第二王子にこの国から嫁を取ってもらおうって話が出た瞬間に、ゲーム主人公を推薦すればいいってことか? ディアーナの名前が出る前に。

もしくは、ディアーナをって話が出た時に「隣国のお家騒動に巻き込まれ兼ねない」と言って反対するか。第二王子が兄王子に勧めた時の理由がそのまんま使えるわけだし。

何にしろ、隣の国の王子様については今は手を出せない。事前に用意しておける策については思いつかなかった。

王太子ルート回避と矛盾する話だが、隣国の第二王子が留学してくる前にディアーナがアルンディラーノと婚約をしていれば防げる話ではある。隣国の王子といえど、他国の王子の婚約者を奪おうとはしないだろうから。

「とりあえず、隣国の第二王子ルートは保留にするしかない」

カインはため息を吐いて毛糸を引っ張った。毛糸玉はなくなっていて、毛糸の最後が手元まで来てしまった。

「同級生魔導士ルートも、年下後輩ルートも今はどうしようもないんだよな……」

同級生魔導士ルートと年下後輩ルートも教師と同じ理由で今は手を出せない。

同級生魔導士ルートは、ゲーム主人公に惚れた同級生が、心を振り向かせようと精神に作用する魔法を使おうとする。暴走した魔法は主人公ではなくディアーナにかかってしまい、ディアーナは精神を崩壊してしまうのだ。

「……なんでや、ディアーナ関係ないやろ」

カインのツッコミも段々と力がなくなってきた。

ディアーナの精神崩壊によって精神魔法の危険性に気がついた同級生に、ゲーム主人公は一緒に魔法の修行を頑張って制御出来るようになっていこうと励ますのだ。同級生ルートに入るためにゲーム主人公が魔力と魔法スキルを上げる必要があるのは、この展開に入るために必要だからだ。一緒に魔法の修行を頑張り、二人揃って王宮魔導士団に合格し、自信を持った同級生は精神魔法を使わずに主人公に告白して結ばれるというシナリオである。ゲーム開発者がディアーナいじめに飽きてきたんじゃないかと疑いたくなるシナリオである。

年下後輩ルートは、主人公に年下の弟扱いされるのを不満に思い、色々と背伸びをして活躍しようとし、それらが失敗して落ち込んでいるところに「君はそのままでいいんだよ。ゆっくり大人になろうよ」とか言って慰めて励ます主人公にますます惚れるというシナリオだ。その色々と背伸びをして活躍しようという行動の一つが、ディアーナいじめである。何かと主人公に突っかかるライバル令嬢のディアーナをハメて告訴し、学園から追い出してしまうのである。

「やっぱりディアーナ関係ないじゃないか……」

ここまで来ると、開発者が全ルートでディアーナを破滅させなければならないという意地でやっているのではないかと疑いたくなる。

同級生も下級生も名前は分かっているのだが、その家名が伯爵と子爵に複数ある名前なのだ。

もともとのルーツは伯爵家の家名なのだが、分家や婿入り後の乗っ取り、功績を上げた商家が叙爵するときに伯爵家の次男以降の息子を婿入りさせて家名を名乗らせてもらっているなど、様々な理由が有るようなのだが、とにかく伯爵位と子爵位にありふれた家名なのだ。実際にディアーナと同級生もしくは一つ下の歳の息子がいるのがどの家なのかは現時点では分からない。貴族名鑑には、成人前の子どもの名前までは載っていないのだ。

以前の刺繍の会のような王太子のお友達作りパーティーなどが今後開催されれば、そこでそれらしい子を見つけられるかもしれないが……。

王妃様主催の刺繍の会には、あの一件以降遊びではなく刺繍をするために参加している子どもも何人かいた。カインから謝罪の手紙と一緒に送られてきた刺繍入りハンカチを貰ったのをきっかけに、刺繍がしたいと言い出した令嬢が何人かいたのだ。残念ながら、女の子ばかりで攻略対象ではないのでルート潰しの一助とはならなかったが、ディアーナの味方を作るという意味では有効だった。

とにかく、今はまだ子どもで社交もないので攻略対象者とはそもそも出会えない。出会えなければ、ディアーナの可愛さをアピールして主人公に恋してもディアーナに辛く当たらないように仕向ける事もできない。

イルヴァレーノとアルンディラーノと関係が持てたのは運が良かったのだろう。

とにかく、今のところはディアーナを心優しいまっすぐな女の子に育てていくのが一番確実な方法だろう。誰も彼もをディアーナの味方にしてしまえば良いのだ。

最悪、王太子殿下と婚約してしまって、そして王太子殿下が主人公に惚れてしまったとしても、ディアーナとの関係が良好であれば誠実な対応で婚約を白紙にしてくれるかもしれない。

カンニングしなければ教師からも糾弾されないし、優しくて可愛いディアーナを浮気者の兄王子に差し出したりしないかもしれない。

全てはまだ可能性でしかない。

「ゲーム開始時間までは、とにかくディアーナを可愛くて賢くて優しくて愛らしい女の子になるよう見守って導いてあげるしかないな」

色々と考えた割には、ディアーナを可愛がるしかないという結論に至ったカインだった。

手元には、三枚のマフラーが出来上がっていた。


「あの、カイン様」

夕飯後に廊下を歩いていたカインに、執事が声をかけてきた。

「どうしたの? パレパントル」

「カイン様は最近マフラーを編んでいらっしゃるそうですね」

「うん。もうすぐ寒くなってくるしね。単純な柄のマフラーだと考え事に集中するのに丁度良いんだよ」

「さようでございますか。ところで、そのマフラーはいかが致しましたか?」

変なことを聞いてくるな、とカインは思った。

「最初に編んだのは、へたくそだったんでイルヴァレーノにあげたよ。二つ目はマシだったけどまだまだだったんで自分用にした。三本目は綺麗にできたんでディアーナにあげた。その後は、考え事しながら機械的に編んでたんでちょっとつまらない模様になったんだよね。だから庭師のお爺さんと、アルノルディアとサラスィニアにあげたよ。外の仕事は寒いもんね」

「マフラーは、それで全部でございますか?」

「今のところは、それで全部だけど……あ、パレパントルも欲しいの?」

マフラーの行き先や他にないか聞いてくるなんて、欲しいのかなと思って聞いたカインだが、執事はゆっくりと首を横に振った。

「実はですね、旦那様が今日は自分の分か明日は貰えるか……と気にしておいででして……。お時間ある時に、もう一つ。できればもう二つ編んではいただけないでしょうか?」

貴族である父と母が、外出するのに子どもの編んだマフラーなどしていけるものではないと思っていたので、カインは両親のために編み物をするなどこれっぽっちも考えていなかった。

それを執事に伝えると、

「身につけて出かけられるか出かけられないかではなく、貰えるか貰えないかが重要なのでございます」

と言われた。

まぁ、持ってるだけで満足するならとカインは少し凝った編み模様のマフラーを三日ほどかけて編み、両親にプレゼントした。

これから寒くなるとは言え、まだ小春日和で日差しの暖かいその日、父はマフラーをして仕事に行った。汗疹あせもが出来てしまったよとにこにこしながらその日の夕飯で話していた。