家からかなり離れたところまで来ると、周りを確認する。少し開けた場所なので、やろうと思っていることにはうってつけだ。お供に来てくれた親玉さんとシュリに声をかける。
「ここでやりたいことがあるから、少し待っていてくれ」
話したところで理解されないが、それは仕方がない。種が違うのだから。とりあえずジェスチャーで、少し離れてもらうように頼む。二匹と、その子供達が離れるのを確認してから一度深呼吸をする。
「さて、やるか」
今日は魔法を色々と試してみようかと考えている。呪いに掛からないように、急遽発動した魔法による結界。今のところは問題なく守ってくれている。だが、俺は魔法について何も分からないので、この結界がいつまでもつのか不安で仕方がない。起きている時に結界が消えるならいい。すぐに気が付いて対処ができる。だが、寝ている時だった場合は気付けない可能性が高い。起きて呪いに掛かっていたら……怖がりの俺からしたら、恐怖以外の何者でもない。昨日ふと、そんなことを不安に思うのも魔法を知らないからだと気が付いた。もっと早く気が付けよと思うが、知らない場所での生活で気持ちに余裕がないのだ。ある意味、気が付けただけよかったと思う。
で、魔法で何ができるのか調べていこうと思う。とりあえず、水と光は出せる。出した水を暖かくすることもできる。
「まぁ、やってみるか」
水はすでに何度も魔法で出しているので、イメージを作る必要はない。一度イメージを作り、魔法を発動しておくと二回目からイメージを作る必要が無いことまでは勉強した。ただしイメージを変えて水魔法を使うと、前に使っていた水魔法を使う時はまたイメージを作る必要がある。これが結構な手間なんだよな。日常生活ではコップ一杯分の水が出るようにしている。が、風呂はそれでは足りない。なので、風呂の水を入れる時は毎回イメージを作っている。そして風呂の水を入れ終わると、コップ一杯の水をイメージして一度魔法を発動。これを忘れて、キッチンで水魔法を使うとものすごう大変なことになる。なんせ、コップから大量の水がでてくるのだ。すでに二回も経験している。その都度、一つ目達に協力してもらって片付けているが、そろそろ本気で怒られそうだ。なので、失敗を繰り返さないように、対策を考える必要がある。まぁ、水もクリーン魔法をかけてしまえば綺麗になるんだろうが気分的に嫌だ。この辺り、風呂に拘る日本人らしいのかもしれないな。
さて、まずは。
「水」
バシャ~。
……あっ、ここに来る前に風呂の水を入れ替えてきたのを忘れていた。外でよかった~、そうでなければ三回目になるところだった。まぁ水魔法は問題なしということにしておこう。えっと、次は。
「光」
ポゥ。
光りの玉が目の前に出現する。今は昼間なので良く分からないが、結構明るいので重宝している。
そういえば、身を守る魔法が結界しかないな。何か別の方法を用意しておいた方が良いかもしれないな。身を守る……身を守る、壁? 壁と言えば土壁ってそれは家か。いや、土壁でも強度を強くすればしっかり守ってくれるはずだ。とりあえずイメージを作ってみるか。
えっと土は、どこから持ってくるイメージを作ればいいんだ? 周りから集まってくるイメージでいいのか? で、壁を高く作って。このままじゃ、高く積み上がったただの土だから、これに強度を足すと。強度? イメージが作れないな、とりあえず粘土みたいに粘ってしている方が良いのか? いや、コンクリートの様に固める方が……。どっちも足していくか、まず土に粘土を足してそれを固めて……よし。
「土壁!」
ドドドドドドドドドドドドッ。
あ~、周りから土を集めるのは駄目だな。壁の周りに深い穴ができてしまった。というか、壁ももう少し高い方が良いよな。三メートルぐらいだと上から飛び越えられるだろう。
「あっ、強度はどうなんだ?」
ちょっと攻撃をしてみるか。石を拾って、俺の全力でぶつけてみる。
「くっ」
コツン
石が壁にぶつかった時の軽い音が聞こえてきた。……こんなしょぼい攻撃、誰もしてこないな。というか、肩が痛い。もう少し運動をこまめにしよう。
ん~攻撃……あっ、石を魔法で飛ばしたらいいんだ。そうだ、その方が石に威力を足せるからいい実験になるはずだ。足下にあった石を拾う。ギュッと石を握り込んで、鉄を貫通するイメージをしっかりと作る。なんだかイメージした鉄が薄っぺらいな。もっと分厚い鉄の方がいいよな。えっと、鉄の厚さは分かりやすく一〇〇センチでいいか。よしっ!
「いけ!」
ビシッ。
あ~、壁が弱すぎる。簡単に貫通してしまった。これだと何も守れないな。強度をもっとつけないと。粘土を硬く固めるぐらいでは駄目だな。今の石の様に魔法で強度を増す方法だったら、かなり強い壁ができるのではないか? 目の前にある壁をそのまま使えばいいな。
土だからまずは水を弾くイメージと、次に押しつぶされないように壁自体に結界を張って。火を噴く魔物がいる可能性があるな、火は結界で吸収するか。あとは、何があるかな? 雷みたいな攻撃もあるかもしれないな。雷で攻撃されたら、反射するか。で、あとは……思いつかないな。とりあえず、壁に追加してみるか。
「壁にプラス」
目の前の壁が微かにギュッとしまったように感じた。さてと、どうかな? 石を拾って。
「いけ!」
ゴッ……バラバラ
壁にぶつかった石は、粉砕されぱらぱらと地面に落ちる。よし、第一段階はクリアーだな。次の攻撃は、魔法でやってみるか。攻撃魔法で思いつくのは火の玉かな。どんな物も燃やす業火が一気に燃え上がって、すべてを灰にする。こんな感じのイメージでいいかな。
「火の玉攻撃」
あっ、攻撃って付けてしまった。
ボッ。
あ~駄目だな。壁が半分灰になってしまった、それに残った壁もぼろぼろだ。もっと壁の強度を強くしないと。
「うわっ、親玉さんか~」
気が付くと、真後ろに親玉さんがいた。いつの間にこんな近くまで寄って来ていたんだ?
親玉さんを見ると、壁を見つめている。何かあったのか? 壁を見るが分からない。周りを見回す。ん? シュリも子蜘蛛達もどうしたんだ? なぜかここにいる仲間達が全員壁を見つめている。
「親玉さん?」
声をかけるとハッとした様子を見せる。もう、大丈夫かな?
「親玉さん、大丈夫か?」
俺の声になぜか体をビクつかせる親玉さん。もしかしていきなりおかしなことを始めたと、思っているのかもしれない。言葉で説明できないのが辛いな。
「大丈夫。ちょっと魔法を勉強しているだけだ」
って伝わればいいが、無理なんだよな。ただ、最近は『大丈夫』という言葉は、なんとなく理解できたみたいなので繰り返すしかないか。
「親玉さん、大丈夫。大丈夫だから」
ん? シュリも近づいてきたな。もしかしてここで魔法を使っては駄目だったのだろうか? シュリが親玉さんに何か言ったのか、二匹が俺から離れていく。良く分からないが、大丈夫だろう……たぶん。
さて、次は壁をもっと強くする必要があるんだったな。後、壁を作る方法だな。今回は周りから土を集めたが、それだと壁の近くにいる俺や仲間が危険だ。もっと安全に高い壁を作る方法を考えないと。周りから土を集めるのではなく、地下から土を持ち上げるか。その方が、壁の近くにいても安全だ。ん? いや駄目だ。壁を高くすればするほど壁の下に空洞ができる。かなり不安定だ。
あっ、魔法で土を増やせばいい。この方法だったらかなり高い壁を作ることができる。
「それに、周りに穴も開かないし、壁の下が空洞になることもない!」
完璧、次は高さだが五メートルぐらいはほしいよな。幅は、開けた場所だったらやはり隅から隅までだろうな。よし、土台はいい感じだ。強度は先ほどよりもっと強くする必要がある。土と土の結びつきをもっと強く、くっ付いたら離れないイメージ。火は吸収して、水は跳ね返して、雷は反射、風は竜巻にもびくともしない。よしここまでのイメージは完璧だ。四トントラックがぶつかってきても、問題ないイメージだからある程度のモノは防げるだろう。
あ~、ぶつかってきた魔物や巨大な動物がちょっと可哀想かな? ぶつかったら痛いもんね。あたりどころが悪かったら、死ぬこともあるよな。それはさすがに目覚めが悪い。ぶつかっても大丈夫なように……車のエアバックか。でも、土では作れないし。エア……空気か。空気をギュッと濃縮したら衝撃って減らせないかな? 実験をするわけにもいかないしな~。まぁ、無いよりある方がいいだろうから付けておこうかな。なんとなくこれで気分的に楽だ。
「こんなモノかな?」
実際に作って色々試してみないとこれ以上は分からないか。もう一度今のイメージを作り込んで
「壁!」
三歩ほど離れた場所にドーンと巨大な壁ができ上がる。上を見る。高さは五メートルぐらいになっているはずだ。左右を確かめる。イメージした通り、開けている場所の隅から隅までしっかりと壁がたっている。
「なんだかすごく静かだな?」
親玉さんやシュリがいる後ろを見ると、表情は読みにくいがぽかんとした雰囲気になっている。壁がいきなり出現したらこうなるか。申しわけないな。
「親玉さん、シュリ。大丈夫だからな」
声をかけたがいまいち反応が悪い。まぁ、実験を続けたいので今は置いておくが、あとでちゃんとフォローしないとな。
さて、実験の続きだが強度だな。まずは近くに落ちている拳ほどの石に手を乗せ、かなり速い速度で飛ぶイメージを作り。
「岩、攻撃!」
ヒューッ……ゴボッ。
岩が飛んで行き壁にぶつかると岩が木端微塵に粉砕した。その残骸がぱらぱらと風に散っていく。物理攻撃は問題ないな。次は火だが、さっきのイメージより火の勢いをつけておくか。
「火の玉攻撃」
ゴゴゴーッ……シュン。
お~、壁に当たった瞬間消えた。イメージ通りだ。いい感じに強くできたみたいだな。
えっと、次は雷。雷は何度も見ているからな、イメージはしやすい。でも、壁の強度を確かめるのに一本ではちょっと足りないな。五本ぐらい纏まって落ちるイメージにするか。
「雷落ちろ!」
ピカッドーーーン。
「うわっ、うるさい……ちょっと近くに落とし過ぎたな」
壁の様子を見るが、変化はない。どこに落ちたのか不明だが、壁にひびは入っていないようだ。ただ、壁が高すぎて上が見えないが……。まぁ、大丈夫だろう。
最後に風の攻撃だな。イメージはテレビの報道番組で見たものでいいよな。えっと、しっかりと思い出して。
「竜……あっ、ここにいたら俺達も危なくなるか。竜巻は駄目だな」
他に何があるかな。確か昔聞いたことがあるんだけど、風が起こす……
「風攻撃」
ビシッ
壁に斜めに傷が入る。あっ、まだ壁の強度が足りないのかな? ちょっと近くで見てみるか。
壁に近づき切れている部分を確かめてみる。うっすらと線が入っている程度だ。これぐらいだったら、許容範囲だろうか? この森にどれくらい強い魔物がいるのかは分からないから、絶対に大丈夫とは言えないが。とりあえず、今日はこのぐらいでいいかな。色々とイメージしていたから、頭が疲れてしまった。
「ふ~、何とか守るための壁は完成だな。魔法を発動する言葉も壁でいいよな。短い方がとっさの時に口にしやすいし」
それにしても最後の風攻撃、ちょっとかっこよかったな。
壁で仲間を守ったら、次は攻撃。
攻撃には風を使ってみようかな。火も雷もしっかり倒すんだったら、灰にするのが一番だし。水は周りに被害が出やすい。風だったら、攻撃後の肉を美味しくいただくこともできるだろう。次は攻撃を考えようかな。
「よし、今日はここまで。親玉さん、シュリお待たせってどうしたんだ?」
なんで、皆で固まって震えているんだ? 何かあったっけ? 周りを見るが、巨大な壁があるだけだ。あっ、これどうしようかな? 潰すのはもったいなし、攻撃の練習に使えそうだしこのままにしておくか。
「何か怖いことでもあったのか? ごめんな気付いてやれなくて」
こんなに震えるなんて、何があったんだろう? 周りの森を見渡す。俺の眼にはいつもの森に見えるが……。親玉さんやシュリを怖がらせる何かが潜んでいるとか? それは怖いな、俺では絶対に勝てないだろう。緊張しながら魔力探知を発動して、周辺を調べてみる。何も引っかからないということは、もう大丈夫ということか? まぁ、とりあえずちょっと安心だな。
「もう、何もいないから大丈夫みたいだぞ」
親玉さんに近づいて、そっと手を伸ばす。なぜか全員がビクンッと体を硬直させる。えっ? もしかして、俺を恐がっているのか? なんで? あ~、自分で作った壁に攻撃しているから、頭がおかしいと思われたのかも。
「大丈夫だぞ、ちょっと守るための準備をしていただけだ。決して気が狂ったわけではないからな」
親玉さんの頭をそっと撫でて、大丈夫だと伝える。言葉が通じたら、ちゃんと伝えることだできるんだが。何度も撫でていると、そっと窺うように親玉さんが見てくる。なので、もう一度大丈夫と言って、優しく頭を撫でる。気が触れたと思われるとか、悲しすぎる。
あっ、水の対策を考える予定が壁づくりに熱中してしまった。すっかり忘れていたな。はぁ~。あれ?……もしかして言葉を変えればいいだけでは? 『コップの水』とか、『お風呂の水』とか……まぁ、解決したから良しとしておこう。
─大きな蜘蛛 親玉さん視点─
主が、かなりの速度で森の中を疾走している。その傍を護衛として我と我の子供達……不要だがアンフェールフールミのシュリがいる。
「なぜお主が一緒なのか」
「それは私の言葉だ。まったく」
シュリがため息をつく姿に、舌打ちしたくなる。あ~、本当になぜコヤツが一緒なのだ。確かに昔ほど、刺々しい関係ではない。だが、なんとなくそりが合わないというのか、やることがはなにつくというか……。つまりは、相性が悪いということなのだろう。
「似た物同士だからね」
我が子の声が後ろからしたが、声が小さく何を言ったのか分からない。少し後ろを窺うが、子らは何も反応しない。何なんだ? 前を向こうとすると、シュリも同じ様に後ろの我が子を見ていたようだ。同じ行動をしていたことにイラッとしたが、ここには主がおる。我慢じゃ。
しかし主は、どこへ向かっておるのだ? 主の守っている結界内だが、家から随分と離れておる。何かあるのか? ん? 止まったが……何もない場所じゃな。周りを見るが森が開けた場所というだけで、特に気になる物はない。
「親玉さん、ここに何があるんだ?」
「分からん」
シュリにも分からないようだな。ちょっとそれには安心だ。ん? あの手の動きは離れてほしい時にしていたな。
「離れるぞ」
「あぁ」
周りを警戒しながら主から離れる。が、あまり離れすぎるのは駄目だ。何かあった時は、すぐに駆けつける距離でなければ。
「全員に聞いているのだが、主の魔力はいったいどれくらいあるのか分かるか?」
何とも言えない聞き方じゃが、主の魔力か。森の結界や我らを守る結界。それ以外にも、森の各所で動いている主の魔法を思い出す。これらを維持するだけでもかなりの魔力が必要となる。それに主は生活でも惜しみなく魔力を使う。正直、主の魔力量については全貌が全く見えん。
「分からん」
ん? 主の魔力が膨れ上がっておる。何が起こるんだ?
ばしゃ~。
「「「「「はっ?」」」」」
なんであんなところに大量の水を? シュリの様子を見るが、シュリもこちらを向いていた。思わずお互いに首を傾げてしまう。
ん? 次は光?
「主はいったい何をしているのだ?」
シュリに聞かれても、分かるわけがないではないか。ん? 周りにいる我が子達も動いを止めて呆然としておるせいで、警戒が疎かになっておるな。ちょっと注意をしておいた方がいいかもしれんな。
ドドドドドドドドドドドドッ。
声を出そうとしたら、重低音が響き大地が揺れるそれに体がびくりと震える。こんな振動を感じるのは初めてだ。急いで主のもとへ……土の壁? 主の前には巨大な土でできた壁。もしかして、あれを作る時の音と揺れだったのだろうか?
「あれは土で作られた壁だよな? 何か役に立つのか?」
シュリが隣で首を傾げている。確かに土の壁は守りには弱すぎる。魔法で強度を増しても、魔法をまとった水には弱くすぐに壊れるのであまり好かれる物ではない。他にも風にも弱かったはずだ。
「主の壁には興味があるが、さすがに土ではな」
シュリの言葉に思わず、頷いてしまう。驚かせる役目を持つのが土の壁だ。主は誰かを驚かせたいのだろうか?
何をしたいのじゃ? 石を当てているが、ん? 魔法で石をぶつければそこから崩壊が始まって……崩壊しないな。
「なんで、崩れないんじゃ?」
「今、確かに石が貫通したと思うのだが……」
シュリにそう見えたということは、我の見たものもあっているはず。うわ、壁が一瞬光った。主が何か魔法を壁に足したのか? しかし、それでも土なので限度がある筈なのだが。
「「なっ!」」
石が壁に当たって砕けた。そんなことがあるのか? 主はいったい土に何をしたのじゃ?
ボッ。
いや、さすがにそれは無理だ。というか、今の炎。一体どれだけの威力があったのか。土が灰になるなど聞いたことがない。
「なんだ、あのありえないほどの炎の力は」
シュリが思わずといった感じで警戒音を出してしまっている。我は何とか押し留まったが、我の子供達も警戒音が出ておる。
「しっかりせんか。主が我らを攻撃するはずがないのだから」
「べっ、別に主を恐れてではない!」
シュリの言葉に、ニンマリと笑みが浮かぶ。我の表情を見たシュリが、睨み付けてくるが知ったことではない。主を恐れ、警戒したシュリが悪いじゃだからな。
しかしあの壁、あの炎に耐えたところがあるとは。ちょっと近くで見てみたいの。……そっと、近付いてみるか。主の邪魔はできんから、気配をしっかり消していかねば。
すぐに、気付かれてしまった。邪魔をしてしまったかと心配したが、問題ないようじゃな。良かった。
それにしても、あまりに早く気付かれたので壁を見たまま固まってしまったわ。しかし、さすがじゃの~。完璧に気配は絶っておったのだが、まったく効果があったようには見えんかった。
主に名前を呼ばれ、ビクリと体が動く。
ちょっと驚いたのじゃ。決して、震えたわけではない。って、何を自分に言い聞かせておるのじゃ。
しかし主に名を呼ばれるのはうれしいの。主の言葉で、しっかりと耳に届く音だ。他の言葉はまだまだ理解できぬからな。
ん? 言葉が追加されたが……確かよく主が我らに向かって言う音だ。微かに聞き分けることができる音の一つだな。主の言葉に耳を傾けていると、不意に後ろから嫌な気配を感じた。
「主の邪魔をするのは良くないぞ」
シュリに注意される日がくるとは、今日は厄日であるな。しかもシュリのヤツ、先ほどの仕返しなのか顔がにやついておる。鬱陶しいの。
「分かっておるわ。しかし、気配を絶っても主には意味がないのだから仕方なかろう」
「お前の絶ち方が悪かったのだろう?」
何じゃと! そんなことが、あるわけがないじゃろうが。奇襲に長ける我にそんな言葉を……しかし、今は主に読まれてしまったからの。こやつめ~。
「主がすごすぎるからじゃ! 戻るぞ!」
正直言われても仕方ないのだが、シュリに言われるとついつい反発心が。全てシュリが悪いのじゃ。
「本当にそっくりだよね」
「シュリ殿の子供達も言っていたよ、そっくりだって」
ん? 我が子達が集まっておるが、何を言っているのだ? 最後シュリという言葉は聞こえたのだが。
「私がどうかしたのか?」
シュリの質問に、子らが全員で首を横に振った。ん? なぜ子らは、何とも言えない視線を我とシュリに送るのだ? 言いたいことがあるなら言えばよいのに。
ん? 主よ、次は何をしておる? 先ほどより主の魔力が高まっておる。何が起こるんじゃ?
あっ、警戒音がなってしまった。横を見ると、シュリもしまったという表情をしている。どうやらこやつも、また警戒音を鳴らしたようだ。ホッとしていると、視線が合う。
「「…………」」
お互い無言で見つめ合うが、子らの恐怖に震える音に主の方へ視線を向け唖然としてしまう。何じゃあれ。土の壁で間違いないじゃろうが、あんな膨大な魔力を含んだ壁など見たことがない。
「親玉さん、あれは……」
「知るわけがなかろう。あんな壁、初めて見るんじゃから」
「あぁ、そうじゃな」
……シュリよ、言葉が我の様になっておるぞ。何か言おうとするが、また主の魔力が高まる気配に警戒をする。今度こそ怖がらん!
ヒューッ……ゴボッ。
「「「「「なっ!」」」」」
何だ? 今、飛んだのは石か? 何か魔力を纏っておったような気がするが。しかしあの速度の石がぶつかっておるのに、土の壁が耐えておる。
ゴゴゴーッ……シュン。
「「「「「ぎゃっ!」」」」」
今度は火ではないな、あれは業火? いや違う、もっとすごい炎だった。あんな高魔力を含んだ炎など……マグマなど足元にも及ばん。しかし、もう終わった……。
ピカッドーーーン。
「「「「「ひぃっ!」」」」」
なんじゃ、何が起きた? 一瞬、真っ白な世界になったのじゃが我は生きておるのか? お~、大丈夫じゃ。心臓は動いておる。しかし、今のはなんだ? 雷はあんな凶暴ではないぞ。
ビシッ。
「「「「「………………」」」」」
今までの攻撃に耐えていた壁に傷? いったいどれほどの魔力を溜め込んだ風なんじゃ?
「主は、神とでも戦争を始めるつもりか?」
「分からん」
これから何か起こるのじゃろうか? もしそうなら、周りの仲間達にも言っておかねばならんが。しかし、終わりかの? もう、何もないかの? 本当に、だいじょうぶかの?
主がこちらに歩いて来る姿に全員でぶるっと震える。いや、主が怖いからではないぞ。これからのことを考えてだ。
ん? 主が周りを警戒しておる。やはり何か起こるのだろうか?
「シュリ、やはり何かあるのかもしれんぞ」
「そうだな、あんなに警戒するとは。仲間達にも言っておこう」
しかし、主があれほどの攻撃を準備する者に我らは勝てるのか? 先ほど見た魔力を籠めた攻撃を思い出していると、主が傍にいることに気が付いた。体がビクンと反応してしまう。我では対処できない攻撃の数々を見て、体が恐怖に震えてしまったようだ。
それに気が付いた主の表情が、少し悲しそうに歪んでしまう。あ~、違うのじゃ! 頭の中が混乱して固まっていると、優しい主の力がスーッと流れ込んでくる。主の優しい力を感じて、緊張で固まっていた体から力が抜ける。我が安心したのに気が付いたのか、主の表情も優しくなる。はぁ~、誤解が解けてよかったの~。