天酒馨、天神屋の大旦那の健闘を祈る。
俺の名前は
しかもそれを、千年来の友人、
「アッハッハ。なんだそれ。前世の妻と今更交際を始めたとは。ひーっ、面白い」
「う、うるさい大旦那! お前なんて最近やっと結婚したくせに!」
この男は
「でー、隠世も色々大変だったと聞いたが、浅草に来た本当の目的はなんだ。俺に顔を見せにきただけじゃないだろう?」
俺は
こいつがいると、周囲の色味がワントーン落ちる。これは鬼神の持つ霊力のせいで、こいつが
その鬼神はというと、店の前で、俺が焼いたたこ焼きをもさもさ食いながら、
「
「げ。隠世のあやかしどもがうじゃうじゃやってくるってか!?」
それはなかなか、とんでもない。
事件の予感しかない。
隣でたこ焼きをパックに詰めている
しかし大旦那はあっけらかんとしていた。
そしてもう一つたこ焼きを口に放り込んで、
「なあに、心配せずとも、
「……ほんとかよ」
「本当だとも。僕はただ、観光スポットと
「ああ、そういえば聞いたが、お前の奥さん、
「もちろん、そのつもりだよ」
津場木家といえば、俺たちからすると津場木
これまた、波乱の予感だ。大和さんがますます顔色を悪くしていらっしゃる。
「というわけで、馨。地元民のオススメをまとめておいてくれ。僕が頼れるのはお前しかいないんだよ、酒吞童子」
「調子のいいこと言いやがって。そりゃあまあ……古い付き合いだしそのくらいしてやる。あ。できればイベントを避けて、平日に来た方がいいぞ」
「わかっている。そのつもりだ。前のゴールデンウィークにちょっと来てみたら、人が
「お前みたいなのの化けの皮が剝がれたら、それはもう浅草が大騒ぎ。怖い
「あっはっは。それは困る。
大旦那はそう言って笑うが、俺は大丈夫かなあと、心配に思う。
とりあえず隠世のあやかしたちがこっちに来る時は、俺も
「じゃあ、そろそろ行くよ酒吞童子。
そうして俺に背を向け、立ち去ろうとした鬼神。
「おい、鬼神」
俺はそんな鬼神に、声をかけた。
「良かったな。お前が愛することのできる人に出会えて」
「……酒吞童子」
「幸せにな」
そして、長い長い結婚生活のはじまりの、健闘を祈る。
大変なのは、これからなんだぞ、ってな。
「ありがとう酒吞童子。お前があれほど
大旦那は意味深な笑みを浮かべつつ、俺の元を、浅草を去った。隠世にある天神屋という我が家へと、愛する妻の元へと帰って行ったのだ。
──千年前。
それはまだ大旦那が、鬼神としか呼ばれていなかった頃のお話。
俺、酒吞童子はこの男と共に隠世を旅したことがある。
旅の終わりに、俺は愛する茨姫のいる現世に帰ることを選択し、あの鬼は隠世に留まる選択をした。
長い間、居場所を求め続けていたあいつにも、やっと帰るべき場所ができた。
あの男が心から愛し、またあの男の全てを受け入れ愛情を注いでくれる人が現れたというのなら、俺もひと安心だ。
どうか、幸せに。
奥さんを大事にな。