第十一話 葵と銀次とインスタントラーメン



 これは、ゆうがおの営業後のこと。

 私、あおいは、てんじんわかだんであるぎんさんと共に、本日の営業を無事に終え、ほっと一息ついていた。

「はああ〜。今日もお疲れ様です、葵さん」

「ええ、お疲れ様、銀次さん。今週はお客さんが多くて疲れたわね」

「ええ。でも明日は夕がおの営業はお休みですから、葵さんもしっかり休息を取ってくださいね」

 私たちはカウンターの椅子に座り込み、お茶をすすった。

「はあ〜。おなかペコペコですが、今日は余り物がほとんどありませんよね……」

「そうねえ。いつもは何かしら余ってるんだけど」

 しかし、夕がおの営業を手伝ってくれた腹ペコな銀次さんをそのままにはできない。

 そこで私は思い出す。

 以前大旦那様がうつしで買ってきてくれた、あるものの存在を。

「そうだ! 銀次さん、大旦那様が現世出張で、袋入りのインスタントラーメンを買ってきてくれたの。せっかくだから、お夜食に食べていかない?」

「インスタントラーメンですか!?

 銀次さん、目を輝かせて前かがみになり、予想以上の好反応だ。

「いいですねえ! 私、現世のインスタントラーメンって食べたことないんですよ。ずっと食べてみたいと思っていたのです!」

「ふふっ、これがなかなか美味しいのよ。毎日食べると私は飽きちゃうんだけど、でも時々食べたくなるっていうか、久々に食べるとすごく美味しく感じるっていうか。簡単だし、お値段もお手頃だし、ちょっとしたアレンジで、美味しさもグッと上がるの」

「ちょっとしたアレンジとは?」

「そうねえ。本当はチャーシューが欲しいところだけれど……どうしようかな」

 夕がおでラーメンを出すことはほとんど無いので、チャーシューを常備していることはない。

 だけどチャーシューが無くても、ラーメンは色々な可能性を秘めている。

「あ、でも大旦那様が買ってきてくれたのは博多はかた豚骨のインスタントラーメンだから、ピリ辛の高菜が合うかも。博多の豚骨ラーメンっぽくて美味しいんじゃないかしら」

「辛子高菜はちょうど、今週の定食のご飯のお供でしたね」

「ええ。たくさんあるわ。……あと、そうね。おじいちゃんが時々夜中に作ってくれた、野菜いためたっぷりのお夜食ラーメンもいいかも。野菜と、豚肉が少し余ってるし」

「……ろう殿が?」

 祖父の名前が出たからか、銀次さんは不思議そうにして首をかしげていた。

「意外です。この手の食品は好まない方かと思っていました」

「まあ、確かに加工食品は嫌いな人だったけれど、袋入りのインスタントラーメンは別みたい。これだけは侮れない〜って言ってたわ」

 なので、おじいちゃんはよく袋入りのインスタントラーメンを自分で作って、小腹がいた時の夜食にしていた。

 私も時々、おじいちゃんの作ったインスタントラーメンを小さな器に取り分けてもらったりして、食べていたのよね。



 懐かしい気持ちになりつつ、私はさっそく台所に戻り、野菜炒めを作る。

 にんじん、玉ねぎ、キャベツ、もやし、豚肉の細切れなど。

 余り物をザクザクッと切ってごま油で炒める。

 塩しょうと、おしょうをちょろっとかけるだけの、あっさりした味付けでOKだ。

 あとは、銀次さんに即席袋ラーメンの作り方を教えながら、なべで四角い塊になったかんめんと、スープになる調味料を煮込む。

 乾麵をはしでほぐす時がちょっと楽しい。

「はああ〜。現世のインスタントラーメンの作り方って、本当に簡単なのですねえ。あっという間でした」

「不思議でしょ? 誰でもすぐに作れるから、忙しい時やすぐに何か食べたい時に、重宝するのよ」

「現世の人間とは、面白いものや便利なものを作る天才ですね。私はいつも感心してしまいますよ」

 簡単にインスタントラーメンが作れるので、銀次さんはとても驚いていた。

 その様子が新鮮で、私も思わず笑ってしまう。

 現世では当たり前のように食べていたけれど、確かに人間たちの生み出すものは面白い。

 かくりに来たからこそ、私はそう思えるようになった。

 さて。

 すぐに出来てしまったインスタントラーメンを、王道のラーメン鉢に盛り、作りたての野菜炒めもこんもりのせる。

「もう、これだけで美味おいしそうです……っ。豚骨スープの香りも相まって」

「まだダメよ銀次さん。もうちょっと我慢よ」

 ひそかにでていた半熟ゆで卵を半分に切り、ラーメンの上にポンとのせて、本来はご飯のお供である辛子高菜も脇に添える。べに生姜しょうがもお好みで。

「完成〜〜っ! ピリ辛高菜入り豚骨野菜ラーメン〜〜!」

「わーっ、素晴らしいです! これは豪華です! 絶対美味しいやつです!」

 ラーメン鉢を抱え、いそいそと二人並んでカウンター席に座る。

「いただきます!」

 さっきまで疲れ切っていて、お腹が空いて元気がなかったのに、威勢良く手を合わせお夜食ラーメンをすする。

 豚骨スープはちょっぴり人工的でしっかりした味。

 でも、疲れた時はこのくらいがちょうどい。

 味付きの煮卵ではなく、ただの半熟ゆで卵にしたのは、この濃い目のスープの味が染みて程良いからだったりする。

 インスタントラーメンらしい縮れた麵の食感やスープの味が、何だかとても懐かしい。

 空腹も相まって口に運ぶ箸が止まらない。

 たっぷり野菜炒めのおかげで、夜食にラーメンを食べている罪深い感じが、多少薄れるしね……

「あーっ、美味しかった!」

「お腹も満たされました!」

 私と銀次さんはすっかり満ち足りた表情で「ごちそうさま」をする。

「人工的で、手作りの味ではないかもしれないけれど、これはこれですぐに温かいものが食べられて、幸せな味がするのよね」

「そうですねえ。私も好きです。お酒との相性も意外と良さそうで」

 銀次さんは何とも言えない幸せそうな表情で、きゅうを揺らしていた。

 その手元には、見覚えのある銀色の缶が。

「あっ! 銀次さんったらいつの間に缶ビールを!? それ、もしかして大旦那様からのお土産?」

「ええ、そうなんです。こっそり冷やしていたのですが、これを開けるのが楽しみで……葵さんも少しいかがですか?」

「ビールかあ。実はあんまり飲む機会が無かったのよね……うん、挑戦してみる!」

 休日を前にした、営業後の気楽なひとときだ。

 真夜中に温かいインスタントラーメンを。

 そしてビールも、ちょっとだけ飲んでみよう。


 意外と幸せの味がするものだ。

 今日も今日とて、お疲れ様。