第九話 チビと天神屋のあやかしたち



 吾輩わがはいまり河童かっぱ

 名前はまだ無いでしゅ。

 でもあおいしゃんは僕のことを〝チビ〟と呼ぶのでしゅ。

 チビって名前でしゅか? 僕わからないでしゅ。


「葵しゃん、起きるでしゅ〜」

「うーん……」

「起きるでしゅ。もう僕お腹空いたでしゅ」

 お布団で寝ている葵しゃんのほっぺをペチペチする僕。

 毎朝僕の方が早く起きるでしゅ。

 僕は葵しゃんの目覚まし時計の代わりをしてあげる優秀な眷属でしゅ。

「おはよう……あんたっていつも無駄に早起きね。あやかしの癖に。ふあ」

「おはようでしゅ。僕はうつしに居た時も、葵しゃんに餌を貰うために毎朝早起きしてたでしゅ〜」

「餌って言わないで……せめてご飯って言ってよ」

けされてしまったので餌でしゅ。僕は家畜でしゅ」

「……でも家畜って言うほど、あんたに畜産性があるとは思えないんだけど。食べられないし、力仕事ができるわけでもないし」

「じゃああいがんあやかしでしゅ! 僕はみんなに愛らしさを振りまき、可愛がられるために生まれてきたのでしゅ」

「自分の事やっぱり可愛いって思ってるんだ」

「あー?」

「またとぼけた顔して……かわいいっていうか、あざといって感じよ、チビは」

 葵しゃんはやれやれと立ち上がり、一度背伸び。手ぬぐいを持って裏手へ。

 顔を洗って、いざ、朝ご飯の準備でしゅ。

 今日の僕の朝ご飯は、きゅうりの味噌和みそあえと、小さなしゃけのおむすびだったのでしゅ。

 そして葵しゃんが作ってくれた小さなきゅうり弁当を持って、僕はてんじんダンジョンへと遊びに行くのでしゅ〜。



「おや、今日も水遊びですか? 涼しそうですねチビさん」

 中庭のお池より、ずーっと涼しい笑顔のきつねしゃん。

 葵しゃんの上司っぽいひとでしゅ。そんな狐のわかだんしゃまが、お池の側を通りかかったでしゅ。

 池から出て駆け寄る僕。

「狐しゃん狐しゃん、これあげるでしゅ」

「ん? 何ですか、これ」

「お池の底にあったれいな石でしゅ〜」

「わあ、本当に綺麗ですね。ありがとうございます」

 狐しゃんは僕の拾った桃色の石を受け取って、僕の額を指ででたでしゅ。

 優しくて偉くて強い狐しゃんなので、僕はこの手のあやかしには基本こびを売って懐くスタイルでしゅ。狐しゃんの指にすりすり。

「では代わりにこれをあげましょう」

「これなんでしゅか〜」

「落花生です。さっき常連のお客様が差し入れに持ってきてくれたもので、美味しいんです。殻をむいてあげましょうね。あ……葵さんには内緒ですよ?」

「あーいでしゅ」

 僕はこの手のだいようかいには、基本懐くスタイルでしゅ〜。



「うぎゅう」

「あ、ごめーん。ちっさすぎて全然見えなかったわ」

 乱暴な雪女しゃん。遊び疲れてお昼寝していた僕に気がつかず、ゆうがおの座敷席に座り込んだので、僕は危うく圧死するところだったでしゅ。

「雪女しゃん重いでしゅ……もうちょっとせるでしゅ」

「はい? もしかしてこの私にけん売ってる? 最近ダイエットを大成功させたところですけど? ちびっこい河童のくせに生意気よ!」

「あっ、甲羅つかんで持ち上げるの禁止でしゅ。甲羅が取れるでしゅ」

「え? これ取れるの? 中身が気になるわ〜見せて見せて」

 雪女しゃんは僕の甲羅の中身に興味津々。

 甲羅を引っ張ったり隙間からのぞき込んだりするのでしゅ。わいでしゅ。

「あっ、やめるでしゅ。いじくるなでしゅ。セクハラとパワハラで訴えるでしゅ」

「ちっこい河童が何言ってんのよ、減るもんじゃないし……へへ」

「あーれーでしゅー」

 ジタバタ暴れる僕をかなり好き勝手に弄ぶ雪女しゃん。

 僕はされるがまま。

「二人とも、さっきから何してるの? おなか空いてるんだったら、ミルクプリンを作ってみたんだけど食べる?」

「あああっ、食べるっ!」

 でも葵しゃんの鶴の一声で、雪女しゃんは僕を放り投げて、ミルクプリンという甘いお菓子に飛びついたでしゅ……

 あー。ほんとやれやれでしゅ。

 雪女しゃんは何もくれないでしゅ。害しかないでしゅ。

 特にびる必要はなさそうでしゅ〜。



「どうしたんだいチビ、縁側でぼーっとして」

 鬼の大旦那しゃまが、夕がおの裏の縁側にやってきたでしゅ。

 天神屋というお宿で一番偉いあやかしでしゅ。

 葵しゃんの夫を自称してましゅ。

 その鬼しゃんが、何かを入れたかごを持って、僕の隣に座り込んだでしゅ。

「あー。ひなたぼっこでしゅ」

「河童も日向ひなたぼっこをするんだね。お皿の水が乾いてしまわないのかい?」

「わざとでしゅ。こうやってお皿を除菌してるでしゅ。たまにしないとカビが生えるでしゅ〜」

「ああ、なるほど。そういうことか。河童も色々大変なんだね。僕もツノの手入れは欠かさないし、それに似たようなものなのかな」

「あー。大旦那しゃまは何しに来たでしゅか〜」

「んー、葵にあるものを持ってきたんだが、今は夕がおの準備で忙しそうにしていたから、ここに置いていこうかと思ってね」

 僕は目をパチクリ。ついでにくちばしをカチカチ。

「籠の中身はなんでしゅか〜」

「イチジクだ。甘いのを手に入れたから、葵にあげたくてね」

「なら僕が葵しゃん呼んできてあげるでしゅ。直接手渡すでしゅ。僕なら空気を読まずに、忙しくしてる葵しゃんに声をかける事が出来るでしゅ〜」

「こらこら」

 先走って葵しゃんの元へ急ごうとした僕の甲羅を、鬼しゃんが摑んで引き戻したでしゅ。

 今日はやたらと甲羅を摑まれるでしゅ〜。

「チビ、お前の気持ちはうれしいが、そんなことをしてはいけない」

「あー。なんででしゅかー?」

「葵は今、とても集中していたからね。僕はそういう葵の、一生懸命働く姿を見るのも好きなんだ……」

 何だか嬉しそうな大旦那しゃま。

 僕を縁側に降ろすと、頰をツンとつついたでしゅ。

 そして夕がおが開店する直前の黄色い空を見上げたでしゅ。

 結局持ってきたイチジクをその場で割って、僕に食べさせてくれたでしゅ。

「甘くって美味おいしいでしゅ〜」

「そうだろう、そうだろう。葵の分は残しておいてくれよ」


 僕は美味しいものをくれる強くて偉くて優しいあやかしの言うことは聞くでしゅ。

 めでたしめでたし? でしゅ〜。