〝月狼の戴日〟
──ナルシスとラファエロの舞踏会襲撃事件は、無事幕を閉じた。
ラファエロの魔法によって乱闘に巻き込まれ大惨事となった貴族たちだったが、幸いなことに死者はゼロ。
大怪我をした者は何人も出たが、それでも権力者の中から死人が出なかったのはラッキーだったと言わざるを得ない。
ま、それもFクラスメンバーが率先して操られた貴族たちをはっ倒し──もとい手際よく気絶させていったお陰だろうが。
とはいえ、有権者に怪我を負わせた──晴れ舞台に混乱を招いてしまったという事実は事実。
レティシアをはじめ、マティアスやイヴァンたちは後処理をどうしたものかと頭を抱えていたが──不思議なことに、舞踏会に参加した貴族たちは誰もマティアスを責めなかった。
あの乱闘に巻き込まれた、ただの一人も。
それどころか、全員が「あの一件は気にしない」「我々は変わらずマティアス殿を支持する」という頑なな意思表明をするほど。
無論、マティアスがぶち上げた〝資産を倍にする〟という公約のせいもあるだろうが……たぶん、あの
〝レクソン家からも手を回しておく〟みたいなことを言ってたしな。
レクソン家と言えば、王家と密接な繋がりのある影の名家。
暗殺一家という家柄故に後ろ指を差されることもあるが、そんな彼らが能動的に貴族たちへ働きかけたならば、その影響力はあまりに未知数。
レクソン家が持つ実際の権力がどれほどなのか、俺には予想もできん。
だが……少なくとも〝舞踏会の一件をなかったことにする〟くらいの力はあったってことなんだろうさ。
ありがたいと言えばありがたいけど、おっかないと言えばおっかないわな……。
ま、なんにせよ一件落着で、エイプリルも五体満足。
レティシアも俺のことを褒めてくれたし──面倒くさい思いをした甲斐はあっただろう。
うん、そう思うことにしよう。
ともかく、事態は沈静化し──ようやく〝月狼の戴日〟はやってくる。
▲ ▲ ▲
「──それでは、これよりウルフ侯爵家の家督相続の儀を執り行う」
教会の中に、レティシアの父であり俺の義父でもあるバロウ公爵の声が響く。
彼が壇上に立ち、周囲には大勢の貴族たちの姿。
その中に俺やレティシアなどのFクラスメンバー、それと王国騎士団・最高名誉騎士団長であるクラオン閣下も交じっている。
そして──バロウ公爵の眼前には、マティアスとエイプリル両名の姿が。
ちなみに、なぜウルフ侯爵家の家督相続の場にバロウ公爵がいるのか──?
それは──
「本来であれば、父君であるコーウェン・ウルフ侯爵が直々にマティアス殿へ家督を譲るべきであろうが……私が代わりとなることを許してほしい」
「いえ、どうかお気になさらず」
「……父君のことは、不幸であったな。ご冥福をお祈りする」
小さく苦笑するマティアスに対し、悼むように目を閉じるバロウ公爵。
そう……マティアスの父親であるコーウェン・ウルフ侯爵は、つい三日前に息を引き取った。
元々意識がなく寝たきりとなっていたようだが、そのまま眠るように旅立ったという。
まるで、マティアスとナルシスの因縁の行く末を見守ってから逝った──なんて感じるのは、俺の考えすぎであろうか。
ともかく、マティアスへ家督を譲れる立場の者が不在に。
故に代行者として相応しい権威を持ち、尚且つマティアス派として意思表明をしていたバロウ公爵にお願いするという形となったのだ。
実際問題、彼以上の適任はいないだろう。
マティアスのウルフ侯爵家当主という立場にも、より箔が付くしな。
バロウ公爵は故人をしばし悼んだ後、
「天国へ旅立たれたコーウェン・ウルフ侯爵の代行者として、〝月狼の戴日〟を迎えたことをここに宣言する」
厳かに〝月狼の戴日〟の開催を告げる。
ちなみにだが……ナルシスの奴は現在、絶賛行方不明となっている。
本来であれば豚箱にでもぶち込まれるのが道理であろうが、貴族たちの間で「舞踏会の一件をなかったこととする」という暗黙の了解があったために、ナルシスの愚行もなかったことになったのだ。
しかしあらゆる意味で負け犬となった奴に、もう居場所などない。
今頃は国外に逃亡して、二度とヴァルランド王国の地を踏むことはないだろう。
なんか聞いた話じゃナルシスの〝花嫁役〟の女もいたらしいけど、まあどうでもいいな。
「マティアス・ウルフ、そしてエイプリル・ウルフよ。貴殿らはお互いを支え合い、ウルフ侯爵家をより繁栄させていくと誓うか?」
「「誓います」」
「うむ。それではマティアス・ウルフよ、前へ」
マティアスが一歩壇上へと上る。
それに併せてバロウ公爵が
「貴殿に──ウルフ侯爵家当主の証である、〝月銀狼の
〝月と狼があしらわれた銀の装飾〟が付いた