「……もしかして、セラン?」
「当たり」
「え? 女の子でしょう?」
「いや、あれ男だよ。可愛いからよく間違われるけどね」
アルダンテは言葉を失った。
それは彼女がエクリュール家を出てから、もっとも衝撃を受けた話だった。
「確かにあの子なら王位も安泰ね。貴方が継ぐよりよっぽどいいわ。きっと素直で賢いいい王様になるでしょうね」
「でしょ? だから俺も安心して国を出て君と一緒になれるってわけ」
「……協力の報酬は? 約束したわよね? 一生暮らしていけるだけのお金を用意するって。指輪一つじゃ流石に足りないわよ」
「それはこれから一生をかけて君の支えになるってことで、勘弁してくれないかな」
「今までもそうやって女を落としてきたのかしら。悪い男ね」 背後からフレンの手のひらが伸びてきて、アルダンテの手の甲に重なる。
「……手を握る時だけはいつも強引なんだから」
ぼそりとつぶやいたアルダンテは、手のひらを返してフレンの手のひらに自分のそれを重ねた。
「こんな悪女を恋人にして、後悔しても知らないわよ。馬鹿」
「しないさ。だって俺は――」
馬が足を止める。
フレンはアルダンテの顔に自分の顔を寄せると、唇同士がわずかに触れるようなキスをした。
「――そんな悪女の君に心奪われた、馬鹿な王子なのだからね」