第二話 夕がお前日譚



 ここは、あやかしたちの住まう世界・かくり

 鬼門の地にある老舗宿〝てんじん〟の中庭には、趣のあるかやき屋根の離れがある。

 この離れに〝食事処〟を作ろうと考え、私、あおいは張り切って準備をしていた。

「ねえぎんさん、ちょっと聞いていい?」

「なんでしょう、葵さん」

 私はある事が気になって、一緒にメニュー考案をしてくれていた銀次さんに尋ねた。

 銀次さんはここ天神屋の〝わかだん〟で、中庭の離れを管轄しているきゅうきつねだ。

 銀髪と銀の耳、銀の尾が特徴的で、いつもさわやかで優しく、頼もしい。

 ちょっと腹黒い時もあるけど……

「銀次さんは、大旦那様の一番の大好物って知ってる?」

「大旦那様の、一番の大好物ですか?」

「大旦那様だけ、大好物が全然わからないの。本人も教えてくれないし。はぐらかしてばかりで、本当に何を考えているのかわからない鬼だわ」

「なるほど、そういうことですか。そうですねえ……」

 銀次さんはあごに手を添えて、少し考え込む。

「長い付き合いのある私でも、大旦那様の一番の大好物はわかりません。家庭的で、素朴なお料理が好きなのだろうなと思うのですが……基本的に、何でも食べる方なのです」

「そっか。大好物が分かったら、取り引きや駆け引きに使えるかもって思ってたのに」

「そう言えば葵さんは、あやかし好みのお料理を作ることで、うつしのあやかしたちと渡り合っていたと言っていましたね」

「そうよ。お料理は私の、あやかしとのコミュニケーションツールなの。大旦那様ってひょうひょうとしていて読めないところがあるでしょ? だからせめて、好きな食べ物やお料理を知りたいところなんだけど」

「葵さんが大旦那様に嫁入りしたら、教えてくれるかもですよ……っ!

 ここぞと私を大旦那様の嫁にしたがる銀次さん。

 私はジトッとした視線を銀次さんに向ける。

「大好物が知りたくて嫁入りするほど、私は料理バカじゃないわよ」

「そ、そうですか……」

 ちょっぴり残念そうに、狐耳を垂らした銀次さん。

 銀次さんは耳を見ていると感情が良くわかるなあ。

 大旦那様も、鬼の角の様子で感情が分かれば苦労しないのに。色が変わるとか……

「うーん。じゃあ逆に、大旦那様に嫌いな食べ物ってあるのかな」

「あ、それなら私、分かります!」

 耳をピンと立てて、銀次さんは得意げな顔をして人差し指を立てた。

「それはズバリ、かぼちゃです!」

「かぼちゃ? 大旦那様ってかぼちゃが苦手なの?」

「はい。食べられないほどではないらしいのですが、好んで食べるほど好きではないと、ぼやいていたのを聞いた事があります。かぼちゃは甘いので、おかずとして食べるのが苦手なのだとか。あと、かぼちゃを食べるとのどに圧迫感を感じて、詰まらせそうになるとか何とか」

「あ〜なるほど。もしかして、かぼちゃの煮付けとか、かな」

「そうだと思います」

「何となくわかるわ、その感覚」

 かぼちゃは、甘くてほくほくしていて美味しい。

 煮付けなんかは家庭料理としても一般的だし、女性に人気があるお料理だ。

 だけど、それをおかずとして食べるのが苦手な人がいるというのは、どこかで聞いたことがある。

 特に男性に苦手な人が多いらしい。おじいちゃんもかぼちゃ入りしるが嫌いだったしなあ……

 あと、確かにねっとりとしていて飲み込みづらい時があるから、私も幼い頃、かぼちゃが少し苦手だった。

「うーん、なら食べやすいかぼちゃ料理を作ったら、食べてくれるかな……」

「作りますか! 葵さん! 大旦那様にお料理を!」

「銀次さんって、すぐ私にお料理させたがるわよね……特に大旦那様に対して」

 興奮した様子の銀次さんはさておき、私は私で、大旦那様が食べやすいかぼちゃ料理は何だろうかと考えている。

 お料理のことになると、楽しくてつい、色々な妄想をしてしまうのよね。

「ならば本日、大旦那様が気に入ってくださるようなかぼちゃのお料理を作って振る舞いましょう! お食事処のメニュー考案の試食と称すれば、大旦那様は来てくださるでしょう」

「でも、かぼちゃなんてここに無いわよ」

「ノープロブレムです。私、今から急いでかぼちゃを調達してきます。季節外れですが、手に入る所を知っていますので!」

 銀次さんがやたらと張り切っている。

 この離れからすぐに飛び出して、どこかへ行ってしまった。

 ただ一つのかぼちゃを求めて……

「葵ー、なんか作ってー」

「あ、おりょう。休憩時間なの?」

 入れ替わるようにこの場所にやってきたのは、雪女のお涼だ。

 彼女はもともと私を敵視していたこの天神屋のわか女将おかみだったが、色々あって今はただの仲居となった。

 そして時折、私の元へとご飯を求めてやってくる。食費が浮くからだ。

 今はお店のメニュー考案中で、お料理の意見を聞くことができるので助かるが、早々に開店にぎ着け、このタダ飯食らいからお代をちょうだいしなければ。

「ねえ葵。さっき若旦那様がせかせか走って本館へ向かっていたけど、あんたあの人を小間使いにでもしてるの?」

「人聞きの悪いことを言わないでよ。銀次さんは張り切ってかぼちゃを手に入れに行っただけよ」

「かぼちゃ? かぼちゃねえ……ふーん」

 カウンターに座り込みながら、意味深な反応でほおづえをつくお涼。

「かぼちゃやくりや芋って、私大好きだけど、食べ過ぎると太りそうなイメージなのよねー。だからあんまり食べ過ぎないようにしてるわ、私」

「ならお涼、今日は何を食べたいの?」

「牛丼」

「牛丼も十分太りやすい食べ物だと思うけど」

「いいのよ。仲居はカロリー使うお仕事だから、食べてもまたあっちこっち動き回って消化するし」

…………

 それならば、かぼちゃとか栗とか芋も問題無いんじゃ……

 というつっこみは横に置いておいて。

「わかったわ。ちょうど薄切りの牛肉と新玉ねぎがあるし、牛丼を作ってあげる。お涼ってほんと丼ものが好きよねー」

「お米が好きなの、お米が。あの真っ白なてんこ盛りをみていると、故郷の雪景色を思い出すっていうか〜」

 お涼はしみじみ語る。

 確かにお涼はご飯を大盛りで食べるし、何ならよくお代わりをする。

「雪女だから?」

「それもあるけれど、ほら、うちって貧乏だったから。奉公に出される前は、白いお米がおなかいっぱいに食べられなくて、時々白い雪をおちゃわんに盛って食べてたのよねえ」

「え? 白い雪を? あ、あんたって結構苦労してたのね……」

 奉公に出された話は知っていたが、まさかこのお涼に、雪をお茶碗に盛って食べていたひもじい時代があったとは。

 そんな話を聞くと、私はますます張り切ってしまう。

 私は子ども時代のトラウマから、お腹を空かせた人間やあやかしにとても弱い。すぐに何か食べさせたくなるのだった。

「よし。美味おいしい牛丼作るわ、私!」

 そんなこんなで、テキパキと具材を並べ、さっそく調理に取り掛かる。

 牛丼は、丼ものの中で最もメジャーなのでは、というくらい広く愛されている丼だ。

 作り方はいたって簡単。

 しょう、酒、みりんという、あやかし好みの調味料を使い、私の場合はそれに擦った生姜しょうが、特製のお出汁だしを入れて牛丼のおつゆを作る。

 これを入れたなべに、くし形切りした旬の新玉ねぎを投入し、グツグツと煮込む。

 玉ねぎが煮えてきたら、ここに薄切りの牛肉をほぐしながら加え、さらに煮込む。

「ああ〜。たまんないい匂いがしてきた……。葵! 丼のご飯は多めで!」

「はいはい。……太っても知らないけどね」

「つゆだくでね!」

「はいはい」

 ここ最近、お涼専用になりつつある丼の器に、お望み通りご飯を多めに盛り付ける。

 グツグツと良い音を立てて煮込まれた牛丼の具をその上にたんとのせて、温かいおつゆをまわしかけ……刻んだ紅生姜をちょいちょいと添える。

 うん。我ながら食欲をそそる牛丼の出来上がりだ。

「はい、牛丼大盛り、お待ちどおさま」

 その牛丼と、簡単なワカメと長ネギのお味噌汁をお盆にのせて、お涼の座っているカウンター席に持っていく。

「わーい! 葵のお料理はすぐに出来上がるしありがたいわ〜」

 お涼はパンと手を合わせ、豪快に「いただきます」と言って、これまた豪快に丼の具とお米を口にき込んでいた。

「うーん、これこれ。牛肉のうまみが染み込んだ甘辛いおつゆ……お米にたっぷりからませて、ガッと口に搔き込む。殿方の前では見せらんない食べ方だわ〜。でもこれが美味しくて止められないのよね」

「殿方の前ではって……あんたこの前、あかつきがいる前でガツガツニラレバ丼食べてたじゃない。暁ちょっと引いてたわよ」

「暁はいいのよ暁は。あいつ年下だし下っ端だし」

「いや、今はあんたの方が下っ端だから」

 暁というのはつちというあやかしで、天神屋の番頭を務めている男だ。

 天神屋の幹部では最年少であるため、暁はお涼にすらこんな言われよう。

 でもお涼は若女将の座を降ろされてしまったし、今は暁の方が立場は上だから……

「おい、お前たち。今、俺の悪口言ってただろう」

「あ、暁」

 ちょうどこんな時にやってきたのは、番頭の暁だ。うわさをすれば何とやら。

 彼はカウンターの、お涼から離れた席に座った。

 ほぼ同時に、ぐうとお腹を鳴らす。

「ははーん。暁、あんたも葵のご飯を食べに来たのね。あんたも好きねえ」

「ほぼ毎日ここで飯を食ってるお前に言われたくないな、お涼」

 お涼と暁は嫌味を言い合いながら、バチバチとにらみ合っている。

 この二人は、会うたびにこんな感じだなあ。

 大御所の多い幹部の中では、お互いに若手で、ものを言いやすい相手っていうのもあるんだろうけど……

「ちょっと、ここであやかし同士のけんなんてやめてよね。せっかく開店前でれいにしているところなのに、雪との糸でボロボロにされたらたまんないわ。お願いだから、やるなら外に出てやって」

 私は冷や汗まみれで切実だった。

 何しろ少し前、天神屋の高級客間が、蜘蛛のきょうだいげんでボロボロになったところを目撃したばかりだからね。

 この食事どころがあんなことになったら、泣くわ。

「はっ。そんな子供じみたことをするわけがないだろ」

 暁が腕を組んだままフンとそっぽ向く。

「葵。飯だ。俺は腹が減っている」

「……ったく、まだ食事処を開いている訳でもないのに」

 暁の場合、彼は現世出身のあやかしであるため、私の料理にみがあるとのことで、よく私の所にご飯を食べにくる。

「何が食べたいの? あんた洋食好きだから、ハンバーグとか?」

「それも悪くないが、今日はなんか卵の気分だ」

「卵……あ、じゃあオムレツとかどう? 今作った牛丼の具材があるから、それを肉じゃが風にリメイクして、オムレツで包んで食べるの。これ、おじいちゃん直伝のレシピ!」

「ああ。……俺もそれ、食ったことがあるな。それを頼む」

 暁はふと、懐かしそうな目をした。

 暁という土蜘蛛は、現世にて私の祖父である津場木ろうに保護され、育てられていた時期がある。育てられていたというか、家事やら何やらをさせられていたというか。

 いまだ下っ端気質が抜けないのはそのせいかもしれない。

 しかし暁は、祖父の作った料理を今もよく覚えているのだった。

「よし、じゃあさっそくオムレツを作りましょうか」

 牛丼の残り物と、じゃがいもとにんじんを用意。

 小鍋に油を敷いて、小さめに切った人参とじゃがいもを軽くいため、牛丼の具材とおつゆを入れて煮込む。要するにこれは肉じゃがである。

 じゃがいもが崩れ、玉ねぎなんかも多少トロトロになって良い。これがオムレツの美味しい具になる。

「さてと……ご所望の卵、卵、と」

 卵をボールに二つ割って、塩しょうを軽くふるって、さいばしで混ぜる。牛乳を少し入れておくと、濃厚でふんわりと柔らかい舌触りのオムレツになる。特に天神屋が仕入れている牛乳は、温泉上がりに飲むやつで、とっても美味しいから。

 大きめのフライパンに卵を流し込み、ゆっくりかき混ぜながら、ふんわりと焼き上げる。

 半熟よりも、しっかり表面が焼けたところで、牛丼の残り物で作った肉じゃがをのせて、卵でくるんと包むのだ。これが祖父直伝の肉じゃがオムレツ。

「おおお〜」

 なぜか感嘆の声をあげたのはお涼。

 まだ牛丼を食べてる最中だというのに、暁のために作ったこのオムレツに目移りしているのだった。

「はい。おつゆが卵にも染み込んで、美味しいオムレツになっていると思うわ。これは白いご飯と一緒に食べると、懐かしさ倍増よ」

 私はオムレツをお皿に盛り付け、ご飯とおしるをお盆にのせて、暁の席に運ぶ。

「うん。……昔食べたままのオムレツだな」

 盛り上がった卵の包みをおはしで割ると、牛丼のおつゆを染み込ませたほくほくの肉じゃがが出てくる。

 暁は大きなひとくち分を箸で持ち上げ、白いご飯のおわんにのせて、ご飯と一緒に食べていた。

 確かにそれが、一番美味しい。

 ふわふわ卵に包まれた肉じゃがが、なんというか優しい味と食感で、白いご飯と一緒に食べると言いようのない懐かしい気分になる。

 母の味というやつかなあ。まあ実際は祖父の味なんだけど。

「ずるい……それって私の牛丼より豪華な感じがする……」

「あ、お涼お前! 人の飯を横取りしようとするな!」

 お涼はいそいそと暁の隣までやってきて、暁のオムレツを三分の一くらい持って行ったので、暁が憤慨している。

 暁って本当にびんな男よね。

「うーん、これも美味しい。牛丼と同じ味付けでも、卵とじゃがいもがあるだけで全く違うお料理を食べているようだわ」

 お涼は満足そうだが、暁はワナワナと怒りに震えつつ、少なくなったおかずでご飯をちびちび食べている。

「だ、大丈夫よ暁。油揚げときゅうりの酢の物もあげる」

 かわいそうなので、暁には副菜を小鉢に盛って、いくつか出した。

 ちょうど銀次さんとメニュー考案をしていたというのもあって、いくつか作り置きのおそうざいがあったのだった。

 すると暁が、スッと怒りをおさめる。そして小鉢をじっと見ている。

「油揚げときゅうりの酢の物……これも史郎がよく作ってたやつだな」

「そうよ。油揚げを一度焼いて、きゅうりと一緒に酢でえると、香ばしい酢の物になるの。揚げが甘酸っぱいお酢を吸い込んでいて、でもどこかマイルドで」

「あ! 葵、それ私にくれなかったじゃない!」

「お涼、あんたは丼があれば他に何もいらないって、いつも言ってるじゃない」

「暁がもらえて私がもらえないってのが、しゃくに触るわ!」

「お涼! お前、わがままが過ぎるぞ! そんなことだからわか女将おかみを降ろされたんだ!」

「何ですって! 暁のくせに生意気よ!」

「あー、はいはい。わかったから。あげるから! ここで喧嘩しないでちょうだい……っ、お願いだから〜」

 わがままなお涼と、そんなお涼に対し怒る暁。

 わーわーと騒がしい。やかましい。

 この二人がそろうといつもこれだ。喧嘩がヒートアップして、このかやき屋根の離れが破壊されないことを、私は切実に祈っていた。

 あんまりうるさいから、大きなかぼちゃを抱えて戻ってきた銀次さんが、出入り口あたりできょとんとしている。

「ああ、銀次さん。おかえりなさい」

「いや〜……もうすっかり、お食事処のようですね。お客様二人に、ご飯を振る舞っているとは」

 銀次さんはカウンターに並んでご飯を食べている、暁とお涼を交互に見ていた。

わかだん様! この行儀の悪い女をいい加減どうにかしてください! いつも人の飯を横取りするんです」

 暁がすかさず銀次さんに訴える。

 今回に至ってはその内容がかなり幼稚だが、暁は仕事でも何かあると、まず銀次さんに相談するところがある。

 銀次さんは若旦那という立場もあるけれど、天神屋のあらゆる従業員に信頼され、頼られているのよね。

 一方、お涼は暁の物言いが不服のようだ。

「はああ〜? 行儀が悪い女って何よ。あんたのそのオムなんとかを少し味見しただけじゃないの。失礼な事を若旦那様に吹き込まないでくれるかしら」

「失礼って、本当の事だろ。しかも少しじゃない。がっつり持って行っただろうが!」

「あのくらいでムキになるなんて、あんたってほんと小さい男ねー」

「な、なんだとーーーっっ!!

 あーあ。また始まった。

 あやかしとは言え、いい大人たちの、子どもみたいな喧嘩が……

「まあまあ、お食事中に言い合いはやめてください」

「本当。まるで小学校の給食時間だわ……」

 あきれ返る銀次さんと私。しかし彼らの喧嘩に付き合うほど、私たちも暇ではない。

 もう好き勝手にすれば良い。

 と言う訳で、私はさっそく銀次さんの持ってきたかぼちゃとにらめっこをする。

 かぼちゃの向こう側に見える大旦那様を睨んでいるのだ。大旦那様はあんまり心の内側をさらさないから、何かこう、お料理で突破口をいだせないものか……

「大好物は相変わらず分からないけれど、苦手な食べ物は知ったわよ、大旦那様」

 ふふん、となぜか得意げになる私。

「これをどう調理したら、大旦那様に美味おいしく食べてもらえるのかな……。最終的にはぎゃふんと言わせたい」

 また一つ、私の野望ができた。

 今夜までにはい感じのかぼちゃメニューを考案し、試作してみよう。そして食事処のメニューをチェックして欲しいと言って大旦那様に食べてもらって……

 結局のところ「美味しいよ」と言わせてみたいのだ。あの大旦那様に。

 しかし、

「あ、葵さん。その、大変言い出しにくいのですが……実のところ大旦那様に急な出張の予定が入ったみたいで、今から現世へ出張に出向かれるそうです」

「えっ! 大旦那様、現世に行くの!?

 もしや、かぼちゃと聞いて逃げたのでは!?

「残念ですよね。せっかく大旦那様に葵さんのお料理を食べてもらえるかと思っていたのですが。あ、でも二日後に帰ってきますから! 寂しくありませんよ」

「いや全然、寂しいとか思ってないんだけど……」

…………

「じゃあ、それまでに、かぼちゃ嫌いな人でも食べられるかんぺきなかぼちゃ料理を考案しなくてはね。私はやるわ。作ってみせるわ!」

「張り切ってますね、葵さん。とても素晴らしいことです! きっと大旦那様も喜ばれますよ」

「ううん。もう大旦那様なんてどうでもいいの。私が食べたいから作る」

「え、ええっ!?

うそよ噓。大旦那様には……もうちょっとリサーチしてから、そのうち、ね」

 私はさっそく、まるまると大きなかぼちゃを豪快に切り分けた。

 美味しそうなかぼちゃ、どう料理してくれよう。

 食べて欲しい人がいて、目的が明確であればあるほど、お料理は美味しく仕上がる。

 結局今回は大旦那様に食べてもらえなかったのだけど、この大きなかぼちゃは、細切りにしてあらきコショウでしっかり味をつけ、牛肉の薄切りを巻いて焼いた、かぼちゃの肉巻きとなった。

 それほど甘さは強調されず、食感もしゃきしゃき感が残っていてボリュームもあるので、白いご飯によく合う。

 試食会で、あやかしたちに好評だったので、やはり最終的に大旦那様にも食べてもらいたかったかもしれない……と思ってしまったのだった。


 これは、ゆうがおが開店する少し前にあった、他愛たわいのない日常の裏話。

 結局、私が大旦那様に、苦手だと言うかぼちゃ料理を振る舞うのは、それからもう少し後のこととなる。