「とりあえず、今後どうするのか、話し合いましょうか」

食堂で握ってもらったおにぎりを頬張りながら、シエラが言う。

「今後?」

コーカスがマイスを突くのをやめて、首を傾げた。

「今後です。そもそも、いつまで街にいるつもりなんですか? いつかは森に帰るんですよね?」

シエラが聞くと、トーカスが今度は首を傾げた。

「なぜ森に戻る?」

「え?」

その言葉に、シエラは眉を顰めた。

「街にマイスが売られているのであれば、街にいるべきだろう?」

「そうだな、それに、今後はスミレの面倒も見るのであろう? であれば、ギルドにて我らも常駐していた方がいいのではないか?」

「常駐とか……よくご存じですね……」

頬をひくつかせながら、シエラが言う。

「まぁ……案の定というかなんというか、森に戻る気がなさそうだな、とは思ってましたけど……ていうか、他のコッカトリスさんたちはどうするんですか? 偵察から戻ってきたときにお二人がいなかったら困るんじゃないですか?」

シエラが聞くと、心配ない、とコーカスが答えた。

「それより、俺らはどのくらい稼いでくればいいんだ?」

トーカスに聞かれて、シエラはうーん、と考える。

「そうですね……正直、お二人がこのまま一緒に生活することを考えると、大容量・高性能のマジックバッグが欲しいところなんですよね。私の寮の部屋に大量の野菜を置いておくにしても限界がありますし、何より最近、時間が経過しないっていう高性能タイプも出てきてるみたいなんで、できればそれを持っておきたい」

いつまでも、ギルドのマジックバッグを借りたままではいられない。このまま二人がシエラのもとで居候をするとなるのであれば、必然的に、個人所有のマジックバッグを入手する必要がある。

「ただ、高いんですよねー、マジックバッグ……」

「いくらだ?」

コーカスに聞かれて、シエラはうーん、と唸る。

「ギルドに回ってきてたカタログに載ってた一番小さいやつだと、確か大銀貨一枚分ですね。一番大きいのは金貨三枚もしたんで、さすがにそれは無理……」

「それだけ稼ぐには何を狩ればいい?」

トーカスに聞かれて、シエラは唸る。

「えぇ? 大銀貨一枚とかそう簡単には無理ですけど……そうですねー、あ、トレントなら一本倒したら、大銀貨一枚になりますねー。擬態が見破れないことが多くて中々見つけられないので常に品薄なんですけど、魔道具の素材として人気があるんで、高価取引されてるんですよ。一本丸々、使用できそうな部分が残ってた場合は、今の相場は確か、一本で大銀貨一枚だったはず」

でも、これはかなり奥の方へ行かないと狩れないし、遭遇しない魔物なので、正直、現実的ではない。

「あとはー……あ、フレイムウルフの毛皮なんかは割と人気があるので、丸々二匹分くらい持ち込んでもらえれば、大銀貨一枚くらいにはなると思います」

割と遭遇しやすい魔物ではあるので、まだトレントよりは現実的かな? と答える。

「今度、私のお休みが四日後なので、その時までに、他に依頼含めていいものがないか調べておきますね」

シエラが言うと、頼んだ、と頷き、トーカスはマイスをまた食べ始めた。


今日も今日とて、他の人に見つからないように、シエラは二人を連れて、朝早くに寮を出て、ギルドへと向かった。

「はぁ……早く許可が下りるといいんだけど」

寮で魔獣を飼う許可を、現在中央ギルドに申請しているところなのだが、基本的にはこういった申請関連の最終承認が下りるまでには大体一週間くらいかかる。

「急ぎでジェルマさんにはお願いしてるけど、いつ許可が下りることやら……」

着替えを終えて、カウンター周りの片付けをし、ギルド内の掃除をしていると、オーリが出勤してきた。

「あ、姐さん、おはようございます! 今日もコーカスさんとトーカスさん、良い毛艶っすね!」

「オーリ、おはよう。ていうか、その姐さんっての、ほんとやめて……」

何度言ってもやめないオーリに、シエラは半ば諦めつつ言う。

「それは無理っす! だって、姐さんは姐さんなんで!」

「なによ、その理屈は……」

はぁ、と特大のため息をつきながら、シエラはギルドの入り口のカギを開けた。

「今日こそは、残業なしで上がりたい……」

小さく呟きながら、カウンターへ戻り、シエラは入ってきた冒険者たちに、笑顔を向けた。

「それじゃこれ、コーカス様とトーカス様のテイム委託証明書ね」

受付にやってきたスミレに、銀色のネームプレートを渡す。そこには、トーカスとコーカスの名前が刻まれており、裏返すと、シエラの名前が刻まれている。

基本的にテイムされた魔獣は、主人から離れて行動はできないようになっているのだが、従魔の知能が高い場合、一時的に主人の権限を別の人間に移すことができる。その場合、従魔自身に取り付ける認識票のほかに、従魔の名前と、本来の主人の名前が書かれたプレートを所持する必要があり、そのプレートなしに従魔を連れていることがわかった場合、罰金が科せられる。

「なくさないように、首から下げておいてね?」

「はい」

「今日は、特に依頼は受けずに、まずは森に入ってみて、様子を見る感じかな?」

シエラが聞くと、こくり、とスミレは頷いた。

「初めてなので、正直、下手に依頼を受けてしまったら、失敗してしまう可能性もあるので」

「うんうん、慎重なのはいいことだよ。それじゃ、頑張ってね。コーカス様とトーカス様も、気を付けて」

「うむ」

「行ってくる」

「行ってきます」

「はい、いってらっしゃい!」

シエラは、スミレたちを見送ると、次の冒険者の受付を始め、残業をしないで済むよう、せっせと仕事に励んだ。


「ふむ、スミレは今、十二歳なのか」

「はい。もうそろそろで十三歳になります。十五歳になったら、教会を出て、一人で生活をしていかないといけないので、一日も早く、冒険者として自立できるようになりたいんです」

「偉いな。そんな小さなうちから」

森に向かう道すがら、コーカスとトーカスは、スミレの身の上話をあれこれ聞いていた。

森まで大人の足で大体一時間程度、子供の足でだと、その倍程度かかるが、スミレはコーカス達と一緒に、トレーニングの一環として、森まで軽くランニングしながら向かっていた。

「しかし、息も乱れず、会話もしながらこの距離を進めるとは、中々やるではないか」

コーカスが言うと、スミレは少し照れくさそうに、ありがとうございます、と答えた。

「私、ラビット族なので、普通の人族の子供に比べれば、体力はあるから」

「いや、それにしても、これだけの時間、走り続けて息も上がってねーじゃん。同じくらいの年の奴らに比べたら、見込みあるって」

トーカスに言われて、スミレは顔を赤くする。

「いつか、森に行く日のためにって、毎日走り込みとか、トレーニングは自己流ですが頑張ってたんです。その甲斐があったのかな」

「うむ。努力が必ず報われる、などとは言わんが、努力をしなければ、そもそも、スタートラインにすら立つことができぬからな」

「今後も、続けろよ」

「はい」

スミレが頷くと、コーカスがペースを落とした。

「ふむ、森が見えてきたな」

木々が生い茂る森。入り口のあたりはまだましだが、奥の方は光がところどころしか差し込んでいないため、少し薄暗く感じる。

目の前までやってくると、森の木はとても大きく、スミレははぁ、と上の方を見上げた。

(やっと、ここまでこれた)

毎日街から少し外れた場所にある草原で、薬草を採取する日々。その傍の道を通って森へと向かう冒険者たち。彼らを見るたび、羨ましくて、羨ましくて。何度も自分も森に入ってみたくなって、近くまで来たことがあったが、そのたびに、まだ、自分には早い、と言い聞かせ、必死で中に入るのを踏みとどまった。

同じ時期に冒険者になった子達の中でも、もうすでに森に入っている子達もいた。何度か声をかけて、一緒に行きたい、と言ってみたかったが、内気なスミレはその一歩を踏み出す勇気が出せず、結局、彼らを羨望の眼差しで見送っていた。

(目標にしていた、防具を買うお金も貯めれたんだ。次の目標に。討伐依頼を受けるっていう目標を、今度は達成してみせるんだ!)

ぐっと手を握り締め、目の前の森を見据える。

「準備はいいか?」

「はい!」

スミレは気合を入れ、腰に掛けている短剣に手をかけ、ふぅ、と息をつくと、森へと歩を進めた。


「いいか、森の中は平原と違って視界が悪い。もちろん、三百六十度、前後左右を同時にすべて見ることもできん。だから、まずは、索敵スキルのレベルを上げることが大事だ」

コーカスに指導を受けながら、スミレは森の中を歩いていた。

幸い、ラビット族であるスミレは、索敵のコツをコーカスに教えてもらうと、索敵スキルをすんなりと取得することができたので、今はそのレベルを上げるためのトレーニングの仕方と、常時展開のコツを教わっていた。

「常時展開って、すごく難しいし、疲れるんですね……」

索敵を行うということは、その分、様々な情報を自分の中に取り込むということで、それを常時展開するには、相応の集中力が必要だった。スキルを取得したばかりのスミレには、目の前の情報以外のものを取り込み、それらの情報を整理・認識するというのはなかなか難しく、集中力を持続させることは、かなりの気力を使った。

「だが、このスキルは冒険者として上を目指すなら必ず必要になる。しばらく、ソロで活動するならなおのことだ。……む」

「あ」

コーカスが立ち止まる。スミレも立ち止まり、目を凝らすと、少し先に、ウッドアントと呼ばれる、森の木を根城としているアリ型の魔物を見つけた。

「ちょうどいい。向こうはこちらにまだ気づいておらん。気配を絶ち、後ろから奴を仕留めてみろ」

「はい」

スミレは短剣を構えると、音を立てないよう細心の注意を払いながら近づく。

(……あと少し)

射程距離内まで近づけたスミレは、一気に距離を詰め、短剣をシュッと横に薙ぐ。すると、ウッドアントは声を上げることなく、そのまま頭と胴体が切り離され、ぼとり、と音を立てて地面に落ちた。

「や、やった! やりました!!

初めての討伐に、スミレは少し興奮気味にコーカスを見る。

「うむ。なかなか良かったぞ?」

コーカスが言うと、スミレは嬉しそうに、ありがとうございます! と答えた。

「そやつの魔石は、確か腹のあたりだったか。解体して、魔石を取り出すといい」

「はい!」

解体用に購入したナイフを取り出すと、スミレはロイに教わった手順を思い出しながら丁寧に解体を行っていく。

(ウッドアントは、確か、魔石の他にも、手の鎌の部分が素材として売れたはず)

解体の感触に、若干の気持ち悪さと苦手意識を覚えつつも、これも、一人前の冒険者になるためだ、と自分自身に言い聞かせながら必死に進めていく。

「で、できた!」

小さな親指ほどの魔石と、両手の鎌を、付いた血を拭ってバッグにしまう。

(やった、やった……!)

初めての討伐に、小さく震える。

「よくやった。初めてにしては上出来だ。剥ぎ取りも、丁寧に行えている。これなら回数を重ねれば問題ないだろう」

コーカスに褒められ、スミレは満面の笑みを浮かべながら、はい! と元気よく返事をした。


「だいぶ慣れてきたようだな」

「はい、師匠!」

いつの間にか、コーカスのことを師匠と呼ぶようになったスミレ。初討伐後も、数匹のウッドアントを見つけ、それらの討伐を難なく成功させていった。魔石と鎌を複数手に入れたスミレは、自信もつき、ご機嫌だった。

「あ! 気付けタケ! すみません、あれ、採取してもいいですか?」

「うむ、スミレの好きなようにするといい」

「ありがとうございます! ちょっととってきます!」

気付けタケは気付け薬の素材の一つで、これ一つで銅貨五十枚になる。スミレはさっそく、気付けタケを木からもぎ取っていくと、それらをバッグへと入れる。

(やった! 気付けタケが四つも採れた! 初めての森の探索なのに、採取までできるなんて! ついてる!!

思わず顔がほころぶスミレ。

「おい、スミレ!」

「え?」

それと同時に、トーカスがスミレの背中をドン、と押してきた。思わずバランスを崩し、地面に倒れ込む。それと同時に、シュッと白い糸のようなものが木に向かって伸びたのが見えた。

「ぼーっとするな! ここは森の中だぞ!」

トーカスに言われてハッとする。

「フォレストスパイダー……!」

森に生息する魔物の一種で、討伐推奨ランクはFランク。初心者冒険者向けと言われる魔物で、大した攻撃力はないが、吐き出す糸に捕まると、一人では抜け出せなくなるため、ソロの場合は注意が必要な魔物である。

慌てて起き上がり、腰に下げていた短剣を手に取り構える。

(大丈夫、大丈夫!)

大きな音でバクバクと脈打つ心臓。スミレは必死に、自分を落ち着かせようとする。

「はぁ!」

足の裏に思い切り力を込め、一気に距離を詰める。

(ここだ!)

射程距離に入るまではほんの一瞬で、構えていた短剣を大きく振りかぶって切りつけた。だが、フォレストスパイダーはバックステップでそれをかわし、糸をスミレに向かって吐きつける。

「しまっ!」

フォレストスパイダーの吐いた糸が、スミレの短剣をとらえる。

「は、なれな……!」

フォレストスパイダーは吐いた糸をシュルシュルと一気に巻き取る。その力は想像以上に強く、スミレはそのまま、短剣を奪われてしまう。

(ど、どうしよう、武器がっ! どうすれば……!)

焦りで目の前が真っ白になるスミレは、一瞬、動きが止まる。フォレストスパイダーはその隙を見逃さず、スミレに飛び掛かった。

「ケェー!!!!!!

コーカスは雄たけびを上げるとともに、羽を硬質化させ、思いきり水平に薙ぎ、真空の刃を飛ばした。その刃は、そのままフォレストスパイダーを真っ二つにして霧散する。

フォレストスパイダーの血が、スミレの顔に当たり、そのままべちゃっと切り離された体は、地面に落ちた。

「スミレ! しっかりせんか!」

バシン! とコーカスに頭を叩かれ、スミレはハッと、我にかえる。

「わ、わた、し……」

生温い何かがあたった頬を、そっと手で撫でる。ぬるりとした感触。手を見ると、そこには緑色の液体がついていた。フォレストスパイダーの血だ。

「何をぼーっとしておるのだ! そんな状態では、また、同じ事を繰り返すぞ!?

コーカスの言葉に、スミレは顔を上げた。

「索敵を常時展開できるようになれば、今のような不意打ちを防ぐことができる。常時展開ができぬのなら、行動を起こす前に、忘れずに索敵をしろ。たったの数度、不意打ちで魔物を狩ることができたからといって、簡単に気を緩めるんじゃない!」

その言葉に、スミレは思わず口をキュッと結ぶ。

(師匠の言う通りだ。初めての森なのに、最初、うまくいったからって、私、調子にのってた)

コーカス達がいなければ、きっとフォレストスパイダーの餌になっていただろう。奇跡的になんとか逃げ出せたとしても、大怪我を負っていた可能性が高い。

「すみま、せん」

スミレが呟くと、コーカスは、謝る必要はない、とぶっきらぼうに答えた。

「ここで気を抜くということは、命がなくなってもいいと言うようなものだ。スミレは、自分の事を、いつ死んでもいいと思っているのか?」

聞かれて、ふるふると顔を横に振る。

「ならば、気を抜くな。少なくとも、ソロで森に入っている間は、油断するな」

「はい!」

目に浮かんだ涙を、必死でグッと堪え、ゴシゴシと流れる前に拭い去るスミレ。

「次がある事に感謝し、気を引き締めます!」

「うむ、そのいきだ」

コーカスはバサバサっと翼を動かした。


「さて、と。今日が締め切りでまだ報告に来てないのは一組だけか……あ、おかえりなさい、スミレちゃん。初めての森の探索はどうだった?」

ギルドに入ってきた少女と二羽の鶏を見つけたシエラは、にっこりと笑って声をかけた。

戻ってきたスミレは、魔獣の血の跡と思われるシミが防具についており、全身ドロドロの状態で、見た目にも疲労がうかがえるほど、疲れた様子だった。

「ただいま、戻りました……」

言葉を発するのも一苦労、といった感じのスミレに、シエラは苦笑いしながら、これどうぞ、と、机に置いてあった小瓶から飴玉を一つ取り出して渡した。

「ありがとうございまふ」

口の中にすぐに放り込むと、カロカロと飴玉を転がして舐めた。

「少し、回復できた気がします」

少しだけ表情を緩ませながら言ったスミレの言葉に、シエラはよかった、と頷く。

「師匠のおかげで、冒険者として必要なスキルの使い方や、鍛錬の仕方。討伐に対する心構えに、実戦での注意すべき点等々……すごく勉強になりました」

「そっか、それは何よりです(って、師匠ってなに?)」

キラキラと目を輝かせながら語るスミレに、一体何があったのだろうか、と、一抹の不安を覚えるシエラ。だが、スミレの様子を見るに、コーカス指導の実戦訓練は悪くなかったようだ。

「あ、そうだ。これ、査定をお願いしたいんですが」

スミレがバッグから魔石や素材をカウンターに置いていく。その内容を見て、シエラは少し驚いた。

「これ、は……もしかして、ウッドアントとフォレストスパイダーを討伐してきたの?」

初めての森の探索だったので、てっきり、ラージマウスあたりで索敵と討伐の訓練を行うのだと思っていたシエラは、買取が可能な魔石を含めた素材を持ち込まれると思っていなかったので驚いた。

「別に驚くことはなかろう。所詮、小物だ」

「いやいやいや、だってスミレちゃん、私の記憶違いじゃなければ、初めての実戦……だったよね?」

もしかして、過去に狩りとかしたことがあったっけ? と思わず疑問形でスミレに問いかけるシエラに、スミレはフルフルと頭を振って否定した。

「だよね? てっきり、ラージマウスあたりから始めると思ってたから、ちょっとびっくりしたよ」

シエラの言葉に、ケケッとトーカスが小さく笑った。

「ラージマウスなんて狩ってどうすんだよ。ただの動物だろ? あんなの」

「いや、最初はそんなもんじゃないの? いくら討伐推奨ランクがFの魔物とはいえ、買取可能な魔石が剥ぎ取りできる魔物だよ? ソロでいきなりっていうのは、ちょっとさすがに想定してなかった」

カウンターに置かれた素材の数を数えながらシエラは続ける。

「それにこの量。結構大変だったんじゃない?」

魔物の素材は、ウッドアントの魔石が八個に鎌が三本。フォレストスパイダーの魔石が三個に、顎が六個。おまけに、糸袋も一つ。その他にも、気付けタケが七個もあった。

「確かに師匠はスパルタだったから……でも、初めての森で、少し怖いこともあったけど、でも、とっても勉強になったんです! これからも、時間があるときは是非、指導をお願いします!」

「うむ。スミレは見込みがあるからな。努力を怠らぬ、というのであれば、見てやろう」

「ありがとうございます!」

鶏と少女が熱く手と手(?)を握り合う。なんてシュールな、と思わず突っ込みそうになるのをぐっとこらえて、シエラは引き出しから銀貨と銅貨を取り出した。

「それじゃスミレちゃん。ウッドアントの魔石が一個につき銅貨五十枚、鎌は一本につき銀貨一枚。フォレストスパイダーの魔石は一個につき銀貨一枚、顎は一個につき銅貨八十枚、糸袋は一個につき銀貨五枚です。気付けタケは一本で銅貨五十枚なので合計で銀貨二十三枚と銅貨三十枚になります。が、残念だけど、持ち込んでくれた鎌六本のうち二本に傷が入ってしまっているので、これがマイナス査定になって、二本分で銅貨三十枚、買取額が減ります。それと、糸袋も、真ん中のあたりに大きめの切り傷が入ってしまっているので残念だけど、これもマイナス査定で銀貨一枚減ります。なので、合計で銀貨二十二枚になります。よろしいですか?」

ゆっくりと内訳を説明していき、最終の買取金額を提示すると、スミレは大きく目を見開いた。

「そ、そんなにあるんですか!?

その反応に、シエラは苦笑した。


「ただいま!」

「あぁ、おかえり、スミレ。今日はどう……」

「シスター、ごめんなさい! 今日は疲れたので、もう休みます!」

「え? あ、スミレ!?

教会に帰ると、スミレは会話もそこそこに、自分の部屋へと駆け込んだ。

シエラから受け取ったお金が入った袋を、机の上にぽん、と置き、ベッドへと倒れ込んだ。

(あぁ、今日はいろいろあったから、水浴びしておかないと。でも、疲れたし、明日の朝にしようかな)

そんなことを考えながら、ちらりと机の上の袋に目をやる。

(夢みたい……この間、やっと、銀貨一枚分を一日で稼げるようになったところだったのに。今日、たった一日で、銀貨二十二枚も稼いじゃうなんて)

思わずベッドで足をばたつかせてしまう。

「まずは頑張って、師匠に教えてもらった通り、スキルアップのために訓練しつつ、確実に魔物を仕留められるようにならないと。教会にいられる期間も決まってるし、できるだけたくさん稼いで、お金を貯めて、一人でも暮らしていけるようにならなくちゃ」

決意を新たに、スミレはそのまま、すぅっと眠りについた。


こっそりと寮に戻ってきたシエラは、部屋着に着替えて、帰りに買った串焼き肉をテーブルに置き、コーカス達にもマイスを含む野菜盛りを差し出した。

「スミレちゃん、顔つきが今日一日ですごく頼もしくなってたけど……無茶なこと、させてないでしょうね?」

「無茶なことなどさせておらんわ。スミレも、充実した日だったと言っておっただろうが」

「それはそうなんだけど……」

コーカス達をスミレに付けたのは、ソロで森に入ったときに、万が一、命を落とすことがないように、という保険の意味合いが大きかった。

冒険者は自己責任、というギルドの方針からしてみれば、今回の対応はかなり過保護やりすぎな事案ではある。ジェルマにばれたら、一、二時間くらいは軽く説教されていただろう。

「やっぱり、小さな子が冒険者になって、命を落とすのを見るのは辛いから」

「急になんだ。というか、そうならないようにするために、鍛えるのだろうが」

コーカスの言うことに、ごもっともです、とシエラは苦笑した。

「すべての冒険者を、シエラがつきっきりで育てることなんてできねーだろ? 俺や父上を信用しろよ」

「あはは、トーカス様の言う通りだね。うん、そうだね、そうさせてもらいます」

冒険者は自己責任。

ならば私は。

受付嬢として、彼らが日々を生き抜くことができるよう、精いっぱいサポートをしよう。

「あー、なんか柄にもないことで悩んだせいでおなかすいちゃった。さっさと食べて、早く寝ようっと。明日も早いし」

シエラはパンパン、と顔を軽くたたくと、残っていた串焼き肉を一気に頬張り、喉を詰まらせかけて、コーカス達に笑われた。