ふわふわと柔らかい金髪も海のように青いクリクリの瞳も、よだれでべちょべちょのもみじのような手もすべてが愛らしかった。何でも口に入れてしまうディアーナに自分の指が食べられていても、「ディアーナのお口は小さいなぁ」とニコニコ笑って食べられるままにしていた。

カインは甲斐甲斐しくディアーナの口の周りのよだれを柔らかい布で拭いてやっていたが、自分の事は気にしていなかった。いつでもディアーナはスッキリとしていたのに、カインの服は常によだれでべちょべちょになってしまっていた。

やがて、ディアーナにも乳離れの時期がやってきた。公爵家のシェフが自慢の腕をふるって離乳食を作ったが、最初ディアーナは離乳食を嫌がった。イヤイヤと首を振ってスプーンを拒否し、小さい手でバンバンと子ども用テーブルを叩いて口をしっかりと閉じてしまっていた。しかし、カインが美味しそうな顔でディアーナの離乳食を口に入れ、

「こんなに美味しいのになぁ。ディアーナはコレを食べないなんて損してるなぁ」

と話しかけると興味を持ち始めた。

そこでカインがすかさずスプーンを出せば、ディアーナは大人しく食べた。それ以降、カインが食べさせればディアーナは大人しく離乳食を食べるようになった。

そうやって自分に懐くディアーナに、カインはますますメロメロになっていった。


ディアーナが二歳をすぎると、愛らしさは音速を超える勢いで増していった。

まだまだ歩くのがへたくそな癖にずっとカインの後ろを付いてくる。カインも歩いては立ち止まって振り返り、歩いては立ち止まって振り返り、付いてくるディアーナを確認しては目尻を下げてだらしなく笑っていた。ディアーナが付いてくるのが可愛すぎて、意味もなく部屋の中をぐるぐると歩き回っていた。

歩くのがまだまだへたくそなディアーナはすぐに転んでしまう。そうして転んでしまってもすぐには泣かず、顔だけ上げてカインの姿を探し、カインと目が合うとようやく泣き出すのだ。

なんという愛らしさだろうか。カインは転んだディアーナに駆け寄り、頭を撫でてやり、膝や肘などぶつけたところをさすりながらディアーナの頭のてっぺんに鼻をくっつけてはクンクンと匂いを嗅いで悦に入っていた。

前世で知育玩具の営業をしていたカインは、取引先でもある幼稚園や保育園へ訪れることも多かった。そのため幼児と触れ合う機会はそこそこあったが、こんなに可愛い女の子は見たことがなかったと思う。ディアーナには前世の世界と今世の世界、二つの世界を超えた可愛さがあるとカインは確信していた。こんなに次元を超えた可愛さを誇る天使なのに、将来は殺されたり追放されたり知らんおっさんに嫁がされたりしてしまうのだ。そんなことする奴ら、頭おかしいんじゃ無いだろうかとカインは思う。

ゲームのエンディングは主人公の魔法学園卒業時だから、十六年後。魔法学園に入学するのは十年後。十年後にはこの天使が悪役令嬢になってしまってるなんて信じられない。信じられるわけがない。ルートによってはカインが自ら妹を窮地に追いやる事になる。そんな事になってたまるかと、カインはつよく拳を握る。

「にーたま?」

クリクリの大きな目で見上げてくるカインの天使。強く握って白くなっていたカインの手に、ぷにぷにのまるっこい小さな手をぺたんと乗せてきた。幼児特有の高い体温でじわじわとカインの手が温かくなっていく。

絶対守ってやるからな。絶対幸せにしてやるからな。そう心で語りかけながら優しく頭を撫でてやる。

にっこりと笑いかけてやれば、カインの天使は重ねていた小さな手をまっすぐに挙げて、笑いながら「シッコでた!」と元気に報告してくれたのだった。