第十四話 ダンジョンボス
ボクが意識を覚醒させると、ルビーとミリルが朝食を終えてお茶を飲んでいた。
「リューク様、お目覚めですか」
「ああ。二日目スタートだね」
「はい。でも、おかしいのです」
「うん? 何かあったの、リンシャンがいないようだけど」
先ほどのキスを思い出してしまう。
リンシャンのことだから、怒り狂って暴れているのかな。
「リンシャン様は調査に行かれています」
「調査」
「はい。起きてから昨晩リューク様が眠らせてくださっているであろう魔物を狩りに向かったのです。ですが、一匹も魔物が見当たらなくて」
ミリルに言われて気がついたが、そう言えばモーニングルーティンをした時にも魔物はいなかった。
確かに夜のうちに寝かせているなら、寝ている魔物がいないのはおかしい。
「魔物がいないか、そういうことか」
「何かご存じなのですか?」
ボクはゲームの様式を思い出した。
課外授業では、魔物の調査と言いながら一定数の魔物を狩っているとダンジョンボスが出現する。
ゲームに登場するリュークは、ダンジョンボスにダンを殺させようと襲わせるイベントが起きる。
ダンはチームの仲間と協力してダンジョンボスを退ける。
ただ、厄介なボスなので、ダンたちだけでは倒せない。
助っ人キャラとしてシーラス先生がダンジョンボスを倒すために現れる。
ダンジョンボスが出現している間は、魔物は全ていなくなり、ダンジョン内にいる者はダンジョンから出られなくなる。
ダンジョンコアが、ダンジョンボスへ大量の魔力を注いで異物の排除をするために動き出したのだ。
「ちょっと確認してくるね」
「どこに行かれるのですか」
「みんな! 離れた場所で巨大な魔物がどこかのチームと戦っている」
偵察から戻ってきたリンシャンが飛び込んでくる。
ボクの顔を見ると茹でタコのように顔を真っ赤にしてしまう。
乙女だなぁ~。
「おっ、起きていたのか、さっ、さっきのだな」
何やら一人で言い出した。
ミリルとルビーは状況を察して、リンシャンの言葉を待つ。
「ハァ、キスぐらい気にするな。大人になれば、誰でもすることだ」
「「きっ、キス!」にゃ!」
「ヤッパリアレハキスナノカ」
キスという単語で叫び出す女子。
何やらぶつぶつと小さい声で呟くリンシャン。
カリンやシロップと経験済みであるボクとしては大したことではない。
「そんなことよりも今はダンジョンボスだ」
「ソンナコトデハナイダロ」
小さい声で怒るリンシャンを見ているのは面白い。
「ルビー」
「はいにゃ」
「例の場所を調査してきてくれ」
「わかったにゃ」
「ミリル」
「はい」
「テントを片付けるから、必要な物を取り出しておいてくれ」
「かしこまりました」
二人はボクの指示に従ってすぐに動き出す。
「ほら、お前も外に出ろ。どこかのチームと戦っているダンジョンボスはどっちだ?」
「こっ、こっちだ」
ボクが近づくと恥ずかしそうに微妙に距離を取る。
それでも素直に従って案内しようとするリンシャン。
態度が、随分と軟化したね。
案内されるまでもなく、外に出ると木々よりも巨大なスライムが見えた。
ボクはバルに乗って空へと浮き上がる。
「うわっ、実際に見るスライムはマジでキモいな。森ダンジョンなんだから、トレントとか、ラビットとかにしとけよ。ゴブリンがいないだけマシだったのに、でかいスライムはマジでグロいな」
アメーバ状生命体であるスライムがデカい。
全てを呑み込んで消化していくので、見ていて気持ち悪い。
戦っているのはダンのチームだ。
ボクが働きかけなくても、ゲームの強制力がダンにダンジョンボスを仕向ける。
「おっ、凍った。あれはエリーナだな。ダンジョンボスもやるな。すぐに氷を破壊した。ダンジョンボスのスライムは魔法耐性が強いからな。レベルが低いと魔法は効果がないんだよな。ダンジョンボスよりもレベルが高くなれば、魔法耐性を突破できるんだけど。今のダンたちのレベルは十程度のはずだ。ダンジョンボスのレベルは四十だから無理だな」
ボクが行けば、スライムの攻略法を知っているので簡単に倒すことができる。
だけど、これはダンが突破するべきイベントなんだ。
ボクはゲームを楽しむようにしばらくダンたちの戦いを見守ることにした。
リベラが魔法を放ち、エリーナがスライムを凍らせる。
でも、スライムには効果がない。
アカリが手榴弾型魔導器具を使ってスライムを吹き飛ばす。
今までで一番効果が高かった。
魔石を露出させたが倒しきれていない。
スライムは全身を再生してしまう。
どうするのだろうと見守っていると、ダンが指示を出して、何か作戦を実行するようだ。
リベラが水の龍を作り出して、スライムを足止めする。
エリーナが水龍の水蒸気を凍らせて、さらにスライムを停止させた。
二人の魔法の威力が先ほどよりも上がっている。
ダンの属性魔法の効果だ。
そこへ、アカリの手榴弾が投げ込まれる。
凍ったスライムが破裂して、魔石が露出したところへ、ダンが突っ込んで剣で魔石を切りつけた。
「主人公もやるじゃないか」
チームとして機能していることを確認できた。
ボクは見守るのをやめて、リンシャンの元へ戻った。
「よし。ボクたちは、ボクたちの出来ることをするぞ」
地上に降りたボクは、リンシャンとテントへ戻った。
「ルビー、偵察はどうだった」
「大丈夫にゃ。いつでも行けるにゃ」
「なら、案内を頼む」
「了解にゃ」
「待て、助けに行かないのか」
リンシャンの言葉にボクは何も言わずにバルへと腰を下ろした。
ミリルは、ボクが乗ったバルを引き始める。
「おい、危険な魔物が出ているんだぞ」
それでも食い下がるリンシャンに対して、ボクは一言だけ伝えた。
「好きにしろ」
ここからは自由行動だ。
リンシャンがダンの加勢に向かうなら止めはしない。
どっちにしてもダンたちだけでダンジョンボスを倒すことは不可能だ。
シーラス先生が到着するまで持ち堪えられそうだと、ボクは判断した。
何より、ボクたちについてきても、リンシャンが役立つことはない。
「……」
黙ってしまったリンシャンを無視する。
ボクはミリルに進むように指示を出す。
ルビーが先導して歩き出すと、リンシャンは後ろからついてきた。
どうやらこちらについてくることを選んだようだ。
「ここにゃ」
ルビーの案内で、ボクらは森ダンジョンの頂上にある洞窟へと辿り着いた。
「ありがとう」
ボクはバルから降りて、洞窟の中へと足を踏み入れた。
「リューク様」
「ミリル、ここまで連れてきてくれてありがとう。ここからは自分の足で行くよ」
「もったいないお言葉です」
「バル、ついてこい」
「(^^)」
ルビーやミリル、リンシャンも後に続いて入ってくる。
洞窟の奥には、巨大なクリスタルが輝きを放っていた。
「これがダンジョンコアか」
空気中に漂う濃い魔力。
生きとし生ける物、全てに作用する魔力の結晶化した特別な鉱石。
ダンジョンコアが魔物を生み出して、ダンジョンを造り出す。
だが、ダンジョン以上に、ダンジョンコアには可能性が秘められている。
「なっ、何をするつもりだ」
リンシャンは、ボクがしようとしたことを止めようとした。
「今は緊急事態だぞ。ダンジョンボスを止めたくはないのか」
ダンジョンコアに特別なことをすると、ダンジョンボスを消滅させられる。
「ダンジョンボスが出現すると、倒すか、もしくはダンジョンコアの機能停止をさせる必要がある。それはわかるな」
「しっ、しかしそんなことをしたら、しばらくダンジョンは機能を失つて資源が採れなくなるんだぞ」
「そうだな。だが、森ダンジョンは学生用のレベル上げをする場所だ。魔石回収の役目しかない。一年もすれば活動を再開するだろう」
リンシャンとの問答をしている間に、ダンたちは苦しむことになる。
「そんなことをすれば、生徒のレベル上げを行う場所も、学園の資金源も、王国のメンツも」
リンシャンが諸々の心配事を口にする。
これだから立場ある人間は大変なんだ。
政治的な思考が関与して、必要な時に動くことができない。
ボクには全く関係ないけどね。
「前にも言っただろ。人の命を危険に晒すのか?」
「ツッ!」
リンシャンは、それ以上何も言わなくなった。
ただ、ボクがすることから目を背けた。
「ダンジョンコアよ。お前の力、ボクがもらうぞ」
ボクはダンジョンコアの一部である、レアメタルを取り除いた。
魔力の一部であるレアメタルを取り除かれたことで、ダンジョンコアは活動を休止した。
ゲームの知識通り、ダンたちを助けたのはシーラス先生だった。
シーラス先生は、ダンたちと協力してダンジョンボスを倒したようだ。
すぐに、ダンジョンボスが現れたことは学園の知ることとなり、ダンジョンボスを倒した後から、森ダンジョンが活動を休止したことも周知された。
シーラス先生は、生徒たちに避難と課外授業のダンジョン変更を伝えて、ボクらの課外授業は終わりを告げた。
しばらくダンジョンの調査などで、シーラス先生は時間を奪われるはずだ。
ボクには何の関係もない。
目の前には、ダンジョンコアから取り出したレアメタルが置かれている。
「さぁ実験を始めよう」
ボクの前には魔法陣が描かれたゴミが積み上がっていた。