《実況》「おおっと、カリギュラ選手。物凄い速さでリューク選手の背後に現れたと思ったら、いきなりヨダレを垂らして呆然と座り込んだ」
《解説》「リューク選手の魔法でしょうか。しかし、何をしたのか全くわかりませんでしたね」
「ようこそ《怠惰》の世界へ」
ボクが呼びかけても、カリギュラは顔を上げない。
痛みを与えることも考えたけど、こんな奴の血でバルを穢したくない。
「君は野心と欲望に満ちた人生だったんだね。その全てを奪ってあげたよ。安心して、君の大好きな命のやりとりは《《絶対に》》してあげないから」
「あ……、あぁぁ」
命のやりとりに反応を示したが、言葉になっていない。
「大罪魔法である《怠惰》はね。様々な意味を持つんだ。その中でも君にあげる《怠惰》は二つ、特別だから喜んでくれるだろ。ボクからのプレゼントは無気力と無関心だ。痛覚も、精神も壊さないでいてあげる。欲望まみれの君が全てに無気力になり、無関心になってしまうんだ。よかったね」
カリギュラは虚ろな目でボクを見上げる。
「何もする気が起きなくて、することにも興味がもてなくて、生きながらに何もしなくなる君は、生きているのかな。ふふ、羨ましいよ。まさに怠惰だ。力こそが全てだと教育している君の家の人間は、今の君を見てどうするのかな。それでも君に戦いを強要するのかな。そのとき、君は魔物に食われて惨たらしく死んでしまうだろうね。四肢は喰われ、命を刈り取られるまで、痛みは続くのに抵抗もできない」
ボクが予言を伝えてあげると、カリギュラが震え出した。
それでもヨダレを垂らして声も出ない。
ボクは興味を無くして、審判を呼んだ。
これでやっとボクは宣言することが出来る。
「ボクは降参する」
カリギュラは降参を宣言することもできないのだから、これが一番早い決着だ。
ボクにとって面倒なことが全てなくなる素晴らしい方法だね。
《実況》「なっなんとリューク選手降参だ。しかし、カリギュラ選手の様子がおかしいように見えますが、どうして降参なのでしょうか」
《解説》「ここまで不戦勝で勝ち上がってきたリューク選手には目的があったのではないでしょうか」
《実況》「と、言われますと」
《解説》「リューク選手と、カリギュラ選手の間で何かトラブルがあり、リューク選手はカリギュラ選手と戦って何かしたかったとか」
《実況》「なるほど。二人に因縁があり、リューク選手はそれを達成したので、降参したと」
《解説》「あくまで憶測ではありますが、そうなのかもしれません。これで決勝は二年生対決になりましたが、果たしてカリギュラ選手は大丈夫でしょうか」
ボクは降参を宣言して、控え室へ戻ってくる。
唖然としているリンシャンが目に入った。
「ボクは負けてしまったよ。君はあいつに勝ったのにね。君はボクよりも強いんじゃない? 知らないけど」
ボクはそれだけを告げると、リンシャンの横を通り過ぎた。
「ありがとう」
リンシャンから小さな呟きのような礼が告げられる。
ボクは聞こえなかったふりをして、控え室を出た。
「リューク様。お疲れ様です」
控え室を出ると、リベラとタシテ君が待っていた。
「よろしかったのですか?」
リベラの問いかけにボクは両手を広げた。
「別に勝つのが目的じゃないからね」
「リベラ嬢。リューク様は目的を達成されたのですよ」
タシテ君、よくわかってるね。
「そういうこと。さて、やっと負けることが出来たからね。家に帰るよ。君たちも実家に帰るんだろ。送るよ」
「えっ、あっはい。帰ります。えっ、でもこんな結末」
「いいのいいの、あとはアイリス姉さんに丸投げしちゃうから」
ボクが降参したことで、決勝戦はアイリス姉さん対カリギュラになった。
カリギュラは準決勝で病院に運ばれたまま、決勝戦の会場に現れることはなかった。
準決勝以降、アレシダス王立学園でカリギュラ・グフ・アクージを見た者は誰一人いない。タシテ君が聞いてきた噂によると、廃人と化したカリギュラは戦場へ向かったそうだ。
それ以降の足取りはタシテ君でも掴めていない。
一年次学園剣帝杯の優勝者はアイリス・ヒュガロ・デスクストスだった。