朝ごはんを作り、リビングから庭を見ながらゆっくりと朝食を食べる。既に農業隊が畑仕事をしているようだ。あれ? 農業隊の子たちは昨日の夜も遅くまで畑にいたような。ちゃんと休憩は取っているのだろうか? それとも岩人形だから疲れない? でも、ずっと働いているかもしれないと思うと、胸の辺りがずきずきと痛む。疲れ知らずでも、やっぱり休憩は大事だ。うん、後でちゃんと休憩を取る様に言っておこう。主に俺の気持ちを軽くする意味で。

さて、今日はどうしようかな。家の改築に必要な木材は山積みになっているから当分必要なし。魔物の解体作業は子鬼たちが終わらせちゃうし。あっ、掃除……クリーン魔法で簡単に終わってしまうんだよな。やばい、俺ってもしかして用無し? ……いやいや、何かやるべき事があるはずだ。たぶん、あるよね?

「やばい、何も思いつかない。あれ?」

やれる事を探そうと視線をうろうろさせていると、森へ出かけるシオンの姿が目に入る。そうだ、森へ行って呪いの状態を確認しようかな。この頃は確認を怠っているから、もしかしたら何か問題があるかもしれない。森は仲間たちが狩りを行っている場所だ。呪いが残っていたら大変だ。そうだ、そうしよう。

「よし、森へ行こう」

リビングを出て森へ向かおうとすると、コアとヒオとクロウが一緒に来てくれるのか傍に寄って来た。

「ありがとう。森へ行くだけだから、大丈夫なんだが」

俺が弱いせいで迷惑をかけているよな。でも、家にいてもやること無いし。……ちょこっと森を見て、問題なかったら帰って来よう。コア達の時間を無駄にするのも可哀想だし。


森の中を周りを確認しながら走る。何だろう、以前より森が綺麗だ。しかも空気が美味い。これがこの森の本来の姿なんだろうな。一本の大木が見えたので、立ち止まってその木を見上げる。上を見ても頂上が分からないほどの大木、日本では考えられない大きさだ。隅々まで魔力を流して呪いを確認するが、問題なし。何度か繰り返して見るが、結界内に問題はないようだ。

「……えっと、終わりだよな」

残念。いや、問題がなくてよかったんだよ。そうだ、問題があったら駄目なんだから。……………………帰るか。今来た道を帰ろうと足に力を入れると、

「「「「「ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっ」」」」」

どこからか耳障みみざわりな叫び声が森の中に響き渡った。

「なんだ?」

森に木霊こだましてどこからの声なのか分からないため、周りを見渡す。しばらくすると、こちらに向かって来ている大量の足音が聞こえた。

「えっ、もしかしてこっちに向かって来てる?」

じっと足音の聞こえる方を見ると、巨大な牙を持った黒い魔物が姿を現した。数は多すぎて分からない。

「やばい」

逃げようとすると、こちらに向かってくる魔物と俺の間にコア達が立ちふさがる。

「えっ!」

いやいや、あの大量の魔物をたった三匹でとか無理だろう。

「コア、逃げよう!」

「ヴー」

俺の声が聞こえないのか、牙をむいて魔物に威嚇? しているコア。やばいやばい。何かコア達を守れる魔法と考えている間に、コア達が戦闘を開始してしまう。が、さすがに数が多いため、俺にも魔物が向かってくる。

「「「ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっ」」」

「ちょっ、俺は弱いのに!」

って、弱いから狙われるのか。ここは走って逃げるしかないと、急いで足に力を入れて走りだす。何処へ向かえばいいのか全く分からないが走って逃げ切るしかない! 後ろをちらりと振り向くと、追ってきている魔物が増えてる! これは本気で死ぬかも。

「「「「「「ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっ」」」」」」

「何か身を守れる魔法……魔法」

結界だ。そうだ俺の周りには結界があるじゃないか! でも、この結界ってどこまで俺を守ってくれるんだ? 駄目だ、自信がないから立ち止まれない!

逃げる時間を稼げる壁でもあれば……。そうだよ! 壁だ。とりあえず壁を作って時間稼ぎをして、その間に逃げよう。でもただの壁で、そんなに時間が稼げるだろうか? 壁に何か細工をあれば……そうだ、電気柵だ! 触れたら電気が流れて感電してしまう電気柵にしよう。えっと、弱い電気だと意味がないよな。というか、魔物に電気って通用するのか?

゛あ~、分からん!」

くそっ、このまま逃げていても追いつかれるだろうし、やるしかない! イメージ、イメージ。

「走りながらは辛いな。まともにイメージが出来ない」

「「「「「「「「ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっ」」」」」」」」

て、また増えている! ここであきらめたら奴らのエサになることが確実だ。それは嫌だ! 頑張れ俺! 電気柵に振れたら、心臓がぎゅと1回止まるぐらいの強さ。えっと心臓が止まるイメージだな。よしイメージは出来た。もう一度後ろを少し確認する。凄い勢いでこちらに走ってきている。

「「「「「「「「「ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっ」」」」」」」」」

こ~わ~い~。

落ち着け俺! あとは何が必要だ? 電気柵を出す場所のイメージか……えっと、走ってきている魔物の前に電気柵をイメージしてみるか。横から逃げ出さないように、なるべく横に広く広く電気柵が広がる様に。いや、待て。いっそ、あの魔物たちを囲うように電気柵をイメージするか。あっ、水だ! 電気柵が出た瞬間水が大量に降ってくるようにしよう。水は電気を流してくれる。これで電気柵に触れていない魔物も一緒に倒せるだろう。よし、出来た!

立ち止まって魔物へ体の向きを変えて、

「「「「「「ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっ」」」」」」

うわ~、目が血走ってる! 電気柵が失敗したら俺、確実にあの世行きだな。

「電気柵!」

目の前に現れたオレンジ色の何とも弱そうな電気柵。それを見た瞬間、『終わった』と思い一瞬意識が飛びそうになった。

バタバタバタバタバタバタバタバタ……。

「ん? あれ?」

が、何故か目の前には大量の魔物が倒れ伏している。何が起こったんだ? もしかして成功? 電気柵に振れて意識が飛んだ?

「助かった~」

ガウッ

何かの鳴き声にビクつき周りを見る。ふわっとコアが隣に降り立つのが分かった。

「コアか~、驚かせないでくれ。それにしても無事でよかった」

ん? どうしたんだろう、コアが倒れている魔物を見て凄いこわい顔をしているが。もしかして目が覚めたんだろうか? 視線を大量の魔物に向けるが、意思が戻った様子はない。とりあえず、大丈夫だろうと近くの木に座りこむ。うん、疲れた。しばらくすると、ヒオとクロウも姿を見せた。血がついていたので慌てたが怪我ではなく返り血のようだ。よかった。

「あれ、一つ目たち? それに子鬼たち」

どこからか一つ目たちと子鬼たちが現れて、俺が作ったマジックバッグに魔物を放り込んでいく。あの魔物は意識が飛んでいるだけだと思うのだが、大丈夫か?……もしかして死んでるとか? さっきどんな魔法をイメージしたかな……あっ『心臓がぎゅと一回止まるぐらいの強さ』って。幾ら魔物でも、一回心臓止まったら死ぬか。って事はもしかしてあれ全部死んでるのか?

「アハハハ。良し、帰るか」

目の前の大量の魔物たちは、一つ目たちと子鬼たちの手であっという間に消えてしまったし。ここでの俺の役目は終わりだな。それにしても電気柵が上手くできてよかった。

「早急に身を守る魔法と攻撃が出来る魔法を考えないとな」

森の中に来るなら必要だと、今日はしみじみと感じた。今日みたいにうまくいくことなんて稀だろうし。はぁ、疲れた。……あれ? 少し前に身を守るための壁魔法を作らなかったか? そうだ、作った! あぁ~、すっかり忘れてた。せっかく頑張って作ったのに、ピンチな時に思い出さないと意味ないよ。……今日はやけ食いだ。


クロウ視点

今日は主のお供で森を一緒に走っている。主がなぜ森に来たのかは不明。だが、先ほどから立ち止まっては木に魔力を流すことを繰り返している。きっとそれに意味があるのだろうな。そう言えば、主が特別に魔力を渡す木が強度が強くなるらしい。この森の木をこれ以上に強くしてどうするつもりなのだろう。いや、森全体を守るためには必要なことなのかもしれないな。主が魔力を流すたびに、森の中の空気までがどんどん綺麗になる。本当に主の魔力は素晴らしい。

「「「「「「ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっ」」」」」」

なんだ? コアが周りに魔力の結界を張るのが分かる。俺とヒオはどこから何がきても主を守れる位置に移動する。すぐに森の奥からこちらに駆けてくる変化したザービスが姿を見せた。

「あの姿、変種体の魔物だ。気を付けろ!」

森が魔眼魔法に犯されて、しばらくしてから現れ出した変種体。異様な速さに強さを持ち、我々でも手を焼く魔物。クソッ、数が多い。

「アルメアレニエ(子蜘蛛)たちに知らせを頼んだ。少しの間、主を守りきれ!」

コアの声に目の前に迫ったザービスに飛びかかる。やはり体が強化されているため、牙が刺さりにくい。力技でやるしかない!

「主!」

コアの叫び声に視線を向けると、主が半数以上のザービスを連れて走りだしのが見えた。

「何を!」

幾ら主でもこの数のザービスを相手にすることは出来ないのでは? いや、主は本当に強い。だが、もしもということがある。急がなければ。魔法を駆使し目の前にいる大量のザービスを倒していく。最後の一匹を倒し終え、主の魔力を感じる方へ走り出す。

「終わったか?」

ヒオが隣を走る。

「クソッ、時間が掛かり過ぎた」

主の魔力が一瞬だが、かなり高まった事は分かっていた。何が起きたのか、怪我などしていないか不安だ。

「おっ」

「あっ」

何が起こったのか、一切の血を流すことなくザービスが死んでいた。それも綺麗に並んで。ん? よく見るとザービスは皆濡れているようだ。ザービスが水に弱いなど聞いたことがないが、変種体だから弱かったのか? とりあえず、ザービスがまだ残っていないか周りの魔力を確認するが、本当にいないようだ。

「コア。どうしたんだ?」

ヒオの声に視線を向けると、コアが楽しそうに何が起こったのか教えてくれた。が、主の魔法でザービスが一網打尽された事しか分からなかった。主の魔法は俺たちでは本当に理解が出来ない。もしかしたら神の領域の魔法なのかもしれないな。

「分からないが、さすが主だな」

ヒオの心酔しきった声が隣から聞こえる。コイツは主の事が大好きだからな。きっとまたその強さを知って、感動しているんだろう。それにしても、ザービスを仕留めた魔法は見てみたかったな。残念。