相変わらず紅茶には目がないよなぁ。
そんなところが可愛いよ。
シャノアはずずいっと話の輪に入り込むようにエイプリルの隣へ座ると、
「わ、わかりますよ、エイプリルさん……! お二人の仲睦まじい姿は、あ、憧れちゃいますよね……!」
ガシッとエイプリルの手を握る。
それもキラキラと両目を輝かせて。
「!? わ、わかっていただけるんですか!?」
「勿論です! こ、こんな夫婦に憧れる気持ち、とってもよくわかります!」
さながら心の同志を見つけたかのように共鳴を始める二人。
おーいシャノア、店番をほっぽっておいて大丈夫なのかー。
いやまあ、今は運良く俺たちしか客がいないけどさ……。
本当、女子っていうのは恋バナが好きだねぇ……。
シャノアは話を続け、
「そ、それにこんなところにも同担がいてくれたなんて……! 陰羽カラス丸先生の新刊で描かれた三角関係、さ、最高でしたよね! もう誰かとお話ししたくて……!」
「……シャノア、もしかしてあなたも例の小説の読者だったの?」
「──はっ!? い、いえ、あの……!」
「……別に責めるつもりはないけれど、後で少しお話を聞かせて頂戴ね……」
顔を真っ青にして冷や汗を流し始めるシャノアと、僅かに頭を抱えてため息を漏らすレティシア。
シャノアよ、お前もなのか……。
まさかクラスメイトにまであの恋愛小説が普及していたとは……。
恐るべし陰羽カラス丸……。
レティシアは悩ましそうな表情で、
「それで、二人とも小説に描かれていたような──私たち夫婦のような恋に関心がある、と」
「は、はい!」
「わ、私も〝素敵な恋愛〟のお話には興味あります! どうかお聞かせください!」
「……うーん」
レティシアは口へ運んでいたティーカップをソーサーの上にカチャリと置くと、
「──ねえエイプリル、恋のお話をするのは構わないのだけれど……あなた、好きな殿方っていらっしゃるの?」
「え?」
「恋に恋する乙女であることは、決して悪いことではないわ。でも意中のお相手がいるのといないのとでは、話すべき内容も変わってくるでしょう?」
レティシアは静かな口調で言い、チラッとエイプリルの目を見る。
「私の見立てでは……あなたには、たぶんいらっしゃるわよね。想い人が」
「! それは……!」
驚いて顔を赤らめるエイプリル。
おーっと、核心を突く一言が出たっぽいぞ?
流石はレティシア。
ズバリ見抜いてみせたな。
「そ、そうなのですか、エイプリルさん!?」
「え、えっと……はい……」
「で、ではでは、その殿方とはどこのどなたなんですか!? 同級生の貴族様!? それとも先輩の騎士様とか!? もしかして……先生との禁断の恋!?」
「シャノア、落ち着いて。エイプリルが話し難くなるでしょう……」
ヒートアップするシャノアと、そんな彼女を窘めるレティシア。
そして女子トークに付いていけず、空気になる俺……。
まあ俺はレティシア以外との恋なんて興味ないから、恋バナなんてできんのだが。
「わ、私が好きな人は──」
エイプリルは意を決したように口を開く。
しかし──その時だった。
カランカラン
「うぃーっす。邪魔するぜー」
喫茶店に見慣れた顔が入ってくる。
Fクラスのクラスメイト、マティアス・ウルフだ。
彼を見たレティシアはやや驚き、
「あら、マティアス? 珍しいわね、あなたが一人でここへ来るなんて」
「伝言を頼まれたんだよ、パウラ先生から。そこの〝
「え、俺に?」
「ああ、この後夕方までに一度顔を出せってよ。なんか話があんだと」
「あ~、わかった。……っていうかお前、まさかそれを伝えるためだけに来たのか?」
マティアスは「ハァ」と呆れたようにため息を吐く。
「っとによぉ、俺って一応侯爵子息なんだぞ? それも結構な金持ちの。そんな貴族様をパシリに使うかね、あの
やってらんねぇよ、と後ろ頭をポリポリと掻くマティアス。
まあ、あの人ならニコニコ笑顔で生徒をコキ使うだろうな。
それが貴族だろうが騎士だろうが……。
お願いと言いつつ強請してくる姿が容易に想像できるわ。
それに──マティアスってぶっちゃけ、その手のお願いを頼みやすい奴なんだよな。
これは勿論、良い意味で。
見た目こそチャラそうなボンボンのお坊ちゃまって感じで、一見近寄り難く見えるけど──実際はそこそこ気のいい奴だし。
あんまり成金風を吹かしてもこないし、ジャンクフードが好きだったり庶民的なとこもあるし、なんだかんだFクラスの皆とも上手く付き合ってるし?
陽キャなヤンキーってのはガワだけで、中身は気安く絡める─
ま、だからこそパシられたりしてしまうのだが。
しかも文句言いながらもちゃんと役目を果たしてくれるし。
うん、いい奴ではある。
悪友感あるよな。
でもぶっちゃけ、俺とはあまりつるまないが。
だって俺の隣はレティシアの定位置って決まってるし。
「そんじゃ、しっかり伝えたかんな。はぁーあ、ジャンクでも食って帰るか……」
本当に連絡事項を伝えるだけ伝えて、店から出ていくマティアス。
そんなパシられ男の後ろ姿を見送るのは、流石にちょっと忍びなかった。
今度ホットドッグでも奢ってやるか……。
一応は部下で友人だもんな……。
なんて思っていると、レティシアがコホンと小さく咳をする。
「話の腰が折れてしまったわね。それで、エイプリルが好きな人って誰なのかしら?」
「……」
「……? エイプリル?」
「…………」
エイプリルは顔を真っ赤に──本当に、熟れたリンゴよりも真っ赤にして、黙って俯く。
それを見たレティシアは、ハッとした。
「……ねぇ、まさか……あなたが好きな殿方って──」
「あ……あの時のことは、今でも忘れません……。忘れるなんて、絶対にムリです……」
エイプリルは俯き気味に、頬を赤らめたまま話し始めた。