「それに、そもそも、魔素をたっぷりと含んだ魔石なら、ちょっとやそっとのことで、傷なんてつかないんですよ。オーリが言った通り、表面に細かな傷がついたりしていることからも、魔石の魔素がほぼなくなっているということがわかるんです」
鑑定のスキルやレベル関係なく、ある程度確認する方法ももちろんあるので、そちらの理由もきちんと相手にシエラは伝えた。
魔石とは、魔物や魔獣を倒したときに、心臓部からとれる石のことを指しており、それには魔物や魔獣の魔素が大量に含まれている。魔石に含まれる魔素の量は、魔物や魔獣のサイズや強さに比例していると言われており、その為、大きいサイズで、さらに魔素がたっぷりと含まれている魔石については、安定供給が難しいのが現状だ。魔法道具等の材料としてとても重宝されている為、常に魔石に関しては、一定以上の需要があるのをいいことに、大ぶりの魔石と偽って、ただの石や、自然死を迎えた大型の魔獣の魔石(自然死を迎えた魔獣の魔石は、魔素がほぼなくなっている)を何食わぬ顔をして、高価な素材として売りさばこうとする悪党もいたりするので、含まれている魔素の量に比例して、魔石自体の硬度が高くなるという性質については、ギルド職員であれば常識でもあった。
「そういうわけで、こちらの提示額は銅貨二十枚が限界です。それ以上を希望されるのであれば、どうぞ他のギルドへ持ち込みしてください」
どこに持ち込んでも、同じかそれ以下の買取価格になると思うけどね、と心の中で思いつつ、にっこりと微笑むシエラに、男は小さく舌打ちし、二度と来るか! と叫びながら、ギルドを走り去っていった。周りにいた仲間と思われる男たちも、慌ててカウンターに残った魔石を回収すると、そのあとを追って出て行った。
「ふふ、はい、来なくて結構ですよー」
小さく頭を下げながら、ぼそりとシエラは呟いた。
「受付嬢は大変だなぁ、シエラちゃん、お疲れー」
男たちが出て行ったと同時に、周りにいた冒険者たちが、シエラの対応にぱちぱちと拍手する。
「皆さん、お騒がせいたしました。……オーリ、大丈夫だった?」
苦笑しながら、周りの冒険者に心配要りませんので、と小さく頭を下げた後、シエラがオーリに声をかけると、彼女は、はい! と笑って頷いた。
「ちょっと怖かったっすけど……姐さんが助けてくれたんで、大丈夫です! それよりすいませんっす、一人で解決出来なくて……」
「そんなの気にしなくて大丈夫だよ。……それよりその、姐さんっての、やめて」
こめかみをぐりぐりさせながら、もう大丈夫と判断したシエラは、自分の持ち場に戻った。ちょうど、待っていた残りの二組のパーティーも戻ってきたので、報告を受け、受付業務を完了させる。
「あー! 終わったー!!」
時刻は十九時半。
書類作業等すべてを終わらせ、ギルドを施錠し、机の上を片付ける。結局、今日も定時には上がれなかったが、昨日のことを考えると、まだ早く終われたほうだ、と少しホクホク顔になる。
「お、シエラ。まだ残ってたのか」
ぽん、と肩を叩かれて声を駆けられた。まるで壊れたブリキ人形のように、ぎぎぎぎ、と首だけを後ろに向けると、そこにはジェルマの姿があった。
「ちょうど上がるところだな? よし、今から飲みに行こうと思ってたんだけど、今日に限って誰も捕まらなくってよー。お前、ちょっと付き合えよ!」
「い、嫌ですー! 昨日も遅かったし、今日はもう、帰ってゆっくり休むんです!」
「おー、それならいっぱい飲んでから帰ればぐっすり眠れるぞー?」
にこやかな笑顔で、話を聞かないジェルマに、シエラは叫んだ。
「ジェルマさんの言ういっぱいは、
「おーおー、飲んで帰ればいいじゃねーか、よし、ほら行くぞ!」
「いーやーーー!!」
こうしてシエラが宿舎に帰ったのは、もう少しで日付が変わろうかという時間だったという。