まるで向日葵のような
やっぱりレティシアは最高だ。
流石は俺の妻。
いやー、〝出来る女〟すぎるよなぁマジで。
彼女を嫁に貰えた俺は幸せ者だよ。
俺は腕組みし、一人で「うんうん」と頷く。
──レティシアの行った報復は効果てきめんだった。
ナルシス派に付いていた貴族たち、その中でも影響力のある者数名の領地へ経済的なダメージを与える。
それも〝権威〟を後ろ盾にした形で。
結果、有力な貴族たちはこぞってマティアス派に鞍替え。
それを見た他の貴族たちも「ヤバい」と実感し、つられるようにマティアス派へと寝返っていった。
そうして僅か一週間も経たぬ内に、両派閥の勢力図は逆転。
レティシア曰く、マティアス派:ナルシス派の比率は〝7:3〟まで傾いたそうな。
これならマティアスがウルフ侯爵家の家督を相続するって流れで間違いないだろう。
勝敗は決したと言っていい。
にしても、後でバロウ公爵とオリヴィアさん──ああいや、義父さんと義姉さんにはちゃんとお礼をしなきゃな。
……彼らの協力がなければ、こうも簡単に事態を動かすことはできなかったはずだ。
特にバロウ公爵。
レティシアと俺が助力を願い出たら、二つ返事でOKしてくれた。
「バロウ公爵家は娘と婿殿のために全面的に協力する」と。
いいお義父さんだ、本当に。
ちなみに、俺たちが暗殺されかけたことに関しては話がややこしくなるので言わなかったのだが、バロウ公爵もオリヴィアさんも既に知っていたっぽい。
にっこりとした笑顔の裏で、明らかにブチギレてた雰囲気だったもんな……。
笑顔で口裏を合わせてきっちりと報復する辺りが、なんともバロウ公爵家らしい。
レティシアにしても、〝権威も権力も使える時は使う〟というスタンスなのが彼女らしいよな。
まさに悪役令嬢。
そういうところも本当に好きだ……。
やっぱりレティシア最高。
最高に綺麗だし、最高に可愛いし、最高に賢いし。
もう最高すぎて最高以外の語彙が消失しそうだが、心から〝俺の妻最高〟と思うんだから仕方ない。
どんだけ溺愛しても、全然し足りないくらいだよ。
そんなこんなで、レティシアやバロウ公爵家のお陰でマティアスは事なきを得たワケだが──
「しばらくぶりだな、マティアス」
「……イヴァン」
「フン、聞いたぞ? 貴様らしくもなく、ずっと部屋に引き籠っていたそうじゃないか。さぞ腕も鈍ったことだろうに」
クイッと眼鏡を動かし、いつものように憎まれ口を叩くイヴァン。
そんなイヴァンに対し、
「んも~、イヴァンってば素直じゃないにぇ♣ マっちんがいなくなった後、いの一番にアルくんたちに助けを求めたくせにぃ♠」
「うんうん……男性同士の熱い愛情……小説のネタに最適……」
「んなっ……! ラキ貴様っ、言わなくていいことを言うんじゃない! カーラはいい加減、クラスメイトを小説のネタにするのをやめたまえ!」
クスクスと笑ってからかうラキと、黙々とノートに文字を書いていくカーラ。
──今現在、ウルフ侯爵家の屋敷にはFクラスのメンバーが集っている。
全員が全員、どうしてもマティアスの顔を拝まなきゃ気が済まないと言い出したためだ。
もっとも、マティアスの奴はまだ王立学園に復学したワケじゃない。
ウルフ侯爵家の相続が決まるまでは学園に戻らず、家督争いに集中した方がいいというレティシアの判断があったからである。
まあ実際、一度爆殺されかけてるしなぁ俺たち。
それを学園内でやられたら堪らんし、シャノアの喫茶店がまた標的にでもされたらもっと堪らん。
妥当な判断だと思うよ、うん。
ローエンやエステルは不服そうに、
「やれやれ……まったく水臭い奴だ。せめて相談くらい俺たちにすればいいものを」
「本当ですわ! 今やFクラスは一心同体、一蓮托生! お力添えならぬおパワー添えくらい、いっっっくらでもしましたのに!」
などと言い──勝手にいなくなったマティアスに対し、意外にも冷たい言葉を浴びせない。
しかしホント……Fクラスはいつからこんなに仲良くなったんだろうな。
俺が〝
マティアスにとっちゃ、Fクラスの一員になれたことがなによりの僥倖だったのかもしれないな。
イヴァンは「オホン!」と咳き込み、
「ともかくだ! ウルフ侯爵家の家督がマティアスに決まるまで、僕たちはキミとエイプリルを支援する。いいな!」
「ああ……助かるよ。本当にすまねぇ」
「礼など不要だ。僕たちはオードラン男爵に忠誠を誓った者同士なのだからな」
小さく頭を下げるマティアスと、相変わらず素っ気なく返すイヴァン。
ま、なにはともあれ──
「──なにはともあれ、後は〝月狼の戴日〟まで二人を守り切ればいいだけ……かな? オードラン男爵」
──俺の思考を読んでいるかのように、ニコリと笑いながらレオの奴が言う。
……コイツ、本当に時々怖いんだよなぁ。
段々と俺の思考を読み取れるようになってきてる気がするというか、頭ん中を覗かれてる気がするというか……。
それに心なしか、最近レオの主人公らしさが鳴りを潜めているような気もするし?
はぁ……俺の考えがわかるのはレティシアだけでいいんだっつーの。
いやまあ、俺が考えてることがわかりやすい顔してるだけなのかもしれんけども。
「……まあそうなんだが、そう簡単にはいかないと思うぞ」
「え?」
「──このまま引き下がるとは思えないからよ。ナルシス・ウルフという男が」
俺の言葉に、レティシアがさらに言葉を付け足す。
そう……レティシアも俺も、その点に関しては全く同意見なのだ。
レティシアは静かに腕組みし、
「マティアスから聞いた限り、かなり執念深い性格をしているようだから。……必ず、どこかで仕掛けてくると思うの」
「だな。やっぱり俺がナルシスのとこへ行って、先に首を刎ねてこようか?」
「ダメよ。政治の問題は政治で解決しなくちゃ、後々禍根になるわ」
「ごめん、冗談だ。ま、どんな手を打ってこようが叩き潰すまでだな」
政治の問題は政治で解決、か。
その言葉、俺たちを爆殺しようとしたナルシスの阿呆に聞かせてやりたいね。
でも……ぶっちゃけ俺は、彼女が言うところの政治になんて興味ない。興味があるとすれば、オードラン領の執政に関わるモノくらいか。
──レティシアは、マティアスとエイプリルの味方だ。
裏を返せば、マティアスとエイプリルの敵はレティシアの敵。
彼女に仇成す者は、誰だろうと潰す。
政治も権力も俺には関係ない。
妻の敵は俺の敵だ。
そして妻が守ろうとする物なら、俺も全力で守る。
それだけなんだ。
ナルシスがどんな手を使ってくるのかなんざ知ったこっちゃないが──やれるもんならやってみろってな。
レティシアは「ふぅ」と小さく息を吐き、
「ナルシス・ウルフの動向には一応監視の目を付けてあるから、後手に回ることはないと思うけれど……。今は考えても仕方ないし、他のことに気を回しましょうか」
「? 他のことって?」
「それはね──エイプリルを〝ウルフ侯爵家に相応しい淑女〟にすることよ」
▲ ▲ ▲
『……うん、こんなものかしらね』
『あ、あのぉ……私がこんな煌びやかな……似合わないのではないでしょうかぁ……』
『そんなことないわ。さ、恥ずかしがらずマティアスに見せてあげなさいな』
ドアの向こうから、微かにそんな声が聞こえる。
そしてレティシアとエイプリル以外のFクラスメンバーが待つ部屋──そのドアがカチャリと静かに開けられた。
途端、「おおー!」と上がる歓声。
「うぅ……私には似合わないと思うのですがぁ……」
姿を現したのは──煌びやかなドレスを身にまとったエイプリルだった。
黄色を基調として橙色・白色の生地が組み合わされ、まるで
貴族衣装らしく煌びやかだが、それでいて快活さや若々しさがちゃんと内包されている。
まさにエイプリルにピッタリのドレスと言えるだろう。
そんな
「お……おぉ……」
マティアスの奴は、思いっ切り視線を奪われる。
「どうかしらマティアス? このお屋敷にあったドレスの中から、彼女に似合いそうなモノを見繕ってみたのだけれど」
「えっ……あ、その……いいん、じゃねぇか……?」
「あぁ~★ マっちんてば見惚れてる~♣ らしくないリアクション可愛い~♪」
「う、うっせぇぞラキ! 俺は別に見惚れてねぇ!」
からかうラキに対し、露骨に耳を赤くしながら怒鳴るマティアス。
いや見惚れてただろ。
今の反応はどう見ても。
でもまぁ、確かによく似合ってるからな。
よくこんなおあつらえ向きのドレスがあったもんだ。
つってもウルフ侯爵家なんて掃いて捨てるほど金はあるワケだし、これまでこの家に在籍していた女性のドレスが大量に残っていたっておかしくはない。
もしかしたら、マティアスの母親のドレスって可能性もあるかもな。
だとしても、ここまで似合ってる一着があったのは驚きだが。
レティシアも満足そうに腕を抱え、
「エイプリルのイメージと体型にできるだけ合うドレスを探してみたのだけど、あまりにもピッタリな一着があって驚いたわ。マティアスも喜んでくれたようでなによりね」
「う……うぅ……」
ニコニコと笑うレティシアに対し、気恥ずかしそうに頬を赤らめるエイプリル。
それでもマティアスに見てもらえたのが嬉しかったのか、満更でもなさそうだ。
「うんうん、マティアス派貴族たちへの顔合わせは、このままで大丈夫そう」
「ふぇ!? こ、この格好で他の貴族たちと会うんですか……!?」
「当たり前よ。いくらナルシス派の貴族たちを取り込んだとは言っても、肝心の〝花嫁〟が分不相応と思われてはいけないわ」
レティシアはそう言うと──ほんの少しだけ、口元から笑みを消す。
「それに……そういう場にあっては、〝エイプリル・スチュアート〟という女性が少しでも着飾って見栄を張らないといけないのは、たぶんあなた自身もよくわかっているのではなくて?」
「! それ、は……」
……?
なんだ?
なんかレティシアの言い回しが、ヤケに含みがある気が……。
普段の彼女らしくないというか……。
前にシャノアの喫茶店で女子会を開いていた時だって、ありのままのエイプリルをマティアスに受け入れさせることに注力していたのに……。
──いや、考えすぎか。
レティシアが〝そうすべき〟と判断したなら、俺はそれでいい。
俺は夫として、妻を肯定するだけだ。
などと俺が雑念を振り払っていると、
「……なあオードラン男爵よ、彼女をどう思う?」
不意に、イヴァンが小声で尋ねてくる。
「え? ああ、似合うと思うぞ。でも俺はレティシアがあのドレスを着た姿も見てみたかったなぁ」
レティシアのイメージカラーとはだいぶ違うけど。
でも彼女ならなんでも着こなすし、なんでも似合うだろう。
うーん、やっぱり見てみたい……。
「そういうことを聞いてるんじゃない。まったく、キミは本当に妻のことしか頭にないのか?」
「ない。それ以外のことなんざ、考えずに済むなら考えたくねーわ。面倒だし」
「……キミに聞いた僕が愚かだった。聞き方を変えよう」
イヴァンは呆れたようにクイッと眼鏡を動かし、
「彼女──〝エイプリル・スチュアート〟という女性は、何者なのだろうな?」
「はぁ? 何者って、王立学園の生徒だろうが」
「ああ、そうだな。だがキミは、スチュアートという姓に聞き覚えはあるか?」
「…………いや」
「僕も彼女の身辺調査をしたワケではないのでわからないが、少なくとも貴族姓ではない。ならばローエンのような〝職業騎士〟の家系や、エステルのような新興の豪商家系である可能性もあるが……」
「エイプリルから、そういう家系出身者の雰囲気を感じない──ってか?」
「……ああ。生い立ちというのは、必ずその者の身振りに影響を与えるからな。だがレオニールやシャノアのように平民出身という雰囲気ともまた違う。そう考えると、彼女はまるで──」
「イヴァン、そこまでだ」
イヴァンの言葉の先が予想できた俺は、力強い口調で遮った。
「それ以上考えるのはやめとけ。もしその先を言うなら、エイプリルを助けようとするレティシアへの批判とも見做すぞ」
「オードラン男爵……」
「それに、マティアスのためにもならん。お前がアイツを友だと思うなら……余計な詮索はしないことだ」
俺がそんなことを言っていると、レティシアがパンパンッと手を叩く。
「──よし、それじゃあ元の服装に着替えてお勉強会を始めましょう。ウルフ侯爵家の〝花嫁〟に相応しいだけの学問を、できるだけ短期間で修めないと」
「え、えっと……相応しい学問って……?」
恐る恐る聞き返すエイプリル。
するとレティシアはクルッとマティアスの方を見て、
「主に、莫大な資産を前提とした財務……それと経理・会計だと思うのだけれど、あなたはなにが必要だと思われるかしら、マティアス?」
「え? あぁ……確かにそれができりゃ、ウルフ侯爵家としては大助かりだが……」
「決まりね。他の貴族たちに揚げ足を取られないだけの知識を頭に入れなきゃ。ほんの少しだけスパルタで行くから、覚悟して頂戴エイプリル」
クスッと悪っぽく笑うレティシア。
それに対し、エイプリルは「うぅ……が、頑張りますぅ……!」とガッツポーズで答えるのだった。
▲ ▲ ▲
「クソッタレ……クソがクソがクソが……! この俺が、あんな低能な弟なんぞに……!」
レティシアがエイプリルをウルフ侯爵家に相応しい〝花嫁〟にしようと奮闘していた一方──ナルシスは噴火する苛立ちを抑えられないでいた。
家督争いにおいて劣勢となったナルシスが、ウルフ侯爵家当主となるのはもはや不可能に近い。
少なくとも、現状のままでは100%マティアスが当主になるだろう。
しかしマティアス派へ寝返った貴族たちに対し、下手な報復もできない。
何故ならバロウ公爵家と王国騎士団がマティアス派へと味方してしまったから。
如何に傲慢なナルシスと言えど、彼らと真っ向から争っても勝ち目はないことくらい理解できていた。
理解できていたからこそ、無性に腹立たしかったのだ。
「認めねぇ……認めねぇぞ! ウルフ侯爵家を……あの莫大な財産を手に入れるのは俺なんだ! 俺なんだよッ!」
別荘の部屋の中で暴れ回り、飾られていた花瓶や絵画、家具などへ八つ当たりしていくナルシス。
金貨数十枚、数百枚もの価値がある高級品が次々と壊され、ガシャーン! パリーン! という音を奏でていく。
〝金さえあればなんでもできる〟──。
ナルシスの頭はそんな思想に染め上げられていたが、これは逆を言えば〝金でどうにもできないことなど許せない〟という思考回路でもあったのである。
彼はハァハァと息を切らし、
「…………アイツは、一体なにをしてやがるんだ……! せっかく大金はたいて〝花嫁殺し〟を任せたってのに……!」
ギリッと歯軋りを奏でる。
──そんな時、
「……あーあ、もったいないの」
やや甲高く、幼い、少年の声が。
「くふふ……物に八つ当たりするなんて、大の大人がみっともないよ? 恥ずかしくないの?」
小馬鹿にするような台詞と共に、陰から浮かび上がるように小柄な体躯がゆっくりと現れる。
身長およそ140センチ半ば。
喪服のように黒いコート、白いシャツ、首元には黒リボン、そして真っ白な膝から太腿までが露出したショートパンツ。
細い手足に薄い胴体、そして端整な童顔はまさしく美少年のそれ。
見る者によっては、さながら
だがそんな〝玉〟に
瞳も黒く濁っており、言い知れぬ威圧感がある。
当人もその目つきの悪さを自覚してか、長く伸ばした前髪で片目を隠している。
そんな陰をまとう少年の姿を見るや、ナルシスは歓喜と怒りが綯い交ぜになった表情を浮かべた。
「──ッ! ようやく戻ってきやがったか、ラファエロ! 遅ぇんだよテメェは!」
「酷いなぁ、これでも急いだんだよ? それに、子供には優しく接しないとダメってパパから習わなかった?」
くふふ、と煽るように笑うラファエロという少年。
そんな彼の態度に、ナルシスは「チッ!」と大きく舌打ちする。
「んのクソガキがよ……! なんのために大金はたいてお前を雇ったと思ってやがる!?」
ナルシスはラファエロに近付き、彼の胸ぐらを掴み上げた。
「殺し屋風情が……テメェは大人しく飼い主の言うこと聞いてりゃいいんだよ! あんまり舐めた真似してっと──!」
「……ぶっ殺すよ?」
──次の瞬間、ナルシスの首筋に分厚い
か細い腕の少年が扱うには、あまりに似つかわしくない粗雑で重厚な得物。
ラファエロはそんな刃物をコートの中から抜き取り、まるで棒切れでも持っているかのように軽々と振るったのだ。
「なっ……!?」
「勘違いしないでよ、お兄さん。僕はお金が欲しくて依頼を受けたんじゃない」
「じゃ……じゃあ、なんだってんだよ……?」
「僕の
脅すような目つきでラファエロが言うと、ナルシスは慌てて掴んでいた手を放す。
ラファエロも
「そもそも──国王の懐刀たる〝暗殺一家〟の人間が、お金だけで動くワケないじゃん? おバカさんなの?」
ニヤリと、可愛らしく不気味な笑顔をナルシスに見せた。
「でも──安心してよ。このラファエロ・レクソンが、しっかり〝花嫁殺し〟の依頼を果たしてみせるからさ♪」
「……」
「そうしたらきっとパパもママも……カーラお姉ちゃんだって、僕の実力を認めてくれるはずだから!」
「イカレたクソガキが……やっぱりテメェなんて雇うんじゃなかったぜ……!」
ナルシスの額から冷や汗が流れ落ちる。
──元々、ナルシスはラファエロを雇う気などなかった。
彼は初め、暗殺一家であるレクソン家に大金を払って〝花嫁殺し〟を依頼しようとした。
しかしレクソン家当主は「教義に
ナルシスは他に腕の立つ殺し屋を探す他なくなったのだが、そこに接触を図ってきたのがレクソン家の三番目の子供、ラファエロだったのだ。
ラファエロはまだ十四歳という若年であったが、エリート
ナルシスにとっては渡りに船だったのだが──今頃になって後悔し始めていた。
ラファエロは──無邪気すぎる。
目を見ればわかる。
コイツは殺人を〝楽しい〟〝面白い〟と思ってやがる。
しかも本音を言えば「殺せるなら別に誰でもいい」とすら思ってるだろう。
まるで小犬の皮を被った
おまけに小犬のように嬉々として獲物を狙うのに、主の言うことを聞こうとしない。
下手をすれば飼い主すらも噛み殺そうとする。
これじゃ場末の殺し屋の方がまだマシだ──と、ナルシスは内心で毒づいていた。
「そんなに怖い目で見ないでよー。ほらほら、ちょっと面白いこと教えてあげるから!」
ナルシスの考えを知ってか知らずか、ラファエロはどこからともなくピラッと一枚の紙を差し出す。
「あん? なんだこれは……?」
紙を受け取り、そこに書かれてある文章に目を通すナルシス。
そしてしばし読み進めると──彼の表情が驚きへと変わった。
「こ、これは……!」
「暗殺対象のことを調べ上げるのは、
くふふ、とラファエロは笑う。
「こんな人がウルフ侯爵家の〝花嫁〟になろうだなんて、おっかしいよね! たぶんこれ、
その嘲笑に満ちた顔は、とてもとても楽しそうだった。
まるで新しい玩具を見つけた子供のように。
「どうせ殺しちゃうなら、さ……。なにもかも台無しにして、絶望のどん底に叩き落として、人として壊しちゃってから──それから死んでもらおうよ」