天神屋のサスケ、千夜漢方薬局の深影と仲良くなる。



 てんじんおおだんは、よくうつしに行く。

 中でもあさくさせん漢方薬局にはあししげく通う。

 というのも、ここの店主もあやかしで、天神屋の地下でひそかに行われている製薬業の一部を、ここ千夜漢方薬局に委託しているからである。

 そんなこんなで、天神屋のお庭番サスケは、今日も今日とて天神屋の大旦那の付き人として、現世にいた。

 千夜漢方薬局は浅草のこくさいどおり沿いから少し入ったところにあり、店のドアを開けるとチリンチリンと古臭いベルが鳴る。

「やあ、かげ。店主はいらっしゃるかな」

「あ……っ」

 大旦那様が、店番をしながら本を読んでいた黒髪の少年に声をかけた。

「い、いらっしゃい……ませ。天神屋の大旦那様。店長のスイは今少し手が離せず……ので、少々お待ちくださいっ」

 ギクシャクしながら待合のソファーに案内する黒髪の少年。

 そして「お茶をお持ちします」と言って、店の奥へと行ってしまった。

 黒髪の少年の名前は深影という。親しい者たちはミカと呼ぶ。

 そんな深影は大旦那様のご来店に慌てふためき、店の奥へと向かった。

「確か、あの少年はがらすでござったか」

「気になるかい、サスケ。お前と同じくらいの少年に見えるかもしれないが、ああ見えてとても長生きなあやかしなんだよ」

「……長生きの割には、落ち着きが無いでござるな」

「アッハハ。そういうな。末っ子体質なのだよ……」

 サスケはソファの上で正座し、大旦那様と小声で会話していた。

 前にここへ来た時も、あの少年はいた。しかし人見知りなのか店先に出てくることはなく、店の奥でひっそりとこちらをうかがっていた。

 サスケはそんなことを思い出していると、ちょうど深影が、お茶のお盆を持って店の奥から現れた。

 お盆の上にはガラスの茶器が揃っているが、深影の不慣れな手つきのせいでガタガタと震えている。お茶も少しあふれている。

 なかなか危険だ……とサスケは思った。

 サスケは立ち上がってそれを受け取りながら、深影に声をかけてみた。

「深影殿、今日は扉の向こう側に隠れてござらんな」

「えっ!! 僕がいたことに気付いていたのか……ですか!?

 深影が想像以上に驚く。

 お盆を落としかけたが、サスケがしっかり受け取った。

「以前、すいれん殿が言っていたでござる。この薬局に、厄介で役立たずで引きこもりなカラスが住みついた……と」

「スイめ〜〜〜〜、あの野郎死ね〜〜〜」

 深影、サスケがじっとこちらを見ているのに気がついて、ゴホンとせきばらい。

「あ、ごゆっくり」

 そしていったんこの場を離れる。

 しかしお茶を持って待合のソファに戻ると、大旦那様のひざの上でもぞもぞ動く、灰色の毛玉が。

「ぺひょ〜」

 毛玉が奇妙な声で鳴いた。

 サスケはまばたきもせずにその毛玉を見つめている。

「大旦那様。この灰色毛玉はなんでござるか? 見たことないあやかしでござる」

「さあ。いつの間にか僕の膝の上に登っていた。わいいので害はないだろう」

「可愛くとも、凶暴なあやかしはいるでござる……」

 サスケは警戒し、テーブルにお盆を置くと、怪しげな灰色の毛玉が今にも大旦那様を襲わないか、警戒する。

「ああっ、おもち!」

 深影の大きな声が店内に響いた。

 深影はどうやら茶菓子を持ってきてくれていたようなのだが、

「すみませんっ、お客様! これは皇帝ペンギンのひなに化けたツキツグミっていう現世のあやかしです。おもちという名前です」

 おもちと呼ばれた灰色の毛玉は、大旦那様の膝からぴょんと飛び降りると、待合のスペースにあるテレビ台の下に潜り込む。

 そしてまた「ぺひょ」と、奇妙な声で鳴いたのだった。

「ダメだぞおもち! めっ! 今はお客さんが来てるんだからDVDは後だ!」

「ぺひょ、ぺひょ〜」

 何かを強請ねだっているのか、テレビ台の下で駄々をこねじたばたするおもち。

 サスケはますます奇怪だと思った。

「ミカ殿、でぃーぶいでぃーってなんでござるか?」

 現世の単語がわからず首をかしげるサスケ。

「ええっと……映像閉じ込めた円盤、のようなものです。この黒い四角の中で動く絵がすごいはやい……って、あ! おもち! DVDつけちゃダメだって!」

「ぺひょ〜」

 DVDが始まって画面の前に居座るおもち。

 流れ出すクラシック音楽と激しく駆け回る猫とねずみのアニメーション。

…………

…………

 サスケは思わず、その映像に目がくぎけになる。

 今の今まで、このように動くめんような絵を見たことが無かったからだ。

 そして何より……

「深影殿、なぜこの猫はねずみにしつようにいじめられてるのでござるか? 普通、猫がねずみを追いかけ仕留めるもの。あやかし界でもねずみ系あやかしは弱々しく、猫系あやかしに勝てない道理でござるよ」

「え、ええっと……これはそういうアニメ? というか……僕もよくわからないけど、とにかくこのねずみがずる賢くて最強なのです!」

 力説する深影に、サスケは「ほお〜」とあごでて感心している。

「ねずみが強いでござる、か。確かに忍者並にこすい手を使って全力で猫をたたつぶしているでござる」

「う、うん……これをてると猫を応援してしまうな、僕は」

「しかし猫も並々ならぬ生命力でござるな」

「うん。あやかしかもしれない」

 サスケと深影が興味津々でアニメを見て、妙に意気投合している様を見て、大旦那様は笑っていたという。


 十分後、店主の水連が店の奥から出てきた。

「大変お待たせしました〜。ってあれ、なんでみんなで真剣にトム○ェリ観てるの?」

「やあ水連。うちのサスケが、現世のアニメにすっかり夢中だ。かくりにこういうのは無いからね」

「ああ、なるほど。そういうことですか大旦那様」


 サスケと深影。

 二人仲良くソファで正座して、それぞれの仕事そっちのけで真剣にアニメを観ている様を見て、水連はボソッと「小学生男子……」とつぶやいたのだった。