第十一話 チーム分け
このゲームは、レベルの概念がありながら、レベルだけでは人の強さを測ることができないように設定されている。レベル以上に大切になるのが、基礎能力値になる。
学園生活の三年間では、レベルと共に基礎能力値アップに時間をかける。
《勉強》《魔法》《訓練》《休息》
からコマンドを選んで、一週間の過ごし方を決めていく。
授業は自由選択制なので、途中で変更することも可能なのだ。
週末は、ミニイベントを消化していく形式なので、
《勉強》《訓練》《ダンジョン》《魔法研究》《バイト》《デート》《休息》
のコマンドから選んで、週末を過ごす。
週末も、勉強や訓練で基礎能力値上げや、ダンジョンでレベル上げなどができる。
魔法研究は、新しい属性魔法の応用研究や、無属性魔法の練習などができたり、魔導器具の開発なども行える。施設は学園側が提供してくれている。
バイトやデートは、飲食店街や商業区などが学園内に造られているので、様々な体験を学園の敷地内で行えるように準備がなされている。
学園パートでは、恋愛をメインにしているので、コマンドに応じてイベントが起こり、生じるイベントをクリアしていくことで、女性たちと仲良くなり、己を鍛えることに繋がっていく。
それは後々の立身出世パートで、主人公の能力値を決めることにも繋がる。
何かに特化させて、鍛えていくことで仲良くなれるヒロインも代わっていくことになる。
これらを自分で起こすアクションイベントとするならば、強制イベントと言われる。
ゲームの進行上さけては通れないイベントがいくつか存在する。
その一つが、学園剣帝杯だ。
アレシダス王立学園に在籍する生徒は強制参加になっている。
敗北すれば成績が下がるが、棄権も許されているので、最悪出なくてもいい。
ゲームの強制力によって、どのような力が作用するのかわかればいいけど。
主人公にとっては最終目標であり、騎士になるためには、絶対に優勝しなければならない。
一年次、二年次では、主人公よりもレベルや能力値が高い上級生を相手にしなければならないため、優勝は三年次で出来るように目指していく。
では、一年次の強制イベントとは何か?
「それでは皆さん。課外授業の一環として、ダンジョン実習をしていただきます」
リサーチ先生の発言に生徒たちは、様々な反応を見せる。
いよいよ自分の力を試せると喜ぶ者。
戦闘をしなくてはいけないことに戸惑う者。
めんどくさそうな顔をする者……あっ、これはボクだけかな。
とにかく、学園の授業として本格的な強制イベントが始まろうとしていた。
「先生、よろしいですか」
優等生のリンシャンが挙手して立ち上がる。
「マーシャル君、なんですか」
「課外授業では、チームを組んで授業に挑むとお聞きしていました。チーム分けは、どのようになさるのでしょうか」
課外授業のチームは学園側が、成績と能力によって判断してチーム分けを行う。
基本的に、四人一組のチームとして、最大六人のサポートメンバーを入れたチームを組む。零クラスは、二十名なので、サポート無しの四人チームを五つつくることができる。
成績上位者が集まる零クラスなら、四人一組の一チームで問題はないと思う。
下位クラスになると能力が低かったり、属性魔法を使うことができない生徒も出てくるので、六人一組のチームをつくれるように三十名が一つのクラスに在籍している。
校内ランキング戦などで、入れ替えが行われれば、行ったチームへ移動していくだけだ。
下位クラスがダンジョンに挑む際には、先生たちによる引率もつけられる。
上位クラスは、授業では、主人公が仲良くなりたいヒロインとチームになる。
好感度によってチーム分けが偏ったり、週末に一緒にダンジョンに行ってレベル上げを行うことができるシステムなので、現在のダンに対する好感度がわかるということだ。
ボクとしては、リンシャンとエリーナにダンと組んでもらって、リベラと組めたら嬉しい。あの二人は面倒そうなので、パスしたい。
「バランスを考えて、こちら側で決めさせていただきました」
予定通り、学園側がチームを決めているようだ。
「それでは一チーム、エリーナ・シルディ・ボーク・アレシダスさん。チームリーダーをお願いします」
「はい」
「メンバーは、アカリ・マイドさん。リベラ・グリコさん。ダンさんです」
おや、主人公と女騎士が別々のチームになることは珍しい。
主人公に対して、好感度の高い女騎士は高確率で同じチームになるはずなのに。
「二チーム、リンシャン・ソード・マーシャルさん。チームリーダーをお願いします」
「はい!」
「メンバーは、ミリルさん。ルビーさん。リューク・ヒュガロ・デスクストスさんです」
これは本当に珍しい。
女騎士と悪役貴族であるボクがチームを組むことはゲームではあり得ない。
特待生たち二人とも話したことがないので、ボクにとっては面倒そうだ。
「先生、私は従者として、リューク様と同じチームに入りたいです」
リベラが立ち上がって、チームメンバーの交代を要求する。
ボクもリベラが同じチームになってくれると嬉しいから、交代してほしい。
「一年生では、互いの実力がはっきりとわかりませんので、現在の成績に合わせたバランスを考えております。なので却下します」
「くっ」
リベラが悔しそうに奥歯を噛み締める。
「仕方ないさ。ボクのことは良いから、リベラは自分のチームで頑張っておいで、怪我をしないようにね」
ボクが声をかけるとリベラは席に着いた。
「わかりました。リューク様ならば、大丈夫だと思いますが、お気をつけください」
リベラは、チームリーダーに選出されたリンシャンを睨みつけた。
◇
全てのチームが発表されると、チームごとに個室が与えられた。
話し合いの時間をとるためだ。
互いに話したこともないので、当たり前だね。
「改めて、チームリーダーをさせてもらう。リンシャン・ソード・マーシャルだ」
男勝りな口調に、手を腰に当てて、高圧的な態度を取る。
「ミリルです。学科で特待生になりました。勉強が好きです。戦闘は得意ではありません」
リンシャンに怯えているのか、何故かボクの後ろに隠れる。
ミリルがボソボソと自信なさそうな口調で話す。
顔は可愛い、儚げな薄幸の美少女といった印象だ。
「ルビーにゃ。私は冒険者として働いていたにゃ。ダンジョンのことは任せるにゃ」
獣人であることを隠すために帽子を被ったままなのに、語尾が「にゃ」になっている。
獣人ではないと、他の生徒に話しているのを聞いたが、愛嬌があって可愛い。
猫をモフりたい衝動にかられるのを我慢する。
ミリルがボクの後ろに隠れ、ルビーがボクの横に座って、リンシャンと向かい合っている。
「リューク・ヒュガロ・デスクストスだよ。よろしくね」
全員が自己紹介を終えて、三対一のような構図で席に着いている。
ボクは隣に座る、ミリルとルビーに視線を向ける。
二人からは好意的な視線を向けられている。
「気にしないでください、リューク様。あっ、リューク様とお呼びしてもいいですか?」
「うん。いいよ」
「ありがとうございます。何かあれば言ってくださいませ。パンでもジュースでも買ってきます」
何故か自分からパシリになりたいと発言するミリル。
ボクと話す時は、自己紹介の時よりも声がはっきり出ているぞ。
「私もリューク様と呼びたいにゃ」
「いいよ」
「嬉しいにゃ。ありがとにゃ」
猫……、モフモフで可愛い。
シロップに会いたい、モフモフしたい。
「私を撫でてもいいにゃ。好きにしていいにゃ」
なんだと! スリスリと顔をボクの肩に擦り寄せる。
完全に猫だ。
「お前たち! 何をしているんだ、さっきから! 今からチームとして役割について話し合いをするんだ。ちゃんとしろ!」
怒声をあげて、ボクを睨むリンシャン。
三人の行動がわからなくて面倒になってきた。
現実逃避したくなったボクは、ダンジョンについて考える。
ダンジョンは、魔物を生み出す摩訶不思議な魔境で、形状によって呼び方が変わる。
洞窟、森、地下施設、など様々存在している。
魔力が一箇所にとどまり続けることで、魔力の濃度が濃くなって、ダンジョンコアを作り出すとも言われている。
ダンジョンコアに意思があるのかはわかっていない。
ダンジョンコアが生まれると、領土拡大を目指すように魔物を生み出してダンジョンを広げていく。
ダンジョンにもレベルがあり、一から十までランク付けされている。
ランク一が生まれたての赤ちゃんとして、レベル十は、ダンジョンに人が足を踏み入れることができないくらいの強力な魔物が
成長したダンジョンは、人が欲する鉱物やアイテムを生み出す。
人々はダンジョンから得られる資源やエネルギーを求めて、糧を得るために集まる。
魔導器具に使われているエネルギーは、ダンジョンから生まれる魔物の魔石が使われる。
魔石を欲する人々ではあるが、だからと言ってダンジョンが成長しすぎてしまえば、ダンジョンから溢れた魔物によって町を襲うようになってしまう。
一定数は刈り取らなければならない。
それを行うのが冒険者たちだ。
彼らが魔物を狩って、魔石を集めダンジョンを制御している。
王都内にも二つのダンジョンが管理されている。
森ダンジョンと地下迷宮ダンジョンの二つだ。
地下迷宮ダンジョンは、教会の墓地から繋がる地下から発見された。
出現する魔物のほとんどがゾンビとスケルトンで、地下三階まで確認されている。
地下三階には、ガス状生命体であるレイスやゴーストが出現する。
発見されるまでに時間がかかったこともあり、ダンジョンランクは三まで成長している。
ゾンビやスケルトンは物理攻撃が通じるが、レイスやゴーストは物理攻撃が効かない。
そのため、地下迷宮ダンジョンは新入生が挑戦するには難易度が高い。
課外授業で使われるダンジョンは、森ダンジョンになる。
ランク二の森ダンジョンに出現する魔物は弱い。
生まれたてのレベル一とは異なり、ダンジョンコア付近では、ボスモンスターやレアモンスターと呼ばれる強力な魔物が出現する。
レベルが低い生徒がダンジョンコア付近には近づかないように引率するのだ。
リンシャンが役目について話している間に、ダンジョンについて考えていると眠くなってきた。大きなアクビをしてしまう。
「ねっ、眠いですか。よっ、良ければ私の太ももを枕に使ってください!」
ミリルが凄い提案をしてくる。
今日話したばかりの相手の膝で寝るのは、ちょっと……。
「ミリル。お前は何を言っているんだ。ここは学園だぞ。不純だ」
リンシャンがミリルの発言に反応してうるさい。
「私の太ももでもいいにゃ」
何故か、ルビーまで参戦してきた。
ミリルの太ももは細くて折れそうだが、ルビーの太ももはスカートから尻尾がフリフリと振られ、鍛えられた太ももはボリュームもしっかりしていて気持ちよさそうだ。
何より、尻尾や耳をモフモフしたい。
「おい、昼寝はダメだ。今は作戦会議中だぞ」
リンシャンは優等生として注意しながら怒っている。
これだけうるさくされていて、ゆっくり眠れるとは思えない。
いっそ、《怠惰》を使って全員のやる気を無くしてしまおうか。
「もう話はいい。理解しているようだからな。最後に確認だ。私は騎士で剣と盾を使う。前衛を任せてもらって問題ない」
「ルビーも前衛でいいにゃ。武器は短剣にゃ。攻撃は回避するにゃ。属性魔法も使えるにゃ」
「せっ、戦闘は得意ではありません。回復魔法はたくさん勉強したので、自信があります。そっ、それと弓も多少は使えます。後衛希望です」
三人がそれぞれの得意を口にして、最後にボクを見る。
「ボクは寝たい」
この話に意味はない。
ただただ面倒だ。
「お前は、私たちは真剣にやっているんだ。なんだその態度は?!」
怒るリンシャンに対して……。
「そうですね。リューク様は私と一緒に後衛で寝ていてください。私がお連れします」
「そうにゃ。リューク様は私たちがピンチの時だけ動けばいいにゃ。それで十分にゃ」
「お前たち、お前たちが甘やかすから、この男がつけあがるんだぞ」
ここに来てリンシャンの怒りが、ボクにではなく二人へ向けられる。
「ひっ」
「ふんにゃ」
怯えるミリル。気にしていないルビー。
対照的な二人ではあるが、どうして二人がボクを大切にしてくれるのかわからない。
公爵家の息子ということで、色目を使っているのかな。顔がイケメンに育ったので、単純にアイドルのファン的な扱い。ヒロインたちには、それぞれ悩みがあるので、悩みを解決するために動かなければ仲良くなっていくのは難しいはずなんだ。
「もういい。今日は解散にしよう。今週末はダンジョンに挑戦する。いいな?」
「わかりました」
「いいにゃ」
「は~い」
リンシャンから解放されたので、廊下に出るとリベラとダンが立っていた。
同じチームで仲良くなったのかな?
そう思っているとリベラがボクの方に向かってきた。
「リューク様、お疲れ様です」
ダンと話していたリベラは無表情だったのに、ボクの前では笑顔になる。
「話はいいの?」
「問題ありません。行きましょう」
リベラに手を引かれて歩き出す。手を繋ぐだけでリベラは頬を染めていた。
好意を持ってくれているのは嬉しい。
でも、どうしてミリルやルビーからも、リベラと同じように好意を向けられているのだろう?
ふと視線を感じて、振り返ってダンの表情を見れば、こちらを見ていた。
不思議なことに、入学時に向けられていた嫌悪感は無くなっていた。
リベラから何か言われたのかな?
主人公にはずっと嫌われると思っていたので、少し不思議な気がする。