第八話 大旦那とチビとじゃがいも



 あるところに、まり河童かっぱという極小あやかしがおりました。

 名前はチビ。

 愛らしい容姿とあざとい言動で、あやかしたちのお宿・てんじんのマスコットキャラを自称していました。


「迷子になったでしゅ〜。困ったでしゅ〜。あおいしゃんのところに帰れないでしゅ〜。おなか減ったでしゅ〜」

 チビは天神屋の最上階をうろちょろし、宝探しの途中で、迷子になったのです。

 どうしてチビが天神屋の最上階にいるのかというと、ここに黄金の隠し財宝があるという情報を、か弱いようかい仲間から入手していたからでした。

「おや。手鞠河童のチビじゃないか。どうしたんだい、こんなところで」

「あー、鬼しゃんでしゅ」

 そんな時、天神屋のおおだん様に出会いました。

 大旦那様は天神屋で一番偉いあやかしです。

 大旦那様は自分の執務室へと戻る途中でしたが、格好はなぜか農作業着でした。

「あー? 鬼しゃん農家に転職したでしゅか〜?」

 手鞠河童のチビは首をかしげるばかり。

 いつも大層偉そうな格好をした大旦那様しか見たことが無かったからです。

「ああ、お前はこの格好を見たのは初めてか」

「鬼しゃんはいつも真っ黒、もふもふ、謎風バサバサ、シャキーン、って感じでしゅ〜。偉そうでしゅ。強そうでしゅ」

「お前はいつも僕をそんな風に見ていたのか……」

 大旦那様はチビの甲羅をつまんで、床から拾い上げました。

 大切なお嫁さんがわいがっているけんぞくなので、ばしたらいけない、と思っていたのでした。

「ところでチビは何をしていたんだい? ここはそう簡単に来られる場所じゃないんだが」

「お宝探しでしゅ〜。世界で一番ビッグなお宝見つけるでしゅ〜。僕はどんな場所にも行けるんでしゅ。ちっこい体、微弱すぎる霊力が大正義でしゅ〜」

「ははあ、なるほど。天神屋のセキュリティーも、チビにはかなわないか」

「でもここから出ることができないでしゅ。ちょっとお腹すいて力が出ないでしゅ」

「ほう。ならば共に来るといい。いいものをあげるよ」

 大旦那様はチビを肩に乗せて、そのまま執務室へと入ります。

 そして、大旦那様がいる時にだけ開かれる屋上庭園へと向かったのでした。

「なんでしゅかーここー」

 チビは目をパチクリ。

「秘密の庭さ。僕はここで野菜を育てていてね。今日はじゃがいもを収穫しようと思っていたんだ」

「鬼しゃんって暇なんでしゅね〜」

「……お前は時々しんらつだな」

「あー。何のことでしゅか〜?」

 チビは畑に飛び移り、大旦那様が掘り返す場所を、自身の水かきでカリカリ掘りました。

 土まみれになったチビは、自分と同じくらいの大きさのじゃがいもを、たくさん見つけました。

 大旦那様はこれらをひのきのバケツに入れ、庭にある噴水の水で洗います。

 そして、何度か使ってきたき火跡地に、銀紙で包んだじゃがいもを並べて、自身の鬼火で再び火をおこしました。

「チビ。お前、じゃがいもは好きかい?」

「大好きでしゅ〜。きゅうりの次に好きなお野菜でしゅ。でもトマトもにんじんもきゅうりの次に好きでしゅ」

「あははっ、二番目に好きな野菜はいくつもあるんだな。しかしお前の一番はやっぱりきゅうりか。なぜ河童はそれほどまでに、きゅうりが好きなのか。いまだ謎だ」

「かっぱがかっぱであるためのアイデンティティーでしゅゆえ」

「お前は時々難しい言葉を知っているな」

うつし出身でしゅゆえ」

 そんなこんなで、じゃがいもが焼けました。

 大旦那様が銀紙をぐと、焼きじゃがのお目見えです。

「ほわー。これはヤバいものがでてきたでしゅ〜、ヤバヤバでしゅ〜、ホクホクでしゅ〜」

「こら、まずは手を洗いなさい。そうだ、いい子だね。って、噴水の水で泳ぎだしたか。かっぱのさがだな」

 どうしても河童の性分に逆らえず噴水の水で泳ぎだしてしまったチビの甲羅を、大旦那様は優しくつまんで、噴水から持ち上げました。

 そして自分の手ぬぐいで体をいてあげました。

「違うんでしゅ。食事前の運動してただけなんでしゅ。おかげで土だらけの体きれいになったでしゅ〜」

「別に怒っちゃいない。ほら、お腹がいているんだろう、焼いたじゃがいもだ。熱いから気をつけてお食べ。僕のオススメは岩塩としょうを少々……って、聞いてないな」

「んあー、そのままでもとっても甘いでしゅ〜」

 チビはくちばしでじゃがいもをついばみ、新鮮なじゃがいもの甘さと美味おいしさに、気持ちがホワホワとしてしまうのでした。

「だろう。この品種はくりのような甘さのある、金色のじゃがいもなのだ。これは焼いただけで美味うまい。あと食べたら気分がホワホワになる」

「お土産持って帰りたいでしゅ。葵しゃんきっと喜ぶでしゅ。これがきっと、黄金のお宝なのでしゅ〜」

「黄金?」

 大旦那様は何のことだか分からない様子でしたが、まあいいやと言って焼きじゃがを頰張ったのでした。

「お前はなんだかんだと言って、葵思いだね。いいとも、重いだろうから、後で僕がゆうがおの縁側まで持って行ってやろう。そしてお前から、葵に贈っておやり。葵のことだから喜んで調理してくれるだろう」

「あー?」

 チビは首をかしげました。大旦那様の言葉が不思議で仕方がなかったからです。

「鬼しゃん、葵しゃんにプレゼントしないでしゅか?」

「僕より、お前からもらったほうが葵もうれしいだろう」

「鬼しゃん、葵しゃんの旦那しゃま。葵しゃん、鬼しゃん来たら喜ぶでしゅ」

「はは。これがまだ旦那様じゃあないんだな」

 大旦那様は苦笑いしていました。

「気持ちの問題でしゅ〜。僕も眷属の契約なんてしてないでしゅ。でも葵しゃんの眷属って言い続けてるでしゅ。そしたらもう眷属みたいなもんでしゅ」

「ほほう。確かに言われてみればそうだな。お前がそういうので、誰もがそうだと思っていたよ。言霊というやつだな。お前にそんなことを説かれるとは」

「葵しゃん、時々鬼しゃん待ってるでしゅ。大旦那様、いつ夕がおに来るかしらって、ぼやいてるでしゅ。鬼しゃん、葵しゃんの気持ちもてあそんだら、僕が許さないでしゅ〜」

…………

 大旦那様はチビの言葉に少々驚きました。

 そして顔を染め、ゴホンとせきばらい。

「ま、そうあまり期待させるな」

「あー。偉そうななりのくせに繊細な鬼しゃんでしゅねえ」

「うむ、僕は繊細なのだ」


 一匹の鬼と一匹の河童。

 もくもくと焼きじゃがを食べたのでした。