第四話 葵と大旦那の妖都土産散策



 ここはかくり

 私、あおいは、最もにぎわいのある中央の地・ように来ている。

 てんじんおおだん様に連れられ、あやかしばかりの妖都を散策しているのだ。

 妖都は最もあやかしの集まる場所で、隠世のあやかしたちのトレンドが生まれる場所でもある。

 妖都で見たもの、聞いたものを、私の営む食事処〝ゆうがお〟のメニューや天神屋のお土産に取り入れたりする。

 私たちはそういう情報収集のため、時折妖都に繰り出すのだった。


 人だかりのある大きな土産屋の前で、私はあらゆるものに興味をそそられていた。

「ねえ大旦那様。大きなお土産屋さんよ。お菓子のお土産がいっぱいあるわね。あとお漬物も」

「ああ、妖都には〝古都菓子〟と呼ばれる古くから親しまれる菓子や〝ようつけもの〟という独特の技術を用いた漬物が、土産物として人気なんだ」

 大旦那様は人差し指を立てて、丁寧に教えてくれる。

「へえ〜。あ、このお菓子美味しそう。桜の塩漬けをとじ込めた、あまじょっぱい寒天のお菓子、だって」

「ああ、すいしょうざくらか。春になると、よく妖都のあやかしたちから土産でもらうな。なかなか上品な味だよ」

 よく貰うんだったら、私にも少し分けてくれたらいいのに……

 とか思いつつ、私はあるものに目を奪われ「あっ」と声を上げた。

「ねえ見て! こっちは色々なあやかしのお面せんべい。一番人気は〝化猫〟だって。二位はきつね。……鬼は三位だけど、そこのところ大旦那様的にどうなの?」

「う、ううむ。これは仕方がない。猫が相手なら勝てない。勝てる気がしない。狐もしかり。鬼の面は、僕から見ても怖いと思うしな」

「こっちでも猫や狐って人気なのねえ。そして大旦那様も、鬼のお面を怖いと思ってるのね。鬼のくせに」

 確かに私も、お土産で貰うなら猫のお面がいいかも。なんて……

 あ、でも鬼のお面はやくけやけに有効とのこと。

 あやかしですら怖いと思うのが鬼ならば、なるほどと思える。やっぱり鬼がいいかな。



 私は次に、土産菓子コーナーの奥にある、妖漬物の一角に進む。

 そこで変わった展示物を見つけた。

「ねえ、これは何? 綿あめみたいにもくもくしたものが、たるの中からあふれ出しそうよ」

「ああ、これは泡漬けという、妖漬物の一種だ」

「お漬物なの!?

「泡を吐く大なまずのいる池が、妖都より北の山中にある。その池の水で丁寧に洗った野菜を漬物にすると、ああやって泡が発生するんだよ。あの泡が漬物をより奥深い味わいにするんだ」

「へええ。ちょっと食べてみたいわね……」

 うつしには無いと思われるお漬物。その味が気になっていたら、店員が手招きして、漬物の試食を勧めてくれた。

 泡立ったおけの中から漬物を探し、さいばしつまみ上げて小皿にのせる。

 オススメをいくつか寄せてくれたので、複数の色とりどりな野菜が出揃い、目も楽しい。

 薄切りのカブを昆布仕立てで漬け込んだ漬物を、まずは食べてみる。

「これは、千枚漬けみたいな酢漬けのお漬物かな。……わあ、なんて柔らかいカブ。甘酸っぱいけれど、泡のせいかトロッとしていて、とてもまろやかで。でもしっかりした味がついているから、これは白ご飯がすすみそうだわ」

 ご飯にかけたら、とろろご飯とか、めかぶご飯とか、そういうのに近い食べ応えになりそう。というわけで、泡漬けのお漬物を、いくつか買ってみることにした。

 夕がおの定食にも出してみようかな。

 大旦那様が何やら興奮した様子で、私を手招きしていた。

「葵。こっちには山芋の漬物もあるぞ。梅で漬けた山芋だ。これは白飯のおともというより、いい酒のつまみになるんだ。シャキシャキとしていて、歯ざわりも楽しい。食べていたらいつの間にか無くなってしまう」

「あ、本当だ美味しそう! 四角くてコロコロしている。これだけで一品料理になりそうだし、色もピンクでわいいわね」

 というわけで、山芋のお漬物もゲット。

 大旦那様の晩酌用に、何袋も。

「あ。旬の漬物は、たけのこの漬けと、菜の花の浅漬けらしいわね」

「天神屋の皆に買って帰ろうか。美味い漬物があると、忙しい合間の食事も楽しくなるだろう」

「大旦那様は宿で一番偉い鬼なのに、従業員にお土産を買っていくことがあるの?」

「何を言う。天神屋の皆は家族だ。土産は出張のたびに買ってくるよ」

「ふふっ。まあ、知ってるわ」

 大旦那様は確かにいつも、現世なんかに出張に行くと、土産を山ほど買ってくる。

 天神屋の従業員を大切に思っているのだろうな。

「ええと……ぎんはとにかく酒が好きだから、の酒かす漬け。おりょうは米が好きだから、白米が進む大根の漬け、あかつきは仕事に集中すると日々の食事が適当なところがあるから、どんな食事にも合うしば漬けがあるといいかな。あとのっぺらぼうの三姉妹は新しいものに敏感だから、店の新作を買っていこうか」

「へえ。従業員の好みもよく把握しているのね」

「もちろんだとも。それだけ長く、共に働いてきたということだ。葵も天神屋で働いていくのだから、そのうち従業員のあやかしたちの性格や、内に秘めた事情を、嫌でも知ることになる。特に葵は、食事を通して彼らと触れ合う機会が多いだろうしな」

「……ご飯を振る舞うだけで、みんなのことが分かるかしら」

「もちろん。お前の料理は、あやかしたちの内面を暴くからね。きっとそのうち、僕より彼らの日常の出来事や、悩みや相談を聞く機会が増えていくだろう。食べ物の好き嫌いもすっかり把握して、葵はお客だけでなく、天神屋の従業員の胃袋すらつかんでしまうのだろうね」

 意味深な笑みを浮かべる大旦那。

 天神屋のあやかしたちとはまだ短い付き合いだけれど、これから先、長く付き合っていく中で、私は彼らのことをどれほど知ることができるだろう。

 そして、ふと思う。

 目の前にいる、一番謎に包まれたこの鬼のことを知る日も、いつか訪れるのだろうかと。

 いやしかし、冷徹な一面もあるのに、今は漬物を従業員のために大量買いしている鬼神の大旦那なんて、深く知ろうとすればするほど、訳がわからなくなるに違いない。

 そこのところだけ、私にはすでに、予感があったのだった。