第十二話 大旦那、旧友とコンビニグルメについて語らう。



 僕は、かくりにあるあやかしたちのお宿『てんじん』のおおだん

 鬼神とも呼ばれることがあるが、大旦那と呼ぶ者の方が多い。

 時々、人間たちの住まう世界、うつしに出張に出向くことがある。

 現世にもあやかしたちが居て、彼らの様子をうかがうこともあれば、天神屋の営業に役立てる情報を入手しに行くこともある。

 他にも色々と目的はあるのだが……

 今から向かう先にいる、とある人間も、僕の目的の一つだった。


「大旦那様。ここがあさくさでござるか。人間たちでにぎわっているのでござる。しかし意外にも、あやかしが多い」

「そりゃあそうだろう。ここ浅草は、現世でも有数のあやかし密集地帯。日本で最も、あやかしが生きやすいとされている土地だ。我が天神屋のプランを利用して、隠世から現世に行くあやかしも、最初に選ぶ土地は〝浅草〟であることが多い」

「なるほど。現世生まれとは言え、あやかしが多いのであれば、我々が浮かずに済むでござるな」

 天神屋のお庭番、サスケを連れてきているのだが、実際に目にする現世の街並みや代物が珍しいようで、一つ一つに目を奪われている。

 今回、サスケには現世の若者らしい格好をさせているし、僕も現世の成人男性らしい格好をしている。

 着物だと時々目立ってしまうのでこういう格好をしているのだが、浅草では観光客も多く、着物を着ている男女であふれている。

 人間に紛れているあやかしたちも多くいるので、我々が着物でも目立たないのかもしれないな。

「大旦那様は、現世で会いたい御人がいるとか」

「ああ。今から会いに行くんだよ。彼を、天神屋にスカウトしたくてね」

「確か、しゅてんどうという、現世で名をせた鬼だとか」

「おや。サスケは酒吞童子を知っているのかい?」

「話に聞いたことはあるのでござる。でも確か、千年も前に死んだ鬼だと……」

 サスケは最近、僕の現世出張に連れてくるようになったのだが、現世のことをよく勉強しているようだった。

 特に現世のあやかしについては、色々と勉強を重ねているようだ。

 現世には大物ようかいと言われているものがまだ多く存在しており、例えば僕が現世でそういう者たちに襲われた時、的確に対処するのが彼の役目でもあるのだった。

「まあ確かに、彼は千年前に一度死んでいる。しかし生まれ変わって、今では人間として暮らしているんだ」

「あやかしが……人間に生まれ変わることが、あるのでござるか?」

 サスケはわずかに、疑念と興味を抱いている。

「まあ、僕もにわかに信じられなかったが、本人を目の前にしてしまっては、それを信じるほか無かった。きっと、彼は特別なんだろう」

「大旦那様以外に、特別な鬼など……」

「あっはっは。世界は広いのだよサスケ。お前もその目でしっかりと見ていくといい。ここは、我が妻、あおいの生まれ育った世界。あやかしではなく人間たちに支配された〝現世〟という世界を」

「御意」

 サスケは表情を引き締めて、これから会う現世の大妖怪に対し、僅かに緊張しているようだった。



「いらっしゃいませー」

 リズミカルな入店音と共に、愛想の良い笑顔と声で店員たちが出迎える。

 ここは、現世に行けばどこにでもあるようなコンビニだ。

 他にお客はおらず、僕は買い物カゴを手に持ち、いくつか商品をそのカゴの中に入れながら、店の奥の方で商品をせっせと並べている、ある黒髪の男に声をかけた。

「やあ酒吞童子。今日も地道に労働に励んでいるみたいだね……」

 その男は、現世の人間にして十七、十八歳くらいの若い高校生であったが、僕からすれば、昔懐かしい旧友、酒吞童子なのであった。

 その高校生は、ひどく驚いた表情をしていた。

「鬼神じゃないか……っ!

 そして彼は、僕のことを大旦那ではなく、鬼神と呼ぶ。

「驚いた。お前はいつも突然現れる」

「そりゃそうだ。僕はあやかしだ。現世にドロンと現れる」

「ハハッ、違いねえ。しっかし隠世の老舗しにせ宿やどの偉ーい大旦那様のくせに、現世の、しかも浅草の小さなコンビニに出没とは驚きだな。浅草のあやかしたちがざわついてるんじゃないのか?」

「そんな事はないさ。僕は、現世ではほぼほぼ無名だ。君の知名度にはかなわない」

「まあ、俺だって今は、コンビニバイトに明け暮れるただの高校生なんだがな……」

 男子高校生は、コンビニ内で遠い目をしていた。

 そしてキョロキョロと周囲を警戒し、店内に客がいないことを確認している。

 業務中に友人と長話などしていては、ただの高校生の彼は店長などに怒られるのだった。

「大丈夫、大丈夫。他にお客が来ないよう、うちのカマイタチが外で結界を張ってるから」

「お前それ、業務妨害って言うんだぞ……」

 彼は額に手を当てて、はあと長いため息をついた。

 そして僕に質問する。

「現世出張か? どこに泊まってんだ?」

「僕は今、つぐみ館にお世話になっているよ。酒吞童子が近所のコンビニでアルバイトをしていると、ぬえに聞いてね」

「今の俺はかおる、だ。いつまでも酒吞童子って呼ぶなよな」

「ふふ。そうだったね……」

 その男子高校生は、名をあまさけ馨と言う。

 しかし僕は、彼を今も酒吞童子と呼びがちだった。

 彼のことをそう呼ぶ者は、今もきっと多いだろう。

 なにせ、現世で最も有名な鬼だと言って良い。彼の〝妻〟もまた、酒吞童子と並んで名高いのだが……

「それにしてもお前、普段は黒の羽織姿なのに、今日はやけにさわやかだな。白いシャツにジーンズか……本来の姿を知っていると違和感やばいぞ」

「僕からしたら、お前が一介のコンビニ店員の制服を着ているのが、なんというか嘆かわしい」

「嘆かわしいとか言うな! 一介のコンビニ店員さんだって必死に生きてんだぞ! ったく……」

 そして馨は、僕の持つ買い物カゴをのぞいた。

「おにぎり、菓子パン、レトルトのカップしる、スナック菓子に即席ラーメン、缶ビール……お、お前、どこのお一人様サラリーマンだよ」

「現世の人間がよく食べている加工食品を調査中なのだ。特にコンビニの経営や商品には興味があるのだ。天神屋の営業にかしたいのと、うちの宿で食事どころを営む新妻のサポートができればと考えているんだが……。うん、彼女の喜ぶものを見つけたい!」

 僕は力説する。自分の妻の役に立ちたいのだ、と。

 馨は何とも言えない顔をしていた。

「お前……そういや人間の娘と結婚したんだったっけか? 俺様な見た目のわりに、新妻には随分と甘々だよな」

「俺様な見た目……? 僕は僕だ」

「そうだなー。お前、昔から一人称〝僕〟だもんなー。昔から、こいつはつかみどころが無い様でわかりやすい奴だよなー」

「酒吞童子、お前が言うな。お前だって妻のしりに敷かれているくせに。こうやって学生のうちからせっせと働くのも、妻のためだろう?」

「は? やめろ。俺たちはまだ結婚してないから」

 酒吞童子は高校生だが、千年前の前世の妻と今も一緒にいる。

 僕と違って妻に対し、デレデレした感じなどない。それはそれで、熟年夫婦っぷりを見せつけられているよう。

 千年前の、彼らの新婚時代は、僕以上に、新妻に対し過保護でデレデレしていたというのに……

 時代が変わると、夫婦のありようも変わるものか。

 まあいい。

 僕はあることを思いつき、手のひらにこぶしを落として「そうだ」と言った。

「コンビニでアルバイトをしている馨に聞きたい。コンビニで売れる定番スイーツや、商品はあるだろうか? 天神屋の土産物が奮わなくてね。常に新商品を出している大手コンビニの商品を参考にしたい」

「コンビニで売れているもの、ねえ」

 馨は自分が整えていた棚を見つめ、あごでてうなる。

「おそらく、隠世で珍しいものを探しているところなんだろうから、和菓子より定番のコンビニスイーツがいいんじゃないのか?」

「コンビニスイーツ?」

「ゼリーとかプリンとか、ヨーグルトとかロールケーキとか、だな」

 馨は棚から、やたらと「0カロリー」を強調した大きなゼリーを手に取る。

「ゼリーだと、ナタデココの入ったゼロカロリーのゼリーが一つは並んでるもんだ。みんなダイエット中に罪悪感なくスイーツを食いたいんだろう。ナタデココって90年代にすごいブームになって、今や日本でもごく当たり前のように食べられている。確か……ココナッツの汁か何かの発酵食品だよな」

「なたでここ……? 何かのじゅもんめいた名だな。パッケージを見るに、四角い寒天の様だが……うーむ、いまいち何なのかとらえきれない」

「まあ気持ちは分かる。こればっかりは食ってみないとな」

 馨はそのゼリーを許可なく僕のカゴに入れる。

 そして今度は、「たんぱく質9・5グラム配合」などと書かれたヨーグルトのカップを手に取る。

「あと、たんぱく質高めのヨーグルトは、少し前からやたらとコンビニで売れ出した商品だ。筋トレブームだからか? 俺も時々食うけどな。従来のものより硬めで重めのヨーグルトだ」

「そういえば、葵がうちの従業員のダイエットや筋トレに付き合っていた時、たんぱく質がどうのこうの言っていたな」

「隠世にもたんぱく質とかの概念あるのか? あやかしにもたんぱく質が必要なのか?」

 馨は不思議そうにしながらも、そのヨーグルトを再び許可なく僕のカゴに入れた。

「あとはなあ……最近の流行はやりといえば、バスクチーズケーキとか、マリトッツォとかかなあ。コンビニスイーツは流行り廃りを顕著に表してるからな」

「あやかしは流行ものに弱い。葵も現世の流行を常に追いかけ、隠世流にアレンジして提供している」

「じゃあこいつらも全部買っていけ」

 馨は遠慮なく、全種類のコンビニスイーツを僕のカゴに入れた。

 馨はやり手のコンビニ店員だな。

「あとはまあ……」

「まだ買わせる気か」

「当然だ。お前たちのせいで今日の店の売り上げが落ちる可能性がある。その分、お前に買ってもらうぞ」

 店長でもないのに、店の売り上げを気にしている馨。

 そういうところが馨らしく、僕が馨を、天神屋に欲しがる理由だったりする。

 彼は労働に非常に誠実で、真面目で熱心なのだった。

「やっぱり最近のコンビニと言えば、ホットスナックだな」

「ホットスナック?」

「レジ横にある温かいそうざいのことだ。チキンとか、にくまん系が定番だ。あとは焼き鳥とか、コロッケとかアメリカンドックとか。お前だって見たことあるだろ」

「ああ、アレか」

「アレだ」

 僕と馨はレジ横にあるガラスのケースに並ぶお惣菜に目をやる。

「最近じゃカレーパンも人気って聞いたな。あとは定番のチキンを、各コンビニが競い合っているな」

「フライドチキンか。僕も現世で時々買うな。気軽に買えて、なおかつ美味うまい」

「ああ、そうだ。一つ120円〜150円とお手頃で、ちょっと小腹がいた時にコンビニで買って食うっていう。学生も大人も、男も女もみんな、よく買っていくな。揚げるのが追いつかない時もある」

「チキン……チキン、か。うん、それは天神屋でも面白い展開ができるかもしれない。鬼門の地はもともととりりょうの盛んな土地だしな」

「よし。なら、うちのフライドチキンと、カップ入りからあげ全種類買っていけよ。外で待ってるカマイタチのきにも食わせてやれ。今回はいつもの図体ずうたいのでかいおっさんじゃなく、若いのが来てるみたいだし」

「おや、気がついていたんだね。あの子はサスケだ」

「これまた忍者って感じの名前だな……」

「忍者だからな」

 とか言いながら、馨は期間限定のスナック菓子や、最近入荷したばかりの変わったフレーバーのジュース、スムージー、またSNSで「マズすぎる」と話題になっているらしい、トマト味のグミを僕のカゴに入れた。

 売れ行きの悪いものを、僕に買わせる算段のようだ。

「馨は悪どい商人だな。ポイポイと人のカゴに商品を入れて」

「天神屋のおおだんだろ? 金持ちなんだからケチケチすんなよな。お前の嫁さんの土産にでもすればいいだろ? 喜んでもらえるかもしれないぞ」

「うーむ。そうか。なら買おうか」

「お前って……ほんと見かけによらず純粋だよな」

 馨はそう言いつつも、僕の持つカゴをひょいと持ち上げ、レジまで運ぶ。

 僕はと言うと、今日買って帰るコンビニ商品の数々が、新妻である葵にどのような反応をされるかを想像しつつ、ニヤニヤとしているのだった。

 気がつけばレジで、かなりの値段を請求される。

「ふふ。まんまと買わされてしまったな。馨は昔からキレ者働き者で、有能だ。その商才は、ぜひ卒業後、天神屋で活かして欲しいと思っているのだが……将来の就職先の事は、もう考えているのか?」

「は? まだ大学にも行ってない身に、何を……。つーか、人間の俺が、あやかしまみれの隠世の宿屋に就職ってどんな冗談だよ」

「僕の新妻である葵もそうだから、大丈夫だよ」

「馬鹿野郎。はどうすんだ」

「お前の嫁も連れて来ればいい。そもそも現世では伝説と言われるだいようかいしゅてんどういばらどうであるのなら、隠世に招かれたところで誰も反対などできない。たとえ今が人間であってもね」

「はん。このご時世に就職のお誘いなんてありがたい話だが、俺はこれでも人間の生活が気に入っている。ここ浅草の地もな。それに俺が隠世に就職するなんて言ったら、真紀が何て言うか。あいつ、心底浅草が好きだからな。お前だって、うちの鬼嫁の鬼嫁っぷりを知っているだろう? あ、お惣菜は別の袋にお入れしますねー」

 レジの内側で、例のホットスナックのショーケースから揚げたてのフライドチキンとカップに入った小さな唐揚げを一つずつ取り出し、袋に詰めながらも店員の心構えを忘れていない馨。

「ふふ。まあ、愛妻家な馨ならそう言うと思ったけどね。君の鬼嫁を怒らせるのは、僕だって少し怖いし……。昔、君をしばらく独り占めして、恨まれたことがあるからなあ。あ、スプーンもう一つつけといてもらえますか?」

 遠い昔の事を思い出しくすくす笑いながら、僕もお客としての心得を忘れない。

「しかし僕は、優秀な人材に対してどんよくだ。スカウトは長期的に行うつもりだから、また声をかけるよ。君の結界構築能力は希少だし、隠世でも役に立つ。他に取られるのもしゃくだからな」

「ったく。俺は誰のものにもならねえ。というか、強いて言うのなら俺は真紀のもんだ。あいつのものはあいつのものだが、俺のものはあいつのもんだからな。はい、3520円になります」

「すでに嫁の所有物と認めてしまっているのを見ていると、かつての勇猛果敢な酒吞童子を思い出せなくなる……あ、領収書ください」

「はいはい。天神屋様、天神屋様、と」

 馨は領収書を手際よく用意し、僕に手渡した。

 そしてこんなことを言うのだった。

「ふん。まだ新婚を気取っているお前には、分からんだろうがな。夫婦関係ってのはあきらめと妥協、そして諦めが肝心で、お互いの情がものを言う。自分勝手なことはしないが、お互いの意思や行動は尊重する。それが長続きのけつだ」

「……僕よりずっと子供に見えるお前に、夫婦について説かれるとはな。しかし千年の夫は言うことが違う。参考にさせてもらうよ」

「ああ。まあ、お前んところも上手うまくいくことを願っているよ。お買い上げありがとうございましたー」

「ふふ……ではな酒吞童子。いや、馨」

 そして、コンビニの袋を持って、僕はこのコンビニを出て行った。

「ねえねえ! 天酒君、今のかっこいい人と知り合いなの!? それともお兄さんとか!? 私ちょー好みなんですけどっ! お兄さんだったら紹介してよう」

「別に……兄とかそういうのじゃないです。ただの古い友人ですよ」

 出て行く際に、馨が他の店員と会話するのが聞こえた。

 古い友人、か。

 確かに僕と馨は、千年前の友人。

 僕がまだ天神屋の大旦那でもなければ、馨は人間ではなく真っ当な鬼だった頃の、鬼仲間だった。


 千年もてば、色々ある。

 お互いを取り巻く環境が変わっても、こうやって気兼ねなく語り合える友人がいるというのは、貴重なことだ。

 僕のことを大旦那扱いしない者など、もう本当に数えるほどしかいないからな。

 そして……

「……おや。君も来ていたのかい?」

 僕の赤いひとみが、その少女の赤い髪を捉えた。

 コンビニの外で、くぎバットを持ったまま仁王立ちしている、セーラー服姿の少女がいたのだった。

 ああ、なんと言うか、コンビニを出た途端、殺気がすると思ったんだよな。

 僕は彼女に、とても嫌われているから。

「ごきげんよう、奥方殿」

「ごきげんよう、鬼神。天神屋の大旦那様って言った方がいいかしら」

 そして釘バットをガツンと地面に付ける。

 人間なのに結界を破って入って来た〝謎の少女〟に、サスケがひどく警戒していた。

「何やら私の旦那様と仲むつまじくお話ししているようだったから、外で待たせてもらったわ。カマイタチのその子に暇つぶししてもらいながらね」

 サスケが何か口を挟もうとしたが、僕がそれを制する。

 いくらサスケがれの忍者でも、彼女には指一本触れられないだろう。

「最近、やけに現世に現れるみたいじゃない。私のけんぞくであるすいれんの店にも、通っているようだし」

「水連には色々とね、お世話になっているんだよ」

 僕はニコリとした笑顔で返す。

「ふーん。いったい何をたくらんでいるのやら」

 そして、赤い髪を手で払う少女。

「言っとくけれど、私の旦那様は、あなたのお宿にあげないからね。前みたいに、隠世に連れて行かれたらたまんないわ。もしそんなことしたら……」

「もしそんなことをしたら……どうしてくれるんだい?」

「ええと、こんしんの力でぶつわ。この釘バットで!」

 なんて彼女が言ったので、サスケが懐からクナイを取り出し、目の色を変え身構える。

 だがそんなサスケを僕は再び制して、大きな声で笑った。

「あっはっは。僕にそんなこと言うのは、君くらいのものだよ」

「あなた人間の奥さんをめとったんでしょ? だったらそのうち夫婦げんもするでしょうし、奥さんに平手で打たれることもあるわよ。ことによってはグーパンかも。断言できるわ」

「うーん、そんなことのないよう、心がけよう」

「そうね。奥さんを細やかに気遣うのは夫の仕事よ。全力で大事になさい」

「言われなくとも」

 そして彼女は、僕を横切ってコンビニに入っていった。

 前世の旦那を迎えに行ったのだろう。



「やたらと偉そうなおなごでござった。人間にはあのような恐れ知らずのおなごがいるのでござるか」

 サスケが今もまだピリピリして、髪を逆立てている。

 先ほど出会ったセーラー服の少女が、よほど衝撃的だったのだろう。

「あっはっは。あの娘はただの娘じゃない。現世でも指折りの大妖怪、茨木童子その人だ。偉そうではなく偉いのだよ」

「え……っ、あの茨木童子でござるか!?

 サスケは酷くショックを受けている。

 世に聞く茨木童子像と、かけ離れた姿であるのは間違いないだろう。

わいらしい女子高生姿だったから信じられないのも無理はないが、茨木童子とは紛れもなく彼女の前世で、今は人間なんだ」

「それは、酒吞童子と同じく、人間に生まれ変わったということでござるか」

「そう……酒吞童子と同じさ。そして酒吞童子と茨木童子はかつて夫婦だった」

 そして僕は、コンビニで買ったものが目一杯詰まったビニール袋を両手に持ったまま、この浅草の地の空を見る。

「僕はね、こう見えてあの夫婦にとてもあこがれていたんだ。今でも理想の夫婦像に、あの二人が思い浮かぶ」

「大旦那様が憧れるには……いささか小物臭く見えたでござる。特にあのコンビニ店員の男子は。あれが天下の酒吞童子とは」

「あっはっは! そう言うな。酒吞童子は昔からあんな感じだ。素朴で妻思いの働き者。そして奥方の茨木童子にめっぽう弱い。かかあ天下という奴だ。しかしいばらひめ……茨木童子にだって女性らしく心配性なところがあるのだよ。僕に夫を連れて行かれないか、いつもヒヤヒヤしているみたいだ」

「ああそれで。立場もわきまえずおおだん様にガンと殺気を飛ばしていた、と」

「立場、か。ふふ。僕と彼らはお互いに対等だと思っているんだよ」

 なかなか、僕らの関係性を理解できる者はいない。

 だからこそ、貴重な関係だと思って、僕はそんな彼らとのつながりを絶やさぬよう、スカウトなどと言ってあししげく浅草に赴いているのかもしれない。


 いつか、あの夫婦が再び本当の夫婦になったあかつきにでも、新婚旅行で天神屋を利用してもらいたいものだ。