教官は鶏でした

認識票の交付をしたり、その他ギルド内での契約、および登録など、諸々の書類業務を行い、いつものように、定時の鐘を聞きながら、通常の依頼を受けて戻ってきた冒険者たちの報告をシエラは時々船を漕ぎそうになりながら聞いていた。

「……ね、眠い…………」

ほとんど寝ていない状態のシエラの眠気は、さすがにピークに達していて、思わず本音が漏れる。

「シエラさん、大丈夫?」

ハッとなり、頭を振って、眠気を必死で追いやると、シエラはカウンターにやってきた少女に申し訳なさそうにしながら答えた。

「ご、ごめんね、スミレちゃん。大丈夫! 仕事の報告かな?」

(いかんいかん。いくら眠くても今は仕事中。昨日、ゴブ共の駆逐に付き合って徹夜したとか、スミレちゃんには関係ないこと!)

少しまだ心配そうな表情だが、スミレはこくんと頷くと、カウンターに採ってきた薬草類を置いた。

「それじゃ、確認していきますね。今日は、と……おぉ! スミレちゃん、朝露草見つけたの!?

薬草に交じって、薄水色をした小さな花をつけたものが二本。

朝露草と呼ばれるそれは、様々な状態異常回復薬のベースとして必要になる薬草の一種なのだが、花がついていないと役に立たず、スミレが普段、薬草を探している平原では、中々見つからないものだった。

「それじゃ、今回の買取は……薬草が十束に、セリナズ草が五束、朝露草が二本だから合計で銀貨二枚と、銅貨三十五枚です! すごいね、スミレちゃん!」

はい、とそれぞれの硬貨をカウンターに置くと、スミレは嬉しそうにはにかんだ。

「これで、ようやく森に入れるかな」

小さな声で呟くスミレに、シエラは、もしかして、と聞く。

「うん、お金がこれで貯まったから。防具と武器が買えるんだ」

へへ、と笑うスミレに、シエラは頭を優しく撫でた。

「頑張ったね、スミレちゃん! これでまた、凄腕冒険者になる夢に、一歩近づいたね!」

「うん!」

シエラは、それなら、と、スミレに一枚の紙を手渡した。

「森に入るってことは、装備を調える気もあるし、もちろん、討伐依頼もこれからは受ける気があるってことだよね? それなら、装備を調えたら、一度、この討伐講座っていうのを、受けるのをお勧めします」

「討伐講座?」

スミレは受け取った紙を見つめながら、首を傾げる。

「うん。討伐依頼を受ける・受けないにかかわらずなんだけど、森に入るってことは、魔獣や魔物と遭遇する可能性があるってことだから、そうなったときの対処方法とか、武器を扱ったことのない初めての人には、簡単な武器の扱い方なんかも教えてくれるし、討伐した時の解体の仕方とか、諸々、必要になりそうな知識を教えてもらえる講習で、特典として、その講習の内容をまとめた冊子もプレゼントしてるんだ。講習料も、銅貨三十枚で、そこまで高くないから、おすすめだよ」

「……はい、わかりました! 受けます!」

少し悩んだあと、スミレは大きく頷いた。

「うん、承りました。それじゃ……講習はいつ受けますか? この講習は毎日開催ができるから、最短だと明日の午前中とかになるけど」

それを聞いたスミレは、ううーん、としばらく悩んだ末、明日で! とお願いした。

その後、残っていた仕事を必死で終わらせ、日付が変わるギリギリ前に何とか仕事を上がったシエラは、コーカスとトーカスを連れて、彼らを連れていることがバレないよう、こっそりとギルドの職員寮へと帰ると、部屋に入ってドアにカギをかけるなり、そのままベッドへと倒れこんだ。

「……何とか、無事、帰れた……。長かったよぉぅ。……あ、とりあえず、コーカス様もトーカス様も、おなかすきましたよね。でも、仕事が忙しくて、お野菜の買い出しに行けなかったので、申し訳ないのですが、今日はこれで我慢してください」

そう言って、マジックバッグから昨日購入した、豆類と穀物類をすべてテーブルの上に出した。

「もう、本当に今日は限界なんです……文句は明日、いくらでも聞きますので、とりあえず、それ、食べ、て……」

そう言って力尽きたシエラは、ぐぅ、と小さくいびきをかきながら眠りについた。