家族ができました

「ひとつ、お願いがあるんですが」

ゴブリンキングを倒した英雄トーカス達に、ゴブリンキングから魔石を取り出している間、食べていてください、と残っていた野菜を全部マジックバッグから取り出して献上したシエラは、その剥ぎ取りを終えると、献上品を一心不乱に食べているコーカス達に、少しだけ言いにくそうな様子で、声をかけた。

「ゲートがあった、元の場所まで、また、連れて行ってもらえないでしょうか……? できれば、行きよりスピードを、かなり落として」

本来であれば、彼らの仕事はここまでなので、シエラを元居た場所に連れて行く、という必要がない状況であるにもかかわらず、それをお願いし、あまつさえ、行きのようなスピードで帰られては困る(今度こそ死ねる)ので、その帰り方に注文までつけるという、ちょっと図々しすぎる(シエラ本人も自覚はある)お願いを二匹にしてみた。

正直なところ、彼女自身は、断られることは覚悟の上でのお願いであった。

「かまわねぇけど?」

「そうですよね、ダメで……え? あ、え!? ほんとですか!?

トーカスの答えに、思わず涙目になるシエラ。

「た、助かりますー!!

野菜を食べている最中のトーカスに、思わず抱きつく。

「お、おい!」

突然抱き着いてきたシエラに驚くトーカス。

「もう、正直歩いて帰るとか、考えられなくて。最悪、ここで死体の処理をしながら、冒険者の方たちを待つことも覚悟してたので、嬉しいですー! ほんとに、ありがとうございますー!!

えぐえぐ、と泣きながらシエラは何度もお礼を言う。トーカスが了承をしてくれたのは、シエラにとって僥倖ぎょうこうだった。

「ならば、戻るか?」

ケフ、と小さく息を吐くコーカス。

「え? あ、もう食べ終わったんですね」

残りが少なかったとはいえ、山積みにして出してあったはずの野菜達が、跡形もなく消えてなくなっているのを見て、シエラは、相変わらず食べるの速いな、と少し感心しながら答えた。

「行くぞ、ちょうど、我も街とやらに行ってみたかったところだ」

コーカスの言葉に、シエラはえ? と首を傾げた。

「ほら、しっかりしがみついておけよ」

また、ひょいっと襟首をつかまれて、そのままトーカスの背中にぽん、と乗せられる。

「ちょ、ま」

シエラが言うよりも先に、トーカスがドン、と地面を蹴った。同時に、コーカスも力強く地面を蹴る。

(い、行きとスピード全然変わらないじゃないー!!!!

ゆっくりとお願いしたのに、鳥頭の二匹は相変わらずの爆速で森を駆け抜けていく。

シエラはもうろうとする意識の中、とにかく振り落とされないようにと、必死でトーカスにしがみついていた。


シエラがゲートを使ってやってきた時と同じ場所に到着すると同時に、トーカスの背中から転がり落ちたシエラは、マジックバッグから何とか通信魔石を取り出して、魔力を込めた。

「……あ、ジェルマさん……? あの、とりあえず、ゴブリンキングの討伐は完了しました。集落もほぼ壊滅状態でゴブリンもほぼほぼ片付いたんで、とりあえず、ゲート開いて……」

息も絶え絶えな状態で、シエラは通信魔石に出たジェルマに懇願する。

『……は? 今、なんてった?』

シエラの言葉の意味が一瞬理解できず、聞き返してくるジェルマに、シエラは「ゲート、開いて」と、再度懇願した。

『……わかった。とりあえず、今からゲート開いてやるから、戻ったら何があったのか、詳細を報告しろ』

ジェルマがそう言うと、少しして、シエラの目の前に真っ白い空間が現れた。

「か、帰れる……!! コーカス様、トーカス様、本当に、今回は討伐にご参加いただき、ありがとうございました。報酬はまた持ってきますので、とりあえず、私はいったん、街に戻りますね」

何とか笑顔を作ると、まるでグールのような動きをしながら、シエラはゲートをくぐった。

「た、ただいま帰りました……」

「シエラ!? ゴブリンキングの討伐が完了ってどういうことだ!」

戻って早々、ジェルマに肩をがくがくと揺さぶられる。寝不足、猛スピードでの移動に次いで、その行為はまさに死刑宣告だった。

「や、やめ……は、吐く…………」

シエラが真っ青な顔で口に手を当てると、ジェルマは慌てて手を離した。

「うぷ……えと、とりあえず、トーカス様がゴブリンの集落を見つけて、そのまま殲滅されまして、残っていたゴブリンキングも、トーカス様がとどめを刺してます。これ、ゴブリンキングの魔石です」

そういって、バッグにしまってあった直径十センチ程度の、ゴブリンキングから剥ぎ取った魔石をジェルマに手渡す。

「おいおい……マジかよ」

手渡された魔石の大きさとその輝きに、鑑定するまでもなく、それが高ランクの魔物から取り出されたもので間違いないと確信したジェルマは顔を引きつらせた。

「とりあえず、大量のゴブリンの死体がありますので、それの始末と、残党がいれば、それの討伐だけお願いします。さすがに、全部の死体の処理しながらは無理だったんで……」

ふらふらと体を揺らしながらグロッキー状態のシエラが言うと、ジェルマはハッと我に返り、心配するな、と頷いた。

「当たり前だろ、流石にそれをやってないからって責めるほど鬼じゃねーよ、俺も。残党がいないかどうかの確認と合わせて、そのくらいは、冒険者どもにさせるから心配はいらん。とにかく、よくやった。すでに最終目標がいなくなってんなら、多少は時間に余裕も出せる。後でお前のマッピングで地図更新してもらうから、とりあえずちょっと仮眠室で休んでこい」

ジェルマの言葉に、シエラは目をしぱしぱさせながらも、感謝する。

「あ、ありがとうございますぅぅ……うぅぅ……」

シエラはジェルマに小さく頭を下げると、今にも意識を手放しそうになるのを必死でこらえながら、なんとか仮眠室までのそのそと歩いていった。

「や、やっと寝れる……」

なんとか仮眠室にたどり着いたシエラは、着替えることもせず、体中についた泥や埃を落とすこともせず、みんなが使う共用品であることはわかっていたが、ごめん、ちゃんと後で綺麗にするから、と、心の中で謝って、そのままベッドに倒れこんだ。

「……ぐぅ…………」

次の瞬間、シエラの寝息が部屋に響いた。

そして、シエラの横で眠る、二匹の鶏の姿も、そこにあった。


「……ラ、……エラ、…………起きて、シエラ!」

「は、はい!?

体を揺さぶられ、シエラは目を覚ました。見覚えのないベッドに、一瞬、首を傾げるも、すぐに仮眠室でベッドに倒れこんだことを思い出し、そこが自室ではないことに思い至ったので、まだぼんやりとする頭を軽く叩き、意識を活性化させようと、何度か目をぎゅっとつむったり、あけたりした。

「大丈夫!? 生きてる!?

体を起こして、声の主を見る。

「うん、大丈夫、生きてる。ちょっと、まだ眠いけど……。ごめん、今、何時?」

目頭をつまみ、軽く揉みながら聞く。

「今はまだ六時半よ」

「は、早い……」

思っていたよりも早い時間だったことに、少しショックを覚えるシエラ。

ゲートをくぐって戻ってきたときには、すでにうっすらと空が白んでいた。この時期で考えれば、時刻はまだ六時よりも前のはずだ。だが、感覚的に、一時間以上も睡眠がとれたかどうかについては、少し怪しい感じであった。

「まぁ、多少は寝れたから、まだマシか。……私がここにいること、ジェルマさんにでも聞いたの?」

ルーに聞くと、彼女はこくりと頷いた。

「うん。今日はみんな、六時には集合するよう言われてたからね。たまたま一番乗りだったんだけど、さっきジェルマさんに会ったら、シエラを起こして地図更新してもらってこいって言われたから」

彼女のその言葉に、シエラは白目を剥きそうになる。

「わ、私、昨日から全然寝れてないのに……っていうか、昨夜は丸々対応してたんだよ? 人使いが荒すぎる……」

シエラは両手で顔を覆って嘆いた。

「とりあえず、七時には冒険者の人たちに出発してもらうことになってるから、それまでに地図の更新と、複製をしないといけないのよ」

申し訳なさそうにしつつも、今回、シエラがどこで何をしていたのかを誰も知らない状況なので、シエラにしか、その内容を追加更新してもらった地図は作れないからごめんね? と彼女は肩を竦めた。

「……わかった。着替えたらすぐに行くから、先にカウンターで地図と複製用の紙、用意してもらっててもいい?」

残り時間もあまりなく、どうしようもない、とシエラは諦めて、両手を上に伸ばし、大きく伸びをした。

「うん、わかった。先に行って準備しとくから」

ルーはそう言うと、両手を合わせて、ごめんね、と言って部屋を出た。

「さすがに、昨日のこの格好のままじゃまずいし、着替えないとね……」

そういって、汚れやらなんやらでボロボロになってしまっている制服を、姿見の前で見て、はぁとため息をついた時だった。

「…………え?」

(……ま、待って。い、今、見えたのって……)

ギギギギ、とまるで油の切れたブリキ人形のように、ゆっくりと首を後ろに回す。

そこには、すやすやと気持ちよさそうに眠っている、白銀の鶏と漆黒の鶏の姿があった。

「ななな!?!?!?!?

驚きのあまり、思わず床に倒れこむ。

「な、なんでコーカス様とトーカス様がここにいるの!?

大声で叫ぶシエラ。その声に、コーカスとトーカスは驚いて目を覚まし、首を上げた。

「何事だ!?

どうした、とコーカスが声をかける。

「何事、はこっちのセリフです! な、なんでお二人がここにいるんですか!!

シエラが信じられない、という表情で聞くと、トーカスがきょとんとした声で答える。

「報酬をもらわなくてはならないからに決まっているだろう。それに、できれば報酬の野菜は自分で選びたいしな」

「は!?

トーカスの言っている意味が理解できず、思わずあんぐりと口を開けた。

「我はトーカスがお主についてゲートをくぐっていってしまったのでな。おもし……ゲフン! 心配でついてきただけ」

「今、面白そうとか、言いかけませんでしたか……?」

ゴゴゴゴゴ、という効果音が聞こえてきそうな雰囲気を醸し出し、わなわなと肩を震えさせながらシエラは言った。

「……とにかく、急いで先ほどの娘の所に行かなくていいのか?」

こほん、と咳ばらいを一つして言うトーカス。その言葉に、シエラはハッとする。

「そうだった……とにかく、お二人ともここにいてくださいね? 後で戻ってきますから。いいですね!?

そう言い残して、シエラは仮眠室を出ると、急いで更衣室で替えの制服に着替えて、受付カウンターへと向かった。

「……はい、これで、私の記憶してる地図情報、更新できたと思う」

トーカスが討伐を始めたあたりから砦までの地図情報と、ざっくりとゲートからその開始位置までの方角と距離を書き記した地図を渡す。

「ごめん……寝不足で、ちょっと今、これ以上はスキルを上手く使える自信がないから……複製、お願いぃ……」

そう言って、シエラはバタン、とカウンターに突っ伏した。

「無理言って悪かったわね、ありがとう! これでも食べときなさいな」

アミットがシエラの口に、ほれ、と蜜飴を放り込む。

「お、美味しい……!!

よく考えてみれば、昨日はお昼を何とか隙間時間に食べたくらいで、それ以降、何も口にしていなかったことを思い出す。

(急なこととかで、おなかがすいたの、全く気にしてもなかったわ)

思い出すと同時に、きゅるるるる、と盛大におなかが鳴った。

「……思い出したら、おなかがすいてきちゃった……うぅ……」

口の中の蜜飴をコロコロと舐めながら、シエラはふぅ、と息を吐き、体を起こす。

「あ、オーリ、ちょうどよかった。今日のスケジュールが全然わからないから、教えてもらえないかな?」

シエラが声をかけると、オーリは複製をしながらいいですよ、と頷いた。

「シエラさんからの情報をもとに、今回の緊急クエストを受けてもらっていた冒険者の方たちには、これから出来上がった地図をお渡しして、森に向かってもらい、ゴブリンの死体の処理と、森の探索を行ってもらうっす。ここで、もし、ゴブリンの残党がいた場合は、そのまま討伐も行ってもらうことになってるっす」

ふんふん、と頷くシエラ。

「報酬に関しては、処理が完了してて、全員が戻ってきたら、ギルド職員を森に派遣、最終の確認が取れた後に、支払いすることになってるっす。報酬の支払いができるようになったタイミングで、森への立ち入り制限は解除し、依頼の受付なんかも再開することになってるっす!」

「なるほど」

大体、概ね想定していた内容通りだったので、シエラはふんふん、と頷いた。

「なので、うちらはこれから、通常業務をこなしつつ、緊急クエストの報酬支払の準備と、報告受付の準備、今回のクエストで使用してなくなる予定の備品関係の発注と、整理をすることになってるっす。あ、あと、今回の件でお休みがなくなった人たちが、明日・明後日にまとまってお休みをとっていってもらうことになってるんで、その分の仕事の引継ぎもあるっすね」

「ひぃ!」

通常の受付業務関連が、森への立ち入り制限のため、減ることを想定していたので、もしかして、ちょっと暇になるんじゃ? と心の中で喜んだのもつかの間、四日に分かれてお休みをとるはずだった人たちが、二日間で一斉に休むことになるので、通常よりも人手が少なくなってしまうことが発覚し、シエラの気分は一気に急降下した。

「通常業務が少しでも少ないうちに、みんなちゃんと休み取り直せって、ジェルマさんの指示っす」

徹夜で仕事した私への労りは!? と心の中で叫びながら、小さく涙目になりつつも、わかった、とシエラは頷いた。

緊急クエスト(と言っても、もう、討伐する対象がいないので、ただの後処理クエストと化してしまっているのだが)に出ていく冒険者たちを見送ったあと、通常通りギルドを開け、緊急クエストを受注できない初心者冒険者たちの受付業務をこなしたシエラは、ちょっと席外すね、と言って、休憩中の札を立てると、仮眠室へと足早に向かった。

「……起きてらっしゃいましたか」

ドアを開けて中に入ると、トーカスがととと、と歩いてきて、シエラの肩にぽん、と乗っかった。

「とりあえず、時間があまりないので……ちょっと一緒に来ていただけますか?」

そういうと、シエラはコーカスを抱きかかえて部屋を出る。

「どこに行くのだ? 報酬か?」

うきうきした声で聞いてくるコーカスに、シエラはいいえ、と頭を振った。

「違います。まずはギルドマスターに報告しないとなんで」

そういうと、ギルドマスターの執務室のドアをノックし、シエラです、と中にいる人物に声をかけた。

「入れ」

小さく了承の声が聞こえたので、失礼します、とシエラは中に入った。

「……おま、それ…………」

顔を上げてシエラを見た瞬間、ジェルマは手に持っていた書類を床に落とした。

「……昨日、ゲートで戻ってきたときに、一緒に来てたみたいです」

!?

シエラの言葉に、ジェルマは一瞬固まる。昨日のことを必死に思い出してみると、シエラが戻ってきた後、すぐにゲートを閉じていなかったことに思い至る。

(シエラからの情報をもとに、今日のスケジュールの組み直しや、後処理のための人員の配置等々を練り直していて、ゲートを閉じたのは……)

昨日シエラが戻ってきてからのことを思い出して、シエラからの報告内容が衝撃的過ぎて、ゲートを閉じるまでに少し時間が経っていたことと、シエラの他に、まさか一緒にゲートをくぐってくる存在がいると思っていなかった為、気を張っていなかったという事実に思い至り、やってしまった、と頭を抱えた。

「他のメンバーには?」

聞かれて、シエラはまだ、と小さく答えた。

「……なぜ、こちらに?」

ちらりとコーカス達を見て聞くジェルマ。

「トーカスがついて行ってしまったのでな、我もついてきただけだ」

コーカスはそう言って、トーカスの方を見る。すると、トーカスが今度は口を開いた。

「報酬は自分で見て決めたいからな!」

こともなげに言う二匹に、ジェルマは、そんな理由で、とがっくりと項垂れた。

「あー、ええとですね、大変申し訳ないのですが、ここは街の中ですので、テイムされていない魔獣や魔物は基本的に、入れないんですよ。見つかったら大事になります」

大きな街では、人々が安心して暮らせるように、門番を置き、外壁で囲って外の魔物や魔獣たちが簡単に侵入できないようにしている。一部、テイマーと呼ばれる、魔物や魔獣と契約・使役する人たちが存在するが、そういう人たちの連れている魔獣たちには、使役していることがわかるよう、見えるところに認識票の取り付けが義務付けられており、この認識票がないと、たとえテイムしている魔獣であっても、街の中には入ることができない。

もし、それを破って街中に連れて入っていることがわかった場合、即座に捕まり、魔獣もその場で処分されることが、法で決まっていた。

「では、シエラが我らを使役テイムすれば問題がない、ということだな?」

こともなげに言うトーカスに、シエラは目を見開いた。

「いやいやいや! 私、テイマーじゃありませんから! テイムの魔法なんて使えませんよ!?

慌てて首をぶるぶると振るシエラに、首を傾げるコーカス。

「使えなくとも問題はないぞ? ほれ」

コーカスはそういうと、軽く左の翼を持ち上げる。すると、コーカスの体が光り、そのままその光がシエラの手の甲に吸い込まれていった。

「では、俺も」

今度は肩に乗っていたトーカスの体が光り、同じように、そのままその光がシエラの手の甲に吸い込まれていった。

「ふむ、これで契約は成立したぞ?」

そんな馬鹿な、と慌てて二匹を鑑定する。すると、『テイム:シエラ』とどちらにも表示が出ていた。

「う、嘘……なんで? どうなってるの??

シエラが聞いたテイムの仕方は、基本的に、魔獣や魔物に対し、まずは契約の印を飛ばし、飛ばした相手に自分を認めさせることができれば、テイム成功となり、使役することができるようになる、というものだった。魔獣毎に契約の印は異なり、強い者になればなるほど、それなりのレベルが要求され、印も複雑になり、さらに、相手の知性が高ければ高いほど、成功率が下がる、とも言われていた。

「どうなってるもなにも。我らが仕えてもよい、と思ったからだが?」

何の問題があるんだ? と言わんばかりのコーカスの言葉に、ジェルマはハッとする。

「まさか……そういうことか……」

「ジェルマさん? 私、わからないんですけど!?

混乱した表情のシエラに、ジェルマはたぶんだが、と口を開く。

「通常はこちらから印を飛ばすことから始まるが、そもそもそれは、相手と意思疎通が図れないからだ。印を飛ばし、こちらから使役をしたいという意思を飛ばし、相手が了承することで、初めてテイムは成功する。だが、もともと相手が了承している状態であれば、最初からテイムが成功しているのと同じ状態になる。だから、印やスキルがなくても、テイムの契約ができてしまったということじゃないか?」

ちらり、とコーカスを見ると、コーカスはそんなところだ、と頷いた。

「シエラの騎士に、俺はなる」

(たぶん)ものすごくきりっとした表情を浮かべるトーカスに、何言ってんだ、こいつ、という顔になるシエラ。

「いや、必要ないんで」

きっぱりと断るシエラに、トーカスはなんでだよ! とコツコツと頭をつついてくる。

「ちょ、いた……痛い、痛い! やめ、ちょ、やめて! ごめん、ごめんて! 嬉しい、嬉しいですから!」

思いのほか痛かったので、思わずシエラはトーカスに謝る。

「全く。人の好意は素直に受け取れ」

(いや、あんた鶏だから)

喉まで出かかった言葉を、シエラはグッと飲み込んだ。

「とりあえず……認識票ってまだ、残ってましたっけ……」

テイムした魔獣達の登録業務については、基本的には職業ギルドでの対応になる。門の各入り口には、職業ギルドから派遣された職員が常駐しており、街の中に入る前に、そこで登録などの作業が行われ、認識票を交付される。

ただ、極稀に、冒険者たちが持ち帰った素材(主に卵)が、持ち込まれたのちに孵化し、魔獣や魔物が街中で産まれることがある。その場合、仮登録として、冒険者ギルドで登録・認識票を発行することがある為、各ギルドでも少しではあるが、認識票を持っていたりする。

「ああ、うちでは今まで、認識票の交付はしたことないからな。二つくらいならあるはずだ」

「それじゃ、申し訳ないのですが、認識票の交付処理、お願いできますか?」

本当は、すぐにでもゲートで森に戻ってもらうつもりだったのに、そのお願いをする間もなく、テイムをされてしまったため、シエラはこめかみをぐりぐりと押さえながら、ジェルマに言う。

「仕方ない。本当はゲートで森にお帰り願いたいとこなんだが……」

ジェルマの言葉に、コーカスはコケケ、と鳴いた。

「馬鹿を言うな。報酬がもらえておらぬのに、戻るわけがなかろう」

「それに、もう主従の関係を結んだのだ。今後はここで、世話になるぞ」

え゛?」

トーカスの言葉に、シエラは思わず顔をしかめた。

「ちょ、ちょっと待ってください。それ、本気で言ってます!?

「何か不都合でも?」

きょとんとして返すトーカスに、シエラは大ありです! と声を上げる。

「私は自分の食い扶持ぶちを稼ぐだけでいっぱいいっぱいなんです! それをコーカス様とトーカス様の分まで稼ぐとか、無理ですよ!? それに、どこで寝泊まりするんですか! うちの寮はペット禁止なんです!」

「ぺ、ペット……だと……!?

思わず口をついて出た言葉に、シエラはまずい、と口をふさぐ。

「自分の食い扶持程度、稼げないとでも思っているのか!」

が、トーカスの返しに、思わずまた反論する。

「いや、無理でしょうが! どうやってお・か・ね・を! 稼ぐって言うんですか!」

外に出れば、魔獣や魔物を狩って、自分たちで食べる分を確保することくらいできるだろうが、街中でそれはできない。シエラは週六日はギルドで働いているし、その間、街の外に出るような暇はない。それに、今回のように食料の野菜を手に入れるためには当然ながらお金がいる。そのお金を、魔獣であるトーカスが稼ぐ方法はない。

「素材を持ち込んで、ギルドで売れば金になるだろうが」

「……え?」

トーカスの言葉に、シエラは言葉に詰まった。

(い、いや、そうだけど。え、何、トーカスが魔物とかを狩ってきて、その狩った獲物をギルドに売るってこと? てか、なんで魔物がそんなこと知ってんの??

なんなんだ、この妙に人間臭い鶏は、と思わず心の中で突っ込む。

「いや、まあ、それならお金はできますけど……いや、でも、私は街の外には滅多に出られませんよ? 仕事がありますし」

もし、週に一度の貴重な休み、彼らが狩りに行く為にあてがえ、ということであれば、シエラとしては断固拒否である。

「シエラがついてくる必要はないだろう? 足手まといなだけだし」

「いや、そりゃそうなんですけど……え、おひとりで行って、帰ってくるってことですか?」

「何か問題でもあるのか?」

「いやいやいや、大ありでしょう! いくらテイムしてるとは言え、魔獣だけで街中を歩かせられませんから! それに、魔獣だけで街を出入りすることだってできませんからね!?

正直なところ、彼らの場合は、こっそりと街を出て行って戻ってくることくらい、簡単に出来そうではあるが、万が一バレた時、処分を一身に受けるのはシエラ本人であるので、絶対に了承できない。

「なら、初心者冒険者の護衛とか、先生とか。なんか理由を付けて連れて行かせればいいだろ? それなら、魔物だけで出入りすることにもならないし、外で素材を狩ってこれるじゃねーか。シエラも、初心者冒険者がうっかり命を落とす危険が減るならありがたいんじゃねーか?」

トーカスの思わぬ言葉に、シエラはこれ以上、上手く反論することができなくなった。