牢屋の中の悪役貴族
「お、お願い……皆落ち着いて! ここで争ってはダメ……!」
悲痛さに満ちた声で、レティシアは叫ぶ。
これまで聞いたこともないほど焦燥に満ちたその一声は、Fクラス全員の動きを止めるには十分なモノだった。
「レティシア……」
「ここで争えば、それこそ取り返しがつかなくなるわ……! だから武器を納めて……お願いだからっ……!」
「「「……」」」
あまりにも必死なレティシアの姿を見て、その場にいた全員の気がそがれる。
彼女は大きく息を吸って深呼吸し、自らを落ち着かせると、
「……アルバン」
俺の目の前まで歩いてくる。
そして、
「ここは一旦、彼らに従いましょう……。それ以外、手はないわ……」
「! ま、待ってくれよレティシア! 俺は──!」
「わかってる」
ふわり、とレティシアは俺を抱き締めてくれる。
彼女のドクンドクンという未だ落ち着きを見せない心音が、俺に伝わってくる。
同時に、俺を不安にさせまいと必死に手の震えを抑えているのが、俺にはわかった。
「全部わかってるわ……。でもここで暴れたら、それこそ相手の思う壺よ。今は耐えるの」
「レティシア……」
「必ず……必ず私が、なんとかしてみせる。あなたの無実を証明して、あなたを救い出してみせるわ。だから私を信じて──少しだけ、待っていて頂戴」
「……」
俺は──剣を鞘に納める。
そして数秒ほど、愛する妻をぎゅっと抱き締めた。