大旦那様のおつかい



 てんじんおおだん様は、うつし出張にてあさくさにあるせん漢方薬局を訪れていました。

 千夜漢方薬局の主人の名前はすいれんと言いますが、皆スイと呼んでいました。

 片眼鏡と派手な羽織を身につけたさんくさい男でした。


スイ 「かくりから遠路はるばる、ようこそおいでくださいました、大旦那様」

大旦那「やあ、スイ。相変わらずの胡散臭さだね。現世で君の姿は目立つだろう」

スイ 「嫌ですねえ大旦那様。これでも俺は、浅草モノクルおじさんとしてそこそこの名物になってますし。時々警察の職質に遭いますけどね? そもそも胡散臭さでは大旦那様には負けますよ〜。ただものじゃないオーラ全開ですよ」

大旦那「大丈夫、僕もおしゃれな都会に出る時はスーツとか着てむ努力をしているから。浅草だからこそ、着物姿でうろうろしてるんだよ。ところで、あれはできているかい」

スイ 「はい。例のブツ、用意できてます。なかなかいい出来ですよ〜」

大旦那「ふふ。わざわざ現世までやってきて、君に頼んだかいがあった。我が天神屋のもり研究室が生み出そうとしている万能の湯薬には、どうしても君の術がかけられた生薬が欠かせないからね。これさえあれば、あの〝はいぱあ〟な薬も完成に至るだろう」

スイ 「はいぱあ? ところで大旦那様、ろうの孫娘とは、上手うまくいっていますか? 現世から連れ去って、もう三ヶ月くらいですかね? おんみょうきょくの連中が、彼女の行方を追っているみたいですから、大旦那様こっちで捕まらないように気をつけてくださいよ。まあ……あっちも津場木史郎案件には手が出しづらいでしょうけど」

大旦那「史郎は陰陽局の退たいおんみょうにも散々けんを売っていたからなあ。うちのあかつきも、陰陽局に退治されかけたところを史郎に助けられたと言っていた。隠世には、奴らから逃げてきたあやかしたちも多い」

スイ 「……まあ、あやかしにとっちゃ古くから因縁のある憎たらしい存在ですけど、現世には必要な者たちなんですよ。なんせここは、人間たちの世界ですから」

大旦那「……あ」

スイ 「あ、って何ですか、あ、って」

大旦那「そうだスイ。僕はあおいに、おつかいを頼まれてるんだ!」

スイ 「……大旦那様が、おつかい?」

大旦那「僕の嫁の葵は、料理が大得意でね。料理をしていないと落ち着かないような料理大好き娘だ。僕としてはそういうのを後押ししてあげたいのだが……業務用チョコレートってどこで買えるだろうか?」

スイ 「……大旦那様が真顔で〝業務用チョコレートどこで買える?〟とか言ってるの、めちゃくちゃ面白いですね」

大旦那「面白がらないでくれ! これだけ全然見つからないんだ。デパ地下や百貨店、チョコレート専門店にも行ったんだけど! 教えてくれ、スイ!」

スイ 「……いや……多分そこのド○キにあると思いますけど……」

大旦那「なるほど! ド○・キホーテか!」


 こうして天神屋の大旦那様は、スイの薬局から帰る途中、近くにある浅草のド○・キホーテに飛び込んだのでした。

 隠世で待つお嫁さんの喜ぶ顔を想像しながら、業務用チョコレートと、ついでに間違ってココアパウダーを、るんるん気分で買いあさったのでした。