第十六話 一年次学園剣帝杯
年末に近づくにつれて王都全土が賑やかな雰囲気で華やいでいく。
学園は、学園剣帝杯で力試しをする生徒や、お祭り騒ぎに乗じて商売をする者など、全体的に浮かれた雰囲気をそこかしこで見ることができる。
ボクは、リベラと共に巨大モニターの前で、学園剣帝杯を観戦して、お祭り気分を味わっていた。
カリンは、学園剣帝杯に興味がないので、早々に敗北を宣言して帰宅していった。
ボクは半年間、授業をサボっていたので成績が悪く。
ある程度は、学園剣帝杯に参加しなくてはならない。
三年前は、ガッツ・ソード・マーシャルが一年次で学園剣帝杯を優勝した。
二年前は、テスタ・ヒュガロ・デスクストスが二年次で学園剣帝杯を優勝した。
一年前は、第一王子のユーシュンが決勝まで勝ち進み、決勝の相手に勝利を譲った。
優秀な三人が実力を伯仲させた三年間は、王国でも話題となった。
そんな優秀な三人が卒業した今年は新たな英雄の誕生を皆が待ち望んでいた。
「リューク様、学園剣帝杯名物まんじゅうだそうですよ」
リベラがアンマンを買ってきて渡してくれる。
包み紙に、アレシダス王立学園剣帝杯と刻印されていた。
「こういうのを便乗商法って言うんだろうね」
「美味しいです」
幸せそうな顔をするリベラは可愛い。
これはこれで人を幸せにするからいいのだろう。
学園剣帝杯は、全学年全生徒が強制参加するため、三年生が有利に思える。
しかし、戦闘能力を高めるだけでも、魔法を鍛えるだけでも、属性魔法が強力でも最後まで勝ち残ることはできない。
そこには生徒だけではなく、大人達の黒い工作や、裏で行われる賭け事が関係している。
アレシダス王立学園剣帝杯は、王都中の人の目に留まる。
また、ここにもゲーム設定というべき、貴族に有利な要素が盛り沢山に込められており、リュークが有利に戦うことができる仕様になっている。
まず、学園剣帝杯は王都内どこでも観戦出来るように工夫されている。
この時期には、王国兵が協力して巨大なモニターを王都中に設置する。
学園剣帝杯は、四年に一度開かれる王国最強を決める王国剣帝杯が由来になっている。
アレシダス王立学園剣帝杯は、学生版の剣帝を決める大会として、毎年年末に開かれている。
学生版ではあるが、王家から一代限りの貴族職として騎士の称号が与えられる。
学生としては、勝利して貴族の仲間入りを果たしたいと思っている者も多い。
騎士の称号を授かった者は、有事の際には王国からの要請があれば協力する義務が生まれる。
ボクとしては面倒なので、絶対にいらない称号とも言える。
有事が起きなければ仕事は自由に選択しても良い。
何をしていても、給金と年金は王国から支給されることが決まっている。
たとえ仕事が出来ない身体になったとしても、生涯保障が受けられる。
騎士の称号を得た者だけに、名誉と賞品が与えられるチャンスなのだ。
それは毎年、学生たちの意欲を高めるだけのものではない。
ここからが大人の利権というわけだ。
大人たちは、誰が優勝するのか賭け事をして、また賭け事の対象となった選手は、勝てば恩恵を受けられるが、負けて終われば恐ろしい結末が待っている。
そんな大人たちが考えたルールは、非常にシンプルだ。
武器、魔法、裏工作、なんでもありの異種格闘技戦というわけだ。
己が持てる力(財力や人脈)など全て使って良い。
騎士とは時に非情であり、任務のためであれば、どんな卑怯なことでもしなければならない。
王によって宣言された言葉を逆手に、賭けを行う者たちは日夜挑戦者を探している。
ただ、毎年裏工作を試みる者が現れる。
だが、勝つ者は全ての工作に対して打ち勝つ者だと言われている。
「清廉潔白などクソだ。負けることは王国に恥をかかせることと知れ」
現剣帝アーサーが発した言葉は、ボクにとっては好きな言葉だ。
有力貴族の子供達は己が優勝に絡める実力がないと判断すれば、早々に身を引く者は素早く。それを知らない平民はバカ正直に戦いを挑んでしまう。
学園剣帝杯中に行方不明者が出てしまう。
強いだけのバカが己の実力だけで成り上がれると思っているからだ。
まぁ、これもリュークが暗躍するために作られたルールでもある。
ゲームに登場するリュークは、手下として活躍するタシテ・パーク・ネズールと共に様々な裏工作をして、ダンたちの妨害をするわけだ。
ボクは裏工作は何もしないけどね。それに今のボクとタシテ君は仲が良いわけではない。
ただのクラスメートとして接している。
「リューク様は騎士に興味がありますか」
考え事をしていたボクへ学園剣帝杯のモニターを見ながら質問を投げかけてくる。
「興味ないよ。だけど、働かなくても給与と年金をもらえるから、なってもいいかな」
「そんな理由なんですか」
ボクの答えにリベラは呆れたような声を出す。
「ボクは将来的にはカリンの夫になって働かないつもりだからね。まぁ、給金よりも騎士の義務は邪魔でしかないから為りたくはないけどね。怠惰な日々を送る際には、本を自由に買うためのお金ぐらいはもらえるような状況はつくりたいかな」
カリンは商売も上手いので、働かなくても好きな物を買ってくれそうだ。
まぁ、その辺はもう少し大人になってからかな。
「リューク様が本気で魔法でお金を稼ごうと思えばいくらでも稼げると思います」
リベラの言葉に、ボクは一つだけ忠告をしたい。
「ボクは働きたくないから、稼ぐのは嫌だよ」
ボクの答えに、リベラが笑顔になる。
「ふふ、そろそろ行きますね」
「ああ、リベラはどうするんだい」
「もちろん、自分の力を試すために頑張るつもりです」
「そうか、ケガはしないようにね。君の綺麗な顔に傷が付くのは見たくないから」
「もっ、もうリューク様。そういうことはあまり女性に言ってはいけません」
何故か怒られてしまった。
「でも、本当にケガはしないようにします」
「うん。もしも、ケガをしても、ボクとミリルが絶対に治してあげるけどね」
「ありがとうございます。それではお先に行かせていただきます」
さすがに総勢九百名の生徒が一斉に戦闘をするわけではない。
辞退する者が続出するのは、毎年のことだ。
それでも残った者同士で予選大会が様々な場所で開かれている。
リベラは自分の試合が行われる会場へ向かうために、ボクの元を離れた。
ボクの試合は少し遅いので、ゆっくりと移動を開始する。
ゆらゆらと空の散歩をバルと共にモニターを見ながら過ごす。
「バル、適当な時間に会場までお願い。ハァ、別に参加しなくてもいいんだけどね」
ゲームに登場するリュークならば、張り切って大会に臨んでいたことだろう。
自分が騎士になるんだと意気込んでいたはずだ。
だけど、努力をしないリュークの実力では学園剣帝杯を勝ち上がることはできない。
それでもプライドのために、裏工作に走る三年間というわけだ。
リュークと手を組んで、裏工作を実行していたのは、同じ貴族派の伯爵家長男であるタシテ・パーク・ネズール君だ。
彼は戦闘は得意ではないけど、情報通で裏工作などにも精通していた。
「うん? あれは」
ボクが移動していると、タシテ君の姿を見つける。
ちょうど彼のことを考えていたので、すぐにわかった。
上級生らしき人物に何か詰め寄られていた。
「ねぇ、何しているの?」
ボクが声をかけると、上級生が慌てて立ち去っていった。
「これはリューク様」
タシテ君は膝を突いて礼を尽くしてくれる。
「そういうのはいいよ。同級生じゃないか」
「ですが……いえ、リューク様はそういう方なのでしょう」
「うんうん。それで、今のは何?」
「あれはアクージ侯爵子息様のお付きの者です」
「アクージ侯爵子息?」
「はい。学園剣帝杯の裏工作について協力しろと」
なるほど、リュークが働かないので、別の悪役が登場したんだね。
アクージ侯爵は聞いたことないけど、侯爵だから偉いのかな。
「そういうこと。それでアクージ君は君に手伝えと」
「はい。今年の有力選手に毒を盛れと、しかし私はそんなことはしないとお断りしておりました」
タシテ君はリュークに気に入られるために悪事を働く。
しかし、現在は悪事をすることなく真面目に学生生活を楽しんでいる。
これもボクが生み出した弊害なのかな?
まぁ、どんな相手かは知らないけど、ボクの手下を勝手に使おうとするのは面白くないね。
「ねぇ、タシテ君」
「はっ、はい」
「君はボクの手下だよね。それともアクージの手下?」
「手下? あっ、はい。私はリューク様のために」
「うん。なら、アクージの言うことは聞かなくていいよ。もしも何故だと言われたらボクの命令を聞くからって言えばいいから」
「そっ、それはリューク様が、裏工作をするということですか」
「うーん、まぁそうだね。だからタシテ君はボクの手伝いをするから、無理って」
「はっ、わかりました。このタシテ・パーク・ネズール。リューク様に忠誠を」
変なことになっちゃったけど、まぁいいか。
どうにかなるでしょ。
何もしないけど……。
タシテ・パーク・ネズール君は、伯爵家の生まれだ。
将来は小さな領地を受け継ぐ長男だが、ネズール領は他の領地と違って岩場ばかりで生産性が乏しい土地だ。荒野に領地があるような所からでも貴族は王国へ税を納めなければならない。領地に住む民を食べさせることもままならないのに。
現在のネズール領は事業を成功させて裕福な暮らしをしている。
お金に困ることなく、民に満足いく生活を送らせてあげられるようになった。
王国一のテーマパーク、《ネズールパーク》
エンターテインメントを追求したことで、娯楽と癒やしを提供する遊び場を荒野の真ん中に造り出した。
子供たちが楽しく遊べる遊園地には、キモ可愛いキャラが子供を出迎えて楽しませる。
大人の社交場と言われるカジノや、ショー劇場も造られていて、子供も、大人も、ネズール領に行けば現実を忘れられる。
彼が語り聞かせてくれる話は、ボクには関係ないように思える。
だけど、デスクストス公爵家が支援をして現在の《ネズールパーク》が完成した。
だからこそ、タシテ君は、デスクストス公爵家へ絶対の忠誠を誓ってくれている。
アレシダス王立学園に入学するときも、ボクの手足となるため、入学前から勉学に魔法、戦闘術や礼儀作法など同じクラスになれるように努力を続けてきた。
その成果が出て零クラスで入学することが出来たのが、タシテ君の誇りなんだって。
それなのに今まで話しかけてこなかったのは、ボクへの配慮が一番の理由で、見た目も、成績も、行動も全てが無駄がなく。
いつも寝ていてやる気がなさそうなのにテストでは高得点を取れてしまう。
ボクに必要とされていないと判断したそうだよ。
勝手に勘違いしてくれているらしい。
でも、ボクの一挙手一投足に目を配っていたから、知っていると。
う~ん。ストーカーかな?
「リューク様を見る度に自然と涙が浮かぶほど感動してしまうのです」
いつでもお呼びがかかっても良いように己の研鑽を積み続けていたいんだって。
そんな時に、アクージ侯爵家の者から声をかけられたのだ。
アクージ侯爵家はあまり良い噂を聞かない家で、荒くれ者集団……傭兵貴族など……王国が行う他国への戦争行為を請け負う家柄だそうだよ。
自分の家をバカにするような物言いに……拳を握り締め、どうやってやり返そうか考えているところへボクがきたというわけだ。
これはあれかな? ボクはタシテ君の邪魔をしたのかな?
身の上話を聞き終えて、何故か流れで、タシテ君と二人学園剣帝杯を観戦している。
モニターにはリベラとリンシャンが映し出されていた。
リンシャンの兄であるガッツは、一年次で優勝している。
リンシャンも騎士を目指しているから、優勝を目指しているんだろう。
だが、今年は曲者が多い。
「三年生は第二王子を含め、三年間鍛え続けた強者揃いです。二年生には、貴族派筆頭であるアイリス・ヒュガロ・デスクストス公爵令嬢。侯爵家の無頼漢カリギュラ・グフ・アクージは闘気に長けているそうです」
タシテ君が色々と説明してくれる。
「我らが一年生には、リューク・ヒュガロ・デスクストス様がおられます。他には剣帝アーサーに指導された剣帝の弟子ダンなどでしょうか?」
タシテ君の口からダンの名前が出たことに驚きを感じてしまう。
予選は学園側がランダムで対戦相手を組む。
誰と対戦することになるのかはわからない。
戦う会場も、どんな場所で戦うのかも不明となる。
予選大会ですら、映像として残されている。ネズールがやろうとしていることは戦闘中での違法行為になる。
ただ、それが故意ではなく事故であれば、人が死ぬことにも繋がってしまう。
嫌ならば会場に来ないなり、開始の合図と共に降参を宣言すればいい。
実際に、生徒の半分以上が戦うことを放棄する。
自信が無い者達や、貴族達の思惑に気づいて、裏工作を恐れる貴族達は早々に離脱していく。
「私が初めて戦う相手が貴様か、リベラ・グリコ」
「リンシャン・ソード・マーシャル様。剣術と魔術、極める道は違えど、求道者としては理解し合える相手だと思っております」
ローブの裾を持ち上げて礼を尽くすリベラ。
どこか余裕がある魔女っ子衣装はリベラらしくて可愛い。
「どうぞ、お手柔らかにお願いしますね」
「手は抜かない」
互いに武器を構えて合図を待つ。
《実況》「さぁ、今年も始まりましたアレシダス王立学園剣帝杯。多くの生徒が離脱を表明するなかで、戦闘に応じる生徒は腕に自信がある者達です。本日は王都各地で戦闘が行われているわけですが、本日の注目選手について解説をお願いします」
《解説》「本日、対戦が組まれた選手で大注目となるのは、マーシャル家のリンシャン様でしょう。四年前は兄であるガッツ選手が一年生で優勝を飾っています。妹君であるリンシャン様も《烈火の乙女》という二つ名がついていますからね。楽しみですよ」
《実況》「《烈火の乙女》ですか?」
《解説》「はい。リンシャン選手の髪色が赤いこともありますが、その美しさと戦い方にも由来していると言われています」
《実況》「それは対戦相手が気の毒ですね」
《解説》「いえ、そこは戦闘に応じた実力者です。相手もまた《水連の魔女》と呼ばれる《水》属性魔法を使うリベラ・グリコ選手が相手です」
《実況》「なるほど、その二人の対戦が行われるので、注目のカードということですね!」
《解説》「はい。今年は《無冠の王子》、《美の女神》、《無頼漢》、などの上級生たちも控えていますので楽しみな年です」
《実況》「それでは、本日は《烈火の乙女》リンシャン・ソード・マーシャル選手対《水連の魔女》リベラ・グリコ選手の戦闘から実況していきたいと思います」
「それでは行きます」
リベラは魔力吸収をしながら集中する。
「《水》よ」
大量の魔力を使って大量の《ウォーターアロー》を作り出した。
「なっ! なんだその数は?」
「それではいきます。百本の水矢を全方位から受け止められますか?」
リベラが腕を振り下ろせば、リンシャン・ソード・マーシャルへ向かって四方八方から水矢たちが襲いかかる。
矢を放った後は魔力供給をしなくてもよくなる。
すぐさまリベラが、魔力吸収のために集中を始める。
大量の水矢で弾幕を張れば、近づかせずに倒すこともたやすい。
「舐めるなぁ!」
噴き上がる火柱は、向かってくる無数の水矢を蒸発させる。
「噂は本当だったのですね」
「私は二つ目の属性魔法を覚醒させた。私の《炎》で貴様の《水》を蒸発させてやる」
リンシャンが、レベル二十に達して《炎》の属性魔法を得た。
リベラから研究途中の雑談で聞いていた。
しかし、魔法でリベラが負けるわけにはいかない。
「リンシャン様、あなたは確かに二属性持ちになり、この半年間で武術を磨いて闘気を習得したのかもしれない。それでも私はあなた以上の人に様々なことを教えていただいたのです」
「魔女よ。魔法が通じない相手にどうするというのだ?」
剣を構えて身体強化を施す相手に、魔力の充実を感じたリベラは先制攻撃を仕掛ける。
「なっ!」
「私が近接戦闘ができないと思いましたか?」
身体強化をかけたリベラは、杖を振りかぶって突っ込む。
意表をついた動きだったが、武術はリンシャンが上だ。
「デバフ魔法《ウォーターチェーン》、《ウォーターランス》」
杖を投げつけて、空いた両手で別々の魔法を作り出す。
相手の肉体を弱体化させる魔法で動きを鈍らせて、ランスで攻撃を仕掛ける。
「なっ、別々の魔法を同時にだと」
リンシャンにかかっていた身体強化が効力を失って動きが鈍くなる。
水矢よりも大きな水の槍が、至近距離から鎧を貫く。
「器用だな」
「あなたは痛みを感じないのですか?」
リンシャンの脇腹に刺さった水の槍。
しかし、リベラの首元には剣が当てられる。
「降参です」
肉を斬らせて骨を断つ。
紙一重の勝利は、リンシャンが収めた。
◇
モニターに映し出される二人の戦いは、観客たちを大いに盛り上げた。
極限まで魔法に固執した魔女リベラ。
魔法を二属性習得しながらも、意思と己が肉体で勝利を収めた女騎士リンシャン。
二人の戦いは学園剣帝杯を沸かせるのに十分な熱量を含んでいた。
「リベラ・グリコ嬢は惜しかったですね」
ボクの横ではモニターを見つめるタシテ君が従者のように控えている。
君も貴族だよね。しかも悪巧みする側なのに、なんで執事風なの。
「それでもリベラは自分の戦いに満足してるんじゃないかな?」
「そうなのですか?」
「ああ、終わった後の顔が満足そうだったよ」
「それは良うございました」
何故だろう……。
タシテ君が……、執事にしか見えない。
物凄く良い笑顔でこちらに返事をしてくれる。
「リューク様はどのような手をお考えなのでしょうか?」
「手? う~ん、そうだね。ボクは優勝は考えていないから、適当に気に入らない奴の邪魔が出来てればいいかな」
「気に入らない奴ですか? 例えば、入学式のときのダンのような?」
タシテ君から、意外にもダンの名前が出る。
「いいや。ダンは面白いからね。放置かな。それよりは、君に話をもってきたアクージ君とか、かな」
「なるほど、ご自身よりも上に立とうとする者を許さぬと、納得です」
タシテ君が満足そうに頷いている。
「それで? 君はどうするの? 学園剣帝杯は」
タシテ君はボクの質問を聞いて、清々しい顔をする。
「一度だけ戦ってみたい相手がいるのです」
「ほう、それは誰?」
「リンシャン・ソード・マーシャル様の騎士ダンです」
「へぇ~」
意外な人物の名前が出て、ボクはタシテ君の思惑を考える。
先ほど入学式のことも言っていたから、気になっていたのかな?
「あっ、勘違いなさらないでくださいね。私怨ではありません。リューク様に無礼を働いたからと言う理由ではないので、申し訳ありません。彼はこの半年間、剣帝アーサー様の下で指導を受けていたと聞きました。ですから、私の力を試したいと思ったのです」
真面目な理由にボクは意外に感じてしまう。
「いいんじゃない。ボクは君の実力を知らないけど、ガンバってね」
「はっ、リューク様の名に恥じない戦いをお見せしたいと思います」
そう言ってタシテ君はボクの元を離れていった。
ボクはバルに乗った状態で漂いながら、お祭り騒ぎの学園剣帝杯を観戦していた。
賑やかな人混みをかき分けて、近づいてきたのは戦闘を終えたリベラだ。
「お疲れ様」
顔をボクに見せないように俯いていたリベラに声をかけた。
「負けて……しまいました」
顔を上げたリベラは、気丈に笑っていた。
その姿はどこか痛々しい印象を受ける。
「せっかく、リューク様から魔力吸収を教えていただいたのに……、戦闘で活かしきることが出来ませんでした」
そんなことは気にしなくてもいいのに、真面目な彼女は自分を許せないのかな?
「リベラは良くやったと思うよ」
何の慰めにもならない言葉をかけることしかできない。
「リューク様……前に一つだけ願いを叶えてくれるという話を覚えていますか?」
実験が成功したとき、ボクは四人にお礼のために出来ることをすると伝えてある。
「ああ、覚えているよ」
「一度、断られてしまったのですが。バルに一緒に乗せていただけませんか?」
「一緒に?」
カリンに嫉妬されちゃうね。
だけど、それでお礼になるのなら今回は特別にいいかな。
「いいよ。おいで」
「ありがとうございます」
ボクがスペースを空けると、リベラが身を縮めてバルへ座る。
「少し寒いから近づくよ」
「はい」
バルに飛び上がるように指示を出すと、バルはゆっくり上昇を始める。
日が傾き出した夕暮れ時は、夜とは違った昼と夜が交じり合う。
夕日がリベラの顔を一時的に隠してしまう。
「うぐっ」
漏れる嗚咽……。ボクから何かを語りかけることはない。
「すみません。せっかくバルに一緒に乗っていただいたのに」
こんなときでも強がるリベラは、本当に強い子だ。
「構わないさ。君は、よくやった」
「そうでしょうか? 勝てると思っていました。リンシャン・ソード・マーシャルに、私はリューク様の側で魔法を学びました。強くなった気になっていました」
彼女が零す弱音を否定はしない。
「大量の魔法攻撃も、意表をついた作戦も、彼女の気持ちには勝てませんでした」
大粒の涙を滲ませた瞳を何度も拭いて、彼女は自分の負けを口にする。
「リューク様に頑張るって言ったのに……私は……」
カリンは許してくれるかな?
泣いている女性を慰めるためだから……後で謝ろう。
「おいで」
ボクはリベラをそっと引き寄せた。