「……そういえば、あの子のスキルレベルは正直おかしいわよね」

ルーが言うと、アミットも頷いた。

「鑑定のレベルがマックスって……普通に受付嬢をやってるだけじゃ無理よね?」

「そういえば、今、隠密も持ってるっすよね?」

オーリの言葉に、ルーとアミットはお互い顔を見合わせた。

「そもそも、隠密を持ってる受付嬢ってどういうことよ」

ありえなくない? とルーが呟くと、確か、と言ってオーリが答えた。

「ジェルマさんから逃げてたら、取得したって言ってたっすよ」

「「は?」」

思わずルーとアミットの声がハモった。

「ジェルマさんって、一人で飲むの嫌で、いっつも誰かを誘ってるじゃないっすか。一時、シエラ姐さんがちょうど帰る時間がかち合うことが多かった時があって、そのたびに捕まって連れてかれてたんっすけど、それを避けるために、気配の消し方とかを確か猟師の人に教わったりしてて、気づいたら隠密のスキルを取得してたって言ってたっす」

「「…………」」

オーリの言葉に、思わず二人は言葉を失った。

「さすがシエラ姐さんっすよねー」

「いや、待って。別に断わればいいじゃない。行かないって」

「隠密のスキル取得するより、そっちの方が断然簡単じゃない」

感心したようにオーリが言うと、思わず二人が突っ込みを入れる。

「いやー、あいつさ、押しに弱いから、断われねーんだよ」

「「「ジェルマさん!?」」」

元凶の登場に、三人は思わず慌てる。

「まぁ、俺もあんまり強引に誘うのは良くないなってわかってるんだけどよー。なんだかんだであいつ、飲みに連れてったら、ちゃんと付き合ってくれるんだよー」

ケラケラと笑いながらいうジェルマに、ルーは、面倒なのに気に入られて、可哀そうに、と心の中で呟いた。

「ちなみに、あいつ隠密のスキル取得したっぽい時期、俺から上手く隠れるようになってたんだけどよ、まぁ、俺の索敵レベルの方が上だから、ちょっと見つけにくい、くらいにしかなってなかったんだよ」

正直、元Sランク冒険者に、ちょっとでも見つけにくいと言わせることができる受付嬢ってなんだ、とアミットは思ったが、ジェルマはそんなアミットの表情に気づくことなく続ける。

「で、面白いから、暫くシエラを優先的に誘ってみてたら、あいつ、まさかの隠密と索敵のスキルが上がってきてな。どこまでいけるか試してみようかと思ってたんだが、フィノに、ホントに一緒に呑んでくれなくなるかもしれないから、そこまでにしてあげて、って言われたんで、そっからはまた、まんべんなく声かけるようにしたんだよ」

「酒場の看板娘の一言がなかったら、どうなってたんだろ……」

「ていうか、ジェルマさんに言うこと聞かせられるフィノって凄い……」

「シエラ姐さん、どこまでいけたのか、ちょっと見てみたかったっす……」

一人だけ凄く残念そうに呟いたオーリに、ルーとアミットは、この子も大概ね、と思わず一歩下がった。

「まぁでも、鑑定なんかに関しては、元々あいつが持ってたスキルだし、モルトのギルドに来てからマックスまであがったからな。お前らも頑張ったら上げれるはずだぞ?」

ジェルマの言葉に、三人はうっと呻くと、視線をジェルマからそらした。

「ルーは真贋がまだレベル一だろ? こいつはもうちょっと、上げたほうが良いな。あと、鑑定ももうあと一つで五に届くんだ。シエラや鑑定道具に頼ってばかりいないで、自分でもドンドン鑑定していけ」

「いやいや、真贋なんてなかなかレベル上がらないですよ。そもそも、真贋のスキルを取得するのもやっとだったのに」

ブーブーとルーが不満を漏らすと、ジェルマは受付嬢の必須スキルだろ、とぴしゃりと言う。

「そもそも、真贋のレベルを二以上にしないと高額依頼なんかの契約書対応ができねーんだから困るって前から言ってるだろうが」

真贋というスキルは、その名の通り、本物と偽物とを見分けるスキルであり、このスキルレベルが高ければ高いほど、偽造品や改竄かいざん品を見破ることができるので、特に、高額な依頼を受ける場合には、契約書がそういった偽造や改竄されていないか、あるいは、そういった類の悪意ある魔法が施されていないか等をチェックする必要があるため、受付嬢にはこの真贋のスキル取得が必須である、と言われている。

「真贋は取得しただけじゃ話になんねーからな。レベル一なんて、まだまだ素人に毛が生えた程度だ」

レベル一では、なんとなく、相手が嘘をついているのがわかる程度、といったもので、書類の偽造なんかはまだ見破れないことが多い。レベルが二になれば、ある程度の偽造を見分けることができるようになり、レベル三になれば、一般に出回っている美術品なんかでも物によっては贋作がんさくを見抜けることができるようになり、書類関連に関しては、相当高度な魔法がかけられていない限り、手が加えられているものはわかるようになる。

「オーリは、そうだな……鑑定と真贋は基準以上になってるからな、頑張って複写のレベルを上げるのと、マッピングも覚えられるように頑張ってみろ」

「ま、マッピングっすか……」

正直なところ、受付嬢でマッピングって、いつ使うというのか、と思い、不満の声を上げる。

「マッピング覚えたら、自分でマッピングした地図を複写で紙に写せるようになるだろ? で、さらにそこから、今の地図と見比べて、違いがどこかってのをチェックしていけるようになるからな。今、そのあたりの業務は、シエラとアミットが確かメインでやってるだろ? そっち方面がオーリは弱いからな。今年はそれを目標にしてみろ。なんだったら、シエラと野営訓練でもしてきたらいいじゃねーか」

「シエラ姐さんと野営訓練は、確かに楽しそうっす! ちょっと今度誘ってみます!」

絶対、それ、シエラは嫌がるやつじゃない、とルーは思ったが、口には出さなかった。

「アミットはー……まぁ、そうだな、スキルレベル上げるよりも、人材育成の為に、人への教育の仕方をもうちょっとできるように頑張ってくれ」

「教育、ですか……」

一番苦手なやつだわ、とアミットは小さくため息をついた。

「せっかく、魔法が得意だってのに、お前の教え方は抽象的過ぎて伝わらないというかなんというか……感覚で喋っても相手にはほぼ伝わらねーからな。ちゃんと、もう少し言語化ができるようになってくれ」

ジェルマの言葉に、アミットは少しムッとした表情を浮かべた。

「言語化って……それなら、ジェルマさんだってちゃんと教える時は言語化してくださいよ」

「俺か? 俺はちゃんと言語化してるだろ?」

ジェルマの言葉に、三人は目を丸くした。

「ジェルマさんが一番、言語化できてないと思うっす!」

「いっつも説明の時は擬音が混ざってくるじゃないですか! バーンってするとか、ドーンって感じ、とか! だから、ジェルマさんの講習、受けた後の冒険者のリピート率、元Sランク冒険者の講習なのに、低いんですよ!」

「真贋に関しての説明受けた時だって、偽物はピンとくる、とか、もやっとした感じがする、とか、そんな説明しかしてくれなかったじゃないですか!」

三人からの想定外の猛反発に、ジェルマは少したじろぐ。

「そ、そんな、そこまで言うほどじゃないだろ!?

「「「そこまで言うほどです!」」」

三人が声をハモらせて言う。ジェルマはショックのあまり、がっくりと肩を落として落ち込んだ。

「……よく考えたら、ジェルマさんの講習の内容、結局よくわからないって受付で言われて、シエラが内容を丁寧に教えてるよね」

ルーが言うと、確かに、とオーリが頷いた。

「しかも、ジェルマさんの講習は、元Sランク冒険者の講習な分、講習料金が高いっすけど、シエラ姐さんは受付嬢なんで、講習の受講料がぐっと安くなるんすよね」

「講師指名をつけたとしても、受付嬢だから、指名料は銀貨一枚だからね。ジェルマさんなんて、指名料が中銀貨一枚に跳ね上がるんだもん」

アミットの言葉に、三人は納得したように頷いた。

「あの子自身が望んでなくても、なまじスキルや知識、人に教えるのが上手なせいで需要が高まるから、勝手にそういったスキル関連が上がっていっちゃう仕組みが出来上がっちゃってるんだわ」

ルーの一言に、二人は頷いた。

「まぁ、そのなんだ。とりあえず、あいつの希望の定時上がりを実現させてやるには、あいつの負担を減らす必要があるんだが、現状として、個人の能力を上げないことにはシエラに集中しちまう状況の改善ができないからな。依頼者おきゃくがちゃんと、他も希望してくるよう、頑張ろうぜ」

「……ジェルマさんも、中銀貨一枚分はちゃんと働けるようになってくださいよ」

「善処する……」

シエラが定時上がりできるようになるのは、まだまだ先になりそうだ、と、四人は心の中で彼女に謝った。