天神屋の大旦那、現世の旧友にお中元を贈る。



 ここはかくり

 あおいは、てんじんおおだん様の執務室から聴こえてくるうなり声が気になって、中を覗いてみた。すると……


「大旦那様、どうしたの? やたらと鈍い唸り声が聞こえるけど」

「ああ、葵。よかった。こっちへおいで」

「……ん、何か読んでるの?」

 葵はいそいそと入室する。

 大旦那は机の上に大きな冊子を広げていた。

「ああ、うつしにいる古い友人に、お中元を送ろうと思っているのだが、何を送ればいいかと思ってな。贈り物の目録を読んでたんだ。助言をもらえるかい」

「へえ〜。隠世にもお中元のカタログとかあるんだ。助言って言っても、贈り物なんてひとによるしなあ。大旦那様の古い友人ってどんなひと?」

「千年前から嫁にいちな愛妻家で、あやかしのかがみのような男だ。前に会った時に聞いた話では、今もせかせか働いて嫁を養っているらしい」

「へええ……」

 家庭持ちで長生きなあやかしなんだ……

 と葵は思った。

 現世には、人間に紛れて生活しているあやかしがたくさんいるからなあ。

「やはり食い物がいいだろうか。食費がやばい、とか言ってたしな」

「そうなんだ。なら家族みんなで美味おいしく食べられるものがいいかもね。あ、これは? 食火ひくいどりの炭火焼き。それかお酒を飲むひとならロクちゃん農園の果実酒のセットとか……」

「酒? 酒かあ……確かに無類の酒好きだったが、今は飲めないと言っていた」

「……へえ〜」

 禁酒中のあやかしなのかしら……

 と葵は考えた。

「やはり王道にそうめんがいいだろうか。普段の食事でも食べられそうだ。しかしあまりに普通すぎてつまらないだろうか……ケチくさいとか思われるだろうか」

「か、考えすぎよ大旦那様。しっかりして。あ、大旦那様こっちはどう? 隠世産の大うなぎのかばき! 冷凍便で送れるみたいだし、夏バテ予防にもなるし、何よりリッチよ」

「おお……確かに! うなぎが嫌いなあやかしはいないな! しかしうなぎだけで満足出来るだろうか……あっちの嫁はすごく大食いなんだよな。心配だからこっちも送っておこう。ああ、これも……あれも……」

「ところで大旦那様。古い友人ってなんのあやかしなの?」

「ん? しゅてんどういばらどうという、現世の鬼だ」

「ふーん……」

 聞いたことだけならある。

 だけど詳しいことは知らないな、と葵は思ったのだった。

 何にしろ、大旦那様がこんなに気遣う旧友であるならば、同じくらい偉くて立派な、強いあやかしなんだろうな……と。



 一方、現世。

 隠世冷凍便が届き、あまさけかおるは荷物を抱えて、茨木の部屋に駆け込んだ。

「お、おい真紀。天神屋の大旦那からお中元で高級うなぎが届いたぞ……っ!

「うそ! 高級うなぎなんて何年ぶりかしら! 今夜はうな重にしましょうよ馨〜」

「だ、だがそれだけじゃねえ。そうめんや高級菓子、食火鶏の炭火焼きもある」

「う、うそ……さすがは金持ち。きっとご夫婦で選んでくださったのね。ねえねえ馨、こっちから送るお中元どうしよう。我が家の財力じゃこれに見合うお返しができないわよ」

「毎年のごとく、あいつの好きな東京ば○なでいいんじゃね? そこに雷おこしと袋ラーメン、現世の安旨ジャンクフード詰め込んどこうぜ。あ、あと大旦那の嫁は料理人らしいから調理用の便利グッズとか買って入れとくといいかも。百円ショップとド○キ行こう」「なんか、お中元っていうより実家からの救援物資みたいね……」

 うわさの酒吞童子と茨木童子夫妻は、友人の鬼との財力の差に一瞬だけひるんだけれど、すぐによそはよそ、うちはうちとなって、仲良くあさくさの街に繰り出したのだった。