王家特別親衛隊

王家を守る者の証しである金鷲勲章を胸元に備えた、〝王家特別親衛隊〟──

騎士階級の者たちで構成されながら、王国騎士団には属さず独立した組織体系を持つ精鋭部隊。

彼らはあくまでヴァルランド王家直轄の部隊であり、王家の完全なる独断で動かせる唯一の部隊とも言われる。

その名が示す通り、国王や王家の人間を護衛するのが主任務。

だが王家に仇なす反乱分子を積極的に監視・鎮圧したり、場合によっては民衆への弾圧行為も辞さないなど、その実態は国家公安組織に近い。

騎士の中でも秀でた強さを持ち、尚且つ王家への高い忠誠心を持つ者だけがなれるエリート。

それが〝王家特別親衛隊〟──なんだとか。

……で、そんな〝王家特別親衛隊〟が剣と軽装甲冑で武装して、五人編成でクラスの中に押し入ってくる。

少なくとも授業風景の見学に来たって感じではないな。

「……」

五人組の先頭に立つ、目元に傷痕を持った隊長らしき男。

年齢は比較的若そうだが精悍な顔つきで、如何にも武人って風貌だ。

彼はチラッとパウラ先生の方を見た後、キョロキョロと教室の中を見回す。

そして俺に視線を合わせると、

「貴殿がアルバン・オードラン男爵だな?」

「ああ、そうだけど」


「──貴殿に〝王家への叛逆〟の疑いありという報せを受けた。只今を以て、貴殿の身柄を拘束させていただく」


「「「──ッ!?!?」」」

隊長が放った言葉に、Fクラスの全員が騒然とする。

中でも血相を変えたのはレティシアだ。

「ま、待って頂戴! アルバンは──私の夫は、王家への叛逆など企んでいないわ!」

「その真偽を決めるのは、我々ではなく裁判官の仕事だ」

「は~い! ちょっとストップ~!」

パウラ先生が教壇から降り、二人の会話に割って入ってくる。

いつものニコニコ笑顔を崩さずに。

「久しぶりだね~ホラントくん! 元気そうでなにより!」

「……お久しぶりです、先輩

「少し逞しくなったかな? それと、だいぶ強くったみたいだね!」

「ええ……先輩にご指導いただいていた頃から、もう何年も経ちましたから」

「うんうん、しっかりお役目を果たしているようで大変よろしい! ところで、アルバンくんの拘束令状は?」

「こちらに」

ホラントという隊長は部下が持っていたケースから一枚の用紙を取り出すと、パウラ先生に手渡す。

パウラ先生はその用紙を「ふんふん」と眺めて、

「ファウスト学園長への連絡は?」

「既に通達済みです。ウィレーム・バロウ公爵やユーグ・ド・クラオン閣下へも、あと一時間程度で連絡が行くでしょう。一足先に踏み込ませていただきました」

「うんうん、教えた通りにできてるね! なら仕方ない!」

パウラ先生は俺の方へと振り向いて、

「ごめんねアルバンくん! 先生、今はキミのことを助けられそうにありません!」

ニコニコ笑顔で言った。

いや、助けろよ。

あっさり見捨てないでくれよ。

アンタ腐っても担任の先生だろうが。

あまり悪びれる様子のないパウラ先生に、思わず内心で悪態が漏れてしまう俺。

っていうか、パウラ先生って〝王家特別親衛隊〟の騎士と知り合いなのか?

今の会話を聞くと、まるで──

などと思っている内に、ホラントという隊長は俺のすぐ傍までやってくる。

「では、アルバン・オードラン男爵。大人しく付いてきてもらおう」

籠手ガントレットに守られた腕が、俺の肩を掴む。

刹那──

「俺に、触るな」

俺はホラントを、殺意に満ちた目で睨み付ける。

この腕、今すぐ斬り落としてくれようか──そう視線で伝えるように。

「……ッ!」

ホラントは思わず手を放し、後ずさりする。

同時に、その背後で固まる〝王家特別親衛隊〟の連中。

「俺とレティシアを引き離そうとするとは、いい度胸だな」

〝王家への叛逆〟、ね……。

言っとくが、俺はまだそこまで過激なことは考えていない。

だって面倒だし、なによりレティシアが嫌がるから。

だから少なくとも、今はまだ冤罪だ。

そう──今は、まだ。

だが……俺とレティシアを引き離そうとするってんなら、それも真実となる。

王家? 〝王家特別親衛隊〟?

そんな肩書き、俺にはなんの意味もない。

俺とレティシアの幸せを邪魔するなら、全て敵だ。

だから全て滅ぼす。

なにもかも滅ぼす。

なにもかも、だ。

それに、これを手引きした奴の正体も大方察しがつく。

いつも、いつもいつもいつもいつもいつもレティシアを付け狙ってくる、例の王女──

本当にウザったくて堪らなかったが……いよいよ権力を笠に着て、本腰入れて俺たちを潰しに来たってか。

……上等だよ。

そっちがその気なら、お遊びは終わりだ。

「殺す」

剣を手に、椅子から立ち上がる。

まずは目の前の男から始めてやろう、と。

コイツら〝王家特別親衛隊〟を名乗るだけあって、ただの雑魚じゃなさそうだ。

特にホラントって奴はまあまあ強い。

パウラ先生も見抜いてたが、気配が強者のそれだ。

でも──やっぱりレオニールほどじゃない。

アイツの方がずっと強い。

とはいえ五対一。

油断すれば片腕一本くらいは危ういかもな──なんて思っていると、

「……オードラン男爵、さっさと逃げな」

マティアスが立ち上がる。

自身の得物である槍を手に。

「ヘヘ、どうやら借りを返すタイミングがやってきたってワケだ」

「そうだな。僕たちで時間を稼ごう」

続いてイヴァンが立ち上がる。

剣を片手に持って。

「王家に逆らうなど全く不本意だが、今の僕にとっての〝キング〟はオードラン男爵だ。僕には〝キング〟を守る義務がある」

さらに続くようにエステルが立ち上がり、

「あらあら、仕方のねー殿方たちですこと。まあ? 私も? 丁度ド派手なお喧嘩がしたかったとこでして、オーッホッホッホ!」

「じゃあウチも加勢しようっかな☆」

「わ、私も……! オードラン男爵を見捨てるなんてできません!」

「俺もだ」

「……私も」

「カァー!」

最終的に──Fクラスの全員が、立ち上がった。

明確な敵意を〝王家特別親衛隊〟へ向けて。

……なんだよお前ら。

揃いも揃って、王家よりも俺を選ぶってのか?

その意味がわかって──ないワケないわな。

やれやれ……面倒くさい奴らめ。

だが──思っていたよりもずっと、俺はいいクラスメイトに恵まれたのかもしれないね。

Fクラスメンバーが一丸となって放たれる覇気。

それは凄まじく、皆の気迫に当てられたホラントたちは額に冷や汗を滲ませる。

「き、貴様ら……! 総員、迎撃用──!」


「────待って!!!」


あわや一触即発──その空気を、レティシアの大声が破った。