幕間六 学園の教師
校内ランキング戦。
所属、零クラス生徒ルビー、同組リンシャン・ソード・マーシャル。
勝者ルビー、成績ランキング四位を獲得。
敗者リンシャン・ソード・マーシャル、成績ランキング十八位へ転落。
二人のランキング戦を見届けた私は闘技場を後にした。
コンコン
「入りなさい」
「失礼します」
学園長室にはグローレン・リサーチ先生と、もう一人の男性が座っていた。
「只今、校内ランキング戦を行った者がいましたので、ご報告に参りました」
「ふぉふぉふぉ、リサーチ先生のお陰で観戦させていただきましたよ」
魔導器具狂いが学園長室に魔導モニターを運び込んで、闘技場内を映し出していた。
「それにしても今年はハイレベルな戦いをする者が多いようじゃな。魔法も、実技も王国の将来は安泰じゃ」
学園長は生徒達の活躍を喜んでいるようだが、私は素直に感想を伝えることが出来ない。実際に戦った者達は素晴らしい戦いを見せてくれた。
しかし、私は戦いの後に見た未知の魔法に興味が移ってしまっている。
研究者とは、常に疑問を持ち、探求心を持って新しい知見を追求する因果なものだ。
リューク・ヒュガロ・デスクストスが作り出した無属性魔法の話は、魔法省でもある時期、話題になった。
当時の私は子供が魔法を使っただけでも十分に凄い才能だと思っていた。
だが、表舞台に出ない子など興味がわかないとしか思わなかった。
こうして目の当たりにしたことで、リューク・ヒュガロ・デスクストスの作り出した魔法が現代の魔法書に記載されていない物であることは一目でわかってしまう。
学園の副担任をしているのも、魔法について研究が出来るからだった。
ただ、最近は魔法の開発よりも魔導器具のような快適な物ばかりに研究は移行している。
未知との遭遇が無いまま数年を過ごしていた。
そんな私の衝撃がどれほどのものであったことか……。
今、見た魔法は私の知らない未知の魔法だった。
「なっ、なんじゃこれは」
学園長の叫び声によって、異常な出来事が起きていることに気づいた。
魔導モニターの向こう側、リューク・ヒュガロ・デスクストスとダンが対峙していた。
やはり、もめ事を起こすのか、リューク・ヒュガロ・デスクストス。
私は彼の異常性に危機感を持っていた。
リンシャン・ソード・マーシャルを託したことは間違いだったのか?
疑問に思っていると、モニター越しにリュークと目があった気がした。
「ボクは、あくまで怠惰な悪役貴族だ。それだけは忘れるな」
それは私への警告だったのではないか。
リュークは更に魔力を放出した。膨大な魔力は、数百年生きているエルフに匹敵する多さを誇示した。
魔導モニターに映し出された魔力量は、測れる数字を超える異常な数値を計測していた。
「ふぉふぉふぉ、若者はええのぅ。一人の強者が、もう一人を引き上げる。ライバルという奴じゃな」
魔導モニターはリュークの魔力に当てられて……。
「うわっ、なっ、なんだこれは。急にモニターが」
火を噴き出した魔導モニター。オーバーヒートを起こしている。
高出力の魔力に魔導モニターに使われる魔石の方が、耐えられなかった。
闘技場内に設置されているダンジョンボスクラスの魔石で無ければ、今の彼の魔力は受け止めきれないのだろう。
「リサーチ君、大丈夫かね」
慌てて近づいたリサーチ先生が、魔導モニターの爆破に巻き込まれる。
とっさに、私と学園長は魔導障壁を張った。
もう一人の男はいつの間にかいなくなっていた。
リサーチ先生はどうだろうか?
「ボクの魔導器具が、うわっ」
どうやら元気なようだ。
全身黒焦げで頭もちりちりになっている。
痛みを訴えていないようなので大丈夫なんだろう。
「ふむ、どうやら凄い子が紛れ込んでおるようじゃな」
慌てているが、元気なリサーチ先生から目を逸らして、学園長は窓際に立って闘技場に向かって話し出す。
「ふぉふぉふぉ、彼に触発されて、相手の彼だけじゃなく、周りも成長していくのじゃろう。なんとも面白い子たちが入ってきてくれたものじゃな」
「そうですね」
「先ほど剣帝殿も参られて話をしていたんじゃ。彼も弟子を探しにきたそうじゃ。もしかしたら、面白い子たちの中に剣帝を継ぐ子が現れるかもしれんのじゃから、ワクワクするのう。シーラス先生。君は教師ではあるが、魔法の深淵を見たものじゃ弟子は取らんのか」
「私は……気になっている子はいます」
リューク・ヒュガロ・デスクストスの顔が浮かぶ。
「ふぉふぉふぉ、深淵の魔女の弟子と剣帝の弟子。本当に面白いのじゃ。どうじゃな、今年の課外授業は」
四年前に優秀な生徒が多くいた時にも問題は起きた。
学園長はそれを危惧されているのだろう。
「零クラスは癖の強い者が多いです。強さで言えば問題ないと判断します」
「そうかそうか、ふむ。楽しみな世代じゃのう。上のバカな者達がきなくさい動きを始めておる。どうか若者達に被害がないようにしてほしいものじゃ」
通人族は本当にめんどうな生き物だ。
強欲で、権力や地位など常に欲にまみれている。
「彼らならば問題はないと思いますが、警戒はしておきます」
「うむ。一年生がダンジョンに挑戦する時期は、ダンジョンボスの出現も確認されておる。様々な問題と共によろしく頼むのじゃ」
私よりも年若い学園長は、禿げた頭を私に向かって下げた。
生徒達の行く末を思いながらも、私は彼へ接触の仕方を考える。
「もうダメだ! 魔導モニター作るの凄く大変なのに!」
一人で慌てるうるさい男に邪魔されながら……。
◇
課外授業二日目。
私が異変に気づいたのは、日が昇ってからのことだった。
引率員として、数名の教師がダンジョンの中で寝起きをしている。
私もその一人として、テントを張って休息を取っていた。
目が覚めた私が一番最初に感じた違和感は、森があまりにも静か過ぎるということだ。
森には魔物以外にも生き物が存在する。
いくら、ダンジョンと化して魔物が徘徊していると言っても、動植物や虫たちは魔物と共存するように生きているのだ。
「なんの気配もしない」
魔物も、動物も、虫の声もしない。あまりにも静かなダンジョンを探索していく。
生徒達の位置情報は、マジックウォッチが教えてくれる。
「高いところから見てみましょうか?」
偵察を行うために木に登って私は異常な魔物の存在を目の当たりにした。
「なっ、なんですあれは。森が侵食されている」
すぐに魔物の居る方向へ駆け出した。
途中で、零クラスのタシテ・パーク・ネズールが、チームリーダーをする四とすれ違ったので、警戒を促して避難するように指示を出しました。
魔物に近づくにつれて誰かが戦っていることが分かり、私は駆ける速度を上げた。
遠目で見ても魔物の強さは生徒たちが対応できる相手ではない。
魔物の背後に到着したと思った瞬間、爆発した魔物の魔石が剥き出しになっていた。
これだけの攻撃力を誇る生徒が居ただろうか?
爆炎の向こうからダンが飛び出してくる。
魔石を斬った。魔物を倒したのか?
「なっ」
斬りつけられた魔石が再生するですって。
傷が浅かったということなの?
「ダン、逃げなさい」
私は叫ぶと同時に回避行動を取れていないダンを守るために動き出す。
魔物の触手によって吹き飛ばされてきたダンを受け止める。
「大丈夫ですか?」
「シーラス先生」
爆炎の向こうでは、女子生徒達が触手に捕まり服を溶かされていく。
私は生徒を助けるために魔力を最大まで練り上げて、属性魔法を発動する。
「フラワーボンバー」
私が魔法を発動すると、スライムを中心に爆発が起こり花が咲き乱れる。
ピンク色の花が咲き誇り、生徒達が解放されたことを見計らって次の魔法を発動する。
「フラワーエナジー」
花を咲かせた相手の能力を一時的に吸収する。
今回は、相手の耐性を弱体化させる効果を持つ。
「今です。攻撃しなさい」
私は魔物から解放された生徒へ声をかけて攻撃を促しました。
エリーナとリベラが反応して魔法を放つ。
「ダン、立てますか?」
「シーラス先生、どうして」
「あれはダンジョンボスです。まさか、こんなにも早くダンジョンボスが現れるなど前代未聞です。現れたからには倒すまでダンジョンを出ることは叶いませんよ」
ダンの疑問に答えている場合ではないため、私は現状を伝えて走り出す。
「敵の魔法耐性は効果を下げました。今なら攻撃が通ることでしょう」
私が花びらを投げつければ、魔物が苦しみ出す。
「えっ、攻撃が効いた?」
後ろからダンの声が聞こえてくる。魔物には、それぞれ倒し方が存在する。
ただ、闇雲に高火力の攻撃で倒すだけが戦闘ではない。
「相手の弱点を知りなさい。魔物学の授業をちゃんと聞いていればわかることです」
私の攻撃を見た生徒たちが攻撃を開始していく。
しかし、レベル差があるためか魔物が抵抗してなかなか倒しきることができない。
ただ、戦えているので大丈夫だろう。
私は一人、座り込んでいるダンを見た。
「一先ず、なんとかなりそうです。よく頑張りましたね」
「先生」
「あなたは最善を尽くしていました。私が来るまでに、あなた方がしていたことは遠くから見ていました。本当に無事でよかった」
私が褒め言葉をかけても、ダンは顔をうつむかせて塞ぎ込んでしまった。
「どうしました」
「俺……、俺は魔物を倒せなかったです」
悔やんでいる声に私は優しく語りかけることにした。
「あなたは立派です。誇って良いです」
「でも、あいつなら……。リュークなら先生の力を借りなくても魔物を倒すことが出来たはずだ」
「リューク、リューク・ヒュガロ・デスクストス君のことですか」
「はい。俺はあいつに勝ちたい。勝たなくちゃいけないんだ」
「そうですか。ですが、人には成長の早さがあると私は思います。リューク君は確かに魔法について、あなたの先を歩んでいることでしょう。ですが、戦闘においては、あなたもリューク君に劣っているとは私は思いません」
視線を魔物に向ければ、彼女たちの攻撃によって少しずつ魔物が弱り始めている。
決着は近いようだった。ただ、倒し切る前に彼女たちの魔力が尽きるかもしれない。
「あなたはあなたのやり方で強くなればいいのです。それでも不安ならば私が指導をしましょう。私は一応先生ですからね。強くなるため、魔法を知るためのご協力はしますよ」
手を差し出してダンを見る。
「先生が俺を強くしてくれますか」
「ええ。これでも魔法の深淵を知る者と呼ばれていますので」
自分で言っていて恥ずかしくはありますが、説得力ある言葉は他人から言われた言葉の方があるような気がした。
「魔法の深淵を知る者。先生、俺を強くしてください。魔法について教えてください」
「ええ。あなたにその気があるなら、いくらでも」
ダンは私の手を取って立ち上がる。
最後の仕上げのために私は魔物を見て、不可解な現象を見ることになりました。
確かにダンジョンボスは弱っていた。
さすがに倒しきれるほどではなかった。
魔法を放ったリベラは気づいていなかったが、魔物は魔法に当たる前に消滅した。
「やった。ダンジョンボスを倒したんだ。うわっ、レベルが一気に上がったぞ」
ダンジョンボスが消滅したことで、ダンたちチームはレベルアップした。
しかし、不可解な現象に私は疑問を感じてしまう。
「先生、助けていただいてありがとうございます」
「いえ、あなたたちが時間を稼いでいたお陰です。私は手助けをしただけですよ」
エリーナに言葉を返して気持ちを切り替えることにした。
「ダンジョンボスが出たということは、ダンジョンはレベルが下がって一時的に機能を停止します。それが二ヶ月なのか、半年なのかはわかりません」
一先ず、危機が去ったことに安堵した。
「しばらくは使えないので、皆さんの課外授業は終了です。今後のことは学園の先生方と話し合ってお伝えします」
「「「「はい」」」」
生徒達は素直にダンジョンから帰宅していく。
私は他の先生たちと、残された生徒にダンジョンボス討伐を知らせる。
◇
ダンジョンボスが出現してしまったことで、課外授業は一旦中止されることになった。
森ダンジョン内の調査を教師陣で行うことになり、ここ最近のダンジョン内に起きていた異変を知ることになる。
「毎週三百の魔石ですって!」
それは学園に併設されている魔石の買い取り所からの報告だった。
課外授業期間が決まると、練習としてチームでダンジョンへ挑戦する者が増えるのは毎年のことだ。優秀な生徒が含まれる際は、ダンジョンボスの出現も懸念されるため、課外授業中は警戒をしている。
四年前に第一王子ユーシュンが入学した世代でも、ダンジョンボスが出現して大変だった。あのときは第一王子を含む、テスタ・ヒュガロ・デスクストスとガッツ・ソード・マーシャルが競い合うように魔物を狩ったことが原因だった。
しかし、そのときは三つのチームが週末に魔物を狩った数を競い合っていたため、三チームの合計でも精々百体の魔物がいいところだった。
しかし、今回の魔石の買い取り所には、一つのチームが三百体の魔石を毎週納品しに来ていた。
しかも、それに続いてチーム一が五十体。
つまり二つのチームで三百五十体もの魔物を毎週狩っていたことになる。
他のチームが週末に三から五体程度の魔物を狩っているのが平均なのに対して、三百体は異常な数字と言える。
「いったいどんな方法で……」
自分がダンジョンに入れば、確かに一日で五十体ほどは狩れる自信はある。
だが、駆け出しの生徒四人で三百体の魔物を週末の度に狩れるかと言われれば不可能に近い。
「これは事情を聞く必要がありますね」
厄介な相手だと思い、リューク・ヒュガロ・デスクストスの顔が浮かぶ。
ただ、リューク・ヒュガロ・デスクストスへの牽制として選ばれた、リンシャン・ソード・マーシャルに聞くことができるはずだ。
彼女から事情を聞けば詳しい話を聞ける。
「家同士の対立を考えれば別々にする予定でしたが、あまりにもリューク・ヒュガロ・デスクストスの行動が読めないために、急遽変更されたチームリーダーに任命したことが功を奏しましたね。何をするのかわからなかったリューク君の監視役として、彼女はうってつけでした」
さっそく私はリンシャン・ソード・マーシャルを呼び出すことにした。
職員室とは別に、学園から与えられている私の研究室へリンシャンに来てもらいました。
「良く来てくれました。マーシャル君」
「はっ、シーラス先生。失礼します」
騎士の家系に生まれたリンシャン君は優秀で教師としては扱いやすい。
「あの。ダンジョンボスが出現したことは聞いていると思います。今、その調査を行っています。君のチームメンバーにも話を聞こうと思っているんですけど、まずは君の話を聞かせてほしいです」
「はい。なんでしょうか?」
やはり教師としては素直な生徒はありがたい。
「まずは、君たちのチームはダンジョンで週末ごとに狩りをしていましたね」
「はい」
「君たちは毎週、約三百程度の魔物を討伐していたと魔石買い取り所から報告を受けているんですが、どうやって倒したのか方法を教えてもらえませんか?」
「方法ですか」
「そうです」
「それは、私の口からは言えません」
意外にもリンシャン君は口を噤んだ。
いつもの彼女であれば、リューク・ヒュガロ・デスクストス君に突っかかるほどの勢いがあるのに、まるでそれが感じられない。
「何?」
「その行為を実現させたのは私ではありません。ですから、その行為を口にして良いのは方法を考案した者だと考えます」
くっ、こんなところで真面目な優等生を発揮しなくてもいいと言うのに……、
「そうですか。それを考案した人物は誰です?」
「リューク・ヒュガロ・デスクストスです」
リューク……。
また、彼か……。
ダンも彼へのライバル心を剥き出しにしていた。
「彼と君は対立しているのでしょう。彼のことを庇う必要はないのではないですか?」
私の言い方が気にくわなかったのか、リンシャン君の顔が険しくなる。
「申し訳ありません。それとこれは別の問題だと考えます」
彼女はいつもリュークに対しては怒りをぶつけているが、私に対しては初めて怒りを含んだ声で拒否を示した。
「そうですか……、それではダンジョンボスが現れた際、君たちはどこで何をしていましたか?」
私はもう一つの疑問点を聞くことにした。
あのとき生徒達の位置を把握していたからこそ疑問に思う。
チーム二は頂上付近に拠点を構えていた。
「!!」
リンシャン君は私の質問に顔をしかめた。
この子はウソがつけない子だ。
だからこそ、何かやましいことがあれば隠すことができない。
「もう一度聞く。何をしていた?」
「私は何もしていません」
「私は?」
「リューク・ヒュガロ・デスクストスはダンジョンコアがある洞窟に入っていきました」
私は息を呑む。
「ダンジョンコアを破壊したのですか?」
「いえ、破壊はしていません」
「破壊は……、そうかレアメタルか?」
「はい」
「そうですか。だからあのダンジョンボスは、あんな消滅の仕方をしたのですか。それに私の魔法が通じたのもダンジョンコアからの魔力が断たれてということですか。謎が解けました。君たちがどうやって魔物を大量に討伐したのかは聞かないでおこう。レアメタル採取は問題になるかもしれないですよ」
私が責めるような瞳を向けると、リンシャン君は覚悟を込めた瞳で私を見た。
「問題はないでしょう。レアメタルは、採取した者に権利があります。学園側もダンジョンで採取した素材を魔法実験に使うことを承認しています。またレアメタルは採取が難しいため、運ぶ手段、加工技術がなければ悪用も難しいです。公爵家のリュークを責めたところで、誰も先生の味方はしないでしょう」
マーシャル家のリンシャンが、デスクストス家を庇うような物言いをする。
私はリンシャンの反応に戸惑ってしまう。
「君がそんなことを言うとは思わなかったですね」
「そうですね。すいません。失礼なことを言いました。もう話すことがないので失礼します」
「あっ、ああ。構いません」
リンシャン君は立ち上がって部屋を出た。
チームを組ませて、リンシャン君が取り込まれた?
「何がどうなっていると言うんでしょう? リューク・ヒュガロ・デスクストス……、貴方は何をしているのでしょう。ハァ、学園長に報告するしかないでしょうね」
ルビー君やミリル君にも話を聞いた。
だが、リンシャン君以上に話をしてはくれなかった。
リューク・ヒュガロ・デスクストス君にも話を聞きたかったが、今は忙しいと学園に現れもしない。
仕方なく、私は報告書をまとめて、学園長へ報告に向かった。
「ふぉふぉふぉ、そうじゃな今回の件はこれで終わりとしよう」
「何故ですか?」
「すでに事は成った。ダンジョンボスは倒され、ダンジョンは活動を一時的に停止した。生徒たちは無事に帰ってきて、何も問題は無い。問題があるとすれば、少しばかり長いダンジョン休止が訪れることぐらいじゃ」
私は納得できない気がしたが、学園長の言うことも理解できた。
「わかりました」
「ふむ。残りの生徒たちは少し遠いが、王都外の校外学習にしておこう。団体でテントを張って騎士団にも護衛を頼むとしよう」
「はい。手配しておきます」
四年前にも同じ処置をとったことがあるので、手配はそれほど難しくはない。
「面白いのぅ。リューク・ヒュガロ・デスクストス君は……、彼のお陰でレベルを上げて自信を持つ者。ライバル心を燃やして強くなろうとする者。敵愾心を燃やしていた者が庇うようになった。彼を中心に周りの心境が変わっていくようじゃ」
学園長の言葉に私はリューク・ヒュガロ・デスクストスの顔を思い浮かべて溜息を吐いた。