「──そうだ、夫婦の記念日を作ろう」
ある日、俺はふと思い付いた。
そして思い付くと同時に、レティシアへ言ってみる。
すると椅子に座って本を読んでいた彼女は、目を丸くして俺の方を見てくる。
「記念日……というと?」
「いやぁ、二人の思い出を祝う日が欲しいな~と思って」
思えば俺たち夫婦は、まだそういう日を持ってない。
絶対あった方がいいよなぁ、うんうん。
何年先もお互いを想い合うために、大事なことだと思うんだ。
……というかぶっちゃけ、レティシアとイチャつく口実が欲しい。
記念日を祝うという体で妻を喜ばせつつ、妻とイチャイチャしたい。
それにどうせイチャつくなら、レティシアにも喜んでほしいワケで。
〝記念日を祝う→レティシアが喜んでくれる→レティシアが喜んでくれて俺も嬉しい〟
完璧だ。パーフェクトだ。
これこそ幸せの無限スパイラル。
夫婦円満の永久機関が完成しちまったなぁ!
レティシアが褒めてくれるで賞は俺んモンだぜ!
──なんて思う俺とは裏腹に、レティシアは「う~ん」と微妙な反応。
「それなら、結婚記念日があるじゃない?」
「やだ。結婚記念日って来年じゃん。来年まで待てない」
俺とレティシアが結婚してから、まだ一年も経過していない。
初の結婚記念日はそれはもう盛大に祝おうと決めているが、まだだいぶ先の話なのだ。
俺は今すぐレティシアとの思い出の日が欲しい。
夫婦二人だけの記念日が欲しいんだ。
レティシアは考え込むように眉をひそめ、
「けれど、記念日なんて突然言われても……」
「よし、それじゃあ今からレティシアに〝可愛い〟って一万回言うから、今日を〝
「…………十年後に後悔するような記念日を作るのはやめて」
「俺は後悔しないが? 十年後も真心込めてレティシア可愛いって言い続けるが?」
確信がある。
十年後も、レティシアは絶対に綺麗だし可愛い。
いいや、十年後だろうが五十年後だろうが百年後だろうが、ずっとレティシアは可愛いに決まってる。
だってレティシア=可愛いであり、俺の妻=最高だから、つまりレティシアは最高に可愛いということになる。
最高に可愛いとはつまり可愛いの権化であり、レティシアは可愛いという概念そのものなのだ。
ああレティシア、世界一可愛いよ。
「それじゃあさっそく始めるぞ? レティシア可愛い可愛い可愛い──」
「他のにしましょう。とにかく他の記念日がいいわ。ええ、絶対に」
「え~? レティシアがそう言うなら仕方ないな……」
仕方なく諦める俺。
レティシアが喜んでくれないなら意味ないからな……。
しゅんとしつつも、俺は改めて少し考え──
「じゃあ〝レティシアが俺を褒めてくれた日〟にしよう! というワケで褒めてくれ、今すぐ!」
「い、いきなり言われても……」
レティシアは困った様子を見せつつも、ちょっぴり気恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「えっと……アルバンは優しいしカッコいいし、ちゃんと私のことを見てくれるから……その……す、好きよ……?」
──
────
──────パンッ!
俺の脳内で、なにかが弾ける。
それは多幸感がお脳のキャパを完全にオーバーした瞬間だった。
同時にすかさず、俺はギュッとレティシアの手を握る。
「俺もキミのことが好きだ。結婚しよう」
最高。最+高。最&高。
可愛すぎる……。
天使かよ……天使じゃなければ女神だろ、絶対。
歓喜に心が打ち震えているよ。
思わず脊髄反射で求婚までしちゃうレベルだよ。
ああ……幸せだ……。
生きててよかった……。
「わ、私たちはもう結婚してるわ! 落ち着いてアルバン!」
やっぱり恥ずかしそうにしつつ、困った顔で俺を落ち着かせようとするレティシア。
そんなの落ち着けっていう方が無理だ。
キミが可愛すぎるのがいけない。
「俺は別に、何度だってレティシアと結婚してもいい。なんなら、今日を二度目の結婚式にするのはどうだ?」
「ま、全く……そういうことを素面で言うのはよして」
プイッとそっぽを向くレティシア。
しゅん……。
俺は至って真剣に言ったつもりなのに……。
なんて、ちょっぴり俺ががっかりしていると──
「──あっ」
ふと、レティシアがなにか思い出したかのような素振りを見せる。
彼女の視線の先には──壁に掛けられた
「? どうした、レティシア?」
「……そうだったわ、今日は立派な記念日じゃない」
「え? なんの?」
「フフ、気付かない?」
レティシアは悪戯っぽく笑う。
え……?
なんだっけ……?
アレ、やばい、わからん……。
レティシアとの思い出は、大体どれも脳に焼き付けて鮮明に記憶してるはずなのに……。
去年はまだ俺たち夫婦は出会ってないはずだし、今日一緒になにかをしようって約束もなかったよな……。
ん……んんん……?
嘘だろ……?
俺がレティシアのことで、わからないことなんてある……?
ヤバい……こんなんじゃ俺──
「俺は……レティシアの夫失格だ……」
絶望に呑まれ、ガクッと床に崩れ落ちる。
もうダメだ……おしまいだ……。
レティシアの期待に応えられないなんて、生きている意味がない……。
などと思いつつ、俺は王都の城壁から身を投げようかと考え始めたが──
「──初デートの日」
そんな俺の思考を遮るかのように、レティシアは言い放った。
「へ?」
「私とあなたが初めてデートした日から、今日で丁度〝百日目〟なの。記念日にするにはピッタリじゃなくて?」
嬉しそうに笑いながら、彼女は言ってくれる。
初デートの日から〝百日目〟……。
あ、あれ? そうだったか?
でも俺とレティシアが王都に来て、初めて城下町デートしてから、流石にまだ百日も経ってないような……。
「クスッ、その顔……やっぱり忘れていたわね?」
レティシアは俺に可愛い顔を近付けると、
「まだオードラン領に居た頃……あなたがドアを斬り捨てて私の部屋に押し入って来て、そしてデートに誘ってくれた、あの日。アレから百日が経ったのよ」
「え──あ──っ!」
そう言われて、ようやく思い出す。
確かにそうだ。
俺はあの時、彼女をほとんど無理矢理デートに連れ出した。
なんとしてでも、レティシアと会話をしなきゃならないと思って。
でないとオードラン家がヤバいことになるかもしれなかったから。
そうだ、そうだよ。
実際、「俺とデートしよう」ってハッキリ言ってたよ。
「あなたに自覚はなかったかもしれないけれど……あの日、アルバンは私の心の殻を破ってくれたのよ。百日前にあなたが乗り込んできてくれなければ、私はずっとああやって孤独に過ごしていたかもしれない」
「レティシア……」
「だから私にとって、今日は大事な日。一緒に祝ってくださるかしら?」
手を差し出してくる我が妻。
俺は彼女の美しい手を快く取り、
「勿論。それじゃ〝初デートから百日目〟の記念日──二人でお祝いしよう」
その後、二人で大事な時間を過ごしましたとさ。