鳥さん、お仕事の時間です

コーカスとトーカスの雄叫びに、森にいた小鳥たちがバサバサっと飛んで逃げていく音がした。それと同時に、トーカスはドン! と地面を蹴って走り出す。器用に木々を避け、あっという間に、その姿は見えなくなった。

「クク……この森ではトーカスの狩りの練習にもならんと思い、今後どうするか考えていたが。なかなかどうして、素晴らしい森ではないか」

鳥の表情なんて、わかるわけない、と思っていたシエラだったが、明らかに、今のコーカスは悪い顔をして笑っているのがわかった。

「そういえば、コーカス様とトーカス様以外のコッカトリスさんたちの姿が見えませんでしたが、どこかに狩りに出かけられてるのですか?」

シエラが聞くと、あぁ、とコーカスが答える。

「この辺りでめぼしい狩りの対象がもういなくなったからな。他に良い場所がないか、偵察に出しているところだ。移動することも検討していたしな」

「あ、そうだったんですか」

コッカトリスの討伐に関して、現在ギルドで推奨しているランクは、単体であればCランク、群れで複数の目撃情報がある場合はBランクとなっていて、脅威度としてはそこまで高くはない。だが、コッカトリスが通常状態である場合に限っての話であり、卵泥棒事件の時のように、激高状態になっているコッカトリスの場合、彼ら自身の身体能力含め、すべてが上昇するため、推奨ランクは単体でもAランクまで跳ね上がる。特に、コーカスやトーカスのように通常個体と異なり、体毛に色がついている個体は、もともとの能力が通常個体と比べ物にならないくらい高いことが多く、そうなってくると、推奨ランクのAランカーでも、相手をするのが厳しくなる可能性があるのだ。

「では、他の方たちが戻られたら、移動されるのですか?」

ゴブリンの集落を壊滅は難しくても、ここでトーカスが大幅に戦力を削いでくれれば、街で集めた冒険者たちでも、後始末くらいなんとかできるだろう(というかしてもらえないと困る)とシエラは考えた。さらに、コッカトリス達がこの後、森から移動していなくなれば、さらに脅威が減るので、ギルドへの依頼内容も難度が下がる可能性が高くなる!? とシエラは目を輝かせた。

(……めっちゃいい! これなら、私の夢の定時上がりだって……!!

希望に満ちた眼差しを向けながらシエラが聞くと、コーカスは首を傾げた。

「何を言っているのだ? ゴブリンが集落を作れるほどの森だぞ? わざわざ移動する必要はあるまい? それに、移動先でマイスが見つかるとも限らんからな」

「え? マイス?」

シエラが言うと、コーカスは頷く。

「あれはなかなか良いものだ。ここを離れてしまったら、マイスが食べられなくなる可能性がでてくるではないか」

「いやいや、マイスなんてどこででも」

入手できる、と言いかけて、シエラは気づく。

(待って、マイスを普通に入手できるのは私たちの話であって、魔獣であるコッカトリスが、マイスを入手するには、マイス畑を荒らすしか……ない!?

コーカスが言葉を話せるとはいえ、普通に考えて、まず、魔獣に遭遇した時に、相手と会話を試みることは滅多にない。そうなると、一番手っ取り早いのは、マイスを育てている農家の畑から奪う方法。しかしそうすると、農家は被害を被り、ギルドへも討伐依頼が来てしまう。

「そうそう森に来ることはないと、あの時限りと諦めていたのだが。こうしてちょくちょく来るのであれば、わざわざ移動する必要もないだろう?」

コーカスの言葉に、シエラは絶望の表情を浮かべた。

「や、やらかしたー!!!」

あの時の自分の判断は間違っていない。あの時はあれが最善だった。それは今思い返しても同じだし、たぶん、これから何度考えても、結論は変わらないだろう。

だが。

このやってしまった感が拭えないのもまた、事実だった。


「ふむ、そろそろ頃合いか?」

「何のですか?」

コーカスの言葉に、シエラは首を傾げた。

「トーカスが、前座のゴブリンどもを駆逐しているころだろう。そろそろ、他の種が出てきている頃合いかと思ってな。見に行くぞ」

そういうと、コーカスはシエラの襟首をまた嘴でつまみ、ひょいっと持ち上げる。

「うわわ! ちょ、え!?

「行くぞ」

そういうと、コーカスは地面を蹴って、森を駆け出した。

「…………!!!!

猛スピードでの移動、さらに、服をつまみ上げられ、宙に浮いた不安定な状態。最初にトーカスに乗って移動していた時に比べたら、スピードは落ちているが(落としてくれているのか?)、それでも馬に乗って駆ける以上のスピードが出ているのは間違いない。

(……お父さん、お母さん。先立つ不孝を、お許しください)

これは死んだな。

そう思い、心の中で両親に謝るシエラ。

思えば儚い人生だったなぁ、なんてことを思いながら、机に隠してあるお菓子にカビが生える前に、遺体は見つけてもらえたらいいな、とか、スミレちゃんがパーティーを組んで依頼に出かける姿を見たかったな、とか、ルーに貸してた本、そういえばまだ返してもらってないな、とか、全然今、関係のないことが頭の中に浮かんでは消えていく。

「……い、おい、……エラ、…………シエラ!」

名前を呼ばれ、それと同時に頭に強い衝撃が走る。

「痛い!! ……あれ? コーカス様?」

ズキズキと痛む頭をさすりながら、我に返ったシエラ。どうやら、途中で気を失っていたようだ。

「まったく。あぁ、人という生き物が脆弱ぜいじゃくなつくりであることを忘れておったわ……お前が死ぬと、マイスが食えなくなるからな。仕方がない」

コーカスのトサカが光ると、シエラの手の甲に一瞬、ビリっと静電気のようなものが走った。

「いった!」

急に何が起こったのかと、さする。

「これで、多少のことでは死なんだろう」

「え?」

コーカスの言葉の意味がわからず、首を傾げたが、さすっていた手の甲を見て、シエラは気づく。

「こ、これ!?

手の甲に、うっすらと模様が浮かんでいた。

「我の加護を与えた」

「……え? い、今、なんて」

(加護って言った!?