二人の出会い

《エイプリル・スチュアート視点Side


──皆さん、こんにちは。

私の名前はエイプリル・スチュアート!

『マグダラ・ファミリア王立学園』に通う、ごく普通の十六歳の女の子です!

今日は友達と城下町で遊ぶ予定なのだけど、待ち合わせの時間に遅れ気味……。

だからちょっと小走りで急いでます!

「はぁ、はぁ……遅刻遅刻……!」

人込みを避けるように、街の中をタタタッと駆けていく私。

でも──とある曲がり角に差し掛かろうとした時でした。

ドンッ

「きゃあっ!?

「──ってぇな。なんだぁテメェ?」

曲がり角の向こうから現れた男の人に、正面からぶつかってしまいます。

私がぶつかったのはとってもガラの悪そうな三人組の内の一人で、ギロリと私を睨みつけてきます。

「……おっと? 嬢ちゃん、王立学園の生徒様かぁ?」

「ヒヒヒ、如何にも金持ってそうだなぁ」

「それに顔もまあまあ可愛いじゃねぇかよ、えぇ?」

私の格好を見るなり、下卑た笑みを浮かべる三人組の男たち。

私はなんだか怖くなって、足が竦んでしまいます。

「あ、あの、ごめんなさ──」

「あーあー、痛ってぇなぁ~! ぶつかったお陰で骨折れちまったわ~!」

「こりゃあ治療費を払ってもらわねぇとなぁ、ヒヒヒ!」

「どうせ金なんて幾らでも持ってんだろ? ああ、持ち合わせがないってんなら身体で支払ってくれてもいいんだぜぇ?」

クックック、と三人組の男たちは笑いながら私を壁際に追い詰めます。

すると──

「……あぁ、畜生が」

私たちの近くに停めてあった、ホットドッグ屋の屋台。

そこで買ったばかりらしいホットドッグを一口齧った男性が、悪態を吐きながらこちらに向かってきます。

少しチャラそうな、褐色肌の男性が。

「おい、アンタら」

「ん? なんだお前、邪魔すんなら痛い目に──!」

「金が欲しいんだろ? なら──ホラよ」

チャラそうな男性はポケットから一枚の金貨を取り出すと、それを親指でピン! と弾きます。

「え──?」

金貨は空中でクルクルと回転。

それに気を取られたガラの悪い男は、すっかり無防備になり──

「どこ見てんだ、バーカ」

「──ぼげぇッ!?

チャラい男性に、思いっっっきり殴り飛ばされてしまいます。

それは凄い力で、ガラの悪い男は空中で何回転もしながら遥か遠くまで飛んでいき、ドサリと地面に落下して気絶。

突然の出来事に仲間の二人は驚愕し、

「な、なんだぁテメェ!? いきなりなにしやが──ぐぎゃあッ!?

今度は華麗な蹴りが宙を斬り、仲間の一人の頭部にクリーンヒット。

こちらも地面をバウンドしながら飛んでいって、簡単に失神させられてしまいます。

「な……!? こ、このガキャ──!」

最後に残った一人は懐に手を突っ込んで、なにかを取り出そうとします。

たぶん短いナイフでも隠していたのでしょう。

でも、

「おっと、妙なこと考えるなよ」

チャラそうな男性は目にも止まらない速さで間合いを詰め、懐に突っ込まれた腕をむんずと片手で掴みます。

「刃物でもありゃ、俺に勝てるとでも思ったか? 生憎、そんな半端な鍛え方はしてなくてね」

「い、痛だだだッ!」

ミシミシ、という骨の軋む音。

チャラそうな男性、凄い握力だ。

「……俺のクラスメイトには、嫁さんのためなら百人のゴロツキだろうがサイクロプスだろうが余裕で相手にしちまう怪物がいてな?」

ギリギリ、ミシミシ

掴まれたガラの悪い男の腕が、今にも折れてしまいそう。

「それに追い付くために、日がな猛特訓してっから──お前をぶちのめすなんてワケないんだよ」

「や、やめろ! やめてくれぇ! 俺たちが悪かったぁ! 折れる、折れるぅッ!」

涙目で懇願するガラの悪い男。

そんな姿を見て、チャラそうな男性は「ケッ」と舌打ちしつつ手を離した。

「二度と学園の生徒に舐めた真似すんじゃねーぞ。もし、次見かけたら……」

「は、はいいいぃぃぃ! すみませんでしたあああぁぁぁッ!」

脱兎の如く逃げていくガラの悪い男。

その場には、助けられた私と助けてくれたチャラそうな男性だけが残りました。

「……」

そんな光景を見ていた私は完全に放心状態になって、ポカーンと立ち尽くしてしまいます。

チャラそうな男性は私の方へ振り向いて、

「おいアンタ、怪我はねーか?」

「ふぇ──は、はい、大丈夫です……!」

「城下町はガラの悪い連中も多いし、気を付けるこった。じゃあな」

そう言い残すと、チャラそうな男性は「なんでホットドッグ食おうとすると毎度トラブルに巻き込まれるかねぇ……」とボヤキながら、私の元から去っていきました。

「────」

この時、私の心は一瞬で奪われてしまいました。

なんて素敵なんだろう、って。

なんて格好いいんだろう、って。

私は、彼が落としていった一枚の金貨を拾い上げます。

いつか──いつか彼に相応しい女性となって、この金貨を返せるようになろう。

そしてその時は……想いを伝えるんだ。

そう胸に誓って──

▲ ▲ ▲

「──えっ、なに今の回想……?」

突然始まったエイプリルの乙女すぎる回想に、俺は困惑を隠せない。

だが展開に置いてかれてるのはどうやら俺だけで、シャノアもレティシアも「うんうん……」と深々と共感していた。

「わかるわ、エイプリル……。それは惚れてしまうわね……」

「マ、マティアスさん、そんな格好いい一面があったんですね……。す、すっごく見直しちゃいました……!」

……そうか?

俺はレティシア以外助けようとなんて思わないから、よくわからんが。

──なんて口に出したらまたレティシアに怒られてしまいそうだから、黙る俺。

でもまあ、もし困っているのがレティシアなら俺だって光の速さで助けに入るしなぁ。

俺が助けたらレティシアも喜んでくれるし。

それに困っている女性を助けるのは、世間一般的に立派ではあるよな。

マティアスの奴にも見上げたところがあるってワケだ。

「そ、その出来事から、彼のことを色々と調べて……マティアス・ウルフ様ということがわかったんですけど……」

「今に至るまで、話しかける勇気が出せない──ということね」

コクリ、と頷くエイプリル。

「な、何度も自分なんかマティアス様に相応しくないって、諦めようとしたんですけれど……お二人の小説を読んでいて、どうしても憧れを捨てられなくって……!」

「エ、エイプリルさん! なにを仰いますか!」

再び、シャノアがガシッとエイプリルの手を握る。

「そんなに想っているなら、あ、諦めちゃダメです! 私もエイプリルさんの力になりますから……!」

「シャノアさん……!」

「──そうね、聞いてしまったからには無関係ではいられないわ」

レティシアは不敵な笑みを浮かべたままティーカップを持ち上げ、紅茶を口に含む。

その所作は何度見ても優雅で綺麗だ。

「私にも協力させて頂戴な。まずは、マティアスに少し探りを入れてみましょうか」

▲ ▲ ▲

──エイプリルがマティアスにホの字だと判明した、次の日。

「それでレティシア、どうやってマティアスの奴に探りを入れるつもりなんだ?」

教室へと向かう途中、俺は隣を歩く妻へと尋ねてみる。

「そうね……とりあえず遠回しに恋人や許婚の有無を聞くのが先決かしら」

「遠回しに、ねぇ。そのまま直球で言えばよくない? エイプリルって子と付き合っちゃえよって」

「ダメよ、アルバン。それでもしマティアスが嫌がったりすれば、エイプリルが悲しむわ」

「そこはホラ、〝キング〟の命令で拒否権なしってことで」

「…………アルバン、もし本当にそんなことをしたら、私あなたと一ヵ月は口をきいてあげませんからね」

「え!? あッ、う……!? ご、ごめんなさい……絶対言いません……」

「よろしい」

レティシアはピシャリと言うと、

「……でも、ちょっと意外だわ」

「ん? なにがだ」

「あなたがエイプリルとマティアスの恋路に関心があることよ。てっきり他人の恋なんて興味ないものと思っていたから」

「あぁ……興味なんてサラサラないね」

そう答えると、レティシアは「え?」と少し驚いた顔をする。

俺は口元に微笑を浮べながら、

「俺がこの話に関わるのは、全部キミのためだよレティシア」

そう……ぶっちゃけた話、俺はエイプリルとマティアスの恋愛模様になんざ興味ない。

だって他人の恋愛に首を突っ込むなんて、どう考えても面倒くさいじゃん?

どうぞ俺の視界に入らないところで勝手にやってくれって感じ。

でも──レティシアは違う。

彼女は本当に、心からエイプリルの力になってあげようとしている。

目を見ればわかるよ。

レティシアは本気だって。

妻が本気を出してるってのに、夫の俺がどうして怠けていられようか?

レティシアがエイプリルの恋を応援するなら、夫の俺アルバンもエイプリルを応援するのが道理ってもんだろう。

ああそうとも。

突き詰めて言えば、俺はただレティシアの力になりたいだけなんだ。

「レティシアがエイプリルを応援するなら、俺もレティシアを応援する。レティシアがやるなら俺もやるし、レティシアが本気になるなら俺も本気になる。妻と夫は一心同体、だろ?」

「アルバン……」

レティシアは青く透き通った瞳を大きく見開き、俺を見てくる。

ん、少しは驚いてくれたかな。

なら僥倖。

妻の驚喜する表情ほど、夫にとっちゃ嬉しい光景もないからさ。

「だから、俺にできることなら遠慮なく言ってくれ。力になれることは少ないかもだが、キミのためならなんでもするよ」

「──相変わらず、そういうことを臆面もなく言うんだから」

クスッと笑うレティシア。

俺はワザと肩をすくめ、おどけてみせる。

「何度だって言うさ。キミこそ、そろそろ慣れてくれてもいいんじゃないか?」

「あら、夫の甘言に簡単に慣れてしまわないことも、夫婦生活を円満に送るコツではなくって?」

「ハハ、言えてる」

「ウフフ」

笑い合う俺たち夫婦。

ホント、彼女のこういう性格ところが愛おしくて堪らないよ。

そんな仲睦まじい会話をしていると、俺たちはあっという間にFクラスの教室に到着。

いつものように、ガラリとドアを開ける。

すると──

「ヒ、ヒソヒソ……」

「ヒソヒソ……コショコショ……?」

「ヒソコショ……!? ガッデム……!」

「コショ……ヒソ……乙女がどうのこうの……」

「カァー!」

シャノア、ラキ、エステル、カーラ&ダークネスアサシン丸は教室の隅で背中を丸め、めっちゃ小声で井戸端会議を開いていた。

……なにを話しているのかは、だいたい察しがつく。

いや、こんなん誰でも完璧に察しがつくわ。

だって何度も何度も、チラッチラッとマティアスの方へと視線を送ってるし。

それも時折「キャー!」という浮ついた歓声を上げてるんだから、間違いないだろう。

おまけに──女子たちと男子たちの距離が、えらく遠い。

男子たちは男子たちでマティアスの傍でたむろし、明らかに不審な者を見る目で女子たちのことを見ている。

そんな、なんとも言えない空気感が流れているFクラスを見て、

「ハァ……あの子たちったら……」

レティシアはやれやれと言った様子で、女子たちの方へと向かっていく。