「いえ、口約束など信用できません。誓約書もきちんと書いて頂きますわ」

「しっかりしてるなあ。でもそう言うと思ってちゃんと用意してきたよ。ほら」

 フレンが懐から取り出した誓約書にアルダンテはしっかりと隅々まで目を通す。そして書類に不備がないことを確認すると、いつも通りの澄ました無表情で言った。

「これで契約成立ですわ。よろしくお願いしますわね、共犯者さん」


「――失礼いたします」

 フレンとの契約を交わした時のことを思い出していたアルダンテは、ドアの外から聞こえてきた侍女の声で我に返った。

「どうぞ」

 返答の後、ティーセットをワゴンに乗せた侍女が入ってくる。

「お紅茶をお持ちいたしました」

 侍女はそう言って会釈をすると、アルダンテの前にあるテーブルにワゴンからティーカップを置いた。

 カップに紅茶を注いだ彼女は、再び会釈をしてから静かに部屋から退出する。

(この紅茶……まさか毒は入ってないわよね?)

 一瞬疑いを持ったアルダンテだったが、もしクザンが自分を殺そうとするのならそんなだまし打ちのようなことをせずとも、この敷地内に入った時点でどうとでもできると考え直す。

(飲まないことが最善だけれど、この薔薇庭園にしばらく滞在する予定なのに、今からそんなことを疑っていたら、この先あらゆる水が飲めなくなってしまうわ)

「……いただきます」

 意を決して、ティーカップに入っている紅茶を一口飲んだ。

 なんの変哲もない紅茶の味に、アルダンテは安堵する。

 むしろ香り高く、風味もいいその紅茶は、最高級の品と言ってもよかった。

「いい茶葉を使っているじゃない。さすがは王室御用達の紅茶、ね……?」

 突然すさまじい眠気に襲われて、ふらつく頭を手で押さえる。

 ソファの背もたれにぐったりと身体を預けたアルダンテは、目の前に置かれている紅茶を指の隙間から睨みつけた。

(やっぱり水一滴口に含むんじゃなかったわ。次からは毒見役が必要ね)

 それが紅茶に入っていた睡眠薬のせいだと思い至った時には、アルダンテの意識は真っ暗になってまどろみの中に沈んでいった。