……俺はこれっぽちもレオニールのことを理解しようなんて思わないし、実際に理解なんてしていない。

にもかかわらず、この一体感はなんだろう?

剣と剣とで対峙しているってのに、まるで長年の友と笑い合っているような、この感覚は。

俺とレオニールは〝悪役と主人公〟。

決して相容れないはずなのにさ。

ホント──鳥肌が立つほど不気味で、愉快だよ。

「「──ッ!」」

──俺たちの足が、同時に地面を蹴る。

身体と身体が肉薄し、刃と刃が交差する。

確殺の間合いの中でほんの一瞬、たった一度だけの、刹那の攻防が繰り広げられた。

結果────レオニールの振り下ろした木剣は、虚しく宙を斬る。

対して俺の木剣は、彼の首筋にピタリとあてがわれた。

「……」

「……俺の勝ちだな、レオ」

勝利を宣言し、俺は木剣をレオニールから離す。

…………ふぅ~……。

あ~よかった……どうにか勝った……。

いやホントマジで、レオニールを相手にする度に気が気じゃないんだよな……。

日に日に強くなっていくし、コイツに負けたら俺とレティシアの学園生活がどうなるかもわからんし……。

まあともかく、今回も勝ててよか──

「……ハハ……今回も、負けてしまったね」

──レオニールは呟くように、なんともいえない表情でそんなことを言う。

「レオ……?」

「やっぱり流石だよ、オードラン男爵は。オレは……一体いつになったら、あなたに追い付けるのかな……」

引き攣るような微笑を浮べ、レオは脱力して立ち尽くす。

「いつもあと一歩……あとほんの少し、刃が届かない。見えては霞んで……まるであなたは、蜃気楼の先にいるようだ……」

──直前の俺とレオとの戦いは、紙一重だった。

もし傍に観客がいたなら、俺たちの戦いはすぐに決着がついたように見えただろう。

そして勝利した俺の方が、レオニールよりずっと強い──そんな風に感じられたかもしれない。

だがとんでもない。

俺とレオニールの実力は、本当に紙一重だ。

俺たちの間にある実力差は薄紙一枚。

今にも破れてしまいそうなほど薄く、容易に反対側が透けて見える紙一枚分ほどしかない。

文字通りの紙一重だからこそ──互いの実力がよくわかっているからこそ、すぐに決着がついたのだ。

──ハッキリ言って、いつまで経っても俺はコイツが怖い。

内心では、追い付かれないように──追い越されないようにと必死だ。

……とはいえ、だ。

その〝紙一重の実力差〟が、入学当初から埋まっていないのも事実。

俺は俺で日々鍛錬を怠っていないが、レオニールだって相当以上の鍛錬をこなしている。

〝アルバン・オードランを超える〟というマインドも以前から少しも変わってはいない。

にもかかわらず、実力差が埋まらないのは何故か──?

依然からちょっと不思議に思ってたんだが……最近、気付いてきたんだよな。

どうして俺とレオニールの実力差が埋まらないのか──その理由が。

「……レオ、どうしてお前がいつまで経っても俺に勝てないのか、わかるか?」

「え? それ、は──」

「言っとくが、鍛錬が足りないとかそんな理由じゃねーぞ。お前が俺より強くなろうと必死に努力してることは、俺が一番よく知ってる」

あー、やだやだ。

こんな言い方、まるで俺が主人公レオニールの理解者みたいだよ……。

俺が理解したいと思うのはレティシアだけなのに……。

でも……一応、まあ、多少気の毒には感じるし?

それに、わかっていてなにも教えないってのは、流石に意地悪が過ぎるだろうさ。

「レオ、お前には──〝負けられない理由〟がないからだよ」

「負けられない……理由?」

「俺にはある。レティシアだ」

トン、と木剣の切っ先を地面に付け、俺は落ち着いた口調で話を続ける。

「もしも俺がお前に負けることがあったら、俺たち夫婦は破滅する。だから負けられないんだよ」

「なっ……! は、破滅って、オレがあなたたち二人を破滅させるワケないだろう!」

「いや、あのな──」

俺は元々この世界の悪役で、お前に倒されて破滅する筋書きシナリオだったんだよ──なんて言っても理解してもらえんだろうな。

この世界が〝ファンタジー小説の中の世界〟だって自覚があるのは、俺しかいないんだし。

「……まあ、とにかくそういうマインドでいるってことだ。俺には守るべき大切な女性ヒトがいて、だから負けられないってな」

「守るべき、大切な女性ヒト……」

「俺の剣には〝妻を守る〟って想いが乗ってる。その想いの重さが、お前と俺との間に紙一重の差なんだよ」

そう──絶対に負けられない。

レオニールに限らず、相手が誰であろうとも。

俺が敗北することは、俺たち夫婦の終焉を意味する。

それのみならず、レティシアの命さえも危うくなるかもしれないんだ。

だから負けられない。

どんな戦いであっても、どんな相手であっても。

全ては──愛する妻を守るために。

「お前にも愛する女性が見つかれば、俺との紙一重の差は埋まるかもな。ま、だからって軽々しく恋愛しろなんて口が裂けても言わないが」

そんじゃ、また午前の授業でな──と言い残し、俺はレオニールの前から去っていく。

ん~、いい運動って呼ぶには緊迫感のある朝練だったな。

こういうの、たまには悪くないかも。

本っっっっっ当にたまにでいいけど。

毎週とか毎日とかあったら面倒くさすぎてノイローゼになりそうだし。

さーて、そろそろレティシアも起きた頃かな?

愛する妻に、おはようのキスでも──

なんて思っていた俺だったのだが──突然、ザッと頭の中にノイズが走る。

同時に、あることが脳裏をよぎった。

いや、思い出したと言った方が正確かもしれない。

それも今──本当に今更になって。

……あれ?

そういえば、レオニールって〝ファンタジー小説の主人公〟なんだよな?


それじゃあ……〝ファンタジー小説のヒロイン〟って、今どこに──?