「ライアン、さあ、どうぞどうぞ。……へへへ、また来てしまいました」
ラグの奴、自分の家のように招き入れてるな。
毎回「来すぎだ」と言っているが、あの嬉しそうな顔を見るとそれ以上は言いにくい。まあ、俺も弟に会えるのは嬉しいからな。
……周りが大変そうだけどよ。
「ったく、ラミントンが心配になるぜ。……ああ、ライアン、ごちゃついていて、すまないな」
今は荷造りがてらエクレールもここに住んでいるが、もうすぐ引き払うことになっている。部屋の隅に木箱が積み上がって、倉庫みたいだな。
「エクレールの家に引っ越すのだったな」
「ああ。ギルドからは少し遠くなるが、エクレールが家族で住んでいた家だ。思い出もあるだろうし、小さいが庭もあって俺も気に入っている」
ここは二人だと手狭で、階下に住む者に気も使う。次の休みあたりに引っ越すつもりだ。
勝手知ったるこの家のこと、ラグは厨房からチーズの皿を運び、ライアンも棚からグラスを取り出している。
「リンのつまみほど珍しいもんじゃねえが、エクレールが焼いたローストビーフもなかなかでな。あと『金熊亭』のソーセージだ。他に何か……」
「いや。十分だ。さあ、飲もう。……ドルーと精霊に」
「「ドルーと精霊に」……それから兄上と義姉上の新生活に!」
ライアンがいつも通り乾杯のグラスを掲げ、ラグが嬉しそうに続けた。
……照れくせえもんだなあ。ってか、この間挨拶に行った時にも、同じように乾杯したじゃねえか。
さんざん食べて、飲んで、結局途中で芋も茹でた。バターを付けるとうまいんだ。
「引っ越すとなると、少し寂しいものがあるな。成人してからずっとここだし、ライアンともここでよく飲んだよなあ」
思い出の品も木箱に片づけられた。たいしたもんじゃないし、無くなるわけでもないが、自分の部屋じゃないように見える。
「ああ。……これからこういう飲み会も少なくなるんだろうな」
「そうですよね。義姉上にご迷惑かも、と、思うとなかなか……」
「あ? なんだよ、ラグ。お前、こうやって来てるだろうが」
飲みに誘ったら、ライアンは新婚家庭を訪れにくいと遠慮していたが、ラグは招かれなくても来るじゃねえか。
「いや、それは兄上に届け物があったからで……」
「そうやって毎回理由を作って来てるだろ? ライアンもラグもこれまでと変わりなく、来ていいんだぞ? 知ってるだろ、エクレールは気にしない。いや、逆に喜んでいるようだしな」
特にラグとのことは、今まで心配をかけた分、復縁したことを大いに喜んでいるさ。
「それならまたぜひ! ……ところで今日は、義姉上は? もしかして私が来たことで、気を使わせてしまったのでは……」
「いや、違う。今夜はレーチェのところだ。店を閉めてから、リンも交えて新商品の意見交換会らしい」
「新商品? エクレールが今夜いないことは聞いたが、リンと一緒に?」
「義姉上も開発を!? つい先日、レーチェにはラミントンまで来ていただいたのですが、同じものでしょうか」
「うぉ? お、おう?」
しまった。思い出しちまったじゃねーか。新商品って、絶対アレのことだよな。
「あー、なんだ。布と紐でよ。いや、その……」
「オグ、はっきりしないな。ほとんどの衣装は布と紐が使われているが」
「兄上、どうしたのですか?」
二人とも不思議そうに俺を見るが、誰が言えるか!
婚礼の夜にエクレールが身に着けた夜着は、破壊力がすごかった。脱がせたいが、着せてもおきたいし、目も言葉も奪われる、とんでもないシロモノだ。特別な夜のための新商品らしいが、リンめ、毎回エクレールで試しているんじゃねえだろうな? いや、まあ、よくエクレールを選んでくれた! 売り出し前の確認は大事だもんな。アレは美しいエクレールが、より……。俺も、その、なんだ。うん、確認はバッチリだったよな! ん? なんだか嫌な予感がするぜ。エクレール、まさか今頃、大成功だったとか報告してねえよな!? いや、大成功だったけど!
ハッと気づけば、ライアンとラグが奇妙なモノを見るように、頭をかきむしる俺を見ていやがる。
「コホン。……そのうち目にすると思うぜ。ラグ、お前の場合は、グラッセに言ってすぐにレーチェを呼んだほうがいいと思うぜ。リンの特別な新商品って言やあ、わかるはずだ」
あ、おい。ライアン、俺を睨むなよ。まさか、なにか嫌な予感でもしたのか? 大丈夫だ。リンの新商品だけどよ、お前に迷惑はかからないはず……、いや、迷惑どころか大歓迎だろうよ。その頃には報告も必要ないはずだしな!
……いや、違うな。ライアン、早くその時が来るように頑張れよ。