朝、目を開けると『一つ目』と、目が合った。というか、顔の横に正座している。なぜそこに居るのか? いつからいるのか……怖いと感じるのは気のせいだろうか? いつもならベッドの中でちょっとごろごろするのだが、それをしたら何かが起きそうなのでさっと起き上がる。

「えっと、おひゃよう」

……起き抜けと緊張で噛んだ。笑ってくれたらいいのに、じっと見つめてくるだけ。あっ、話せる機能はついていなかった。まだ、俺の頭は起きていないな。

というか、なぜ見つめられているのか。どうしたらいいんだ?

しばらく無言で見つめ合っていると、部屋にもう一体『一つ目』が入ってくる。心臓に悪いので、徐々に増えるとか止めてほしい。ドキドキしながら行動を見ていると、新たに来た『一つ目』の手に何かがある。よく見ると服だ。あぁ、今日の服か。でもそれだったらなんで待っていたんだ? いつもは新しい服ができたら、ベッドヘッドに置いておいてくれるのに。不思議に思って見ていると、すっと新しい服が差し出される。受け取ると、二体の一つ目達がじっと俺の様子を窺う。……ものすごく怖い。さっさと服を着てしまおう。

畳んである服をさっと広げて……畳み直して一つ目達に返す。そして二体をじっと見て首を振る。

「これは絶対に着ないからな」

絶対に着ないぞ。どんなに一つ目達が希望をだしたとしても絶対に嫌だ。というか、どうしてスカートがでてくるんだ。いったいどこからその知識を知ったのか。

岩人形達は独自に進化しだしている。その理由は不明だが、今まで特に問題はなかった。だが、スカートは駄目。

じっと見つめていると、二体の一つ目達が首を傾げる。可愛いが駄目。さすがにこれには折れないからな。俺の強い意思が伝わったのか、ものすごく残念そうに服を回収してくれた。

「よかった~、さすがに淡いピンクのスカートをはく俺とか……気持ち悪いだろう」

そう、なぜかスカートは淡いピンク色だった。しかも長さがどう見ても膝上。ちょっと想像して……やめた。朝からしていい想像ではない。

ベッドヘッドには洗濯した服も置いてあった。スカートはあの二体だけの希望だったのだろうか? まぁ、もういいか。服を着替えて部屋を出ようとすると、二体の一つ目達が新しい服を持って来た。

「新しい服か? 明日でいいのであればってちょっと待った」

何か嫌な予感がしたので、新しく持ってきた服を広げる。……綺麗に畳む。

「スカートの長さが問題でも、色が問題でもないんだ。スカートということが問題なんだ。分かるかな?」

新しい服はロングスカートになっていた。そして色は淡い緑。拒否した理由が伝わっていなかったようだ。

二体の一つ目達はお互いの顔を見合わせて首を傾げる。えっと、伝わった? それとも伝わっていない? 三体目の『一つ目』が手に服を持ってやってきた。……服を広げて確認。今度はワンピースか……ってスカートどれだけ作ったんだ? 確かめるのが怖すぎる。

「えっと、このひらひらした部分、これが駄目なんだ」

スカートの部分を指して腕で大きく×を作る。三体の一つ目達が一斉に頷いたので、ようやく駄目な理由が伝わったようだ。良かった。まさかスカートを履くまで、色々なバージョンのスカートが登場するのかと考えてしまった。

一つ目達が部屋から出ていくのを見送って、ベッドに倒れ込む。

「疲れた。まさか朝からスカート攻撃されるとは……はぁ」

でも、今度こそ駄目だと伝わっただろう。もう一度起き上がり、今度こそ部屋を出て一階へ降りる。ん~なんだかリフレッシュしたいな。朝食を食べたら、森の中でも走ってみようかな。

朝は簡単にサラダにスープ。昨日の夕飯にガッツリ肉を食べたからな、朝はさっぱりした物が一番だ。

食後の休憩を出入り禁止の畑を見ながら、ウッドデッキで楽しむ。蜘蛛達もアリ達も農業隊の手伝いをしている。やはり出入り禁止は俺だけの様だ。何か原因があるとは思うのだが、さっぱり分からないんだよな。

グルル。

鳴き声に視線を向けると、コアがすりっと顔を寄せてくる。相変わらずパッと見ると、怖い顔なんだが行動が可愛いよな。それに最近ではコアの顔を可愛く感じるようになってきた。

「おはよう。今日もいい天気みたいだぞ」

頭を撫でると、うれしいのか尻尾が左右に揺れている。両手でコアの頭を思いっきり撫でまわす。尻尾の揺れが激しくなって、胸元に顔を押し付けてくる。こういう行動が、可愛いんだよな。動物好きの俺にはたまらない。それにしても力が強いな。軽く顔を押し付けているように見えるのだが、ちょっと痛みを感じるとかどれだけ力が強いんだ。

「ぅお」

コアに集中していたら、思いっきり背中を押された。振り返るとチャイが、憮然とした表情で俺を見ている。何だ? チャイに何かしてしまったか? 覚えがないが……。

グルルル。

「あっごめん」

チャイにびっくりして手が止まっていたようだ、コアから撫でてと催促がくる。手を動かしてコアの顔の辺りをじっくりと撫でる。目と目の間は本当に気持ちが良さそうだ。

しばらくすると、また背中をぐっと押される。振り向くと、先ほどより機嫌が下がったように見えるチャイ。撫でてほしいのか?

片手をチャイに伸ばして、眉間の辺りをゆっくりと撫でる。コアは気持ちよさそうだったが、チャイはちょっと反応が違う。何だろう?

しばらくじっとしていたチャイが、コアを撫でていた腕を押しのけて、俺とコアの間に割り込んでくる。えっと、こんなこと初めてだな。もしかして、一人だけ特別に撫でてほしかったのか? 手を伸ばして撫でようとするが、チャイの表情を見て止める。ん~、撫でてほしいようではないな。

もしかして、嫉妬したのか? ってこの場合は、おそらく俺にだろう。

「チャイ、もしかして俺に嫉妬をしたのか?」

それだったら、この表情と態度に説明がつくような気がする。この頃チャイはずっとコアと一緒にいるからな。良い友人関係を気付けたのだろう。……種が違うから友人だよね? 恋人だったりするのか? 色々と想像していると、コアが軽くため息をついた。コアの反応から恋人関係ではないようだな。あっ、でもチャイはコアが好きなのかもしれない。ため息をつかれて、情けない表情になっている。

「チャイ、お前可愛い」

チャイの表情に応援したい気持ちが湧きあがってくる。とはいえ、種が違うことが障害だな。俺の言葉に、意味が分かっていないのだろうきょとんとする二匹。種の存続から考えたらチャイの気持ちは通じない。でも、ここは異世界だからな。もしかしてということもあるかもしれない。

「チャイ、頑張れよ」

勝手なことを言っているが、応援は自由だからな。

「あっ、そうだ。森へちょっと気分転換に走りに行きたいのだけど、付き合ってくれるか?」

まぁ、意思の疎通ができないので意味がないのだが、とりあえず聞いてみる。案の定、二匹で首を傾げている。いいコンビだと思うんだけどな。

「えっと、森」

森を指して、二匹が頷くのを待つ。次に自分を指して少し走る格好を見せる。なんとか通じたようだ。で……一緒ってどう伝えたらいいのかいつも迷うんだよな。

グルル。

コアが喉を鳴らして、スイッと体を俺に擦りつけてウッドデッキから庭に下りていく。そして、振り返り俺を見つめる。もしかして、一緒に行ってほしい気持ちが伝わったのか? コアは賢いな。

「ありがとう」

急いで準備を整えて、庭に降りる。ストレスが溜まったり、気持ちをリフレッシュしたかったりすると走る様にしている。適度な疲れと、体を動かすことが俺には合っているようで、色々とスッキリするのだ。

「ん? チャイも一緒に来てくれるのか? あ~、チャイはコアと離れたくないって感じかな?」

なんだかチャイの態度がいちいち可愛く見える。コアと同様顔は怖いが、何と言うか態度が可愛いんだよ。チャイを見て笑ったのに気が付いたのか、ぷいっと視線を逸らしてしまった。……やっぱり行動が可愛いな。機嫌を損ねそうだから態度には出せないが、ものすごく撫で繰り回したい。見ていると行動してしてしまいそうなので、そっと視線をずらして気持ちを落ち着ける。

「さて、行こうか」

走りだす俺の左右にコアとチャイ。こういう時、俺の守りを優先してくれるチャイの健気さが可愛いよな。あっ、でも気になるのか、ちらちらとコアを見てる。種が違うのが残念だ。可愛い二匹の子供が見られたかもしれないのに。

景色を確認しながら走る。少し残っていた呪いの影も、いつの間にかかなり薄くなっている。結界内は随分とすごし易くなったよな。

あれ? 今、目の前をすごい勢いで通り過ぎたのって、昨日唐揚げにした巨大ウサギだよな。俺よりデカいウサギを見た時は、驚きを通り越して引いたよな。しかもあの見た目で、鶏肉に近い食感と味なんだから異世界の不思議だな。

そういえば、唐揚げはどこの世界でも大人気だった。ただ、……あの時のコア達の眼がすごく怖かったけどな。

あっ! あれは、おそらくコアの仲間だな巨大ウサギを追っているということは、狩りの最中か。それにしても、狩りをする姿ってかっこいいよな。

えっ? なんか、巨大ウサギの顔がこっちを向いてどんどん近づいて来るような。なるほど、こっちへ逃げてきているのか。しかも三匹!

コアとチャイが俺の前に来て、低く構えて戦闘態勢を取る。

えっと、俺はどうしたらいいんだ? ここでボーっと突っ立っていているわけにはいかないし。あっ、邪魔にならないように隠れておくか。移動をしようとすると、先頭を逃げる巨大ウサギの血走った眼と視線が合う。次の瞬間、ぐわっと牙をむいて威嚇してくる。

こわっ!

「壁!」

そのあまりの怖い顔に思わず、巨大な土壁を出現させてしまう。

ゴスッ! ゴスッ! ドコン。

森の中に重低音が三回響く。

壁の前にいるコアとチャイが、俺をじっと見てくる。あ~、確実に邪魔をしてしまったな。申し明けない。しかも土壁なので、壁の向こう側が見えない。今、どうなっているのか……分からない。ただ、ものすごく静かだということは分かる。って、いつ土壁を消したらいいんだ?

土壁まで歩み寄りそっと手を当てて何か音を拾えないか耳をすます。なんだか異様に静かだ。仕方ない、壁を崩すか。コアとチャイに離れるように手で指示を出す。

「壁を崩すから離れろよ~」

おそらく意味が理解されることがないため、自己満足なのだが一応壁の向こうに声をかけておく。少し離れた場所に立って、壁が崩れ落ちるイメージを作り魔法を発動。

「崩れろ!」

ガラガラと目の前にある巨大な土壁が崩れ落ちていく。少し離れて見ているが、いったいどんな壁を作ったのが残骸が山になっていく。

「「「「ギャッ!」」」」

ん? 今、何か声が聞こえたような気がするな。……もしかして仲間が逃げ遅れたのか?

「大丈夫か?」

声を張り上げてみるが、崩れる音の方が大きい。しばらくすると全て崩れ落ち、残骸がちょっとした小山になった。慌てて、それを飛び越えて反対側へ向かう。

「大丈夫か?」

声をかけると三匹のオオカミがグルルと喉を鳴らして出迎えてくれた。怪我をしている様子はない。良かった。それにしても、聞き間違いだったのだろうか? 周りを見渡す。あっ、巨大ウサギがいない。

……もしかしてと後ろの残骸に視線を向ける。あ~、足が見えるな。ちょっと潰れた可能性を考えたが、さすがにこのままというのは気が引けるので壁の残骸を魔法で移動させる。

「あっ、よかった~。潰れていない」

壁の残骸で細かい傷は見られるが、潰れた様子は見られない巨大ウサギ四匹。いつの間にか一匹増えている。が、おそらく壁にぶつかった時か、残骸が上から降ってきた時なのかは判断できないが気を失っている。さて、この子達をどうしようかな。

ん? 一匹の巨大なオオカミが近づいていくる。この子はコアの仲間のシオンだな。どうしたんだろう? 見ていると……。次々と四匹に止めを刺していく。それに驚いて少し後ずさる。

……そういえば、狩りの最中に俺が邪魔をしてしまったんだったな。つまり結果はどちらも同じだったということか。それにしても巨大ウサギにしてみたら、踏んだり蹴ったりだな。なんとなく手を合わせておく。

……美味しく唐揚げでいただくから安心してくれ。

さて、このまま狩りを見ているのも良いが、まだもう少し走りたいな。

「コア、走りに行こう」

コアを呼んで森を指し腕を走る様に動かす。すぐに気が付いてくれたので、コアとチャイをお供に走り出す。

「シオン、またな」

獲物を運ぶのを手伝おうかと考えたが、すでに空中に浮いている獲物の状態を見て止めておく。どう見ても、手伝うことがない。コアもシオン達も、本当に魔法を使いこなしているよな。羨ましい。


─オオカミに間違われているコア視点─


訓練を終わらせ体を伸ばす。日々、体が軽くなってきているのが分かる。その原因は力。魔眼によって失われた力が、主の加護の中にいるお蔭で日々戻ってきているのだ。

「全て、主のお蔭じゃな」

畑にいる主の作ったゴーレム達の働いている姿を見ながら住処に戻る。

家に入ると、家の中で過ごしている目が一つのゴーレム達が数体集まっている。近付くと、何かを手に持って落ち込んでいるように見える。何を持っているのか?……布? 随分と変わった形の布だな。主が着ている物とはずいぶんと形が異なっている。

「どうかしたのか?」

ん? 

「シオンか。いや、随分と面白い布を持っているのでな。それに何やら落ち込んでおるように見える」

「主のゴーレム達か。確かにいつもと少し雰囲気が異なるな。あっ、あれはおそらくメスが着る衣服ではないか?」

「メス用? 主はオスであろう?」

「あぁ、そうだ。なぜメス用を持っているんだ?」

「知らん。我がここに来た時からすでにあぁであったからな」

シオンと首を傾げるが、答えなど出るはずもない。

「そういえば、シオンはどこかへ行くのか?」

確かシオンは中から外に向かって出てきた。

「キラーラグの狩りに行ってくる」

キラーラグ? あぁ、昨日の旨い肉のことか。外側がパリパリして、中からジュワ~と味がしみだして……腹が減る。そうか、あれか。

「できるだけ多く狩ってこい。主に願うにも肉が無ければ話にならん」

「もちろんだ」

シオンの後を、クロウとヒオがついて出ていく。狩りの上手い三匹か。これは期待できそうだ。

あ~、昨日はあまり食べれなかったからな。あれだったら、数匹分作ってほしいところだ。駄目だ。思い出したら、よだれが。

ん? 主発見!

「主!」

今日も主の近くは力が流れていて気持ちがいい。このゆっくり流れ込んでくる優しい力が特に好きじゃ。気持ちがほっこりするの~。

ん? チャイ? んで邪魔をするのか、まったく。主、我をもっと撫でてほしいのだが? ん~、やっぱり気持ちがいい。

「チャイ! 主を押すのではない。困っておるではないか」

「……わるい。だがコア、そのだな……」

「なんだ? はっきりせんか」

「……いや、なんでもない」

「はぁ、チャイ」

「なんだ」

「主に嫉妬するのは間違っておるぞ」

「なっ!」

おぉ~、焦っておる。焦っておる。まったくあれ程に求愛されて気付かないほど我は愚かではないぞ。しかし、愛いやつめ。

「コア、あのだな……」

しかし、なぜチャイは我の気持ちに気付かないのか。傍におることを許し、全てをおいて優先してやっておるのに。冷静になれば、すぐに答えなど分かると思うのだが……。他の者達は、皆気が付いておるぞ?

「なんだ?」

こうなれば、我の気持ちに気付くまでこのままじゃ。まったく、早く気が付け。我も我慢の限界があるからの。

「ん? 主、どうかしたのか?」

森? 行きたいのかの?……一緒に行こうと誘ってくれておるのか?

「もちろん行くぞ? チャイはどうするのだ?」

「もちろん行くに決まっているだろう」

「そうか、ならば主の右側は任せたぞ」

「えっ?」

驚いておるが、主に何かあったらどうするつもりか。確かに、チャイに隣は許しておるが主のことに関しては別格じゃ。

「分かった……そうか」

落ち込んでおるな。どうやら、違う意味で取ったようだ。まったく、手間がかかる未来の夫じゃ。仕方ない。

「……………………帰ってきたら身づくろいを頼むぞ」

「……本当か?」

「さて、主の用意も済んだようだし、行こうかの」

「コア、答えを聞いていないぞ!」

知らん、知らん。あんな恥ずかしいことを二回も言えるわけがなかろう。我にとっても初めての気持ちなんじゃからな。あ~、体が熱くなってむず痒いくなるわ。主と走っていれば、この熱も落ち着くだろう。


走っている主の様子を窺う。どこへ向かっておるのだろう? 耳を澄ませば、どこからか仲間の声が聞こえてくる。おそらく狩りをしているのだろう。このまま行って問題ないだろうか? 主に危険は及ばんか?

「チャイ、気が付いておるか?」

「あぁ、近くで狩りをしているみたいだ。あれは?」

「キラーラグの狩りじゃ」

少ししてチャイの喉が鳴った。どうやら昨日の上手い肉を思い出したらしい。

「楽しみだな」

チャイが口の周りを舌でなめる。我だけでなくチャイも相当気に入っているようだ。

「主はもしかして、心配でここまで来たんだろうか?」

チャイの言葉に納得してしまう。なぜなら、主はかなり心配性だからだ。森の王である我にも他の者達と同じように厳重に結界を張ってくれた。しかもその結界は、天から落ちる雷にも耐えられるだろう強度だ。

「どうする? 主を止めた方が良いか?」

チャイが聞いてくるので、少し迷う。主のやることを止めて良いのか? 何か問題があって、狩りの手伝いをするのかもしれないし。

「んっ?」

あれはキラーラグ。シオン達が追い回しておるのか。何だ? キラーラグの動きが、我の知っている物と異なるな。もしかして変種か? 森に呪いが広がった後に現れた、魔物の変種体。身体能力がかなり上がっていて、特に気を付ける必要があるのだが。

「こちらへ来る。コア、あれは変種体だ!」

チャイが戦闘態勢を取る。我もいつでも襲いかかれる体勢を整える。どうやらキラーラグは主を狙うようだ。まったく愚かなことだ。やれる物ならやってみるが良い!

ドゴーーーーーー!

ゴスッ! ゴスッ! ドコン。

えっ? 主の声が聞こえたと思ったら、キラーラグの姿が壁に変わる。急いで周りを見ると、どうやらキラーラグと我らの間に土壁が現れたようだ。

まさか、主が壁を作ったのか? まぁ、これほどの完璧な物を作れる者などそうそうおらんが。後ろを振り返り主を見ると、怖がることも、異様な風景に驚くこともない様子。やはり、主が作った壁か。

「あの速さで、これほどの高い壁を作れるとはさすがじゃ」

主を見ていると、壁い近付き手を充てて目を閉じてしまう。

「何をしておるのだ?」

我の言葉に首を捻るチャイ。そして、我らに後ろに下がるように指示を出すと、何事かを叫び一気に壁を崩した。壁が崩れる音が、辺りに響き渡る。

「圧倒的な力じゃな」

壁が崩れると主がさっと残骸を飛び越えていってしまうので、慌てて後を追う。シオン達の姿が見えるが、キラーラグは姿はない。シオンの視線を追うと、壁の残骸。

「この中にキラーラグがおるようじゃが……」

さすがに潰れてしまったのでは? ちょっと残念に思っていると、壁の残骸がふわっと浮かび上がり移動を始める。主に不得意の魔法はあるのだろうか? しばらく待つとキラーラグの姿見える。潰れておらんの。

「主は力加減をしてたみたいだな」

「そうじゃの」

まぁ、主ほどの力を持ちながらしっかり加減もできるのだから、さすがだ。

「シオン、止めを」

我の声に、シオンが動き出す。主はシオンの邪魔にならないように、少し場所を離れたようだ。

主に呼ばれて視線を向けると、森を指している。まだ、何か気になることでもあるのか森を走るようだ。

「あとは任せぞ」

キラーラグを絶対に住処に持ち帰るのだ。そしてあの旨い肉にしてもらう。

「任せておけ」

シオン達三匹が力強く頷くのを見てから、主の後を追う。今日は沢山作ってもらいたいからな、途中で帰る様にお願いしよう。